BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ(51)
《質問》
現在弊社ではWEBサイトの拡充に力点を置き、製品カタログはあまり重視していません。しかしある企業のマーケティング担当者から、製品カタログにはWEBサイトにはない有力なポテンシャルがあると伺いました。あまり詳しく聞いていなかったのでよく理解できていませんが、製品カタログはもはやWEBサイトに置き換わってメディアとしての価値はないと思っていたので、少し気になっています。現実的にネット全盛の現在、印刷物としての製品カタログにどれだけの価値があるのか、また本当に売上に寄与できるだけのポテンシャルを持っているのかご教授いただければ幸いです。(自動車部品メーカー・販売促進部)
《回答》
まずお話のポイントを整理しますと、製品カタログが売上に寄与できる価値を持っているのか、ということとネットが普及している今、印刷物としての製品カタログにメディア価値があるのか、と言う二項目ですね。
ここで一つ明確にしておく必要があります。製品カタログはメディアではないと言うことです。製品カタログは言うまでもなく対面営業で使用される「営業ツール」です。営業ツールには営業担当が自ら作成する資料もありますし、商談に深みを持たせるために納入事例の写真や映像、さらには製品開発過程の映像など幅広く存在し、製品カタログはその一つに過ぎないと言うことです。言い換えれば、営業担当が商談をスムーズに進行させ最終的に受注に結びつけるための補助ツールなのです。
一方で最近は多くの企業がWEBサイトに注力し印刷物としての製品カタログを軽視している現実があります。これはWEBサイトで製品カタログの代替ができるという誤解から来ています。WEBサイトは商談の場ではありませんので製品カタログの内容をそのまま掲載したところで製品カタログの機能(商談サポートなど)は持ちません。単なる製品説明コンテンツと言うだけのことです。
製品カタログが商談のツールであると言うことから、ここで少し横道にそれますが重要なお話しをしたいと思います。
すでに本項でBtoB購買プロセスとしてASICAモデルの説明を幾度となく行っています。まず課題提供から始まり、ソリューションの提示、検証、同意(決裁)そして購買という流れを持つそれぞれのコンタクトポイントで、じつは製品カタログは大きな役割を演じ、結果として受注に寄与する重大なポテンシャルを持ちます。もちろん商談に際しては営業担当の商談スキルが受注に影響を与えますが、それを補う役割もまた製品カタログにはあると思われます。
通常は顧客企業の担当窓口との商談に際し、課題提示やソリューションの紹介などが製品カタログの重要なコンテンツになります。しかしASICAモデルの最も重要なプロセスである同意(決裁)段階に最適化された製品カタログはほとんど目にしません。ここでは商談している製品を顧客が導入することによってどれほどの生産性の向上や利益改善ができるのかを丁寧に述べなければなりません。
つまり顧客企業で製品が受注される場合は、当該企業の稟議システムに則って製品カタログが様々な部門に回付されていくことを念頭に置く必要があるのです。もっと緻密に対応するならASICAモデルの各プロセスごとに最適なコンテンツを持つ製品カタログが必要になってくると思われます。
話を元に戻して先に多くの企業がWEBサイトに注力し印刷物の製品カタログが軽視されていると述べました。ここにも大きな誤解や決定的な勘違いがあることはあまり知られていません。WEBサイトをPCで見るかスマホで見るかに関わらず、これらで閲覧できるコンテンツはすべて透過光(LED)によって画面に現れたものです。そこで透過光による画像や映像と反射光(印刷物)によるそれとが脳にどのような影響を与えるのか、を検証した論文があります。
結果としては、透過光によるものでは脳はくつろぎモードになり細かな部分にまで注意が及ばない一方、反射光では脳は分析モードになりコンテンツの内容を詳細に注視することが証明されています。このことからWEBサイトでの製品情報は思ったより詳細に閲覧されておらず結果的に記憶に残らないと考えられます。WEBに熱心な企業は気をつけたいポイントですね。
それに対して反射光である印刷物の製品カタログはまさに対面営業に最適なツールであり、商談スキルによっては顧客への説得力は強力で結果的に受注に直結できる可能性が高くなります。
そしてもう一つ対面営業における製品カタログの隠れた潜在能力をお話ししたいと思います。前述のように製品カタログはASICAモデルに則って課題提示から入りソリューションの紹介へ記載され、それにしたがってと商談が進められます。そして優れた営業担当はカタログのどの場面を説明していたとき、顧客はどのような反応を見せたのか、を素振りや顔色をうかがいながらチェックします。
極端な場合、当該製品カタログに掲載されている製品には全く興味がなくても、どのようにその製品を改善するかあるいは別の製品の方が顧客の要求に合致いているのかを探り出しています。そのためにも製品カタログには綿密な課題提示やソリューションの紹介が不可欠になってくるのです。もちろんこうして得られた顧客の隠された課題は、即座に自社の製品開発部門にフィードバックしなければなりません。
この商談の状況はまさに営業担当が行うマーケティングリサーチと言えます。つまり、営業担当は製品を販売するだけでなく、製品の改善点や新製品開発のリサーチに重要なデータを収集する重責があるのです。そしてそのリサーチを効率よく進められるようなコンテンツ構成が製品カタログには求められるのです。
マーケティングに躍起になっている現在、各社ともデジタルなど様々な手法を用いてマーケティングリサーチを行っています。しかしそのほとんどは残念ながら失敗し、新製品開発や売上に寄与できていないのが現状です。これは対面で顧客の潜在的な心情をリサーチすることよりも安易にデジタルでデータを求めることを重視した結果とも考えられます。
このように顧客を一番理解している営業担当が行うリサーチが最も信頼性が高く、その一助をじつは製品カタログが担っているのです。
さて、過去にASICAモデルのお話しをした際、企業はそれぞれ異なった風土を持っている、と述べました。これは製品購買における意志決定のシステムも同様です。このことから可能であれば顧客企業ごとに異なったコンテンツを掲載した製品カタログがそろそろ必要になってきていると思います。マーケティングリサーチ機能の一部を製品カタログに求めるのであればなおさらコンテンツ構成は慎重に行わなければなりません。
言わば製品カタログの分野でも「マス・カスタマイゼーション」の波がやってくると予感できます。幸いにも現在はDTPは当たり前になり、オンデマンド印刷によって少部数でも低コストで印刷が可能になってきましたのでぜひ顧客に特化した製品カタログで売上の増加を目指していただきたいと考えています。
結論は、印刷物である製品カタログには他メディア以上に売上向上や新製品開発に寄与できる潜在的な価値があると言うことです。