河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

マーケティング

マーケティング業務におけるビッグデータの有効性についての質問

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉒

《質問》
 

弊社では今後マーケティングリサーチの一環としてビッグデータの取り扱いを検討しています。その理由は、データから得られる様々な要因を元に、新技術や新製品の開発に生かそうというものです。昨今ビッグデータが宝の山のように言われ、弊社としてもその貴重なデータをなんとか自社の企業価値向上のために生かせることができないか、と考えています。そこでビッグデータをマーケティングに応用する場合の注意点や課題などがありましたら教えていただきたく、ご相談する次第です(電気機器メーカー・マーケティング本部マーケティング担当)
 

《回答》
 

最近話題になっているビッグデータをマーケティングに応用する傾向は今後様々な企業で普及してくると思います。しかし結論を申し上げますと、まだ時期尚早です。
 

おそらく現状のデータでは、あまりにも巨大すぎて各企業がマーケティングに生かそうとしても、コストばかりかかって有意義な結果は見いだせないでしょう。その理由は、まずビッグデータと称されるものはすべて「過去」のデータであり、必ずしも将来の需要動向を表しているものではないと言うことです。
 

もし仮にビッグデータがマーケティングに有効性を持つなら、それを活用したすべての企業がヒット商品を連発するはずですが、資本主義社会はある意味で競争社会ですから全企業がヒット商品に恵まれて勝ち残ることは現実的ではありません。と言うより、ヒット商品はそんなに簡単に生まれるものではありません。まして過去のいわば客観的最大公約数としてしか見られないようなデータを元に、売れる商品を開発すること自体コスト効率が良いとは思えません。
 

そもそもビッグデータは、その規模の違いこそあれほとんどが前述したように過去の人間や企業の購買形態や嗜好、属性、行動様式をデータ化したものです。その意味では、統計分野や役所での過去データの把握や解析には役に立つかも知れません。しかし民間企業で未来をめざすマーケティング分野では、おそらくほとんど役に立たないか、そのデータの取り扱いに四苦八苦するでしょう。
 

そこで、「いやそんなことはない。データ解析はすべてコンピュータで行えば抜群の効率化が期待できる」と言った反論が予想されます。しかしここにデジタル社会の大きな落とし穴が潜んでいるのです。仮にデータ解析用のアルゴリズムを設計したとしても、それは単なるプログラムにしか過ぎません。つまり同じようなプログラムを使用すればどんな企業でも同じ結果が現れてくるのです。それが競争社会におけるマーケティングに本当に役立つでしょうか?
 

もっとも分かりやすい例は、ネットショップ大手が行っている「リコメンド機能」です。今や多くのネットショップが行っていますが、これは過去の購買データを元にして「あなたの好みはこの商品でしょう」のように、聞きもしないのにうるさく画面に表示されるものです。それが「あっ、そうだ。これが欲しかったんだ」というのであればいいですが、現状では過去に購入した商品と似たような商品しか表示されません。ある意味ではユーザーに購入意欲の限定を強いることにもなりますし、むしろセリングとしてはマイナスの要因となります。
 

これがビッグデータの限界です。つまり購入者の過去の嗜好は解析できても、未来の嗜好まではデータとして出せないのです。こんな状況でマーケティングに役立つはずがありません。
 

さらに問題だと思われるのが、ビッグデータは誰もがどんな企業もが入手できる汎用的なデータだと言うことです。だからこそできるだけ早くビッグテータを取り込んでマーケティングに役立てたい、と言う気持ちが逸るのは理解できます。しかしこれは多人数での会議や情報共有と非常に似た性格を持っています。言うまでもなく、ヒット商品は会議で多くの意見を参考にしたり情報共有したからと言って容易く生まれるものではありません。
 

アップルのスティーブ・ジョブズが述べたように「欲しいものはあなたの心の中にある」のです。言うなれば、欲しいものは本人も気がついていない心の深層分野に存在していると言うことです。データ解析でその深層心理を顕在化することは、現在の技術、おそらく将来的にも不可能に近いでしょう。それほど人間の心理は複雑で先が読めないものなのです。したがって人間不在のマーケティングやデータ解析はまったく意味がないと言えます。
 

一方BtoB分野は組織購買であるため、ある程度ビッグデータが活用できそうにも思われますが、ここでも大きな罠が潜んでいます。まず企業(組織)は個人の集合体です。そして最終的な購買決裁は個人(組織人)が行います。組織購買の場合は個人の嗜好や感情は無視すべきですから、前述のような人間の複雑性の影響は受けないように思われるでしょう。だからビッグデータは役に立つと短絡的に考えがちですが、重要なのは取引企業の将来の開発志向や設備投資の傾向を解析することです。しかしこのような重要事項をビッグデータから解析されるような危険な情報を企業自らが発信するはずはありません。したがってBtoB分野においてもビッグデータの活用によって、期待するほどの効果は得られないと考えます。
 

ビッグデータの導入やマーケティングに生かすことについて、否定的な意見ばかり述べていますが、データの使いようによっては極めて有効な場合も考えられます。
 

前述したようにビッグデータは過去のデータであり、いわば過去の社会状況を表しているとも言えます。
 

売れる新商品開発で最も大事なことは、消費者も気がついていない「課題」を解決する商品であることは言うまでもありません。ビッグデータを元にして、社会における将来の課題を探索することはある程度可能ですし、それを新商品(ソリューション)開発に生かすことも興味深いことです。しかしここで気をつけなければならないのは、データ解析をプログラムで行ってしまうことです。そうすれば確かに過去の課題は明確化されるでしょう。でも競合企業が同じようなことをすれば、結局同じ結果を持つことになります。
 

重要なのはここからです。自社独自の技術や他企業とのアライアンスによって課題に対するソリューションをどのように開発していくのか、が企業に課せられた大きな課題でもあるのです。しかもソリューション開発はもうプログラムでは不可能です。結局は企業に属する個々人の勘や未来を見通す能力がものを言うのですが、残念ながら最近それらの劣化が著しく、その能力開発は至難の業と言わざるをえません。
 

したがってビッグデータをマーケティングに活用するには、まず困難であるにせよデジタルに頼らない個々人のスキルアップが先決で、それとワンセットで導入しないことには膨大なデータに手をこまねくだけになってしまいます。
むしろマーケティング分野ではなく、ビッグデータの特性から施設管理やパレートの法則等とリンクさせた生産性の向上をめざす方が現実的だと考えます。     

マーケティング部門の新設についてのご意見

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑬

《質問》

我が社では今後の景気回復を前提に、より拡販をめざしてマーケティング部門の必要性が唱えられています。現在は宣伝部でコーポレート関連のメディア展開を行い、各事業部でそれぞれにカタログや展示会などの企画運営を行っています。新たにマーケティング部門を設置するとしたら、既存の部内の方が良いのか独立した部門の方が良いのかご意見頂戴できれば幸いです。(電子部品メーカー・宣伝部)

《回答》

最近ではフィリップ・コトラーによるマーケティング3.0が提唱されるなど、SNSに代表されるソーシャルメディアの普及によって新たなマーケティング理論が矢継ぎ早に紹介されています。それに伴って、各企業とも新しいマーケティングに乗り遅れまいとする焦りのようなものを感じています。おそらく御社でもそのような背景があってマーケティング部門の新設を検討されているのだと思います。

ところで、マーケティングの概念は約50年前に米国から我が国に導入され、その後さまざまなマーケティング理論が提唱されてきました。そしてよく考えてみるとこの50年間、ネットの普及や社会構造の変化、為替や景気の極端な変動に晒された各企業の業績はどうだったでしょうか。

確かに50年の間に企業は成長し、それなりの売上げをなし、一見成長してきたかに思えますが、一方では賃金の停滞や有力企業の衰退など、必ずしも全体を見つめると大きく様変わりしたとは思えません。むしろ気がかりなのは、衰退傾向にある有力企業ほど新しいマーケティング理論を導入し、全社体制でマーケティングに取り組んできたことです。これは何を意味しているのかよく考えなければなりません。

翻ってピーター・ドラッカーは「マーケティングは売れる仕組みを作ることであり、最終的には単純なセリング(販売)を無くすこと」だとも言っています。言いたいことはよく分かるのですがあまりにも机上の空論で、とりわけBtoB分野で販売をなくして勝手に売れる仕組みなどとうてい無理な話です。それにもかかわらず各社(特にグローバル企業と呼ばれる有力企業)はこぞって新しいマーケティング理論を導入し、その理論に翻弄された結果、大切なものを失ってしまったのだと考えています。

