《質問》
私は樹脂マテリアル開発部門で商品企画の仕事をしています。新しい技術や製品についてお客様を前に説明会やセミナーを行うことが頻繁にあります。その際に使用するスライドの作成についてご教授いただきたいと思います。毎回私が行うセミナーでは「大変参考になった」というご意見はありますが、実際は20%程度の方は居眠りをされているのが気になっています。セミナーでプレゼンテーションを行う際、聴講者に居眠りをされずに最後まできちんと聞いていただけるようなプレゼンのしかたやスライドの作り方のコツはあるのでしょうか。(樹脂部品メーカー・開発企画部)
《回答》
文面ではどのような説明会やセミナーなのか、また所要時間や規模(聴講者数など)がよく分かりませんので、適確な回答ではないかも知れませんが、セミナーでのスライドの役割と作成方法についてお話しします。
まず説明会やセミナー(以後セミナーとします)ではスライドを投影し、あわせて手元資料(配付資料)が準備されていると思われます。この場合の手元資料はほとんどの場合、スライドを印刷した資料でまかなうことが少なくありません。しかし、ここでよく考えなければならないのは、手元資料を「読む」行為と「書き込む」行為の違いです。手元資料を「読む」場合、聴講者の意識は手元資料にあります。そして厄介なのは意識が手元資料にある場合、プレゼンターの話はほとんど耳に入りません。つまりせっかく大切なお話しをしていても聞いてもらえていないと言うことになります。このケースはセミナーなどで多く見受けられ、プレゼンターの犯す失敗の代表例です。
さらにこのケースで問題となるのは、あまりにも手元資料が詳細に記述されていることによって、聴講者にしてみれば「今聴かなくても後で資料を読めばいいや」と言う気持ちになってしまい、それが眠気を誘発することにもつながることです。
一方で手元資料に「書き込む」行為の場合はどうでしょう。プレゼンターのお話を聞き重要なポイントを手元資料にメモすることですので、聴講者はきちっとお話を聞きながら書き留めていることになります。そして聴講者自身が書き込んだ手元資料は自分なりの理解の証として長く記憶に残るはずです。本来のセミナーのありかたとしてこの状況が最も重要なのです。
ではなぜこのような違いが起きるのか、をお話しします。多くのセミナーで目にするのは「スライドを書き込みすぎる」ことです。お話しする内容を蕩々とスライドに書き込むことはプレゼンターの立場からすれば、話し忘れの防止にもなりしかも画面いっぱいに内容が詰まっているといかにも大役を成し遂げているという気持ちになります。
このプレゼンターの気持ちが結果的には文字の多い手元資料になり、聴講者にとっては文字が多ければ読まざるを得ない状況を作ってしまうのです。また書き込みすぎるスライドは必然的に文字の大きさが小さくなり、セミナーの規模にもよりますが多くの聴講者を収容する場合には、後席からは非常に見づらいスライドになります。そうなると余計に手元資料に目が移り意識はプレゼンターのお話よりも手元資料に向いてしまう悪循環となります。
あなたが心配されている「居眠りをする聴講者が多い」のは話し方の問題もありますが、多くの場合は手元資料、つまりスライドを書き込みすぎた結果読むことに疲れた状況を生み出していると考えられます。
書き込みすぎたスライドによるセミナーを行う場合のもう一つの欠点は、プレゼンターの話の内容にも影響を与えることです。文字が多く「読まなければならないスライド」ではプレゼンターはどうしても画面上の文字を追いながら読んでしまいます。プレゼンの失敗例のもう一つです。画面(スクリーン)上に記載された文字を読むスピードは人によってそれぞれ異なります。それをプレゼンターのペースでスクリーン上の文字を読み出すとそのスピードについて行けない聴講者はどうしても手元資料を見ることになります。さらにセミナーの進行に遅れまいという焦りも生まれ、聴講者には無意識のストレスが発生してしまいます。このストレスが「居眠り」を生じてしまうのです。
このようなプレゼンを回避するために必要なのは、スライドはキーポイントだけを記述し、できるだけ図形や写真などで構成することです。さらに文字の大きさにも気を配らなければなりません。何度かテストを行い、最後列の距離からでも十分読むことができる文字の大きさを決めておくことが必要です。参考までに私が行うプレゼンのスライドでは、標準的な4:3(800ピクセル:600ピクセル)のスライドサイズの場合は、18ポイント前後をおもに使用し、表題は26ポイント、最小は14ポイントと決めています。また最近はワイド画面(16:9)を使用することも多くなりましたが、この場合でも4:3の標準画面と比べて文字の大きさを決定すれば良いと考えます。
またプレゼンで重要なことは、スクリーンを「見て分かる」ようにスライドのデザインを考慮することです。上述のようにとかく書き込みがちになりますが、まず目で見て理解できること、極端な場合たとえば御社の新技術で厚さが従来の10ミクロンから1ミクロンの新しい樹脂マテリアルを実現できたとします。この場合のスライドには「1ミクロン」と「新技術の名称」だけで事足ります。なぜその新技術で達成できたのか、またどのようにして新技術が生まれたのか、スライドには書かずお話しすることで聴講者には十分伝わります。
可能なら新技術達成の根拠をシンプルな図で示せばさらにダイナミックなスライドに仕上がります。そして大切なのは、お話しした「なぜ新技術が生まれたのか」の項目はプレゼンターのお話を聞きながら手元資料に書き込んでいくことになり聴講者はプレゼンターのお話に耳を傾けながら手元資料にメモするわけですから、より記憶に残り理解もされやすくなるのです。
つまりセミナーで重要なのは、プレゼンターのお話もさることながら聴講者自身が手元資料にメモをし、自分なりのテキストとして完成させることにあります。言うなればセミナーはプレゼンターのお話を聞く場ではなく、聴講者自身が自分のテキストを創り出す場であると考えられます、そしてプレゼンターはそのサポートを行うためにダイナミックなプレゼンスライドを提供しなければならないのです。ここが一般的な「講演」と大きく異なる点です。
くどいようですがプレゼンターはとかくお話しする内容をすべて細かくスライドに書き込む傾向がありますが、これが逆に聴講者にとってスライドは見にくく手元資料にはメモスペースもなくお話を聞くだけに終わってしまい、記憶にも残らず最悪は退屈のあまり居眠りをしてしまうのです。