河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

BtoBコミュニケーション

展示会での集客について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ①
 

《質問》

先般ある展示会に出展したのですが、思ったような集客が得られませんでした。弊社の営業サイドからは展示会の装飾をもっと目立つようにしないからだ、と非難されています。確かにコストをかけて目立つ装飾にすればそれなりに集客は見込めると思うのですが、コストパフォーマンスの観点で疑問があります。コストをかけずに集客する方法があればご教示いただきたいのですが。(計器メーカー)


《回答》

まず御社の営業サイドが要望している「装飾をもっとハデにして集客する」考え方は明らかに間違っています。バブル時期は当たり前のように派手な装飾やコンパニオンを使ったイベントが展示ブースで行われ、それなりの集客がありました。しかしそうして得られた来場者はどのような人たちでしょう? 

とりわけコンパニオンが行うイベントは現在でも散見でき、そこでは多くの来場者に溢れています。でもその来場者が御社の真の顧客になる可能性は極めて低いと思います。コンパニオン見たさや何か派手な催しをやっているから自然に人が集まっているだけで、イベントが終われば人は去っていきます。こんな手法で集客しても何の意味もありません。

展示会の効果測定手法には二通りあります。ひとつは来場者数です。それはいわば展示会をメディアとしてみた場合の社名認知にあたるものです。もう一つはズバリ受注件数(額)です。本来の展示会効果はこの受注件数が重要ですが、展示会を広報メディアの側面から見ることも否定できませんから、展示会効果測定はこの二つの指標のかけ算になります。

もう少し詳しくお話ししますと来場者効果は単位コストあたりの来場者数で計算できます。一方受注効果は来場者一人当たりの受注額で得られます。先の算式では来場者は分母になりコストが分子になります。後の算式では来場者が分母になり受注額が分子になります。これらを掛け合わせると分母と分子にある来場者は消去され、結果的に分母にコスト、分子に受注額という単純な算式になります。言うなればこの算式は単一コストあたりの受注額ということができ、これはまさに通常営業の営業効率そのものと言えるわけです。

このことから展示会は広報宣伝のメディアではなく、営業の「場」と理解できます。

ブースを目立つようにするとかコンパニオンを使って派手な演出を行うことは、広報メディアとしての価値はあるでしょうが、直接的に展示会効果をもたらすものではありません。「一生懸命装飾に力を入れて演出も凝ったのに、ほとんど引き合いがなかった」という言葉を時折耳にします。これは展示会を広報メディアとして捉え、もう一つの効果をめざす手法が疎かになっていた証拠です。

では真の意味での展示会効果を上げるのはどのようにすればいいでしょうか。前述のように展示会は営業の「場」です。したがって展示会に集客するのは顧客または潜在顧客でなければなりません。ここで威力を発揮するのが広告やWEBサイトから得られた引き合い(見込み客)リストです。広告はともかくWEBサイトから資料請求するのは住所氏名を記入したりと結構手間がかかります。あえてこの手間を費やしてまで資料請求するのはかなり確度の高い潜在顧客と理解できます。このような人たちに対して、展示会という営業の場で実際に商品を見せて稼働させ、それなりのデータや導入効果を理解していただくのが展示会の最も重要な役割なのです。

御社に限らずさまざまな企業は広告やWEBなど他のメディアで広報活動を行っています。そこで得られた個人情報は貴重な潜在顧客と見なす事ができますが、どういう訳か広告などで引き合いがあってもカタログを送ってそれでおしまい、と言うケースが目につきます。BtoB分野の場合、本来広告はカタログ請求を得るために行うものであり、カタログは商品を販売するためのメディアです。しかしBtoCならいざ知らずBtoBではカタログで商品が売れることは極めて希です。そこには必ず営業担当が同席し、カタログを営業ツールとして扱い、営業担当のプレゼンスキルによって受注の成否が決定されます。したがって広告やWEBから引き合いがあったとしてもカタログ送付だけで受注に結びつくことは滅多にありません。

かといって引き合いごとにいちいち営業担当が引き合い先に出かけ営業活動を行うのは大変非効率的です。おそらく一日かけても23件回るのが関の山でしょう。これが効率的に行えるのがじつは展示会なのです。展示会では上述の営業担当によるカタログをツールとしたプレゼンに加えて、実機を前にしてより効果的な販売活動が期待できますし、何よりも一日で少なくとも十数件以上の商談をこなすことが可能になります。

つまりここから導き出されるのは、展示会の集客は「見込み客」に限定することです。おそらくどの企業でも広告などの引き合いで得られた見込み客リストは数千件から数万件あるはずです。このリストから当該展示会に即した(業種・地区など)見込み客を選定し、まず案内状を送付することです。そして重要なのがその選定された見込み客一人一人の担当営業を明確化することです。担当営業は個人名で案内状を送った後、展示会の開催前一週間くらいに電話(メールもいいですが電話の方が効果あり)で再度勧誘することです。こうすれば間違いなく集客は増えます。おそらく今までの手法にくらべて2050%位の集客アップが見込めるはずですし、何よりも重要なのはそのいずれもが顧客になる可能性のある人たちだということです。

それからもう一つ大切なことがあります。見込み客ではなくすでに顧客に登録されている人たちの周辺の部門にも隠れた見込み客が存在すると言うことです。たとえばある企業の工務部の人が顧客だとすれば、その企業の設計部や開発部などの人はまだ見込み客と見なすことができます。顧客リストにその何倍もの見込み客が隠れているのです。したがって従来顧客から可能性のある見込み客を紹介してもらうことも忘れてはなりなせん。