その大切なものとは、ドラッカーが無くそうとしていた「セリング」なのです。BtoB分野では組織体組織の購買形態を持ちますが、組織が自分の意思を持って販売するわけではなく、あくまでも組織の一員である組織人(社員)対相手企業の組織人との取引になります。ここでは、どんなにSNSなどの新しいネット上の仕組みがあろうと、社会構造が変化しようと、最も有力なのは相手企業(顧客)との信頼関係です。そして信頼関係は極論を言えばたった一人の営業担当の人となりによって強固なものになることもあります。つまり。セリングを徹底することにより、顧客との関係は良好になり、ひいてはそれが受注に大きく貢献するのです。

「失われた25年」などと言ってつい最近まではデフレの影響で各企業の業績は惨憺たるのでした。その理由は為替の変動など多くの絡み合った要因があるにせよ、1995年頃から普及しだしたネット依存の傾向も無視できません。

一見、ネットの普及は企業にとって生産活動や販売活動の合理化に寄与していると思われがちですが、それは機械的・無機的な分野に於いてのみと理解して良いでしょう。顧客とのコミュニケーションはけっしてメールなど文字情報だけで完結できるものではありません。上述のようにフェイス・ツー・フェイスで相手の顔つきを見ながらコミュニケーションを行い、その結果お互いの信頼関係が構築できなければ継続的なお付き合いはもちろん、まして受注に結びつかせる営業活動など不可能です。

この「失われた25年」に弱体化した企業の多くは、米国式のマーケティング理論に翻弄され、基本的なセリングを蔑ろにした結果だとも言えます。「マーケティングがセリングを劣化させた」のです。

いくらマーケティングに一所懸命になっても、顧客との接点に存在している営業担当がセリングに力点を置かなければ絶対に商品は売れません。その意味では、まずセリングを強化するためにマーケティング活動をサポート役として機能させることが重要です。差し出がましいようですが、ドラッカーの理論とはまったく逆なのです。

もっと極論すれば「セリングが強化されればマーケティングは不要になる」とも言えます。なぜなら、現在のマーケティングのベースになるのはいわゆるマーケティングリサーチですが、その多くはアンケート方式によるものです。とりわけ最近ではWEB上でラジオボタンをプチプチ押すような安易なリサーチが横行していますが、質問数が多くなれば疲れていいかげんにボタンを押してしまう。また質問が難解であっても適当にボタンを押す傾向があります。そんなアンケートから得られたデータに何の価値があるのか理解できません。

話は変わりますが、各企業ともマーケティング部門は予想外に大きな力を持っています。単に営業をマーケティングと置き換えている企業も少なくないですが、マーケティング部門が独立している場合、ほとんどは営業部門や宣伝部門の上位に位置しています。

「マーケティングの連中は理屈ばかり言って、俺たち現場の状況はまったく理解してくれない。で、売れなかったら俺たちの責任になるんだからやってられないよ」と言った愚痴とも批判ともとれる言葉を時折耳にすることがあります。

御社でマーケティング部門を新設されることについては、いわゆる世の中の趨勢から否定するつもりはありません。しかしあまりマーケティングを過信しない方が良いと考えます。そしてもし新設されるなら、既存の宣伝部か営業部の下部にサポートチームとしておかれる方が良いと思います。なぜなら基本的には顧客に最も近いところに存在する営業部隊が中心となって、顧客の抱えている課題やニーズを発掘し、それを企業全体でソリューションを開発し、顧客に提供することが本来のマーケティングですから。

また御社はメーカーとお見受けしますが、メーカーの最も重視すべきポイントはやはり「良い製品」を作ることです。良い製品を作ったからと言って売れるわけではない、そんな考えは一昔前の古くさい考えだ、と言われていますが、それはとりもなおさずマーケティングを正当化するために言っているだけなのです。良い製品を作ってこそ良いメーカーであるのは当たり前で、それで時宜を得たプロモーションを企画するのが宣伝部であり、営業担当個人のスキルとの熱意で売り込むのがセリングなのです。その意味からすると、マーケティング部門を製品開発部に設置するのも興味深いと思います。

くどいようですが顧客との接点にある営業部隊からのマーケットの課題やニーズを開発部門のマーケティングチームに伝え、よりよい製品を作る手立てとなれば最強の企業運営が可能になると思います。 

新BtoB社会の到来とマーケティングの行く末

昨年チュニジアのジャスミン革命に端を発した北アフリカの民主化運動は、BtoB社会のこれからのありかたを見る良い機会だった。ソーシャルメディアが急速に普及しながらも、それが企業あるいは国民一人一人にどのような影響を与えるのか、明確な結論を得ない中でおこったこの事件は、Twitterなどが持つメディア力をまざまざと見せつけた。

まったく面識のない人々同士がTwitterを触媒としてあたかも一つの頭脳を持ったような行動パターンを誘発する。この現象は独裁国家のみならず一応民主的だと思われている我が国も含めて、先進諸国でも最大の組織である国家の運営において大きな課題を投げかけた。ここまで行かなくてもすでに我が国ではBtoC社会が崩壊し、新たなBtoB社会が到来しつつあることを機会あるごとに述べてきた。

「個」の組織化(BtoB化)を行う触媒となるのは何もTwitterだけではない。あらゆるメディアが交錯している現在、しかもCGMといわれる誰もが情報発信できる仕組みの中では、個人個人が無意識下で特定の思想や見識に誘導される可能性は十分ある。原発事故後のマスコミ対応とは裏腹にCGMによってさまざまな情報が公にさらされ、その真偽が問われているが、今となってはどうもCGMに分がありそうだ。

マスメディア全盛の時代は、良い意味でも悪い意味でも世論誘導は比較的簡単だった。一時期話題になった劇場型政治などその典型だろう。しかしCGMが今後ますます普及することを考慮すると、もはやマスメディアによる世論誘導はまったく不可能になる。それがマスメディアの信頼性低下につながり、替わって人々は独自に構築した自分だけのネットワークにある情報だけを頼りにする。こうしてさまざまなネットワークにつながれた見ず知らずの人たちが、無意識下で組織化されてしまうのだ。もうすでに若年層では携帯ネットワークなど極めて強固な組織が出来上がっている。

こうなればBtoC分野では今までのような「個」の価値観を重視したコミュニケーション活動はほとんど効力がないと考えて良い。最近広告が効かないとかものが売れないという声を耳にするが、すでに社会全体がBtoB化し、個の意識が希薄になりつつあることを考えれば当然とも言える。

メディアの多様化に伴い縦横無尽に生成される虚構の組織化、つまりBtoB化がすでに始まっている。ここでは純粋な個の意識はさして重要ではなく、組織化された個がどのような意識を持つのか、が今後広告やマーケティング分野での大きな課題になる。何とも頼りないあの人が、どうして国をひっくり返す闘志を持ったのか、など群衆心理の研究は、BtoBコミュニケーションの魅力あるテーマだ。
こうなるとBtoBマーケティング分野では今までのように経営学一辺倒ではなく、社会心理学や組織心理学、さらには個と組織を絡めた精神分析学などの学際的な取り組みが求められてくるだろう。

宣伝力変革の時代 (5/5)

⑤インターナル・マーケティング。

高気圧型で広告の変革を。

組織間のホスピタリティを実感できる身近な方法がある。「インターナル・マーケティング」は社内の様々な部署を顧客と見なして対応する活動だが、ここにホスピタリティの概念を持ち込むのだ。「相手に喜んでもらう」ことを前提に全ての業務に取り組むが、重要なポイントは喜んでもらう相手部署は必ず自部署よりも外側、つまり顧客や社会に近い部署であることだ。

最も外側に位置するのは言うまでもなく営業やサービス・広報部門である。その内側にある開発・製造や販促部門は、営業に喜んでもらうために力を尽くす。さらに内側の総務・人事や経理部門は、開発・製造や販促部門に対してホスピタリティを提供すると言う具合になる。

では会社の中枢にいる総務・人事や経理部門はどこからホスピタリティを受けるのか。経営トップからである。トップを頂点にして企業の外側の部門に対してホスピタリティが広がって行く様から、このスタイルは「高気圧型ホスピタリティ」と呼べる。

一方でこれが逆になっている企業を目にする機会が少なくない。社内交渉に手間がかかるとか、顧客をさしおいてまず上司や社長のご機嫌を伺う企業風土は、ホスピタリティの流れが外側から中心の上部に向かう「低気圧型ホスピタリティ」である。組織同士の関係を良好に維持して行くためには、常にホスピタリティの先端が社会に接している高気圧型がよい。

