河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

リクルート

リクルート広告の効果と、採用時の要件に関してのご相談

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑫
 

《質問》

そろそろリクルートにも本腰を入れなければならない時期がやってきました。いつもこの時期になると大企業は大きな広告や立派な入社案内を作っていますが、弊社は売上高が300億円に満たない中堅企業で、リクルートにはほとんどお金がかけられません。このような状況の中で優秀な人材を確保するにはどのような方法があるのでしょうか。ご教示ください。ちなみに広告宣伝費は1.2億円程度でそのほとんどはカタログと展示会に費やしています。(電子部品製造メーカー)

 

《回答》

ご指摘のようにこの時期になると各社ともリクルートを意識して派手な広告が目立ちはじめています。一見「ブランディング」を意識しているようですが、正直なところ歯が浮いたような綺麗事の羅列には私自身も辟易しています。

ところでこのリクルート広告。おそらくバブル時に全盛を極め、その流れが不況になった現在でも継続している不思議な広告です。各社とも有能な人材を確保したいのは十分理解できますが、だからといってあまりにもアピールの強すぎる広告はいかがなものか、と思っています。

じつは私は企業が行うリクルート広告には否定的な立場をとっています。その理由はリクルート広告だけが他の広告とは異質なコミュニケーションプロセスを持っているからです。

本来広告は売り手から買い手に対して行うものです。その効果測定には多様な手法がありますが、要はどれだけの引き合いがあったか、そしてその結果どれだけの受注が得られたか、につきると思っています。ブランディング広告では単に商品の受注額以外に企業認知度やイメージの変化が効果測定の要因に入ってきます。

ところがリクルート広告はどうでしょう。唯一リクルート広告だけが買い手が売り手に対して広告しているのです。こんな不思議な光景が現在もまかり通っていることに強い違和感を覚えます。いやちょっと待て、リクルート広告は将来就職すべき企業を買うための情報源だから、やはり企業イメージを売る企業から買い手である学生に対して広告しているのではないか、と言う意見も当然予想できます。

しかし、仮に広告に感動して入社した学生が、その後自由に企業をハンドリングできるでしょうか。希望していない人事異動や個人の特性に合わない仕事を強いられるなど、社員の企業における人生は企業によって左右されてしまいます。言いかえれば買い手である企業が借った人材をどのように使うかは企業側の論理によって決定されてしまうのです。このことから見ても、学生は「買い手」ではなくあくまでも「売り手」なのです。会えて誤解を恐れずにいうならば、企業は「学生」という商品を買うために広告していると言うことになります。

リクルート広告によく似たスタイルを持つものにIR広告があります。これは投資家が企業(の株式)を買うわけですから、まさに売り手の企業から買い手の投資家に広告しているのです。そして買った企業が気に入らなければ株式を自由に売却することができます。しかし就職した学生がそんなに簡単に企業に見切りを付けることはできません。

バブル以降延々とこの不可解なメディアが氾濫している背景には、まず大学の怠慢が上げられます。今でこそ各大学においても広報の必要性を重視しだしましたが、まだまだ大学側からのリクルート広告を目にすることはほとんどありません。時折目にする大学の広告も、単に大学紹介に止まっており、とても有能な人材を「企業に売り込もう」という意識は見られません。

ここで重要なのは拙著「ASICAれ!」で述べているASICAモデルの課題探索がトリガーになるべきなのです。仮に企業側がリクルート広告を行うとするなら、現在のような綺麗事にまみれた広告ではなく、現在そして将来の企業発展に不可欠な課題を学生に提示するような広告にすべきです。たとえば「今我々はこんなことに困っている。そのためにこんな能力を持つ学生を望む」と。そして大学側は、それぞれの大学と学部の特色を述べて、「ここにはこんな有能な人材がいて、こんな課題解決に貢献できる」というような広告を打つべきなのです。本来なら売り手である学生個人の広告がもっとも興味あるところですが、資金の問題からそれは不可能でしょう。だからこそ大学が学生に成り代わって、企業の課題解決にふさわしい学生を紹介するのです。

本来、リクルートは広告をまったく必要としない分野だと思っています。私の学生時代はそんな広告は目にしませんでした。ではどうやって就職したのか。先輩からの一本釣りです。当時は学生と社会人となった先輩との交流が盛んでした。そして学生は知らず知らずのうちに「あの先輩と一緒に仕事がしたい」と思うようになってきます。おそらくその過程で先輩は有能な学生に目を付け「俺のところに来ないか」というわけでめでたく就職となるわけです。この仕組みは現在でも極めて有効だと思います。