このように展示会の集客で最も重要なのは目立つ装飾やイベントなどではなく、すでに御社が抱えておられる見込み客を展示会という営業の場に引っ張り出すことなのです。かといって貧相な装飾でよいといっているわけではありません。ブースディスプレイはいかに商品を見やすくするか、商談に際しての心地よさを提供するかといういわばホスピタリティーの大きな役割を演じます。展示会における装飾は人集めが目的ではなく、営業の場をどのように上手く演出し受注に貢献できるか、が重要なのです。

詳しくは「BtoB Communications誌」の20106月号に掲載した拙文「ASICAモデルから見た展示会の可能性」をご覧いただければ、と思います

BtoBビジネスの原点

1.我が国はもともとBtoB社会であった。

米国を除くほとんどの国が、実はBtoB社会の基盤の上で発展してきたと言える。BtoBは「組織対組織」であるが、たとえば我が国の場合、ごく近年まで社会の最小単位は「家庭・家族」と言う組織であった。組織のアイデンティティとしてどの家庭でも家風や家訓があった。そしてこの集合体は、「町内」「地域」「街」へと拡がり、最終的に国家と言う大組織を形成することになる。今で言うところのコミュニティーの概念は、すでに家庭の中にあったのである。家族の大きな行事である「婚姻」に際しても、当時は家族対家族の行事であり、何よりも組織の維持と発展のために欠かせないイベントだった。ここでは「個」の価値観は二の次とされ、現在の企業組織と酷似している。

では、この社会ではどのようなコミュニケーション形態が成り立っていたのであろうか。これを紐解いていくと、実は我々が忘れかけているBtoBコミュニケーションの原点が見えてくる。

2.「八百屋の御用聞き」に見るBtoBビジネスの原点。

昭和30年代、高度経済成長期の真っ只中、いいかえればBtoBビジネスの最盛期だったと言えるが、家庭は「個」の価値観よりも「組織としての家族」の価値観が重視されていた。それは当主を軸にした一つの小さなコミュニティだった。当時はスーパーやコンビニはもちろん無く、専ら個人商店がその役を担っていた。個人商店もまた家庭でありビジネスを行う組織でもあった。八百屋や魚屋などの個人商店は、近所の家庭と深く関わりを持ち、それがまた地域のコミュニティを形成していたと考えられる。八百屋はある家庭の嗜好を、たとえばご主人は何が好きだとか、子供は何が好みだとか細部にいたって把握していた。もっと言えば各家庭の献立まで、どういう訳か知っていた。さらには、「もう子供がそろそろ小学校に入学する」とか、「子供の友達には誰々さんがいる」といった付加的な情報も掴んでいた。そして、ビジネス。今、この家庭には何が必要なのか、何を売れば喜ばれるのか、昨日の献立はこれだから今日はこっちの野菜が良いだろうなど、今で言うところの提案営業を自然な形でやっていた。そして驚くべきは、「奥さん、今日はいい大根入ったよ。これどう?」と持って行けば、「今日はいいのよ。間に合ってるから。それより、このクリーニング、出してきてくれない?」と、本業以外の仕事まで引き受けてしまうこともたびたびあった。

このビジネスのスタイルが、実はBtoBマーケティングの原点なのだ。

つまり、八百屋にしても魚屋にしても、地域の家庭の状況や課題などを十分に把握し、それに応じた提案を行う。しかも状況や課題把握は現時点の「点」でなく、将来も見越した「線」として捉えているのである。だからこそ、「来月は○○さんちの娘さんが入学だから、そろそろ鯛を用意するか…」といった配慮が可能になるし、喜んでもらえるなら本業以外でもお手伝いする心遣いが、このビジネススタイルの源であったと言えるだろう。

そして最も重要なポイントは、決して金儲けではなく、いかにお客様に喜んでいただけるか、がその原点にあることである。

我が国は古くから、ホスピタリティに長けた民族であった。ホスピタリティの概念は上位階級だけでなく、広く末端の大衆にまで当たり前のように根付いていた。ホスピタリティの語源がラテン語の「客人の保護」にあるように、単なるもてなしではなく、相手を護りその結果いかに喜んでいただけるかがこの真意である。我が国のような島国では、コミュニティを維持していくために必然的に進化してきた概念とも言える。

相手に喜んでいただくことが自分の喜びであり、なおかつコミュニティ(組織同士の関係)を心地よく保っていくための、ノウハウでもあった。

ちなみに、この素晴らしいBtoB社会は、米国からもたらされた「個の自由」の風潮により、徐々に組織としての家族の崩壊と価値観の変革、さらには米国式ビジネスの象徴である大型店舗の進出による個人商店の衰退を招き、ほとんど消滅し、新たにBtoC社会が隆盛を極めることとなる。(続)

新BtoB社会における「検証」「承認」「行動」プロセス

9.検証はネットや友人の意見

「検証(inspection)」段階では展示会とネットの重要性が見逃せない。AIDMAでのDesire(欲求)に変わって、理性的に購買の根拠を判定する重要な段階であるが、BtoBではまずここでも展示会の有効性は変わらない。何しろ実機を前にしてFace to Face で検証をサポートでき、極めて高い説得力を与えることが可能だからだ。さらにWEBサイトの活用も不可欠になる。単に製品情報を掲載するだけでなく、他社製品と比較しての優位性や独自性などを詳細に述べなければならない。つまりBtoBであれBtoCであれ所謂「情報収集」が最大の力を発揮するのがこのプロセスであり、企業はこれに充分答えることが大切である。とりわけBtoCではこの段階は、友人を初めとした組織構成員の意見が重視される傾向がある。解りやすく言えば家族という組織であれば、子供や母親の意見などがそれにあたる。したがって前述のように顧客がどんな組織に属しているかを把握しておくのはこの段階でも不可欠な要因となる。