しかし広告の現場で興味深い事実がある。多くの企業は広告計画に際し、役員会などに上程しご意見を伺うことがあるが、これこそが低気圧型なのである。自社の役員よりも顧客や社会からの評価の方が重要なのにもかかわらず、低気圧型を維持せざるを得ない難しさが企業論理としてある。

低気圧型の組織はいずれ社会から孤立する様に、こうして作られた広告は顧客などお構いなしに、社内だけが盛り上がっているという奇妙な現象を生むこととなる。広告担当は、まず顧客や社会に視点を置き、徹底的に課題探索をした上で自信を持ってソリューションをメッセージすべきであり、内向きのご意見伺いは無意味だろう。

ネットを始め多様なメディアが乱立する今、宣伝力の変革が求められとかくメディア論や広告手法に矛先が向かいがちだが、その前に広告主はトップを頂点に顧客や社会に向かって、ホスピタリティを送る高気圧型の企業風土に変革すれば自ずと広告も変わる。その糸口がインターナル・マーケティングにある。

インターナルマーケティング
 
 

宣伝力変革の時代 (3/5)

ASICAモデルの提唱。購買プロセスと広告。

広告人の間でAIDMAは消費者の購買心理モデルとしてよく知られている。しかしアテンション(注目)を第一段階とするこのモデルは、過度に情報が錯綜した時代にはそぐわない。いかに目立とう興味を引こうとしても、溢れる情報の中でオーディエンスはアテンションする暇もない。むしろ多様な課題を抱えた今の時代では、素直に課題に気付かせるメッセージが広告に要求される。ノイズとしての情報には無関心だが、潜在的な課題に対するソリューションには敏感だ。これはB2BB2Cも変わらない。

このような課題優先の時代を迎えて、広告戦略の手だてとなる新たなモデル「ASICA」を提唱したい。AIDMAのアテンションに代えてアサインメント(課題)をトリガーとするこのモデルは、次の段階がソリューション(解決)となる。広告において課題提示とその解決策の提案が重要なことはすでに述べた。三つ目の段階はインスペクション(検証)だ。商品の購買においてこの検証段階は無視出来ない。

とりわけB2Bでは購買候補商品が自社にとって有効かどうかの判定に複数の部門や人が関わっており、それぞれの立場を持った人に商品の課題解決能力をアピールしなければならない。ちなみにB2Cでこの段階をスキップするのがいわゆる衝動買いである。今、検証段階でもっとも有効なメディアはWEBサイトだ。他社製品との機能や性能比較などの情報を能動的に取得してもらうには、いわゆるプル型のメディアが不可欠となる。検証段階をより優位に保つためには、当該商品のアプリケーションも含めてできる限り詳細な情報を自社サイトにアップしておくことが肝要だ。

次の段階は最もB2Bらしいプロセスであるコンセント(同意)だ。企業内での商品やサービスの購買に当たって、多数の同意を得ることは稟議を通す儀式でもある。同僚はもちろん上席者や購買部門、経理部門、場合によれば社長の同意も必要になる。同意段階で有効なメディアは新聞広告などのプッシュ型メディアである。多様な階層をターゲットに当該商品より企業ブランドを浸透させ、同意形成を有利するためのブランド広告は有効だ。

そして同意を得て最終的にアクション(購買)に結びつくことになる。このようにB2Bの現場ではASICAの各段階で多様な人や組織との関わりがありターゲットは異なる。 ネット広告信奉も良いが、プル型とプッシュ型を組み合わせ、ASICAモデルに対応したメディア戦略が、本来のクロスメディアだろう。

ASICA





宣伝力変革の時代(1/5)

①展示会が変わった。潜在顧客の発掘の場に。

10月ともなれば展示会シーズンたけなわで、マーケティング担当にとって最も多忙な季節だ。しかし昨年来展示会への出展を縮小する企業が多くなった。昨今の経済危機がその主な要因であるが、最も大きな理由は展示会への客足が遠のいたことにある。

「客が来ないから出さない」一見大義名分と思われるこの背景には、ネットの普及による展示会メディアの機能的な変化が隠れている。従来展示会は新製品発表など広報の場としての機能が優先されていた。しかしWEBサイトの活用で広報機能を持った展示会は衰退し、新たに別の機能を持ち始めた。顧客が抱える「課題」を解決する手段として実機を前にしたソリューションが提示できるメディアは展示会以外にない。展示会メディアは情報発信という広報機能からソリューション提供という顧客に対するいわばホスピタリティ機能へと変貌したのである。

もう一つ展示会に見逃せない特性がある。メールやWEBなど顔の見えないコミュニケーション形態が主流である現在、展示会だけはフェースツーフェースコミュニケーションが実現できる希有なメディアである。これに気付かない多くの企業は、客が来ないから出さないというが、自ら出展して客を呼ぶ姿勢が過剰なネットメディアの依存によって欠落してしまったのだろうか。

企業はそれぞれ膨大な見込み客(潜在顧客)リストを持っている。この見込み客に一人一人地道に声をかけ、展示会への集客を促しそこで有能な説明員(技術者)によるソリューションを提示する。これがホスピタリティマーケティングの第一歩と言える。いつまでも主催者の集客力に甘えるのではなく、自らの力で集客しなければならない。客が来ないと言って展示会に出さない企業でも、相変わらず通常の客先訪問には熱を入れているのだから。

米国の展示会リサーチ会社のデータでは、展示会営業は通常営業とくらべて2倍以上のセールス効率があるという。質の高い見込み客を招くことが前提であるならこの数字は当然だろう。WEB全盛の今、フェースツーフェースメディアとして展示会は今後もっとも注目できるメディアでもある。にもかかわらず展示会を衰退させているのはネットメディアの進化でも主催者の怠慢でもなく、出展企業の見当違いなマーケティング戦略によるものかも知れない。客が来ないから出展しないのではなく、客を呼ぶために参加することが、マーケットそのものを活性化することになる。

 

展示会



ASICAモデルからみた展示会の可能性(8/8)

12.ASICAモデルとこれからの展示会


BtoBコミュニケーションの過程であまりメディアの関与がない「I:inspection検証」や「C:consent同意/承認」のプロセスにおいても、展示会は有効だ。顧客企業の担当窓口との間で一通りの商談を済ませば一段落ではあるが、じつは顧客企業側ではその後の検証作業(製品の導入効果)や同意形成(決裁者による承認)プロセスが残っている。ここで十分なフォローがないと、一発逆転で他決してしまうことすらある。もし商談途中の案件があるなら、顧客企業の担当窓口だけでなく、上位の決裁者などを展示会に招くことも商談成立に効果がある。


ASICAモデルの最後の「A:action(購買/行動)」レベルでは、展示会は顧客の囲い込みに大きな役割を果たす。商談が成立した以降も次の商談に繋がるように、常に展示会に招いて課題探索を行う仕組みづくりが重要である。顧客は次の見込み客であることと、従来顧客の囲い込みよりも新規顧客の開拓の方にはるかにコストが掛かることを考えれば、むしろ展示会は従来顧客(将来の見込み客)のために用意されたホスピタリティの場と言えるのである。
 

BtoBの購買プロセスとASICA

今後さらなるネットの進化によって、BtoB分野においてもSNSやツイッターなどのソーシャルメディアが台頭してくるだろう。とかくこれらの目新しい手法に目が行きがちであるが、その根底に潜む要因にも目を向ける必要がある。インターネットが普及し、WEBサイトやブログで誰もが情報受発信することが可能になった後、SNSやツイッターが出現したことは、メディアがどんなに進化しても、最終的には人々が「対話」を求めていることを意味する。さらにSNSなどで、匿名ではなく実名でのディスカッションの重要性が議論されていることを考えれば、いずれリアルなFace to Faceコミュニケーションのありかたが再認識されてくるだろう。

そんな中にあって「接触メディア」として特異な性格を持つ展示会は、 Face to Faceマーケティングにおける将来もっとも注目されるべきメディアだと考える。
このように書けば昔返りのように思われるかも知れないが、文明は螺旋階段のように進化し、その過程で幾度となく原点回帰を繰り返すものである。

ASICAモデルからみた展示会の可能性(7/8)

11. 展示会効果の捉え方と効果測定例


さて、ここで展示会の効果測定についても考えてみたい。展示会の最終的な目的は「受注拡大(受注確保)」にあるだろうが、それ以外にも展示会は様々な機能を保有している。集客ありきの考え方も、展示会を広告媒体として見るなら否定はできない。要は、展示会を「広告媒体」として捉えるか「営業の場」として捉えるかによって、その効果に対する概念は変わってくる。