今でもインターンシップなどの制度がありますが、それをもっと有効に機能させるべきでしょう。そしてなにより企業と大学の垣根を取り払ってもっと柔軟なコミュニティを作るべきです。コミュニティの中心にいるのは言うまでもなく先輩です。余程の企業でない限り多くの優秀な社員がいるはずです。その社員と出身大学の学部との間で定期的な交流をもつコミュニティを形成するということです。1年間程度学生を見ていれば、自社の課題解決にふさわしい学生がいるかどうかは判断できるはずです。そして一本釣り。これがもっとも効率的なリクルートではないでしょうか。

現在はスマホやWEBから多くの学生が採用試験に応募してきます。そしてその面接を行うのはほとんどの場合人事部です。人事部が自社の課題を充分把握しておればいいですが、単にはきはきしているとか、礼儀正しいとか、知識が豊富だとか、いわゆるリクルートマニュアルに書かれている項目で振り落とす仕組みはけっして企業に利益を生み出させるものではないと思います。私たち、とりわけBtoB企業では商品の購買にはもっと慎重になっているはずです。この慎重さを先輩社員に託すのです。

御社の広告宣伝費は、大変失礼ですがとても立派なリクルート広告を行う域に果たしていないと思いますし、仮にそんな広告を行ったとしても御社の将来に貢献する人材が見つかるとも限りません。綺麗事にまみれた広告に憧れて入社したとしても、定着率は低下する一方で、ひいては技術や企業哲学の伝承に支障を来してしまします。

リクルート専用サイトは価格も比較的安価ですし、ここへの登録と御社のWEBサイトでの採用ページをしっかり作り込むことだけで充分です。後は先輩社員に頑張ってもらいましょう。

新BtoB社会におけるコミュニケーションとASICAモデル(5/5)

5.違和感がある最近のリクルート広告

 

広告では企業の根底に存在している思想や哲学から導き出されたメッセージを社会に向けて発信すべきだと述べたが、ことリクルート広告に関しては、まったく逆というか本末転倒の取り組みが未だに多く見られる。

リクルート広告はBtoB広告協会では完全なBtoB広告と位置づけている。
学生である人をモノにたとえるのはいささか気が引けるが、要は組織である大学や高校に所属する組織人としての学生を企業という組織が購入する、そのための広告ということだ。

ここで興味深いのはリクルート広告がBtoB購買プロセスとはまったく逆の様式を呈していることだ。つまり、本来なら売り手であるはずの学校が買い手の企業に対して広告するのがもっともなはずだが、現実には買い手側が広告している。

しかもほとんどの企業のそれが、自社がどれだけ素晴らしいかを、ヒステリックなフレーズを並べ立ててアピールしているのである。本来ならそんな美辞麗句はもう信じる人などいないはずだが、なんせ売り手にとってみれば多少いかがわしさが感じられても、自分を企業に買ってもらいたい一心で、とりあえずは信じるふりをするのだろうか。
 

ASICAモデルからリクルート広告を見るならば、まず課題探索。
これは売り手が買い手の抱えている課題を発掘するという意味からすると、学生側が企業について綿密な研究が欠かせない。ネットを利用したり企業訪問したりでバイトどころではない。ここでは企業側の飾り立てたメッセージなど何の役にも立たないはずだ。

そしてASICAのソリューション段階。学生自身がどの企業に対して得意とするソリューションを発揮できるのかを自覚する段階だが、このプロセスである程度自分の特性にあった企業に絞られるはずだ。今のようにとにかく何十社も面接を受けるなどは、言い換えればソリューションを持たない自分を好きなようにしてくれ、といわんばかりだ。
 

企業側にも問題がある。いかに自社の課題解決に役立つ人材を購入するかという観点から見れば、そもそも多くのリクルート広告に見られる自社アピールではなく、課題提供を行うべきだろう。
もっといえば、「我が社ではこのような課題がある。それを解決できない人材はいらない」とまで言い切ることも必要だ。採用試験に際しての面接官の役割も然りだろう。

日本BtoB広告賞の審査でいつも不思議に思うのは、応募される作品のほぼすべてに学生への媚びが見られることだ。なぜそこまして買い手が売り手に低姿勢になるのかよく理解できない。

こうした広告で惑わされ自ら確固たるソリューションの自覚もないまま入社したところで、永遠に自分の特性は発揮できないだろうし、その結果離職率も多くなる。
ただ企業としては色のついていない人材を思い通りに組織人化できるたやすさは、ある。
昨今の企業に突出した個性的な人材が見られないのは、案外このようなリクルートプロセスに問題があるのかも知れない。

前述の企業広告にしろリクルート広告にしろ、まず企業に眠る思想や哲学を社会にメッセージし、課題探索を社会に関与させることを忘れてはならないと思う。これはたとえリクルート市場が売り手優先になったとしても、矜持としなければならない企業文化の砦でもある。

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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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