10.承認は友人からの同意---流行は社会からの同意


「承認(consent)」段階は、BtoBでは非常に解りやすい。企業には多くの承認者が存在し、それぞれに対してあらゆるメディアを駆使して当該製品の優位性を訴えなければならないが、あまりこの段階に注力してプロモーションをかけている企業は多くない。たとえば管理職(承認者)向けのドキュメントや窓口担当者が承認会議などでプレゼンしやすいようなパワーポイントファイルをあらかじめ手渡しておくと言った心遣いはここで重要となる。これもホスピタリティの一環である。BtoC分野ではConsentを同意と訳した方が解りやすい。つまり購買者が属している組織からの同意が最終購買に大きな影響を与えると言うことである。所謂大ヒット商品とか流行と言われるものは、言わば最大の組織である社会からの同意、と考えられる。 したがってBtoCでは個の欲求を満たすのではなく、個が属しているであろう組織の同意が得やすいコンセプトづくりが必要になる。そのためにもあらかじめ組織の把握と課題解析は欠かせない。 なお、最近話題になっている「レピュテーション」は評判や評価と定義されているが、むしろこれは顧客や社会からの「継続的な承認」だと言えるだろう。

11.Actionが次のスタート


最終段階の「行動(Action)」が次のビジネスに繋がることは言うまでもないが、この段階を各企業とももっと有機的に活用すべきである。顧客名簿の整備などといった静的なものではなく、いったん掴んだ顧客を離さない仕組みが望まれる。BtoBで今後大きな注目を集めるのがビジネスSNSだと考える。セキュリティの課題などがあるにせよ、顧客を巻き込んで最終的に自社のSFA(セールス・フォース・オートメーション)とも連携できるようなSNSが構築できれば、鬼に金棒であろう。ここでASICAのほとんどが達成できるし、なによりも検索ロボットにヒットしないから競合企業にその実態を探られることもない。競合企業から見れば、こんなに恐ろしいメディアは無いとも言えるだろう。 BtoCでは使用者の意見や感想が別の個の購買動機に繋がりやすいが、価格COMを初めとしたユーザー参加型のWEBサイトをどのようにコントロールできるか、がこの段階での重要なタスクになる。

12.おわりに

ASICAモデルは購買にいたる「課題」「解決」「検証」「承認」「行動」の各プロセスそれぞれにおいて、適切なプロモーションが必要であることを示唆している。所謂「クロスメディア」はメディアオリエンテッドな考え方であるが、むしろASICAの各プロセスを隙間無く埋めるメディア戦略と言う捉え方もできる。 最後に、従来のBtoC分野がBtoBになり変わりつつあるとの仮説を元にASICAを論じたが、それほど現在の社会は複雑化している。組織という言い方が正しいかどうかは別にして、我々自身が現在多様なグループにしかも無意識に属している可能性は、今後のマーケティングに重要な課題を提供するはずである。その意味では広告業界でも従来のマーケティング分野や経済学分野だけでなく、社会心理学や認知工学からのアプローチが欠かせない時期に来ていると思われる。場合によれば、過去のマーケティング理論や広告理論が全否定される可能性すらある。また今までここで述べてきたことは、すべて数字に置き換えることのできない観念的な要素ばかりである。しかしもしかして我々は、今まで数字で表現できない要素をあえて避けてきたのではないだろうか。もしくは数字に翻弄されてきたのかも知れない。これからはむしろ数字で把握できない分野にこそ、キラリと光る研究課題があるような気がする。

新組織の課題探索と、ホスピタリティーマーケティング

7.組織の把握と専門性を持った課題探索

このように社会がBtoBに方向転換しつつあるとしたら、我々広告人は何をすればよいのか。BtoB業界では従来から企業間取引の一環として相手企業の特性をある程度把握するスキルは持ち合わせているが、一歩進んで相手企業の風土やトップの性格なども解析する必要性がでてくる。ル・ボンが「個人はその意識的個性を失うと、それを失わせた実験者のあらゆる暗示にしたがって、その性格や習慣にまったく反する行為をも行うような状態におかれることがある」と言っている。ここで言う実験者とは組織のリーダーのことであり、トップが変われば企業風土が大きく変わる可能性は十分にあるからだ。さらに同じ企業であっても、ターゲットとなる窓口担当者が企業内に形成されているどんな組織に属しているかも見極める必要がある。そのほか購買センターや最終決裁者然りである。 また「課題」は「ニーズ」とは異なり、現時点での顧客が抱える課題だけでなく、将来にわたって顧客が対面するであろう課題の予測も含む。そのためには顧客企業と同等以上の専門性が不可欠で、顧客企業のコンサルタンシーという位置づけがこれからのBtoB企業には要求される。 BtoC業界ではまず社会にどのような組織が存在し、その組織にはどんなパラダイムが支配的なのか、を見極めなければならない。従来からよく言われている世代や趣味と言った単純なくくりではなく、隠された組織形成要因を見つけ出すことが重要になってくる。以前は限られた情報によって比較的世論誘導は容易であったことから、組織の把握もそんなに困難ではなかった。しかし現在、無尽蔵に発せられる情報によって、形成される組織もそのパラダイムも極めて複雑化しつつあり、それを理解するのは非常に難しい。そんな中で組織ごとにどのような課題を持っているのかを把握することは、広告と言うよりマーケティング活動のもっとも初歩的な段階であると思われ、今後各企業ともこのための体制を整える必要性に迫られるだろう。