展示会には多くの来場者があり、当然そこではブランドの露出が行われ、認知度向上の効果がある。また、ブース内で顧客や見込み客とのコミュニケーションやソリューションの提示を通じて、顧客満足度の向上や需要創造の機会もある。展示会効果測定において、明確に数字として捉えることができるのは、「投資コスト」「来場者数(自社ブース・会場全体)」「商談額(受注額)」となる。これらの数字を用いて展示会効果測定の基準を作ることになるが、この数字以外の見えない効果、つまりブランドイメージやすぐには受注には結びつかないが、好意的な受注予備軍をどのように取り扱うかが課題として残る。

展示会効果測定の一例(1)
展示会効果測定の一例(2)

ここで端的な展示会効果測定の一例を示す。
まず展示会効果を「PR効果」と「セールス効果」の二つに分けて捉える。


a.PR効果=PR効果は来場者数を投資コストで除したものであり、単位コストでどれだけ多くの来場者が得られたかを示す。

PR効果=来場者数÷投資コスト → 認知効率

b.セールス効果=セールス効果は受注額(引き合い額・商談額)を来場者数で除したものであり、来場者ひとりあたりどれだけの受注が得られたかを示す。

セールス効果=受注額(引き合い額・商談額)÷来場者数 → 受注効率

このように展示会には二つの効果があると考えられ、最終的な展示会効果はこの二つの効果を掛け合わせることによって得られると理解することができる。つまり、

展示会効果=(来場者数÷投資コスト)×(受注額÷来場者数)

展示会効果=PR効果×セールス効果

となるが、ここではそれぞれの効果測定で分子と分母になる「来場者数」が相殺され、結果的には「受注額(引き合い額・商談額)」を「投資コスト」で除した数字となる。

展示会効果=受注額÷投資コスト

こうしてみれば展示会効果は単純に投資コストと受注額によって算出できるようであるが、実は相殺された「来場者数」の「量」ではなく「質」に大きな意味があることを忘れてはならない。この「質」の表現は数字では困難であるが、来場者の「質」の向上によってPR効果面でのブランド認知の「質」が向上する。また当然来場者の質が向上すれば結果的に受注額も増加し、セールス効果も向上する。

前述したように、展示会のROIを向上する条件として説明員の質の問題を取り上げたが、同時に来場者の質もまたROIに大きく影響する。この来場者の質を高めることが、6項で述べた集客の課題に合致する。またここでの来場者を、「展示会場全体の来場者」と設定した場合と「自社ブース来場者」と設定した場合とではやや意味合いは異なってくる。さらに、「受注額」を「引き合い額」や「リード件数(カタログ請求件数)」と置き換えることもできるが、各企業それぞれに営業形態や企業運営形態に沿った形で独自の効果算出式を構築すればよいと考える。

重要なのは展示会効果算出式で得られた数字は絶対的なものではなく、各展示会や年ごとの変化率の把握(トレンドの把握)として位置づけた方が良い。なお、受注成立にはセールスコールの質(引き合い処理の仕方)が大きく影響するため、多面的な営業活動の一環としてこの数式を捉えることも重要である。

また、数字では表れない様々な要素、例えば顧客創造やリレーションシップなども、最終的には後々の受注額に寄与するものと考えられ、またとりわけBtoB分野では受注成立までに長期間要することもあるため、この効果測定算式は継続的に使用しその結果のトレンドを数年に渡って把握していくことが重要と考える。

展示会効果測定の基本的な考え方

ASICAモデルからみた展示会の可能性(6/8)

9.説明員のスキルアップが展示会のROIを改善する


さて、唐突ですが「あなたがもっとも好きな企業は?」「その企業が好きになった理由やきっかけは?」と問われたらどう答えるだろう。BtoB分野では、おそらくほとんどの人がまず製品(技術)を思い浮かべ、その次にそれを購入したりサービスを受けた際の担当員の対応や、経営者の人柄がポイントになるだろう。広告がきっかけと答える人はごく僅かと思われる。

展示会においてこれを証明するようなデータがある。米国の Exhibit Surveys 社 が2006年まで毎年発表していた「Best-Remembered Exhibits」である。


展示ブースにおける記憶再生率と記憶の理由

これは展示会効果を、記憶される割合のレベルで測定し、展示会を構成する各要素との関係を定量的に把握したデータである。ここでは、展示会を構成する要素として「製品デモンストレーション」「製品そのもの」「文献(説明パネル)」「展示デザイン」「説明員」「ブランド認知度」などとし、一年間に開催された様々な展示会の終了後ある一定期間経ってから、「あなたがもっとも記憶している展示会」「その展示会の中でもっとも記憶している企業ブース」「その企業ブースがもっとも記憶される理由(要素)」についてアンケート調査を行ったものである。


表からわかるように、当然製品そのものに対する興味や製品のデモンストレーションおよびブランド認知度が高いポイントを占めているが、意外なのは、展示会の演出に重要な役割を持つと考えられる「展示デザイン」よりも「説明員の応対」の方が高いポイントを獲得していることである。これは今後展示会を運営していく中で非常に重要な課題になってくる。
従来、展示会には高いコストをかけて装飾を施し、どこよりも目立つように、またどこよりも格好良くデザインするのが広告マンとしてのプライドでもあった。その一方で、営業担当や技術者に対して、多忙な日常業務を割いて展示会の説明員として参加要請する後ろめたさもあった。


このデータを見る限り、展示会でのそれらの取り組みはまったく無意味であったことがわかる。もっともコストの掛かる展示ディスプレイに注力するのではなく、あくまでも製品とデモンストレーションが主役になるようなシンプルな装飾に止め、代わりに固定費として捉えられる説明員の応対の質を改善することが、展示会のROIを向上させる最大の近道なのである。
Face to Faceマーケティングや、人を集める重要性を述べた6項から8項までの内容とこれらを照らし合わせると、これからの展示会でいかに「製品」と「人」がその成否を握っているのか理解できる。


10.展示会のROI向上に寄与する説明員の条件

 

展示会を成功させる要因として、「説明員」の重要性が理解できたが、だからといって大勢の説明員をブース内に立たせるだけではかえって逆効果になる。よく目にするほとんどの説明員が待ちの姿勢で通路側を睨んでいる光景には尻込みしてしまう。そもそも自ら見込み客を招いたなら、待っているのではなく迎えに行かなくてはならない。来場者から話しかけられるのを待つような姿勢では、到底ホスピタリティは提供できないし、来場者の記憶にも残らない。


それではどのようなスキルが説明員に求められるのだろうか。まず来場者からの質問や課題に的確に答えられる技術的な知識を持っていること。話し上手であるが薄っぺらな知識しかない営業担当よりも、少々口べたでも自らの技術に誇りを持つ技術担当の方が説得力はある。
次に来場者の抱えている課題が十分に把握でき、場合によっては気付かれてない課題すら提示できるような当該分野での基本知識を備えていること。そして、課題に対して自信を持って明確なソリューションを提示できること。

ここまで行けばASICAモデルの「A:assignment課題」「S:solution解決策」「I:inspection検証」「C:consent同意/承認」のプロセスが満足できる。

展示会での説明を、単に製品説明という側面ではなく、来場者の持っている課題を引き出し、ともに考え、解決策を提示するという姿勢、つまり提案営業の心構えが展示会のROIを高める最大の要因なのである。そのため説明員には、単に自社の製品や技術だけでなく、顧客企業も含めた業界全体の動向を常に把握する能力が欠かせない。説明員と言うより、顧客企業のコンサルタンシーとして取り組む意気込みが求められる。

ASICAモデルからみた展示会の可能性(5/8)

7.ホスピタリティ・マーケティングから見た展示会


ASICAモデル提唱の際、BtoBビジネスの原点はホスピタリティにあると述べた。詳しくは「産業広告」の40周年記念号(2009年10月)をご覧いただきたいが、BtoBを構成する組織間の良好な関係性の維持にホスピタリティは不可欠である。では、展示会におけるホスピタリティとは何だろう。ホテルなどのサービス業界で通常用いられているこの概念は、客人をもてなすと言う意味があるため、米国の展示会でよく見られるギブアウェイ(景品)やブース内での飲食物の提供などと思われがちであるがそうではない。ホスピタリティの概念をもっとシンプルに「人に喜んでもらう」と理解すればわかりやすい。


