河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

ホスピタリティ

ASICAモデルについての質問

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉗

《質問》
 

私は現在印刷業界で日々クライアントと接し、広告やカタログの企画制作のお手伝いをしています。最近複数のクライアントから「ASICAモデルって知ってる?」と言う質問が多く、調べてみると日本BtoB広告協会から提唱されている理論だと知りました。クライアントの話では最近はASICAモデルに則った広告制作やカタログ制作が有効だと言うことが徐々に知れ渡っているようで、「貴方ももっと勉強しなさい」と言われてしまいました。大変恐縮ですがこの欄をお借りしてASICAモデルについてご教授いただければ大変有り難いと思っています。(印刷会社・クリエイティブ営業部)
 

《回答》
 

ASICAモデルはBtoB購買のプロセスモデルとして理論化したもので、既に2008年に当協会の機関誌で発表しています。詳しくはその頃の機関誌をご覧いただくか、拙著「ASICAれ!」(2012年刊、日刊工業新聞)をお読みいただければほとんど理解できると思います。しかし200ページもの書物を読むのも面倒でしょうから、ここではASICAモデルの主要部分について、かいつまんでお話しさせていただきます。
 

確かにASICAモデルはおかげさまで最近各企業に認知され、広告制作などに生かされつつありますし、とりわけBtoB業界では非常に有効なプロモーションプロセスだと思っています。またここに来てBtoC業界でもその有効性が認められようとしています。
 

ASICAモデルの最大のポイントは、「ホスピタリティ・マーケティング」を基盤にしたプロセスモデルであることです。ここで言うホスピタリティとは、最近流行っている「おもてなし」と言う意味ではなく、顧客や社会が抱えている課題を解決し、最終的に喜んでいただく、と言う意味です。したがって顧客に媚びたり顧客の言いなりになって商品販売やプロモーションを行う事ではない、と言うことをまず念頭に置いておく必要があります。
 

ASICAモデルは、A(アサインメント=課題)、S(ソリューション=課題解決)、I(インスペクション=検証)、C(コンセント=承認)、A(アクション=購買)の各プロセスを経てビジネスが完結することを意味しています。したがってビジネスのトリガーになるのはアサインメント(課題)なのです。

従来から広告分野では誰もが知っているAIDMA理論がありますが、この理論ではトリガーはA(アテンション=注目)になっています。なぜ注目を無視して課題がトリガーになるのかというと、現在のように驚異的に氾濫している情報の中ではもう既に「注目」という機会は期待できません。情報氾濫期ではすべての情報はノイズと衣を替え、オーディエンスにとって有益な情報はごく僅かしかないと言えます。それに替わって社会や生活がますます複雑化するに伴い、あらゆる場面で「課題」が生じてきています。
 

ここでニーズと課題の違いをお話ししたいと思います。従来からとりわけ広告分野や商品開発において、ニーズの先取りとかニーズにあった広告企画が求められてきました。ところが最近のように技術開発のスピードが速くなるにつれ、今のニーズは早晩解決されてしまいます。広告企画ではおよそ26カ月の期間を要し、商品開発ともなれば半年〜2年の期間が必要ですが、ニーズを追いかけると広告が完成した頃、商品が完成した頃には既にめざしていたニースは満たされてしまっているという現象が多々見られます。マーケティングリサーチによる広告や商品企画はこのニーズを分析して行いますが、その結果せっかく作った商品が売れないとか、広告が効かないと言う結果に陥っているのです。
 

一方で課題は場合によると顧客や社会ですら認識していない隠れた問題とも言えます。このやがて芽を出す地下に潜っている課題を掘り出して顧客や社会に提示することが広告企画の場面でも重要なのです。ニーズを満たされても今の時代ではほとんどの人はそんなに喜びません。時代の趨勢から当たり前だからなのです。ところが自分が知らなかった課題を提示され、その解決策を露わにすることで顧客や社会に強烈に印象づけることが可能になります。とりわけ相手が企業では「よくそこまで考えてくれた」と感謝され、それが信頼へと繋がっていくのです。
 

このようにASICAモデルのトリガーはまず課題探索から始まりますし、そのためには顧客企業はもちろんあらゆる分野の現状理解とそこから将来表面化すると思われる課題を把握することが非常に重要と言えます。つまり広告分野でも商品開発分野でも、現状のニーズの調査ではなく将来の課題探索が重要だと言えます。