8.ソリューションの源はホスピタリティ

さてASICAの第二段階のプロセスである「解決(solution)」においては、前述の八百屋の御用聞きで取り上げたように、組織の維持に欠かせないポイントとしてホスピタリティがある。簡単に言えば、いかに相手に喜んでもらえるかと言うことである。広告の世界ではとかく企業の独りよがりのメッセージを提供しがちであるが、本来は相手が抱えている(であろう)課題に対して、的確な解決策を提示することが必要であり、その根底にあるのがホスピタリティだと言うことを忘れてはならない。相手を重んずるホスピタリティを徹底すれば、意外とソリューションは簡単に見つかるものであるが、自社ありきのスタンスではなかなかうまくいかないものである。 ソリューションを提供するメディアとしてはWEBサイトが有効だが、なにぶんアクセスさせるための仕掛けが心許ない。なんと言ってもこの場面は展示会しかないだろう。Face to Faceマーケティングが今後注目されると思うが、まさに展示会はソリューション提示の貴重なメディアである。現在不況の影響で展示会は総崩れであるが、これは展示会を広告と同列に情報提供の場として捉えているからであり、課題解決の場としてみればこれから間違いなく発展していくメディアである。展示会では製品を並べるだけでなく、課題解決を前提としたFace to Faceマーケティングの場、あるいはホスピタリティの場として活用すべきである。

仮説を実証するギュスターヴ・ル・ボンの「群衆心理」

5.集団精神と個の消滅

そしてこの仮説は、20世紀初頭に活躍したフランスの社会心理学者であるギュスターヴ・ル・ボンの古典的な著書「群衆心理(櫻井成夫訳)」に多くのヒントを見出せる。 ル・ボンはこの著書の中で次のように述べている。 「心理的群衆の示すもっとも際だった事実は、次のようなことである。すなわち、それを構成する個人の如何を問わず、その生活様式、職業、性格あるいは知力の類似や相違を問わず、単にその個人が群衆になり変わったという事実だけで、その個人に一種の集団精神が与えられるようになる」 このことから、ネットワークで繋がった組織は、それを構成する個人の如何を問わずそれぞれに集団的精神が生まれてくる、と考えられる。 そして、「群衆中の個人が単独の個人とどんなに相違するかは、容易に認められる。……集団的精神の中に入り込めば、人々の知能、したがって彼らの個性は消え失せる。無意識的性質が支配的になるのである。……我々の意識的行為は、無意識の基盤から起こるのである」とも言っている。 つまり、ある集団に属することによって、無意識のうちに本来の個人ではなくまったく別の人としての意識的行為をなす、と言うのである。これは言い替えれば組織自体が特有の意識を持ったとも考えられる。 企業人が彼らの個性は消え失せて、○○会社タイプと言った特定の企業ごとに何となく似たような人の集まりであることを実感する場面は少なくないが、ル・ボンのこの主張を見ればなるほど頷けるし、所謂お役所的と揶揄される人々もこの類だろう。 またグローバルな事業展開を行う場合も、ル・ボンはあるヒントを与えてくれている。「ある種族に属するすべての個人が互いに似通っているのは、とりわけこの種族の精神を構成する無意識的要素による」と言う記述は、グローバルマーケティングでの種族研究の必要性を示唆していると思える。しかしここで厄介なのは、我が国と同じようにメディアの多様化が各国で促進された場合、一義的には種族や国という組織に属しながら、複数の別の組織にも属するということになり、グローバルマーケティングでも種族以外にさらに複雑な組織の存在を念頭に置く必要がある。

6.メディアの進化が仮想集団を形作る


携帯電話など線としてのネットワークを介した繋がりは、組織形成の側面から見ればある意味非常に解りやすいが、線ネットワーク以外の組織形成要因も見逃せない。ル・ボンの論述は、現在のようなネットワークが存在しない時代のフランス革命で起こった群衆の行動を基盤にしているが、これとは逆のケースも考えられる。たとえばまったく見ず知らずの人であったとしても、同じ嗜好や同じ境遇にいる人たち、同じ価値観を持っている人たちが「無意識」に集団を形作っているとも考えられる。線で繋がれたものではなく点として存在し、心理的もしくは無意識的に繋がれたネットワークである。そしてそれに拍車を掛けているのがWEBサイトを筆頭とした多様なメディアの存在である。 こうしてみると現代社会ではいたるところで自然発生的に複雑な組織が形成され、しかも個人は無意識に複数の組織に属している可能性がある。そしてここでは「個」の特性は失われ、組織独特の新たなパラダイムが支配的になっていると思われる。もしこの仮説が正しいとしたら、もはや「個」をターゲットとしたBtoCコミュニケーションはほとんど機能しないと言っても過言ではないだろう。

BtoC社会の崩壊と、心理的BtoB社会の形成

3.米国からもたらされたBtoC社会

ではなぜこの社会システムが崩壊したのか。1950年代半ばからテレビドラマを軸に怒濤のようにあふれ出したアメリカ文化が、組織に埋没していた「個」の概念を目覚めさせた。この頃から自由主義とか個人主義などが幅をきかせだした。そして我が国の社会全体が、雪崩のように個人尊重へと向かっていった。そして集合の最小単位であった家族は、その組織の維持よりもそれを構成する個人の価値観や夢を重視する傾向が強くなり、徐々に組織としての家族は崩壊した。一時期社会現象となった核家族化はその過渡期でもあった。 1960年代に入り様々なメディアが一気に氾濫し始め、「個の欲」をターゲットとしたプロモーションが花盛りとなった。BtoC広告の全盛期である。この状況はバブル崩壊とともに一時後退したかに見えたが、1995年頃に始まったインターネットと携帯電話によって、所謂One to Oneと言う新たなコミュニケーションスタイルの出現を見るにいたってその頂点を形成したかに思えた。しかし実はこの時期からマーケットでは奇妙な現象が現れだした。BtoC広告に対する反応が鈍くなってきたのである。これについて価値観やニーズの多様化とか若年層のメディア離れなど、様々な理由が取りざたされた。そして未だに明確な結論が得られないまま、昨今の不況と相まって現在の広告業界は悲壮感に包まれている。