自らが顧客側に立って考えればよく理解できるが、BtoB分野での顧客にとっての最大の喜びは、業務を遂行する上での難題(課題)の解決である。様々な課題を抱えた来場者が、展示会の場で課題解決できるのは最高のホスピタリティと言えるだろう。しかもWEBサイトなどビジュアルや音声だけに頼るのではなく、技術者と直に接して解決策を議論できるメディアは展示会以外には考えられない。だからこそ出展社側は、展示会で単に製品を並べるだけではなく、当然のことながら製品のデモを含めたスタッフ(技術者)から的確なソリューションを提供できる体制で臨まなければならない。


刺激反応型パラダイムの時代に流行っていた、コンパニオンにお仕着せのセリフを覚えさせて製品紹介するなどの手法は、現在の展示会では時代錯誤と言えるし、ホスピタリティの観点から見れば何の価値もない。くどいようではあるが、どんなにネットが普及しても技術者からFace to Faceでホスピタリティが提供できるのは、通常営業と展示会だけであり、営業効率から見れば展示会に勝る場はないと考えられる。
 

展示会におけるホスピタリティとは

8.セールス効率から見た展示会の価値


展示会を行動科学とマーケティングの両面から科学的にデータ解析する分野は、我が国では未成熟であるが、米国ではある程度研究されている。展示会におけるセールス効率についても詳細に研究されたデータがある。残念ながら原本は見あたらないが、過去に産業広告誌で紹介された石川忠弘氏の訳文をそのまま引用したい。


Business Marketing誌の記事から、「米国では、一回あたりの平均セールスコール費用は、292ドルかかり、取引成立までに平均3.7回のセールスコールを必要とする。したがって、成約取引一件あたり計1,080ドルかかる計算である。一方、展示会の場合、展示ブースへの入場者一人あたりのコストが185ドル、取引成立までの平均セールスコール回数が0.8回、一回あたりの平均セールスコール費用が292ドルだから234ドル、合わせて419ドルと、半分以下の費用で済んでいる。平均コール回数が一回未満なのは、取引がコールしないまま成立する場合があることを示唆している(産業広告vol.25 No.2)」


広大な国土をもつ米国でのセールスコールは確かにコストが掛かるだろうし、我が国ではまた違った解析結果になるのかも知れないが、少なくとも展示会でのセールス効率は通常営業のそれとくらべてはるかに高いことが見て取れる。また前述の記事紹介で重要な部分は、「取引がコールしないまま成立する場合があることを示唆している」のくだりである。つまり、様々な手段で得られた見込み客を、最終的に展示会というトレードの場で顧客に変えるビジネスモデルが米国では日常化していると考えられる。


その前提には、日頃から営業担当は見込み客のデータベースをしっかり把握し、効率の悪い客先訪問ではなく、展示会の場で取引を成立させると言ったビジネスモデルが必要になってくる。これはまさに「市」が営業効率を求めた結果として形成されたケースと同じと言える。
 

セールス効率からみた展示会の位置づけ

ASICAモデルからみた展示会の可能性(4/8)

6.人が集まるのか、人を集めるのか


昨年来我が国に限らず世界的に展示会の集客が低下してきている。もちろん不景気の影響が大きいと思うが、その原因は他にもある。

「この展示会は来場者数が少ないから出展しない」という声が当たり前のように聞こえてくるが、そこには集客は誰か(展示会主催者)がやってくれるはず、という甘えが隠れている。じつはこれが大きな勘違いであることに、多くの人は気付いていない。刺激反応型パラダイムの時代では、当然ながら刺激を求めてあちこちからわざわざ展示会に人はやってきた。しかしパラダイムが変化した今、交通費を払ってまでむやみに展示会に出かける人は少ないだろう。

展示会は、もはや黙っていては人は来てくれないものと認識すべきである。

経費削減の中、展示会に出展しなくても顧客訪問を中止する企業はない。それは課題を抱えた見込み客が存在するからで、その見込み客を展示会に誘うのがじつはマーケティング力なのである。どんなに頑張っても1日に訪問できる顧客数はせいぜい10件程度だろう。そんなに効率の悪い営業活動を行いながら、その何倍もの見込み客と接することができる展示会になぜ人を呼ばないのか。

自社が持っている膨大な見込み客にどれだけアプローチがかけられるか、それを出展企業すべてが行えるかによって展示会の価値が決まってくる。他社が集客した見込み客のおこぼれを期待するようでは、先が知れている。アプローチの仕方も案内状だけを送付して後はなしのつぶて、というのはほとんど効果がない。展示会直前には少なくとも電話やメールで顧客に来場を促すくらいの通常営業と同じ心遣いが必要である。

ちなみに筆者が以前行った自社の調査では、同じ展示会で案内状だけを送付した年と、開催直前に電話フォローした年とを比較してみると、電話フォローの年に25%の集客向上があった。

ここでもう一度展示会の原点である「市」の成り立ちについて振り返ってみよう。「市」が、物を探し歩く非効率の改善と物財交換のための効率的な「場」として成立し、そこで情報交換もなされたことを考えれば、顧客側からは、あちこちソリューションを探し回らなくてもそこに行けば様々な課題解決策が一堂に得られる場として展示会を捉えることができる。また出展企業側から見れば、あちこちに顧客訪問しなくても、そこに行けば見込み客が一堂に会している場として展示会の価値を認めることができる。つまり展示会構成企業がそれぞれに、見込み客への集客に最大限の努力を払うことは「市」の形成要因であった価値交換効率改善の最大の条件なのである。

ASICAモデルからみた展示会の可能性(3/8)

5.インターネット時代の展示会の役割と本来の価値(Face to Faceマーケティング)

インターネットの普及によって広報メディアとしての展示会は、ほとんど価値がなくなった。だからと言ってこれから展示会は発展しない、と考えるのはあまりにも早計である。とりわけ景気が低迷している時期には、展示会に参加しない理由に広報メディアとしての効果論をアリバイにする場合が多いが、そこでは展示会の本来持っている価値がほとんど議論されていない。
WEBサイトをいくら充実させても、そこで顧客と握手ができるのか?最先端のツイッターなどの手段を用いても、WEBサイト上で顧客の目を見ながら直接会話ができるのか?さらに顧客はWEBサイト上で実際に製品を手にとってその機能を確認できるのか?
様々な分野でネット至上論が展開されているが、唯一展示会だけはネットで代替できない機能を持っている。「接触メディア」としての機能である。Face to Faceマーケティングの一環として、顧客と直接面と向かって話せるメディアは展示会以外にない。もとより我々は五感を駆使して情報処理している。この五感がバランスよく機能して初めて正確な情報処理が可能になる。インターネットなど新しい技術が旧来のメディアを駆逐するような論調を目にするが、じつは五感を完備したメディアは旧来のリアルメディアである場合が多い。逆に言えば、インターネットメディアには視覚と聴覚の二感しか備えていない危うさがある。さらに旧来メディアのなかでもオーディエンスに対する広義の触覚を備えているメディアは展示会だけである。
この「接触メディア」機能が、展示会の本来の価値なのである。今後ますますネットの普及に伴って、やがて五感が満足できないネットに飽き足りた時、Face to Faceマーケティングの重要性が必ず見直される。ASICAモデルから見ても、Aから最後のAまですべてのプロセスをカバーできるメディアは展示会以外にない。インターネットの普及で代替できるのは展示会場で集めたカタログであり、展示会そのものではない。むしろ顧客との接触が最大の機能である展示会では、情報発信機能ではなく顧客とのコミュニケーション機能を重視した方が良い。 
そのコミュニケーションの核になるのが、ASICAモデルの課題(Assignment)探索であり、課題解決策(Solution)の提示である。一般に公開されている情報は展示会では必要ない。WEBサイトにも公開していない「顧客企業それぞれが持つこれからの課題と解決策」について顧客と議論できる場として展示会を運営すべきである。そのため、展示会には製品展示の場だけでなく、セミナーやワークショップなど双方向の仕掛けを導入しなければならない。つまり、五感をフル活用できる場として展示会を演出することが重要になってくる。
WEBの普及による展示会価値の変化

ASICAモデルからみた展示会の可能性(2/8)

