《質問》
以前、貴協会主催のBtoBコミュニケーション大学校を受講したものです。講座ではさまざまなメディアでのBtoBコミュニケーションの基本と応用を教えていただき、大変役に立ちました。しかし一方で最も身近な社内コミュニケーションに目を向けると、どうも最近疑問に思うことがあります。情報共有などの仕組みは十分出来ているのですが、一昔前に比べるとコミュニケーション効率がむしろ低下しているようにも思えるのです。社内コミュニケーションがうまくいかない状況で、メディアコミュニケーションが目標通り達成できるのか心配しています。社内コミュニケーションも含めた広義のコミュニケーションのあり方をもう一度ご教示いただければ幸いです。(電気機器メーカー・営業企画部)
《回答》
当協会のBtoBコミュニケーション大学校を受講されありがとうございました。
「社内コミュニケーション」がどのような状況を指しているのか、文面ではよく把握できません。単純に相互コミュニケーションが不調なのか、その結果伝えたい事柄が伝わらないのか、社員同士の話す機会が少なくなったのか……。いずれにしても社内コミュニケーションは、組織内コミュニケーションの原点でもあり非常に重要なポイントです。
BtoBコミュニケーション大学校でメディアコミュニケーションを学ばれ、それに対して社内コミュニケーションのあり方に疑問を持たれたのは素晴らしいことです。通常はメディアコミュニケーションにばかり目が向き社内コミュニケーションが劣化していることに気付いていない企業が少なくありません。
じつはコミュニケーションの最も重要なポイントが多くの場合誤解されています。つまりコミュニケーションとは「伝えること」と理解されている場合がほとんどでしょう。マスコミュニケーションの場合は直接伝えることが出来ませんから、メディアを使うしかないのですが、そこに大きな落とし穴があります。
高価なメディアコストを使い、メディア対応すれば伝わっていると誤解してしまっています。その伝わる効率を広告効果測定などと称して測るわけですが、その測定手法にも大きな問題があります。たとえば社名を列挙し、その企業を知っているかどうかなどといった測定手法には何の意味もありません。なぜなら社名を見て知っているから伝わっていると間接的に測定してしまい、肝心のリコール(思い起こし)に言及していないからです。
マーケティングコミュニケーションで重要なのは、知ってもらうだけではなく認知され常に思い起こされることです。私たちの頭脳は膨大な量の情報を記憶することが出来ます。しかしそのほとんどは思い起こされず、マーケティングの場面で有効に作用しないことが多くあります。
たとえば簡単なテストをしてみましょう。あなたは昨日テレビをご覧になったとします。そこでさまざまなCMを視聴されたと思いますが、今ここで10秒間に10社のCMを思い出してください、と言う質問をします。ほとんどの方はせいぜい5社くらいしか思い起こされないはずです。しかし10社どころか目にした大部分のCMはじつは脳には記憶されているのです。ただ思い出せないだけなのです。マーケティングで重要なのは知らせることだけでなく、認知(内容の理解)されさらに記憶にとどめて思い起こされるまでのプロセスを完全なものにすることです。
コミュニケーションには大きく分けて三つの種類があります。まず一つは単純な事務連絡です。これは伝達効率(伝わったかどうか)が問題になりますが社内コミュニケーションで日常的に行われています。その次にアピールです。アピールは言わば一方的に発信者から伝えたい内容を発信することです。多くの広告がこれに当たります。この場合の問題はマスコミュニケーションの場合、現在ではあまりにも周辺情報量が多いためいくらアピールしても情報に埋もれてしまって届かないケースが多いことです。まして「我が社は世界に誇る○○の技術を持っている」などといった自己アピールはもはや誰も信用する時代ではありません。
最後に重要なコミュニケーションがメッセージです。これはアピールのように直裁的に述べるのではなく、伝えたいことを類推でき、しかも興味ある内容を伝えることです。これによって受け手はその内容の意図しているものが何なのかを自ら調べ、考えることになります。この自分で調べるという行為がじつは記憶に残す重要な役割を持ちます。したがって広告で最も効果的なのはアピール広告ではなくメッセージ広告であることは、本稿の他の項でも述べたとおりです。
「メッセージ」で興味深いお話しをしたいと思います。メッセージには上述したように類推させるメッセージに加えてもう一つ「無言のメッセージ」があります。じつはこの無言のメッセージが最も強力なコミュニケーション手法なのです。たとえば、面と向かって話をしている相手が急に無言になり15分ほど何も話さなくなったとしたらあなたはどうしますか? おそらく「この人どうしたんだろう? 何か気に障ること話したのかな? 気分でも悪いのかな」と気遣うことになるはずです。このときのあなたの心理は、自分の考えを伝えるのではなく相手の心を読み解こうとしていますね。
じつはコミュニケーションの真髄はここなのです。本当のコミュニケーションは伝えることではなくて、相手の心や思いを読み解くことなのです。したがってコミュニケーションで重要なのは伝える能力ではなく読み解く能力なのです。マーケティングでは効果測定にこの考えが取り入れられつつありますが、残念ながら相手の心を読み解く手法やKPIが現在の所見当たらないため、測定結果も曖昧なものになってしまっています。
社内コミュニケーションにおいても同じことが言えます。現在多くの企業でメールコミュニケーションが大半を占めています。これがコミュニケーション不足の最大の課題を引き起こしています。メールコミュニケーションはメーラーというメディアで伝える訳ですが、メールを送信すればコミュニケーション完了と思いがちです。
そこにはメッセージも類推もありません(もっとも事務連絡は直裁的な方がいいのですが)。その結果受け手側もあまり特別な反応を示すことはありません。このことがコミュニケーション不足と思われる要因になっているのでしょう。
しかしもっと重要な課題が現在の企業内コミュニケーションシステムに隠されています。メールでの伝達がメモでのそれに比べて記憶されにくいことは証明されていますし、ましてや社内ネットワークに情報共有のためのデータベースがあるため、何かにつけて自分で調べようとしません。
上述したようにこれでは記憶に残らない断片的な情報が社内を駆け巡り、結果的に社内コミュニケーションがうまくいかない状況を生み出しているとも言えます。
情報共有することで社内のIQが低下し、むしろコミュニケーション能力が劣化するとも言われています。社内においてもメールで伝えるだけではなく、電話を多用するとかお互いにリアルに話す場を持つような仕組みに変えることで、社内コミュニケーションは大きく改善されるはずです。そして常にメールであっても電話であっても言葉の裏に隠れた相手の思いを探ることがコミュニケーション効率を高める最善の方法であることは言うまでもありません。