 4.仮説---無意識の組織形成とBtoC

この不可解な現象に対して、一つの仮説を提示したい。それは我が国の社会は、もうすでに新たなBtoB社会へと進化し始めたのではないか、と言うものである。メディアの強烈な発展やとりわけ若年層の行動様式を見る限り、一見ますます「個」を重視したBtoC社会が進展しつつあるように思えるが、実はここに大きな罠が潜んでいる気がするのである。確かにメディアやネットワークは過去に例を見ないほど発展した。しかしこのことが「個」の希薄化とともに新たな組織を作り出す要因になっているのではないか。言い替えればあまりにも進化したメディアそのものに、何らかの特性を持った「個」同士を結びつける作用が生まれたのでは、と考えるのである。たとえば若年層の携帯メールの使用率を見れば、それぞれの「個」がある種特定のネットワークを築いていることに気付く。1950年代の毎朝顔を合わして挨拶を交わすネットワークではなく、ただ単に文字メールのみで繋がる見えないネットワーク(組織)である。そして頻繁なメールのやりとりが、この組織を維持していくのに欠かせない。これは数十年前に見られた家族を最小単位として近接した単位同士の集合による整然とした組織構成ではなく、組木細工のように社会の中であちこちに入り組んだ複雑な組織形態であり、しかもどちらかと言えば心理的な組織と言えるだろう。

欲望社会から課題社会へ(ASICA理論の新たな展開)

すでに紹介したように「課題」「解決」「検証」「承認」「行動」のプロセスをもつASICAモデルは、AIDMAのような消費者の購買心理ではなく、購買動機をモデル化したものである。AIDMAでは言うまでもなく消費者個人の購買にいたる心理を解き明かしているが、現在の社会において、この心理は果たして商品やサービスの購買に際して有効に作用しているのだろうか。確かにAIDMAにおけるAttentionやInterestは広告企画で最も重要視すべき課題かも知れない。しかし現在のようなメディアの発展による情報過密状態で、もはや流通情報量が消費情報量を大きく上回る状況、つまり情報の消化不良を来している現状では、いくらAttentionやInterestを重視してもそれにヒットする確率は極めて少ない。さらに問題なのは、我々はこの情報氾濫の中で、すでにAttentionやInterestと言った心の動きそのものがマヒ状態であるとも言えることである。 1950年代から延々と続いた消費文化は、物財や情報を多く取り込んだ結果として、今度はこれらとともに暮らす新たな課題を生み出した。たとえば、食に対する欲望から飽食の時代へと移り変わり、現在では美味しいものを食べたいという欲望よりもいかに健康を保てる食材を求めるか、と言う課題に。また、ネットワークの普及によって、より多くの人たちとコミュニケーションしたいという欲望から、ひとたび築いた自己のネットワークをいかにして維持していくか、と言う切実な課題が生まれてきた。現代は欲望社会から課題社会に変化し、今、一人一人がそれぞれに何らかの課題を背負いながら暮らしているのだと考えられる。したがって広告やマーケティングにおいて今後重要なポイントは、今までのようないたずらに購買心理を煽り立てるのではなく、これらの課題をいかに効率よく発掘し、それを共有し、新たなソリューションを提示するかと言うことが購買動機に繋がってくると考えるべきである。ASICAモデルの第一段階である「課題(assignment)」はこのような観点から取り上げた。

ASICA(アシカ)モデルの提唱---企業購買プロセスから見た、BtoB広告のための新たな理論(1/4)

-AIDMAからASICA-

1.AIDMA理論の功績

広告宣伝業務に従事している誰もが聞き慣れたこの「AIDMAモデル」は、1920年代に米国のサミュエル・ローランド・ホールによって提唱された消費行動プロセスに関する仮説とされている。A(attention・注意)I(interest・興味)D(desire・欲求)M(memory・記憶)A(action・行動)の各段階を経て消費者は商品を購入するというこのモデルは、広告企画やマーケティングのバイブルとして、永年にわたって確固たる地位を保ってきたといえる。

2.マーケティングパラダイムの変化

しかし近年、AIDMAモデルが提唱する消費行動プロセスを疑問視する向きが見られる。いわゆる「広告が効かなくなった」という声を制作者側からも広告主側からも多く耳にするようになってきた。この理由についてはいくつか上げられるが、最も大きな要因のひとつは、まずマーケティングパラダイムの変化が考えられる。AIDMAが提唱された1920年代からおよそ1990年頃までのマーケティングパラダイムは「刺激反応型パラダイム」と言われている。ここではとにかく広告やプロモーションにおいて最も重要視されるのは、オーディエンスの興味をそそるような刺激的なキャッチコピーやビジュアルであった。つまりAIDMAで言うところのAttention」と「Interestをどのように展開させるのか、が広告制作での妙味でもあった。そして刺激的な広告に触発されたオーディエンスは、購買意欲に我慢できず我先に商品の購入へと走った。そんな時代だった。しかし、1990年頃からパラダイムは大きく変化する。我が国ではちょうどバブルの崩壊と時を同じくしているが、何よりも「もの」と「情報」の急速な氾濫は、我々の消費行動自体にも影響を与えることとなる。「もの」に充足し有用無用の「情報」に埋没した状況の中で、もはや消費者は奇をてらった広告やメッセージではまったく反応しなくなった。今何が必要か、自分にとって必要な価値とは、と慎重に考えるようになってきた。「価値交換型パラダイム」の誕生である。ここでは商品や情報などの「価値」が本当に自分にとって意味があるものであるか、を十分検討した上で購買意思決定を行う。にもかかわらず、現在でもAttentionInterestに軸足をおいた広告が多く目につく。今の時代ではもっと消費者にとっての「価値」を丁寧に述べる広告でないと、ものは売れない。