課題さえ明確にできればどのようなメッセージでそれを理解させるか、と言うプロセスに移りますが、それ以降はメディアの選択とASICAモデルの各プロセスに合致したコンテンツを準備すればそんなに難しい事ではありません。
 

課題の次のソリューションは、自社の技術や製品でどのような課題解決が可能なのかを述べることになりますが、このメッセージは課題の提示と一体化した方が分かりやすいでしょう。ここでは新聞広告やWEBサイトが威力を発揮します。
 

インスペクション段階ではまさにWEBサイトが重要なメディアになります。提示されたソリューションが自社に合致するかどうかを競合企業などと比較検討するわけですから、WEBサイトが最も手っ取り早いと言えます。その意味ではWEBサイトにはあらゆる情報を搭載しておくことが不可欠です。とかくWEBサイトのコンテンツ企画の際、軸足を自社に起きがちですが、重要なのは自社を社外から客観的に眺めて競合企業に勝てるコンテンツづくりを行う事です。
 

コンセント段階はじつは課題に次いで重要なプロセスとなります。何しろここで承認されなければいくら優れたソリューションを提示して顧客に納得させても、最終的には他決の恐れがあるからです。承認決裁者向けのメディアは特に存在しませんが、ここではブランディング広告などで決裁者の潜在意識に植え付ける手法が有効です。また我が国ではあまり見かけませんが、社長向けのカタログなども効果的です。さらに現在どの企業も経理部門が力を持っています。企業成長を考えるとあまりよい傾向ではないのですが、時代の趨勢と見れば致し方ないことでもあります。それならば経理部門向けのカタログを企画しても面白いと思います。カタログは本来商品の特異性や優位性などを述べますが、経理部門にとってそんなことはどうでもいいのです。当該商品を導入することで顧客企業にどれだけの利益がもたらされるのか、を数式などを駆使して丁寧に述べることができれば最高です。
 

こうしてコンセントが上手く達成できれば晴れて購買(アクション)に繋がってくるのですが、ここで重要なメディアを忘れてはなりません。展示会です。本来展示会はPRの場ではなく受注の場なのですが、なぜか展示会に決裁者や検証者の来場を促す企業が皆無なのが不思議です。展示会はASICAモデルのすべてのプロセスに対応できますし、とりわけ実機を前にして検証作業や決裁の動機付けには他のメディアにはない力を持っています。展示会の有効性をASICAモデルからも再認識すべきでは、と考えています。

 

インターナルマーケティングについてのご相談

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑦
 

《質問》

現在トップダウンでインターナルマーケティングに取り組むよう指示が来ました。どうやら弊社の社長がどこかの講演会で感激したらしく、我が社にもそのまま導入したいことがその理由のようです。プロジェクトには外部のコンサルタントが主導するように聞いていますが、正直なところインターナルマーケティングがどのようなもので、どんな効果があるのかよく分かりません。我が社ではお恥ずかしいですが巷で評判になっている新しい考えや仕組みづくり(特にカタカナ用語が多いです)に即座に反応して社内に大号令が発せられるのですが、未だにそれといった効果があるようには思えません。このインターナルマーケティングがどのようなものかご教示いただくようお願いします。(建材メーカー人事部)

 

《回答》

御社の事情はよく理解できます。最近マーケティングやブランディング分野に於いても新しい仕組みがどんどん提示され、それをいち早く導入しなければ、という焦燥感に惑わされている企業が少なくありません。

まず結論を申し上げますと、インターナルマーケティングはとりわけBtoBビジネスを展開する上で予想以上の効果を生むことが可能です。しかしそれにはプロジェクトの完全性が要求されますし、中途半端な活動ではかえって企業効率の低下をもたらしますので注意が必要です。

インターナルマーケティングに取り組む上での課題や取り組み体制についてお話しする前に、まずインターナルマーケティングそのものについて説明しておきます。

インターナルマーケティングはその言葉通り、社内の各部署を顧客と見なして接するコミュニケーション活動の一環として捉えられます。その結果がマーケティングに寄与すると考えて良いかと思います。

 たとえば貴方は人事部に所属されていますが、その隣にはおそらく総務部や企画室などがあると思います。それらの部署を社内の同僚や一員としてみるのでなく、顧客として接するのです。ここでは社内の仲間同士によるいいかげんなコミュニケーションや仕事は許されず、顧客に対するそれと同様に真剣勝負が要求されます。このように書くとなんだか堅苦しくてむしろ社内の人間関係そのものがぎくしゃくするように思えますが、そんなに難しく考える必要はありません。