3.マーケティングパラダイムの革新が展示会を変えた
 
消費行動プロセス「AIDMA」がローランド・ホールによって提唱されたのが1920年代であり、この一世紀近くにわたっては広告界やマーケティング界には新しい理論が満ちあふれ、それぞれが確固たる地位を築いた。そしてその根底にあった概念が、AIDMAモデルからもわかるように「刺激によるAttention」であった。これを後押ししたのが、物や便利さへの憧れであり、物に関する情報への切実な欲望であった。これらに対する刺激的なビジュアルやコピーが広告をいきいきとさせ、展示会でもことさら他社よりも目立つことが要求された。
刺激反応型パラダイムと称されたこのマーケティングの枠組みは、先進諸国では大量消費絶調の1990年代に最高潮に達した。我が国では○○博覧会と銘打ったイベントがあちこちで開催され、通常の展示会でも、主役であるはずの製品(物)はさておき、コンパニオンや映像を多用した派手な演出が目立っていた。やがて物が充足し、情報に飽き足りた社会は、もはや小手先の刺激には反応しなくなった。代わって物の価値表示(価格)と本来の価値との妥当性が問われ、その選別が慎重に行われるようになった。価値交換パラダイムへの変貌である。あわせて、物に充足した我々は物の活用や効用に対して新たな課題を持つようになる。飽食の時代を経て、食べることよりもダイエットや健康食品に課題の矛先が代わった現代のように。
しかし課題そのものと解決策の提示がマーケティングの新たな枠組みとして成り立ちつつある今でも、依然として広告や展示会で、従来のような刺激反応型のパラダイムに準拠した手法をとることが現在でも多く見られる。展示会は博覧会に代表される刺激反応型パラダイムから、課題解決のための価値交換型パラダイムへと変貌したことを念頭に置くべきである。
 
4.インターネットの普及が展示会の役割を変えた
 
マーケティングパラダイムの変化に呼応するかのように現れたインターネットによって、展示会の役割は大きく変わった。従来、展示会は情報収集の場として重要な役割を担っていた。新製品や新技術の調査と言う目的が展示会にはあったが、それ以上に我々が血眼になったのは、自社に関連する製品や技術のカタログ集めだった。各ブースで集めたカタログを、両手一杯にぶら下げて会場を後にする光景は当たり前で、展示会場では、持ちきれないカタログを発送する宅配便の受付があった。展示会は情報収集の名を借りたカタログ集めの場であったのだ。
それがインターネットによって一変する。1995年から翌年にかけて普及しだしたインターネットは、企業の情報発信機能を根底から変えた。さらに情報の受け手側であるオーディエンスもWEBサイトを訪問することによって主体的に情報収集することが可能になった。こうなれば情報収集の場としての展示会の機能はもはや意味をなさなくなってくる。高額なコストをかけてブースディスプレイを行った結果、得られた1件当たりのリード(引き合い)コストは、他の広告メディアの到達コストと比較すると圧倒的に不利なのは誰の目からも明らかであった。「これからはWEBが展示会の代わりになる」とか「これからはオンライン展示会だ」といった声が聞かれ、さらにはインターネット時代に展示会は不要とまで言われるようになってきた。
確かに広報機能としての展示会の役割はWEBサイトに代替されるが、そもそも展示会の機能がそれだけだったのだろうか。逆に考えれば、我々は刺激反応型パラダイムの中で、展示会の本来機能を忘れ、とにかく目立つことや誰でもいいから人を集め、ブースが賑わっていることが展示会の価値であるという勘違いをしていたのかもしれない。

ASICAモデルからみた展示会の可能性(1/8)

1.展示会の原点は「市」にあった

古代、人がまだ貨幣を持たず、物財のみの取引を行う場として生まれたのが「市(いち)」であった。これは物財交換を行うのに適当な場所として、交通の要所や寺院、神社の近辺に自然発生的に生じたものであり、ここで商取引の原型となる行為が行われていた。我が国では西暦210年に大和国(奈良県)で開かれた軽の市や、469年に河内国(大阪府)で開かれた餌香の市がよく知られている。この市の成立要件としては、まず人と物財が集まることにある。あちこちに物を探し歩くのではなく、そこに行けば様々な物があると言うように物財交換のための効率的な「場」として成立した。そこでは物財交換に合わせて情報交換もなされただろう。コミュニケーション手段がほとんどなく、どこに何があるのかさえもわからない情報が枯渇したなかで、この市の存在は商売の場としても情報メディアとしても価値があったと推測できる。そして等価交換が行われていた時代を経て西暦700年頃に貨幣が誕生した後は、物財を持たなくても商取引ができる場として市は劇的に進化していった。市がビジネスの場として市場(いちば)に、さらに現代に繋がる市場(しじょう/マーケット)へとその姿を変えていったのである。物財交換の効率性を求めて人が集まり、物が集まる。このことが現在の展示会のあり方を示唆しているし、展示会が見本市と言われる所以でもある。
展示会の原点

2.仮想市場としての展示会

市がさらに進化し都市が形成されるとますます経済は発展し、こんどは交換する物財そのものを効率的に製造する工業が誕生する。ここで生み出された工業製品は市場(マーケット)で交換され、さらに経済の発展に寄与することになるが、こんどは固定的なマーケットに限界が生じてくる。つまり、市の形成要因となった、「あちこちに売りに行く非効率」の是正である。市がこの是正のために物財を一箇所に集めたのと同様に、工業製品と人を一堂に集める仕組みが考えられた。その結果1756年には世界初の博覧会として「英国産業博覧会」が開催された。産業革命の足がかりとなる出来事だった。続いてナポレオンによってパリ工業博覧会が執り行われ、1851年にはイギリスで世界初の万国博覧会(ロンドン万国博)が開催されることとなる。このように地理的に固定化されたマーケットへのコミュニケーション効率の改善と、よりセグメントされた新たなマーケットを作り上げるために、仮想的なマーケット(市/市場)として博覧会は存在していたのだろう。これが、現在の展示会の原点である。つまり、展示会は仮想マーケットであり、物と人が集まるコミュニティとして成長した市の成り変わりと言える。
仮想マーケットである展示会(コミュニティ)では、ASICAモデルのトリガーであるA(Assignment/課題探求)が行われる。その結果はリアルなマーケットへのフィードバックを通じてさらに新しい技術や製品を誕生させる。そして経済の発展を促し、また新たな課題探求のために仮想マーケットが構築される、と言うようにリアルなマーケットと仮想マーケットがワンループとなってともに経済成長を促していった。博覧会や見本市は単に商取引の場としてだけでなく、課題探求とソリューション提示の場としても存在価値があったのである。
WEBの普及による展示会価値の変化

変革期におけるBtoB企業のコミュニケーション戦略と課題(4/4)マーケティングコミュニケーション

4.マーケティングコミュニケーション

セールスプロモーションの側面から見れば、マーケットの限定されたBtoB企業が、展示会やカタログなどのプロモーションにその多くのコストを費やすのは当然のことである。

ここで展示会でのコミュニケーションについて少し考えてみたい。BtoB企業の展示会はBtoC企業ほどではないが、相変わらず展示ブースのデザインに力点を置く場合が多い。展示会場の中でいかに目立つか、いかに人を呼び込めるかが重要な課題となっている以上それを否定はしないが、実は展示会において意外と知られていないのが「説明員の質」が来場者の記憶残留度にかなりの影響を与えていると言うことだ。

米国ののリサーチでは、来場者にとってもっとも記憶残留度の高い企業は、まず新製品の展示など製品に纏わるデモンストレーションが効果的であったかどうか。その次は説明員の対応が適切であったかどうか。3番目と4番目はブースデザインとプレゼンテーションが拮抗している。

意外にもオーディオビジュアルを使用したプレゼンテーションは記憶残留度にはあまり大きな効果は与えていないと言う結果が出ている。説明パネルに関してはほとんど影響を与えない最低点となっている。

これから分かるように展示会では製品のデモンストレーションと合わさって説明員がいかに来場者の問題解決に適切なサポートを行うか、が最大効果を発揮するポイントだと思える。展示会場はまさに顧客とBtoB企業とのコミュニケーションの場であるということなのだろう。

しかもエキジビットサーベイ社は展示会でのリード(引き合い)を元にした成約コストは、広告のそれとくらべて半分以下で達成できるとしている。マーケティングにおいて、展示会での説明員と顧客との充実したコミュニケーションはそのまま受注という対価に反映されるのである。その意味でも、展示会ではいかにして自社技術を熟知し、なおかつ適切なソリューションの提供と言うコンサルタント的な能力を備えた説明員を動員するか、が大きな課題と考える。

これと同じことがおそらくカタログにも言えるのではないか。とかく商品の特徴やセールスポイントを羅列してカタログとしての体裁を保とうとするが、今日ではもはや製品情報伝達メディアとしての機能はカタログでは薄れ、代わりに顧客の問題解決に対する明確な回答がその中に潜んでなければならない。こうして企画されたカタログは、展示会の説明員と同様にまたそれを駆使する優秀な営業担当によって、そのメディアとしての価値が増幅され、マーケティングコミュニケーションを完遂することができるのである。

