BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑧
 

《質問》

我が社は中堅よりもやや小さい中小企業の部類に入り、広告宣伝予算はそのつど策定されておりますが、策定の根拠はあまり明確ではありません。宣伝担当は私を含めて3名です。仕事内容は僅かな雑誌広告とWEBサイト(あまり情報は入っていません)、そしてカタログと展示会が主となっています。ここ数年宣伝活動は代わり映えせず、なんとか新しい取り組みを行いたいと上司に提言することがあるのですがほとんど却下されてしまいます。その理由は「予算がないから」です。上司の気持ちも分かりますが、このままでは同じ仕事の繰り返しで、私以外の部員の士気も極端に低下しつつあります。上司を上手く説得して新しい提案をどんどん取り入れて我が社の宣伝部門の改革を行いたいと考えています。相談室にお願いするのは的外れかも知れませんが、上司を説得するよい方法があればご教授いただけないでしょうか(部品メーカー宣伝チーム)

 

《回答》

この種の相談はよく受けるのですが、回答をここで行うのには少し抵抗があります。それはこのブログを当該上司が読んでいるかも知れないからです。しかしその上司にもまた上席者がおります。つまり貴方の提案を受け入れるのには上司の上司を貴方の上司が説得する必要があるのです。したがってここでは貴方とその上司の参考のために私の考えを述べたいと思います。

貴方がいくら優れた提案をしても予算がなければ通してもらえないのはどの企業でも日常的にあります。ここでは二つの大きな課題が潜んでいます。

一つは所謂ファンドとしての広告宣伝費全体の予算がどの程度あるかと言うことです。広告宣伝活動はいわば企業同士の戦争に用いる武器の調達資源になります。これが少ないと余程の優秀な武器(優秀な企画)がない限り勝つことはできません。

 広告宣伝費の予算策定の手法ですが、さまざまな手法がある中で最も多く用いられているのは「前年度売上げに対する比率計算」です。たとえば前年度売上げが100億とします。そして宣伝予算比率を売上高の0.5%とすれば、広告宣伝費は5000万円になります。この比率は各社によって異なりますが、BtoB業界ではおおむね0.50.8%程度と捉えて良いと思います。つまり競合企業と戦争を行うのにどの規模の武器があれば勝てるのか、がその比率の根拠になります。もし相手の競合企業が御社の倍の売上げを持っているとしたら広告宣伝費はほぼ倍の予算を持つことになりますから、なかなか難しい闘いを強いられることになります。

こんな状況下でおそらく無理をして闘わず、現状維持のままなんとか生きながらえようとする姿勢が、宣伝予算策定の根拠が明確になっていない理由だと考えます。企業によっては必ずしもこの手法を否定することはできませんが、このままでは御社は一向に成長することはないでしょう。

なぜなら、広告宣伝費というのは経費ではなく「投資」の概念があるからです。とりわけBtoB業界は商品の認知から購買まで長ければ数年かかることもあります。だから広告宣伝費は数年後の受注のための投資と考えるわけです。私の経験でも、広告宣伝費を極端に増減した反動は25年後に現れてきます。これはまさに「投資」と同じ考えです。

御社の場合はどのような策定手法が好ましいか分かりませんが、まず前年度売上げ(単体)の0.6%程度を確保すべきだと思いますし、この数字を経理と予算折衝するときに明確に示す必要があります。有価証券報告書を見れば同種企業の売上高広告宣伝比率は計算できますからまずこのデータを整備することです。ただ有価証券報告書で言う広告費と現実のそれとは若干の違いがあります。企業によってはたとえばカタログなどは広告費としないところもありますから、多少の誤差が出てきますがこの際それはあまり気にしない方がいいでしょう。

まずはこのようにして毎年何らかの根拠のある広告宣伝予算の確保に努めることが重要な課題です。けっしてその場限りのお手盛りで策定すべきではありません。とりわけ経理部門は数字しか見ていませんから、次年度の景気が芳しくないと予測すれば策定比率を落としてくる場合が多々ありますが、ここは頑としてその比率を守ることが重要なポイントになります。

私が広報の責任者になった時点では売上高広告宣伝比率は0.6%でしたが、それを10年かけて1.3%にまでもっていきました。ずいぶん無茶なやり方だと言われましたが、それによって数年後には企業ブランドは向上し売上げも着実に伸び、やはり宣伝費は「投資である」ことを実感したものです。

まず上司には予算折衝に於いて適正な予算確保が経常的に行えるよう経理部門を説得してもらう必要があります。

話しは戻りますが、そのようにして予算が確保できたとしても競合企業の半分程度にしかならなかった場合にどうするのか、です。競合企業と似たような当たり前の広告やカタログ、展示会を行っていては勝てるはずはありません。何しろ武器は半分しかないわけですから。でも必殺の戦法があります。武器の数は半分でも武器の質を競合企業の倍にすればよいのです。ここで広告宣伝の「質」の課題が生まれます。競合企業ができないような奇抜なアイデアがこのときは物を言います。

おそらく貴方の提案はその「質」に関してのものだと考えますが、それがなかなか上司に納得してもらえないことは私も十分理解できます。上司には予算の範囲内で業務をこなす責任がありますから、予算以上の提案をされても即座に承認できないのです。ここは貴方が辛抱強くその提案の理由と予測できる効果を述べて説得に当たるしかありません。そのときに「宣伝は投資であるから数年後に効果が現れる」ことをしっかり説明することです。それからもう一つ重要なこと。貴方の提案が「貴方の上司の上司から、貴方の上司が評価される」内容であることを念頭においた方がいいでしょう。本来上司の評価などどうでもよく、むしろマーケットや社会の評価を優先すべきですが、この際どうしてもやりたい企画があるのなら仕方がありません。

最後に一つ。えてして広告宣伝部門はコストセンターとみなされ、経費の削減対象になりやすいのも事実です。しかし一方で、さまざまなメディアで獲得した見込み客(引き合い)を展示会で最終的に受注に結びつけるなど、利益に大きく貢献しています。さらにブランディングの観点から見れば、510年にわたる長期の広告宣伝活動は、見えない資産であるブランドの形成に役立っています。このことから、広告宣伝部門はプロフィットセンターであることを粘り強く上司や経理部門に訴えることが何よりも大切なことです。

そうすれば時間はかかるかも知れませんが徐々に貴方の提案が受け入れられ、御社の業績に寄与してくるでしょう。頑張ってください。