3.ネットの普及による購買プロセスの変化

もう一つの大きなポイントは周知のようにインターネットの普及によるコミュニケーション形態の変貌が上げられる。単にメディア論として新聞広告などの印刷メディアよりもネット広告の方に効果が出てきたというわけでなく、あらゆるメディアを相互に確認して、そこから「必要な価値」を見いだすという行為が消費者側で行われるようになった。ここでも「Attention」や「Interest」の段階はほとんど飛び越して「調査・比較・検討」といったプロセスをほぼ同時に行っていると見られる。ネット時代の消費プロセスモデルとしては電通が提唱している「AISASAttention/Interest/Search/Action/Share)」がある。ここではネット特有の商品検索や情報共有を購買プロセスの一段階として捉えているが、あくまでもネットに限定したものと理解している。

4.情報流通センサスに見るコミュニケーションの変化

ところで総務省が毎年発表している「情報流通センサス(情報白書)」を眺めてみると、そのデータから興味深い予測が成り立つ。この調査は一年間に流通する情報量(選択可能情報量)や一年間に消費する情報量(消費情報量)などが時系列で表してある。図に示すようにインターネットが普及しだした1995年では、年間情報量が38京(1016乗)ワードであり、それに対して一年間で消費した情報量は2.3京ワードである。つまり選択可能な情報から我々は1/16.5を何かのために消費したことになる。それがブロードバンドの普及によって、2005年には15.500京ワードと10年間で400倍以上の膨大な量の情報が流通し、消費したのは僅か30.6京ワードとなる。よって情報消費量は1/506となり、ほとんどの情報は残念ながら消費しきれていない状況となっている。今後ますますこの傾向は増加拡大すると予測できるが、要はすでに我々はその処理能力をはるかに超えた氾濫情報の真っ只中に立たされているということだ。この現状でいくら「Attention」や「Interest」を期待して一方的に広告を発信しても、メッセージがオーディエンスに到達する可能性は極めて少ないと言わざるをえない。このような極端な情報過多時代にあっては、もはや「Attention」や「Interest」を求めること自体にかなりの無理があると思われ、ひいてはこれが広告による引き合いや受注の確度を下げてしまっていると予測できる。

以上のことから、AIDMAモデルは1990年代以前はともかく、それ以降の広告企画においてはかなり無理のある法則と捉えることができる。

さてBtoB広告やマーケティングにおいては、従来からAIDMAのような独自の法則は存在しなかった。というよりむしろBtoB広告においても、歯切れが悪いと思いつつAIDMAモデルをそのまま流用せざるを得なかったのが実情だろう。

 

ASICA(アシカ)モデルの提唱---企業購買プロセスから見た、BtoB広告のための新たな理論(2/4)

5.BtoBとBtoCの違いはどこにあるか

ここで、BtoBとBtoCの違いを今一度考えてみたい。一般的にはBtoBは組織対組織取引、BtoCは組織対個人取引と見なされている。取引形態から見れば妥当な捉え方ではあるが、そもそも組織自体にコミュニケーションスキルが存在するのか、という疑問がわいてくる。組織といえども結局のところその組織に所属する個人から別の組織に所属するの個人へのコミュニケーション形態ということになる。つまるところ、BtoBであってもBtoCであっても結局は個人対個人(PtoP)コミュニケーションという様式が浮かび上がってくる。ただ重要なのは「B」は個人によって構成されているとしても、それは「組織人」としての個人であり決して市井人としての個人ではない。もっとも組織自体に個人と類似した心理や意識が存在することも考えられ、じつのところこの研究は筆者の最大の課題でもあるが、これについてはまた別の機会に述べてみたい。 このようにコミュニケーション形態から捉えた場合、BtoBは組織人対組織人、BtoCは組織人対市井人という見方が正直なところだろう。

6.購買プロセスモデルからみたBtoBとBtoCの違い

そしてこの「組織人」がもつ特殊性こそが、新たな広告モデルの構築に大きなヒントを与えてくれる。これをわかりやすく理解するために、BtoBとBtoCの違いを、もう一つの側面から考えてみよう。 上述のようなコミュニケーション形態の違いではなく、商品やサービスの購買資金からその違いを見てみると明確な結論が得られる。 ある商品を購入する場合、BtoCでは当然のことながらその購入資金は個人の金であり、その使途については当該個人の裁量に任される。AIDMA理論でいうところの「A」で注目し、「I」でその商品に興味を感じ、「D」で欲しいという気持ちが表れればいとも簡単に購入(A)できる。それが衝動買いかどうかは「D」の記憶段階でどれだけ購入検討がなされるかによって決定されるが、いずれにしても欲しい商品は自らの決断(決裁)で購入できる。これらの購入プロセスで最も大きな役割を果たすのが個人の「欲しいという気持ち」であり、それを補足する要素として資金力がある。昨今のカード決裁の増加を見れば、資金力はさておき「欲しいという気持ち」が断然優先され、そこには経済合理性はほとんど無視されるケースも多く見られる。だからこそ最近ではマーケティング分野において、個人の「気持ち」の側面からアプローチを試みる「神経経済学」や「ニューロマーケティング」が注目されているのである。 一方BtoBではどうだろう。商品の購入資金は個人ではなく「組織(会社)の金」である。当然組織の金は当該年度の予算という形で厳重に管理されている。いくら組織を構成する個人が「欲しい」と思っても、そう簡単に購入できるわけではない。というより、そもそも個人が購買決定を行うのではなく、組織としてその商品が必要かどうかに基づいてなされることになる。この段階では経費や固定資産などの予算はもとより、その商品を購入することによるメリットが様々な側面から検討されることになる。そして十分に経済合理性(効率)がもたらされると判断されて、ようやく購買決定となるわけである。ここで組織として検討・決定するということは、そのプロセス上で複数の個人が参画し、それぞれに関連する分野から商品購入の妥当性について決断を下すことになる。そのためにBtoCではまったく見られないBtoBの特性として「承認・決済」というプロセスが生じてくる。しかもこの「承認・決済」はほとんどの場合、商品を「欲しい」と思っている個人とは別の個人が行うことになる。ここにBtoCとBtoBを明確に差異化する要素がある。つまりBtoBにおける「組織人」はBtoCでの「個人」とはまったく異なり、商品の購入意欲(物欲)はほとんど表には出ず、常に組織を構成する他の個人の意見や予算、承認などを意識せざるをえないと言うことになる。これが「組織人」の特性である。いわばこのプロセスは「企業購買のプロセスモデル」と理解することができ、AIDMAの「消費者心理プロセス」とはまったく異なるものである。