2005年、ARF(米国広告調査財団)他はメディア評価に際し、従来の露出や到達率に替わって「エンゲージメント」を指標とする旨の提言を行った。このエンゲージメントは我が国では約束とか絆と解釈されているが、私は「共鳴」と理解している。つまり露出に意味があるのでなく、いかに社会やエンドユーザーの共鳴を得られるか、が今後の広告に課せられた命題なのである。さらにARFはエンゲージメントを得るためにコンテキスト(文脈)が重要であるとしている。

クロスメディアによってあらゆるステークホルダーへメッセージする場合、それぞれのメディアで展開されるコンテンツの意味的な関係性が大変重要であると言うことだろう。その意味でも前述のブランド、プロダクト、マーケティング(人)の織りなすコミュニケーションが、一貫した文脈をもってなされて初めて社会の共鳴を得ることが可能となり、共鳴によってそのメッセージの持つ力はますます強化され、成長していく。今、まさにコミュニケーションパラダイムの変革が始まったのである。

新BtoB社会における「検証」「承認」「行動」プロセス

9.検証はネットや友人の意見

「検証(inspection)」段階では展示会とネットの重要性が見逃せない。AIDMAでのDesire(欲求)に変わって、理性的に購買の根拠を判定する重要な段階であるが、BtoBではまずここでも展示会の有効性は変わらない。何しろ実機を前にしてFace to Face で検証をサポートでき、極めて高い説得力を与えることが可能だからだ。さらにWEBサイトの活用も不可欠になる。単に製品情報を掲載するだけでなく、他社製品と比較しての優位性や独自性などを詳細に述べなければならない。つまりBtoBであれBtoCであれ所謂「情報収集」が最大の力を発揮するのがこのプロセスであり、企業はこれに充分答えることが大切である。とりわけBtoCではこの段階は、友人を初めとした組織構成員の意見が重視される傾向がある。解りやすく言えば家族という組織であれば、子供や母親の意見などがそれにあたる。したがって前述のように顧客がどんな組織に属しているかを把握しておくのはこの段階でも不可欠な要因となる。

10.承認は友人からの同意---流行は社会からの同意


「承認(consent)」段階は、BtoBでは非常に解りやすい。企業には多くの承認者が存在し、それぞれに対してあらゆるメディアを駆使して当該製品の優位性を訴えなければならないが、あまりこの段階に注力してプロモーションをかけている企業は多くない。たとえば管理職(承認者)向けのドキュメントや窓口担当者が承認会議などでプレゼンしやすいようなパワーポイントファイルをあらかじめ手渡しておくと言った心遣いはここで重要となる。これもホスピタリティの一環である。BtoC分野ではConsentを同意と訳した方が解りやすい。つまり購買者が属している組織からの同意が最終購買に大きな影響を与えると言うことである。所謂大ヒット商品とか流行と言われるものは、言わば最大の組織である社会からの同意、と考えられる。 したがってBtoCでは個の欲求を満たすのではなく、個が属しているであろう組織の同意が得やすいコンセプトづくりが必要になる。そのためにもあらかじめ組織の把握と課題解析は欠かせない。 なお、最近話題になっている「レピュテーション」は評判や評価と定義されているが、むしろこれは顧客や社会からの「継続的な承認」だと言えるだろう。

11.Actionが次のスタート


最終段階の「行動(Action)」が次のビジネスに繋がることは言うまでもないが、この段階を各企業とももっと有機的に活用すべきである。顧客名簿の整備などといった静的なものではなく、いったん掴んだ顧客を離さない仕組みが望まれる。BtoBで今後大きな注目を集めるのがビジネスSNSだと考える。セキュリティの課題などがあるにせよ、顧客を巻き込んで最終的に自社のSFA(セールス・フォース・オートメーション)とも連携できるようなSNSが構築できれば、鬼に金棒であろう。ここでASICAのほとんどが達成できるし、なによりも検索ロボットにヒットしないから競合企業にその実態を探られることもない。競合企業から見れば、こんなに恐ろしいメディアは無いとも言えるだろう。 BtoCでは使用者の意見や感想が別の個の購買動機に繋がりやすいが、価格COMを初めとしたユーザー参加型のWEBサイトをどのようにコントロールできるか、がこの段階での重要なタスクになる。

12.おわりに

ASICAモデルは購買にいたる「課題」「解決」「検証」「承認」「行動」の各プロセスそれぞれにおいて、適切なプロモーションが必要であることを示唆している。所謂「クロスメディア」はメディアオリエンテッドな考え方であるが、むしろASICAの各プロセスを隙間無く埋めるメディア戦略と言う捉え方もできる。 最後に、従来のBtoC分野がBtoBになり変わりつつあるとの仮説を元にASICAを論じたが、それほど現在の社会は複雑化している。組織という言い方が正しいかどうかは別にして、我々自身が現在多様なグループにしかも無意識に属している可能性は、今後のマーケティングに重要な課題を提供するはずである。その意味では広告業界でも従来のマーケティング分野や経済学分野だけでなく、社会心理学や認知工学からのアプローチが欠かせない時期に来ていると思われる。場合によれば、過去のマーケティング理論や広告理論が全否定される可能性すらある。また今までここで述べてきたことは、すべて数字に置き換えることのできない観念的な要素ばかりである。しかしもしかして我々は、今まで数字で表現できない要素をあえて避けてきたのではないだろうか。もしくは数字に翻弄されてきたのかも知れない。これからはむしろ数字で把握できない分野にこそ、キラリと光る研究課題があるような気がする。

新組織の課題探索と、ホスピタリティーマーケティング

7.組織の把握と専門性を持った課題探索

このように社会がBtoBに方向転換しつつあるとしたら、我々広告人は何をすればよいのか。BtoB業界では従来から企業間取引の一環として相手企業の特性をある程度把握するスキルは持ち合わせているが、一歩進んで相手企業の風土やトップの性格なども解析する必要性がでてくる。ル・ボンが「個人はその意識的個性を失うと、それを失わせた実験者のあらゆる暗示にしたがって、その性格や習慣にまったく反する行為をも行うような状態におかれることがある」と言っている。ここで言う実験者とは組織のリーダーのことであり、トップが変われば企業風土が大きく変わる可能性は十分にあるからだ。さらに同じ企業であっても、ターゲットとなる窓口担当者が企業内に形成されているどんな組織に属しているかも見極める必要がある。そのほか購買センターや最終決裁者然りである。 また「課題」は「ニーズ」とは異なり、現時点での顧客が抱える課題だけでなく、将来にわたって顧客が対面するであろう課題の予測も含む。そのためには顧客企業と同等以上の専門性が不可欠で、顧客企業のコンサルタンシーという位置づけがこれからのBtoB企業には要求される。 BtoC業界ではまず社会にどのような組織が存在し、その組織にはどんなパラダイムが支配的なのか、を見極めなければならない。従来からよく言われている世代や趣味と言った単純なくくりではなく、隠された組織形成要因を見つけ出すことが重要になってくる。以前は限られた情報によって比較的世論誘導は容易であったことから、組織の把握もそんなに困難ではなかった。しかし現在、無尽蔵に発せられる情報によって、形成される組織もそのパラダイムも極めて複雑化しつつあり、それを理解するのは非常に難しい。そんな中で組織ごとにどのような課題を持っているのかを把握することは、広告と言うよりマーケティング活動のもっとも初歩的な段階であると思われ、今後各企業ともこのための体制を整える必要性に迫られるだろう。

8.ソリューションの源はホスピタリティ

さてASICAの第二段階のプロセスである「解決(solution)」においては、前述の八百屋の御用聞きで取り上げたように、組織の維持に欠かせないポイントとしてホスピタリティがある。簡単に言えば、いかに相手に喜んでもらえるかと言うことである。広告の世界ではとかく企業の独りよがりのメッセージを提供しがちであるが、本来は相手が抱えている(であろう)課題に対して、的確な解決策を提示することが必要であり、その根底にあるのがホスピタリティだと言うことを忘れてはならない。相手を重んずるホスピタリティを徹底すれば、意外とソリューションは簡単に見つかるものであるが、自社ありきのスタンスではなかなかうまくいかないものである。 ソリューションを提供するメディアとしてはWEBサイトが有効だが、なにぶんアクセスさせるための仕掛けが心許ない。なんと言ってもこの場面は展示会しかないだろう。Face to Faceマーケティングが今後注目されると思うが、まさに展示会はソリューション提示の貴重なメディアである。現在不況の影響で展示会は総崩れであるが、これは展示会を広告と同列に情報提供の場として捉えているからであり、課題解決の場としてみればこれから間違いなく発展していくメディアである。展示会では製品を並べるだけでなく、課題解決を前提としたFace to Faceマーケティングの場、あるいはホスピタリティの場として活用すべきである。