拙著「ASICAれ!」に詳しく述べておりますが、顧客に対して最も重要な接し方は「いかに顧客に喜んでいただけるか」というホスピタリティが原点になります。この考えをそのまま社内に持ち込むわけです。貴方の隣の部署がどのようにすれば喜んでもらえるのか、それを考えながら通常業務を行っていくことが前提になります。もっと簡単に言えば、隣の部署が仕事をしやすいように、あるいは成果を上げやすいように関連情報や資料を提供したり、場合によれば作業の手助けをすることになります。

重要なのは単なる活動ではなくあくまでも企業の活性化と業績によい結果をもたらすことですので、「相手部署の成果が上がる」ことを目的にサポートしていくわけです。「自部署ではなく他部署の成果を上げる」ことがキーポイントになります。

このように自分のまわりの部署にいかに喜んでもらえるかを念頭において仕事を進めることで、お互いのコミュニケーション効率は格段に向上しますし、なんと言っても社内に活気が出てきます。そして相手に喜んでもらえるように仕事をすれば、今度は相手がこちらを喜ばせるようにさまざまな協力をしてくれるようになってきます。所謂互恵精神が自然に定着してくるようになり、それが社内風土にまで昇華する可能性もあります。

前段でインターナルマーケティング活動には完全性が要求されると言いましたが、それについてお話しします。これは大変重要なことです。

まず企業には多くの部署がありますが、中心には言うまでもなく社長が存在し、その外側には社長室や財務部があります。企業によってその解釈は違うかも知れませんが、一般的にはその後人事部や総務部が位置し、それに続いて開発部や製造部、そして広報部や宣伝部があり最後にもっとも企業の外側に営業部やサービス部が存在すると思われます。

 つまり、社会やマーケット、顧客に最も近いところに位置する部門は営業部やサービス部なのです。この流れ、要するに社会やマーケット、顧客に近い部署から中心に位置する社長までの組織フローをまず明確にすることがインターナルマーケティングを行う出発点になります。

そして重要なポイントは、前述した「喜んでもらう」つまりホスピタリティを提供するのは必ず自部署よりも外側(社会やマーケットに近い)の部門に対して行うことです。たとえば仮に前述のような組織フローであれば、人事部や総務部はその外側にある開発部や製造部、広報部、宣伝部、営業部、サービス部に対してホスピタリティを提供することになります。

 簡単に言えば内側の自部署よりも外側の部門がいかに仕事をやりやすくできるかの手助けをすると言うことです。こうして考えてみると組織の中心(もっとも内側)に存在する社長は、言うまでもなくすべての部門にホスピタリティを提供することになりますが、じつはこれが企業運営で最も重要な要素なのですが、意外とこれを重視している企業はそんなに多くはありません。

このように進めていけば最終的には顧客に最も近い場所にいる営業やサービス部門は全社からホスピタリティを受けることになり、そして営業やサービス部はその外側、つまり社会やマーケット、顧客にホスピタリティを提供する理想的な企業体制が完成するわけです。

このホスピタリティフローをよく見れば経営トップから最終ターゲットである社会や顧客にホスピタリティの「風」を送るという意味で「高気圧型ホスピタリティ」と言えます。しかし一方で現在多くの企業は逆の流れになっていないでしょうか? 社長はともかく財務部が最近は大きな力を持ち、各部署は予算獲得などで財務部に頭を下げて回ったり、顧客はそっちのけで社長や役員の意見に右往左往させられる光景はまさにインターナルマーケティングには無縁のフローなのです。私はこれを上層部に向かってホスピタリティの「風」を送る「低気圧型ホスピタリティ」と言っていますが、こうなれば企業は間違いなく凋落の一途を辿ります。

よく「内向きの社風」だとか「外向きの社風」などといった言葉を耳にしますが、それは上述したホスピタリティフローのことを言っているのです。

高気圧型のインターナルマーケティングは企業を発展させますが、低気圧型のそれは企業活動を硬直化することを充分念頭において取り組まれた方が良いと思います。

最後に、一言。外部コンサルを使って活動をはじめると言うことですが、インターナルマーケティングは社内だけで十分対応できる活動です。

宣伝力変革の時代 (5/5)