ASICA(アシカ)モデルの提唱---企業購買プロセスから見た、BtoB広告のための新たな理論(3/4)

7.企業購買プロセスのモデル化

 「消費者心理プロセス」としてのAIDMAは、冒頭に記したように主にBtoC分野での広告企画において今まで多くのヒントを与え、広告の質的向上に貢献してきた。それに対してBtoB分野での「企業購買プロセス」は明確にモデル化されておらず、このことがBtoBコミュニケーションやプロモーションを行うにあたって様々な錯誤をもたらしてきたように思える。ここでBtoCとはまったく異なる「企業購買プロセス」を様式化し、BtoB広告の発展に寄与できることを念じて、あらたなモデルを提唱してみたい。 その前に「企業購買プロセス」の各段階について考えてみよう。

①企業購買プロセスにおける課題(assignment)段階

AIDMAでは消費者心理プロセスのトリガーとなるべき段階が「注意(attention)」にあることは前述の通りである。これに対して「企業購買プロセス」では各企業や組織が抱える様々な「課題(assignment)」がそれにあたる。ひと頃、商品開発や広告分野で「ニーズ」という言葉が流行した。市場のニーズとか企業のニーズなどといって、各企業が何を欲しているのかを見極めることが重要だと唱えられた。それ自体は決して間違いではないが、「ニーズ」と「課題」には微妙な開きがある。ニーズはどちらかというと今現在何を必要としているかが重要視されるが、課題とは現在のみならず将来どのような問題が生じるか、を予測することも含まれる。ここで重要なのは、ニーズは各企業とも今の時点でも把握している事柄であるが、課題は場合によれば企業が把握し切れていない将来起こるであろう事柄も含まれているということである。これを精査することがBtoBマーケティングでは非常に重要な要素となる。 個人を対象にした消費喚起は、何よりもまず商品が注目され消費者の注意をひくことが重要であるのに対し、企業購買においては各企業が抱えるであろう課題をあらかじめ熟知(予測)し、それに明確に答えるメッセージが必要となる。単なる「目立つ」「おもしろい」だけでは個人はともかく企業は振り向こうとしない。すべてが経済合理性の元で運営されている企業にとって、抽象的・心情的な仕掛けは通用しないのである。

②企業購買プロセスにおける解決(solution)段階

そしてこの課題に端的に応える、あるいは提案することが次の「解決(solution)」段階となる。「解決」は課題に対して多様な側面からその対応策を提案することであり、おそらくマーケティングにおいて最も重要な段階だといえる。そしてじつはこの解決に説得力を持たせるのが、先の段階である課題をどの程度把握しているか、にかかわってくる。つまり「課題」と「解決」は一体あるいは連携して捉えられると理解できる。この解決のメッセージが広告において明確に伝えることができれば、逆に企業側(顧客)に新たな課題を気づかせ、そこから顧客の信頼を得ることも可能になるかもしれない重要な段階なのである。くどいようであるが良い解決策を提案できるのは緻密な課題把握にあることを忘れてはならない。

③企業購買プロセスにおける検証(inspection)段階
その次の段階は「検証(inspection)」である。課題に対する解決策が提示された後、企業ではその策が本当に有効かどうかあらゆる側面から検証される。いうまでもなくここでは解決策導入に際するコスト効率を中心に多様なデータが求められてくる。この段階は一見顧客企業内部での作業のように思えるが、ここで広告主側は手を抜くわけにはいかない。顧客企業での検証作業に即座に対応できるテータの提供やアプリケーションの提示が必要となる。この段階で特に注意が必要なのは、顧客企業が検証を行う際ネットを利用する場合である。たとえば検証途中でライバル企業のデータがより充実し、なおかつ優位でることが判明すれば、顧客企業はその時点でライバル企業の商品の採用に動くきっかけとなるからである。人的交流中心の閉鎖された過去のBtoBスタイルとは違って、現在はネットによっていつでもライバル企業の情報が入手できる状況であることを念頭に置いておくべきだろう。 具体的にはこの段階になったと思われた時点で、たとえばデータ集やコスト効率計算書などの提示を行うことが考えられるが、ともかく常時WEBサイトで関連情報を公開しておくことが基本であろう。

④企業購買プロセスにおける承認(consent)段階

そして検証が終了した次の段階が、BtoBの特性である「承認(consent)」段階となる。ここでいう承認とは稟議書などによる書類上の承認に限らず、同僚や上司の「同意」も含まれる。読者のみなさんも心当たりがあると思うが、承認を得る際、機械的にハンコを押してもらう前に上司や周囲の人間に同意を得ておくことは欠かせないポイントとなる。この段階はまったく広告主側は関知できないように思えるが、じつはここでもやるべきことは、ある。 往々にして購買商品の申請者と承認者(決裁者)は異なり、決裁者はこの段階で初めて商品情報を目にすることも少なくない。しかも購買担当者とはまた違った視点で商品の優位性やコスト効率を検討することになる。したがって担当者向けの情報ではなく、マネジメント向けのドキュメントや当該商品の導入事例など、決裁者の判断材料となる情報をこれでもか、といわんばかりに提示することを忘れてはならない。さらに、担当者が決裁者に承認を得る際、もしかすると役員会や部会などでプレゼンテーションを行うことも考えられる。それに対応する形でパワーポイントのファイルなどをあらかじめ担当者に提示しておくことは、承認を有利に進めるだけでなく担当者から信頼を得るきっかけにもなると思われる。このように商品購買のほぼ最終段階であっても、決して手をゆるめることなく、最良の結果をめざすために様々なプロモーションを行うことが肝要だろう。