仮説を実証するギュスターヴ・ル・ボンの「群衆心理」

5.集団精神と個の消滅

そしてこの仮説は、20世紀初頭に活躍したフランスの社会心理学者であるギュスターヴ・ル・ボンの古典的な著書「群衆心理(櫻井成夫訳)」に多くのヒントを見出せる。 ル・ボンはこの著書の中で次のように述べている。 「心理的群衆の示すもっとも際だった事実は、次のようなことである。すなわち、それを構成する個人の如何を問わず、その生活様式、職業、性格あるいは知力の類似や相違を問わず、単にその個人が群衆になり変わったという事実だけで、その個人に一種の集団精神が与えられるようになる」 このことから、ネットワークで繋がった組織は、それを構成する個人の如何を問わずそれぞれに集団的精神が生まれてくる、と考えられる。 そして、「群衆中の個人が単独の個人とどんなに相違するかは、容易に認められる。……集団的精神の中に入り込めば、人々の知能、したがって彼らの個性は消え失せる。無意識的性質が支配的になるのである。……我々の意識的行為は、無意識の基盤から起こるのである」とも言っている。 つまり、ある集団に属することによって、無意識のうちに本来の個人ではなくまったく別の人としての意識的行為をなす、と言うのである。これは言い替えれば組織自体が特有の意識を持ったとも考えられる。 企業人が彼らの個性は消え失せて、○○会社タイプと言った特定の企業ごとに何となく似たような人の集まりであることを実感する場面は少なくないが、ル・ボンのこの主張を見ればなるほど頷けるし、所謂お役所的と揶揄される人々もこの類だろう。 またグローバルな事業展開を行う場合も、ル・ボンはあるヒントを与えてくれている。「ある種族に属するすべての個人が互いに似通っているのは、とりわけこの種族の精神を構成する無意識的要素による」と言う記述は、グローバルマーケティングでの種族研究の必要性を示唆していると思える。しかしここで厄介なのは、我が国と同じようにメディアの多様化が各国で促進された場合、一義的には種族や国という組織に属しながら、複数の別の組織にも属するということになり、グローバルマーケティングでも種族以外にさらに複雑な組織の存在を念頭に置く必要がある。

6.メディアの進化が仮想集団を形作る


携帯電話など線としてのネットワークを介した繋がりは、組織形成の側面から見ればある意味非常に解りやすいが、線ネットワーク以外の組織形成要因も見逃せない。ル・ボンの論述は、現在のようなネットワークが存在しない時代のフランス革命で起こった群衆の行動を基盤にしているが、これとは逆のケースも考えられる。たとえばまったく見ず知らずの人であったとしても、同じ嗜好や同じ境遇にいる人たち、同じ価値観を持っている人たちが「無意識」に集団を形作っているとも考えられる。線で繋がれたものではなく点として存在し、心理的もしくは無意識的に繋がれたネットワークである。そしてそれに拍車を掛けているのがWEBサイトを筆頭とした多様なメディアの存在である。 こうしてみると現代社会ではいたるところで自然発生的に複雑な組織が形成され、しかも個人は無意識に複数の組織に属している可能性がある。そしてここでは「個」の特性は失われ、組織独特の新たなパラダイムが支配的になっていると思われる。もしこの仮説が正しいとしたら、もはや「個」をターゲットとしたBtoCコミュニケーションはほとんど機能しないと言っても過言ではないだろう。

BtoC社会の崩壊と、心理的BtoB社会の形成

3.米国からもたらされたBtoC社会

ではなぜこの社会システムが崩壊したのか。1950年代半ばからテレビドラマを軸に怒濤のようにあふれ出したアメリカ文化が、組織に埋没していた「個」の概念を目覚めさせた。この頃から自由主義とか個人主義などが幅をきかせだした。そして我が国の社会全体が、雪崩のように個人尊重へと向かっていった。そして集合の最小単位であった家族は、その組織の維持よりもそれを構成する個人の価値観や夢を重視する傾向が強くなり、徐々に組織としての家族は崩壊した。一時期社会現象となった核家族化はその過渡期でもあった。 1960年代に入り様々なメディアが一気に氾濫し始め、「個の欲」をターゲットとしたプロモーションが花盛りとなった。BtoC広告の全盛期である。この状況はバブル崩壊とともに一時後退したかに見えたが、1995年頃に始まったインターネットと携帯電話によって、所謂One to Oneと言う新たなコミュニケーションスタイルの出現を見るにいたってその頂点を形成したかに思えた。しかし実はこの時期からマーケットでは奇妙な現象が現れだした。BtoC広告に対する反応が鈍くなってきたのである。これについて価値観やニーズの多様化とか若年層のメディア離れなど、様々な理由が取りざたされた。そして未だに明確な結論が得られないまま、昨今の不況と相まって現在の広告業界は悲壮感に包まれている。

 4.仮説---無意識の組織形成とBtoC

この不可解な現象に対して、一つの仮説を提示したい。それは我が国の社会は、もうすでに新たなBtoB社会へと進化し始めたのではないか、と言うものである。メディアの強烈な発展やとりわけ若年層の行動様式を見る限り、一見ますます「個」を重視したBtoC社会が進展しつつあるように思えるが、実はここに大きな罠が潜んでいる気がするのである。確かにメディアやネットワークは過去に例を見ないほど発展した。しかしこのことが「個」の希薄化とともに新たな組織を作り出す要因になっているのではないか。言い替えればあまりにも進化したメディアそのものに、何らかの特性を持った「個」同士を結びつける作用が生まれたのでは、と考えるのである。たとえば若年層の携帯メールの使用率を見れば、それぞれの「個」がある種特定のネットワークを築いていることに気付く。1950年代の毎朝顔を合わして挨拶を交わすネットワークではなく、ただ単に文字メールのみで繋がる見えないネットワーク(組織)である。そして頻繁なメールのやりとりが、この組織を維持していくのに欠かせない。これは数十年前に見られた家族を最小単位として近接した単位同士の集合による整然とした組織構成ではなく、組木細工のように社会の中であちこちに入り組んだ複雑な組織形態であり、しかもどちらかと言えば心理的な組織と言えるだろう。

欲望社会から課題社会へ(ASICA理論の新たな展開)

すでに紹介したように「課題」「解決」「検証」「承認」「行動」のプロセスをもつASICAモデルは、AIDMAのような消費者の購買心理ではなく、購買動機をモデル化したものである。AIDMAでは言うまでもなく消費者個人の購買にいたる心理を解き明かしているが、現在の社会において、この心理は果たして商品やサービスの購買に際して有効に作用しているのだろうか。確かにAIDMAにおけるAttentionやInterestは広告企画で最も重要視すべき課題かも知れない。しかし現在のようなメディアの発展による情報過密状態で、もはや流通情報量が消費情報量を大きく上回る状況、つまり情報の消化不良を来している現状では、いくらAttentionやInterestを重視してもそれにヒットする確率は極めて少ない。さらに問題なのは、我々はこの情報氾濫の中で、すでにAttentionやInterestと言った心の動きそのものがマヒ状態であるとも言えることである。 1950年代から延々と続いた消費文化は、物財や情報を多く取り込んだ結果として、今度はこれらとともに暮らす新たな課題を生み出した。たとえば、食に対する欲望から飽食の時代へと移り変わり、現在では美味しいものを食べたいという欲望よりもいかに健康を保てる食材を求めるか、と言う課題に。また、ネットワークの普及によって、より多くの人たちとコミュニケーションしたいという欲望から、ひとたび築いた自己のネットワークをいかにして維持していくか、と言う切実な課題が生まれてきた。現代は欲望社会から課題社会に変化し、今、一人一人がそれぞれに何らかの課題を背負いながら暮らしているのだと考えられる。したがって広告やマーケティングにおいて今後重要なポイントは、今までのようないたずらに購買心理を煽り立てるのではなく、これらの課題をいかに効率よく発掘し、それを共有し、新たなソリューションを提示するかと言うことが購買動機に繋がってくると考えるべきである。ASICAモデルの第一段階である「課題(assignment)」はこのような観点から取り上げた。
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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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