⑤インターナル・マーケティング。

高気圧型で広告の変革を。

組織間のホスピタリティを実感できる身近な方法がある。「インターナル・マーケティング」は社内の様々な部署を顧客と見なして対応する活動だが、ここにホスピタリティの概念を持ち込むのだ。「相手に喜んでもらう」ことを前提に全ての業務に取り組むが、重要なポイントは喜んでもらう相手部署は必ず自部署よりも外側、つまり顧客や社会に近い部署であることだ。

最も外側に位置するのは言うまでもなく営業やサービス・広報部門である。その内側にある開発・製造や販促部門は、営業に喜んでもらうために力を尽くす。さらに内側の総務・人事や経理部門は、開発・製造や販促部門に対してホスピタリティを提供すると言う具合になる。

では会社の中枢にいる総務・人事や経理部門はどこからホスピタリティを受けるのか。経営トップからである。トップを頂点にして企業の外側の部門に対してホスピタリティが広がって行く様から、このスタイルは「高気圧型ホスピタリティ」と呼べる。

一方でこれが逆になっている企業を目にする機会が少なくない。社内交渉に手間がかかるとか、顧客をさしおいてまず上司や社長のご機嫌を伺う企業風土は、ホスピタリティの流れが外側から中心の上部に向かう「低気圧型ホスピタリティ」である。組織同士の関係を良好に維持して行くためには、常にホスピタリティの先端が社会に接している高気圧型がよい。

しかし広告の現場で興味深い事実がある。多くの企業は広告計画に際し、役員会などに上程しご意見を伺うことがあるが、これこそが低気圧型なのである。自社の役員よりも顧客や社会からの評価の方が重要なのにもかかわらず、低気圧型を維持せざるを得ない難しさが企業論理としてある。

低気圧型の組織はいずれ社会から孤立する様に、こうして作られた広告は顧客などお構いなしに、社内だけが盛り上がっているという奇妙な現象を生むこととなる。広告担当は、まず顧客や社会に視点を置き、徹底的に課題探索をした上で自信を持ってソリューションをメッセージすべきであり、内向きのご意見伺いは無意味だろう。

ネットを始め多様なメディアが乱立する今、宣伝力の変革が求められとかくメディア論や広告手法に矛先が向かいがちだが、その前に広告主はトップを頂点に顧客や社会に向かって、ホスピタリティを送る高気圧型の企業風土に変革すれば自ずと広告も変わる。その糸口がインターナル・マーケティングにある。

インターナルマーケティング
 
 

宣伝力変革の時代 (4/5)

④ホスピタリティ・マーケティング。
喜ぶ広告、喜ばれる広告。
 

B2Bは企業や組織同士の係わりを示すが、この関係を良好に保つキーワードがある。「ホスピタリティ」だ。ここでのそれはサービス業で言われている「もてなし」とは異なり、単純に「相手に喜んでもらう」と理解したい。ASICAモデルでの課題探索もソリューションの提案も、最後の段階である購買後のフォローも、難しい理屈は抜きにして顧客に喜んでもらうことを念頭におくとわかりやすい。

ASICAモデルでホスピタリティが最大に生かされるプロセスは「解決の提示」だが、そのメディアとして展示会が有効であることはすでに述べた。しかし、最近の展示会では決してホスピタリティを要に取り組んでいるとは思えない光景に出くわす。似たようなタイプの営業担当による画一的で形式的なプレゼンテーションは、展示会に限らず通常の営業でも辟易とすることがある。相手の特性や隠れた課題を真剣に見極めて、最適なソリューションを顧客ごとに提示する気配りが不可欠なはずだ。

今、各企業とも社員研修には熱心だが、それによって画一的な人材を大量生産し、結果として顧客の心に響かない形式化されたメッセージを乱発するのでは本末転倒だろう。昔の様な「泣き落とし戦術」「ダボハゼ戦術」「スッポン戦術」など多様な営業スタイルとまでいかなくても、スマートさより個性を重視するプレゼンテーションスキルが求められる。
これは広告でも同じことで、他社に横並びのメッセージではなく、顧客に喜んでもらえる独自のソリューションを提示するために、前稿で述べたプッシュ型とプル型の特性を生かしたクロスメディア戦略が重要になってくる。

