河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

地域社会

新BtoB社会におけるコミュニケーションとASICAモデル(3/5)

3.閑話休題。フェイスブックの隠れた潜在力(2/2)。

 

そこで二つ目の機能。文字入力など面倒なことは一切する必要なし。
独居老人問題の最大の課題は、今現在の健康状態や精神状態がどうなのか、である。それを別の手法で満たせばよいのであり、そのための機能開発が重要になる。

たとえば、トイレのドアを開けたら自動的にフェイスブック上にマーキングされるとか、玄関のドアを開けたら「外出」欄にマーキングされるなどいくらでも方法はある。
したがってフェイスブックのスタイルシートは主に二種類必要となる。従来のタイムラインに加えて「行動監視チャート」が新たに加わるのだ。


今までも似たような仕組みは確かにあった。ポットの電源を入れるだかお湯の量が減るだかしたらあらかじめ設定した人のところに連絡が行って、安否が確認できるという類がそれだが、あくまでも連絡先は身内や親戚に限られる。
身内に面倒を見てもらってはいるがあまりにも狭い範囲での監視体制では少々心許ない。重要なのは地域社会で面倒を見たように、いつも誰かが看てくれているという安心感だ。

それがフェイスブックでは可能になるかも知れないのだ。ただし前述のドアと連動した安否シグナルの送信と表示など、まったく新しい技術やアプリの開発は必要となるが、それもまた新たなビジネスチャンスと受け止めることもできるだろう。

そこでここまで書くとまた否定的な意見も推察できる。個人を「監視」とはどういうことだ。これは国民監視、さらには監視社会につながるのでは、とか、個人情報がどうがこうだでプライバシーの問題など。しかし今現在の重要課題を解決するのに、しかも人命に関わるような大きな課題解決のためには法律もへったくれもないだろう。法律にあわなければ法を変えればいい。


さらにデジタルデバイドの観点から見れば、今後音声入力や特定のボタンを押すことで安否シグナルが送信できる簡便さが必要になってくる。
専用リモコンの赤ボタンを押せば「ちょっとやばい。助けてくれ!」のシグナルになるとか、青のボタンなら「今日も元気だ。安心してくれ」というふうに。

老人向けFB画面

ディスプレイもパソコンでは敷居が高すぎる。普通のテレビをインターフェイスにした方がいいし、通常番組とフェイスブックの二画面同時表示がもっとも好ましいだろう。
つまりフェイスブック専用のテレビ、ということだ。こうすれば、老人のお友達仲間全体で誰が今どんな状況にあるのかをお互いに把握しあえる。

これはまさに地域社会そのものではないか。また監視の話になるが、もっと言えば行政がこれに荷担して複数のフェイスブックサイトを監視し、適切なアドバイスを記入してもいいし、赤ボタンが押された場合にのみ行政にアラートが出る仕組みにしてもいい。
フェイスブックを単に新しいメディアとするのでなく、社会インフラの一つとして捉えることだ。
 

で、こんなフェイスブックを立ち上げたところで何のビジネスにもつながらないじゃん、といったお決まりの経済合理主義が頭をもたげてきそうだが、どうしてどうしてここは将来最大の組織である老人社会そのものであるから、考えようによっては効率の良い老人マーケットと考えられる。
したがってスポンサー欄には現在のような訳のわからない広告ではなく、介護やホームヘルパー、出前、老人向けカルチャースクールなどいくらでもスポンサーは見つかる。
 

話はずれるが筆者は1997年に「マーネット」という概念を提唱した。数年前まで筆者のセミナーを受講された方にはそのさわりを紹介していたと思うが、要はリアルなマーケットが将来ネット上に形成される時代が来る、ということだ。
 

老人向けフェイスブックが軌道に乗れば、独居老人の悲劇もある程度回避されるだろうし、意外にも早々とマーネットが現実のものとなるのか知れない。
 

閑話休題と言いながら長々と書き綴ったが、BtoBコミュニケーションは組織対組織コミュニケーションであることから見ると、単にビジネスに直結したテーマだけでなくこのような最大の組織である社会が抱える課題解決も気にとめていきたいという思いからあえて紙幅を割かせていただいた。

新BtoB社会におけるコミュニケーションとASICAモデル(2/5)

3.閑話休題。フェイスブックの隠れた潜在力(1/2)。
 

ここでBtoBマーケティングとはまったくかけ離れるが、社会にとって重要な課題なのであえて提言しておきたい。
 

ASICAモデルのトリガーが「アサイメント(課題探索)」であるとした。
今、社会にとっての最大の課題は何かを考えたとき、どうしても見逃せないのが高齢化社会における課題であろう。とりわけ独居老人問題の悲劇的な報道を目にすることが最近少なくない。それとは裏腹に、むしろ社会における致し方ない暗部として認識され、遅々としてその解決策は進展していない。

数十年前は家族だけでなく地域社会が当たり前のように老人の介護に取り組んでいた。しかし現在はもう地域社会などあってないようなもの。いわば独居老人問題は地域社会の崩壊を意味すると理解できる。
この重大な課題を抛っておくわけにはいかないが、かといって以前のように地域で面倒を見るというのもここまで人と人のつながりが希薄になった今、もはや現実的ではない。ここでフェイスブック登場。

すでに今までBtoCと思われていた社会でも組織化が進みつつあると記した。
フリーターや若年層の独特な組織形態はともかく、現在もっとも大きな組織は定年を迎えた団塊の世代である。
企業という組織から離脱した後も無意識のうちに団塊世代は共通した価値観を持つ組織の一員として君臨する。マーケティングの一面から見れば、購買余力の点からも魅力ある組織ではあり、今後シルバー世代に対するマーケティングアプローチが盛んになるだろうが、一方で前述の独居老人予備軍でもある。

とかく金儲けに直結しない施策は後回しにされがちであるが、社会の大きな課題がここにあるとすれば、その解決に向けた対策は見過ごせないところだ。

 独居老人や介護老人のケアを以前は地域全体で行うことがありふれた日常であった。その地域社会の概念が希薄になりこれらの問題が白日の下にさらされてきたわけだが、それならばもう一度地域社会を復活させては、という思いが生まれてくる。

リアルな世界での地域社会復活が現実的でないとするなら、いっそのことフェイスブックでそれを構築すればいい。

今まさしくフェイスブックではお友達社会という新たな組織があちらこちらに出現している。これをそのまま老人社会に置き換えればすむ話だ。

つまり、気心の知れた老人同士のコミュニケーションの場としてフェイスブックは有効性を持つ。この場合、フェイスブック上では二つの機能が考えられる。
一つは現在主流となっているタイムラインに対応したコミュニケーションの場である。いわばこれは老人ホームの談話室的な機能だろう。「今起きた」とか「元気です」とか「どこどこへ行ってきました」などを自由に書き込めばそれだけで対象の状況が把握できるし、老人同士のつながりも生まれてくるだろう。このつながりが独居老人の悲劇を回避させる有効な機能を持つ。

しかしここまで読まれた読者の中には、多少なりとも違和感をもたれている方が少なくないと思う。キーボードもろくに扱えない老人にそんなことは無理だろうとか、外に出るのも億劫な人がわざわざパソコンに向かって四六時中文字入力するのかいな、など。
いわゆるデジタルデバイドの問題がここで大きく立ちはだかることになるのだが、それはそれで新たな商品開発やサービスのきっかけになることも忘れてはならない。

 


★プロフィール
河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。
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