ASICA(アシカ)モデルの提唱---企業購買プロセスから見た、BtoB広告のための新たな理論(4/4)

8.ASICAモデルの提唱

以上のように、「課題(Assignment)」からはじまり、「解決(Solution)」、「検証(Inspection)」、「承認(Consent)」のプロセスを経てめでたく「行動(Action)」となるのである。 この企業購買プロセスモデルをそれぞれの頭文字を取って「ASICAモデル(ASICA理論)」と名付けたい。 「ASICA(アシカ)モデル」はBtoB特有のそして組織人の特殊性を念頭に置いた企業購買プロセスモデルであり、それぞれの段階に即した広告企画やマーケティング戦略の対応が可能となる。 では具体的に各段階でどのような作業が必要なのか、を検討してみたい。

9.ASICAモデルの応用。

 ①「課題(assignment)」段階での応用

前述のように課題はニーズと異なり将来起こるであろう問題も含めて検討することが重要である。したがって中長期的な課題と短期的な課題とに分けて捉える必要がある。中長期的にはまず顧客企業が属するマーケットの将来予測が中心になる。たとえば現在、新興諸国の発展に伴い鉄鋼の急激な増産が続いているが、これに伴う課題としては単に鉄鉱石のコストの問題や製鋼効率の向上だけでなく、製鋼に用いる石炭やコークスの確保、価格、燃焼効率の問題、さらには燃料や製品の流通コスト、さらに突き進めればコークスに変わる代替燃料の開発導入、製鋼プロセスでの安全確保など様々な課題を抱えることになる。その多様な課題の中で広告主側は自社の技術やリソースで対応できる分野を探し出すことがまず必要な作業だろう。 また短期的な課題を把握するのに最も有効な情報は、顧客からのクレーム情報である。このクレーム情報には単純に当該製品に対する瑕疵の指摘もあるが、他に隠された貴重な情報が眠っている。つまり当該製品では対応し切れていない新たな技術や仕様への要求がクレームという形で提示されるケースも少なくないからである。さらにもっと具体的な情報を得るならば、直接顧客にヒアリングを行うことも重要かもしれない。この機会としては展示会での顧客とのコミュニケーションは貴重な場だといえる。

②「解決(solution)」段階での応用

ソリューションの提示は広告のみならず、マーケティング全般にわたって今最も重要な段階であると言える。広告などのメディアを利用する場合や営業担当者によるいわゆる提案営業と言われる行為もこの段階に相当する。 とはいうものの解決策の提示はそう簡単ではなく、とくにBtoBの場合は何度か顧客企業とのやりとりの中で最終的な解決策が生まれてくることが多い。営業担当や技術担当から顧客企業への解決案の提示から始まって、それに対する顧客企業側の反応を慎重に見極めた上で、さらに高度な解決案の提示と進めていくことになる。ここでは、当該製品の関連データや納入事例の紹介、応用事例の紹介、さらには導入シミュレーションなどが中心となる。

③「検証(inspection)」段階での応用

次の承認段階と同様、顧客側の購買担当者にとって当該製品の優位性検証を行う際詳細なデータがあればあるほどありがたい。その意味では詳細な仕様はもちろん、サービス関連情報や関連データの提示、さらには競合他社と比較した優位性情報なども必要になる。製品によれば試用機会の設定も不可欠かもしれない。いずれにしても購買担当者が効率よく検証できるようなデータや場を提供することである。

④「承認(consent)」段階での応用

検証段階と同様により詳細なデータが重要であるが、前述のように組織人としての特性から購買担当者の同僚や上司が応援部隊になってもらえるような仕掛けが必要な段階である。先に述べたように、あたかも購買担当者が作成したようなプレゼンテーション資料を提示することは、担当者にとって非常に心強いはずだ。またマネジメント向けにコスト効率を詳細に説いたドキュメントも欠かせない。とりわけカタログメディアではあまりマネジメント向けに作成されたものは見かけないが、オンデマンド印刷が可能になった現在、この種のドキュメントの充実が求められる。そのほか納入事例のビジュアル紹介やコスト効率計算書など、購買担当者のみならずその周辺への同意を得るためのプロモーションに手抜きがあってはならない。

⑤「行動(action)」段階での応用

いよいよ購入されるという段階ではもう何もすべきことはないようだが、ここでも顧客企業や担当者との継続的な関係を維持するために必要なドキュメントやコンテンツは考えられる。いわゆるPR誌などがこの部類にはいるだろうが、WEBを利用した顧客担当者との経常的なコミュニケーションメディアの構築も考えられる。My Yahooなどが参考になるが、製品納入後も顧客との課題の共有と解決策に対する協業から、また新たな課題(ビジネス)が生まれてくる。

10.おわりに AIDMAとはまったく異なった視点で企業購買のプロセスモデルの構築を試みてみた。このたび提唱した「ASICAモデル」はBtoBの特殊性を念頭に置いて効率よく広告企画制作ができるよう期待して策定したものであるがまだまだ不備な点があるかもしれない。しかしとりあえずこのプロセスモデルが少しでもBtoB広告企画制作の参考になれば幸いと考えている。 なお、カタログや広告のみならず展示会やWEBサイト構築など、あらゆるプロモーションにもこのモデルは応用できるが、その詳細についてはまた機会があれば述べたいと思う。 さらに特筆すべき点は、本モデルがBtoC広告にも適応できることである。これについても詳細をぜひ別の機会に述べたいと考えている。 (産業広告 2008年6月号)
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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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