ホスピタリティは通常営業はもちろんだが、広告分野では展示会やカタログメディアで際立った効果を見せる。例えば、ASICAの検証・同意段階で顧客ごとに異なったカタログや、最高決裁者であるマネジャー・経営者向けのカタログなども、今ではオンデマンド印刷によって低コストで作れる時代になった。

もともと家庭を最小単位としてコミュニティを形成し、それに深く浸透した商店を軸に、御用聞きなど独自のビジネスモデルでB2B社会として進化した我が国は、ユニークなホスピタリティ概念を持っている強みがある。マーケティングでも広告の分野でも、もっとホスピタリティを注入できれば、感動的で説得力のある広告に生まれ変わるだろう。自分や社内が喜ぶのではなく、顧客や社会が喜ぶ広告創りを目指したいものだ。

ホスピタリティ
 

宣伝力変革の時代 (3/5)

ASICAモデルの提唱。購買プロセスと広告。

広告人の間でAIDMAは消費者の購買心理モデルとしてよく知られている。しかしアテンション(注目)を第一段階とするこのモデルは、過度に情報が錯綜した時代にはそぐわない。いかに目立とう興味を引こうとしても、溢れる情報の中でオーディエンスはアテンションする暇もない。むしろ多様な課題を抱えた今の時代では、素直に課題に気付かせるメッセージが広告に要求される。ノイズとしての情報には無関心だが、潜在的な課題に対するソリューションには敏感だ。これはB2BB2Cも変わらない。

このような課題優先の時代を迎えて、広告戦略の手だてとなる新たなモデル「ASICA」を提唱したい。AIDMAのアテンションに代えてアサインメント(課題)をトリガーとするこのモデルは、次の段階がソリューション(解決)となる。広告において課題提示とその解決策の提案が重要なことはすでに述べた。三つ目の段階はインスペクション(検証)だ。商品の購買においてこの検証段階は無視出来ない。

とりわけB2Bでは購買候補商品が自社にとって有効かどうかの判定に複数の部門や人が関わっており、それぞれの立場を持った人に商品の課題解決能力をアピールしなければならない。ちなみにB2Cでこの段階をスキップするのがいわゆる衝動買いである。今、検証段階でもっとも有効なメディアはWEBサイトだ。他社製品との機能や性能比較などの情報を能動的に取得してもらうには、いわゆるプル型のメディアが不可欠となる。検証段階をより優位に保つためには、当該商品のアプリケーションも含めてできる限り詳細な情報を自社サイトにアップしておくことが肝要だ。

次の段階は最もB2Bらしいプロセスであるコンセント(同意)だ。企業内での商品やサービスの購買に当たって、多数の同意を得ることは稟議を通す儀式でもある。同僚はもちろん上席者や購買部門、経理部門、場合によれば社長の同意も必要になる。同意段階で有効なメディアは新聞広告などのプッシュ型メディアである。多様な階層をターゲットに当該商品より企業ブランドを浸透させ、同意形成を有利するためのブランド広告は有効だ。

そして同意を得て最終的にアクション(購買)に結びつくことになる。このようにB2Bの現場ではASICAの各段階で多様な人や組織との関わりがありターゲットは異なる。 ネット広告信奉も良いが、プル型とプッシュ型を組み合わせ、ASICAモデルに対応したメディア戦略が、本来のクロスメディアだろう。

ASICA





宣伝力変革の時代 (2/5)

②課題社会の広告。「売る」から「売れる」へ。


前稿で展示会の機能が顧客の課題解決の場にあるとした。
ここでいう課題とは従来広告分野などでよく唱えられてきたニーズやウォンツとは異なった概念である。ニーズやウォンツはいわば欲望がもたらした「今、そこにある必要性」とでも理解できるが、課題(アサインメント)は「これから直面するであろう問題」といえる。場合によれば顧客ですら気付いていない将来の問題である。

ここ十数年で飛躍的に進歩したIT技術やそれに伴う情報量の急激な増加によって、もはやニーズやウォンツは十分に満たされ、替わって今までは表に出なかった潜在的な課題が問われるようになった。食欲などの原始的な欲が飽食の時代を経て満たされてくると、今度はダイエットやメタボ防止、健康食が注目されるように、文明社会では欲やニーズの充足が新たな課題を生むことになる。

最近広告が効かなくなったといわれるが、広告そのものに問題があるのではなく「今そこにあるニーズ」をキャッチコピーにしたところで、広告が陽の目を見る頃にはオーディエンスの意識の中ではすでにそのニーズは陳腐化し、新たな課題を抱えているから届かないのだろう。それほど時代は速いテンポで移り変わっている。顧客企業が抱える課題発掘と解決策の提案は、BtoB分野ではごく当たり前のビジネススタイルであった。

しかし急速な技術革新の最中にあって徐々にその手法も崩れかけ、BtoC分野では心変わりの激しい一般消費者の目先のニーズを追いかけるあまり、個人や社会の奥深くにある課題を見つけるノウハウが育っていないのかも知れない。課題の探求には多くの周辺知識が要求される。顧客企業との綿密なコミュニケーションはもちろんだが、むしろ顧客のコンサルタンシーとしてのナレッジマネジメントが不可欠になってくる。

ドラッカーは究極のマーケティングは「売れる仕組みを作ることである」といった。「売れる広告」と「売る広告」とは異なる。広告の分野で周知のAIDMAモデルにおけるアテンションやインタレストを重視して、ひたすら自己PRする広告は「売る広告」である。「売れる広告」とはBtoBBtoCに限らず顧客が将来遭遇すると予測される課題を提示し、その解決策(ソリューション)を提案する広告といえる。
高度経済成長期に端を発した欲望社会が終焉し、技術革新と情報過多による様々な問題に取り囲まれた課題社会を迎えて、広告もそろそろイノベーションが必要なのだろう。

ニーズとウオンツ




宣伝力変革の時代(1/5)

①展示会が変わった。潜在顧客の発掘の場に。

10月ともなれば展示会シーズンたけなわで、マーケティング担当にとって最も多忙な季節だ。しかし昨年来展示会への出展を縮小する企業が多くなった。昨今の経済危機がその主な要因であるが、最も大きな理由は展示会への客足が遠のいたことにある。

「客が来ないから出さない」一見大義名分と思われるこの背景には、ネットの普及による展示会メディアの機能的な変化が隠れている。従来展示会は新製品発表など広報の場としての機能が優先されていた。しかしWEBサイトの活用で広報機能を持った展示会は衰退し、新たに別の機能を持ち始めた。顧客が抱える「課題」を解決する手段として実機を前にしたソリューションが提示できるメディアは展示会以外にない。展示会メディアは情報発信という広報機能からソリューション提供という顧客に対するいわばホスピタリティ機能へと変貌したのである。

もう一つ展示会に見逃せない特性がある。メールやWEBなど顔の見えないコミュニケーション形態が主流である現在、展示会だけはフェースツーフェースコミュニケーションが実現できる希有なメディアである。これに気付かない多くの企業は、客が来ないから出さないというが、自ら出展して客を呼ぶ姿勢が過剰なネットメディアの依存によって欠落してしまったのだろうか。

企業はそれぞれ膨大な見込み客(潜在顧客)リストを持っている。この見込み客に一人一人地道に声をかけ、展示会への集客を促しそこで有能な説明員(技術者)によるソリューションを提示する。これがホスピタリティマーケティングの第一歩と言える。いつまでも主催者の集客力に甘えるのではなく、自らの力で集客しなければならない。客が来ないと言って展示会に出さない企業でも、相変わらず通常の客先訪問には熱を入れているのだから。

米国の展示会リサーチ会社のデータでは、展示会営業は通常営業とくらべて2倍以上のセールス効率があるという。質の高い見込み客を招くことが前提であるならこの数字は当然だろう。WEB全盛の今、フェースツーフェースメディアとして展示会は今後もっとも注目できるメディアでもある。にもかかわらず展示会を衰退させているのはネットメディアの進化でも主催者の怠慢でもなく、出展企業の見当違いなマーケティング戦略によるものかも知れない。客が来ないから出展しないのではなく、客を呼ぶために参加することが、マーケットそのものを活性化することになる。

 

展示会



ホスピタリティ・マーケティング

3.「ホスピタリティ」がBtoBマーケティングのキーワード。

上述のように、BtoB社会を進化させたエンジンは「ホスピタリティ」にある。これは現在のBtoBマーケティングを考える上で非常に重要なポイントとなる。最近当たり前のように言われている顧客第一主義とか市場志向主義が、真のホスピタリティに根ざしたものだろうか?。単に「市場に向かって」もっともらしく叫んでいるだけではないのか。顧客企業に何を提供すれば喜ばれるのか、顧客企業の発展のためにどんな貢献ができるのかを、損得抜きでまず考えることからBtoBマーケティングはスタートすると言っても過言ではない。

単に叫んでいるだけなら、八百屋の店先で「今日は大根安いよ−!」と大声で言っているにすぎない。八百屋の御用聞きのように、顧客企業の風土や技術レベル、将来に対する課題などを充分把握したうえで、その時々に応じて最適なソリューションを提供することが、本来のBtoBマーケティングなのである。そしてその原点には必ず、コミュニティ(顧客企業も含めた大組織)の維持を前提とした「ホスピタリティ」の概念がなければならない。

最近あちこちでWIN-WINの関係と言って、いかにもホスピタリティをかざしたかのような掛け声を耳にするが、所詮ビジネスは、詐欺でない限り価値交換と言うWIN-WINの関係が当たり前である。したがってWIN-WINGive and Takeは、ホスピタリティとは本質的に異なる関係性である。真のホスピタリティとは相手の懐に奥深く入り込んで、その実情を踏まえた上でいかにすれば喜んでもらえるか、貢献できるかに取り組むことであり、いわば顧客企業のコンサルタンシーとしての位置づけにあると考えられる。これがBtoBマーケティングの基本となる。

4.「インターナルマーケティング」でBtoBマーケティングを学ぶ。

BtoBマーケティングを学ぶ絶好の手法がある。「インターナルマーケティング」と呼ばれる企業内マーケティング活動がそれである。これは企業を構成する各部署をそれぞれ顧客とみなして、どうすれば相手部署に喜んでもらえるか、あるいはどのようにサポートすれば相手部署が動きやすくなって成果を出せるかを、各部署間で取り組むものである。

我々広告宣伝部門は、常々経理部門や営業部門との関わりが多いが、たとえば経理部門は宣伝部門に対し、今、多くの企業が行っているような一律に予算を削減する方向ではなく、むしろ可能な限り予算をつけて宣伝活動をサポートする。宣伝部門は、営業部門ができるだけ顧客と接しやすいプロモーションツールを開発し、営業とシンクロして受注に貢献する、と言う具合に各部門でサポート合戦を行うことになる。

実はこのサポートが、「ホスピタリティ」そのものなのだ。単にある部署を外から眺めて適当にお付き合いするのでなく、その部署が今何にチャレンジしようとしているのか、どんな課題を持っているのかを充分把握した上で、動きやすくなるようにサポートすることが、インターナルマーケティングである。

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このインターナルマーケティングを行うに当たって、忘れてはならない重要なポイントがある。それは、必ず企業の内側から外側に向かってホスピタリティを提供することである。企業それぞれに組織形態は異なるが、大まかには、まず企業の最も内側には人事部門や財務部門がある。その外側に、総務部門が、またその外側に製造部門や開発部門があり、顧客と最も近いところには営業部門がある。だから、インターナルマーケティングでは、たとえば人事部門や財務部門であれば、ほぼすべての部署にホスピタリティを提供しなければならないし、営業部門は他にその内側の開発部門からもホスピタリティを得ることになる。

では最も内側にある人事部門や財務部門は、どの部署からもホスピタリティは得られないのかと言うと、そうではない。企業の中心部には「経営」があり、人事や財務部門は経営トップからホスピタリティを受けることになる。

ちなみに宣伝部門は二つの顔をもつ。販売促進(プロモーション)のポジションでは、営業よりも内側に属する。したがってこの場合は営業活動にホスピタリティを提供しなければならない。一方広報的な側面では企業の最も外側に位置し、より外側の社会に対してホリピタリティ提供することになる。このことから企業広告では単に企業をアピールするのではなく、社会に貢献できる情報提供を行うことが重要だと理解できるだろう。

こうして見てみると、多くの企業が外に向かってではなく、むしろ内側に向かって動いていることに気付く。社内営業に時間が掛かるとか、無条件に行われる人員削減や予算削減要求は、まさしく内向きの代表的な形であり、これではホスピタリティを学ぶことなど到底不可能で、ひいてはBtoBマーケティングとは無縁の世界にいることになる。

インターナルマーケティングで、社内ホスピタリティの風土が醸成できれば、顧客に対するホスピタリティ意識も自然に芽生えて来るものである。インターナルマーケティングは、BtoBマーケティングそのものなのである。(続)

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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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