ブランド
《質問》
弊社はBtoB企業であるため知名度が低く、何とかもっと知名度を上げて業績に反映できないかと模索しています。すでに多くのブランディングに関する書籍を読みましたが、いずれも非常に難解でとても現実の業務に生かすことは難しいように感じています。ブランディングとはこんなに複雑で学者でしか理解できないようなものなのでしょうか。もっと分かりやすくだれにでも取り組むことが出来るブランディング手法をご教授いただければ大変助かります。(機械メーカー・総務部)
《回答》
ご指摘の通り最近はブランディングに関する書籍は多く出版されていますが、いずれも一般社会人が理解するには非常に難解な内容であることは確かです。それはどうしても経営学の立ち位置でブランディングを述べると、様々な論文の引用などから自ずと難しい内容にならざるを得ないからです。
そのような難しい書物を読むまでもなく、これから述べる内容を御社の出来る範囲で行っていただければ、ある程度の成果は間違いなく出てくると思いますので、安心してください。
その前に、御社が誤解されている重要な点を指摘しておきたいと思います。
まず、ブランディングと認知度は少なからず関係しますが、認知度と業績は直接的には関係ありません。認知度が高くなったからと言って売上げが増加するわけではなく、また認知度が極端に低い企業でも毎年売上げ増加を達成している企業もあります。
したがってブランディングの目的は、まずターゲットとなる見込み客層に対するブランド認知と記憶、さらには記憶再生がいかに効率的に行われるか、であり業績はその効率がもたらす結果として表れてくるものです。しかし一方で、ブランドの重要性を語る上で大変興味深い現象があります。具体的なデータは持ち合わせていませんが、ブランド浸透率がある程度まで達成できると、極端な場合販売力が弱くても商品は売れてしまう現象です。おそらく見込み客や顧客の中で、態度変容にまで影響を与えるブランドの好意的な評価と記憶再生率が影響していると考えられます。
このような観点から見れば、ブランディングは企業経営にとって非常に重要な位置づけにあると思われます。しかもブランドを醸成する要因は多くの分野にまたがっています。
ブランディングは大きく分けて、「コーポレートブランディング」「プロダクトブランディング」「ヒューマンブランディング」の三つに分けることが出来ます。
まずブランド担当者に最も馴染みのある「コーポレートブランド」について述べたいと思います。
まず代表的なブランディングはマスメディアを使用した「ブランディング広告」ですが、ここでもブランディング広告と企業PRの混同が起きています。これは非常に重要なことですのでもう少し詳しくお話しします。
簡単に言えば現在ブランディング広告とされているもののほとんどは企業PR広告と言えます。ではブランディング広告と企業PR広告の違いがどこにあるのか。ブランディング広告は「メッセージ広告」と言いかえられます。一方の企業PR広告は「アピール広告」と言えるでしょう。メッセージとアピールではどちらがオーディエンスの心を打ち共感をもたらすでしょう。
メッセージは直接語られていない文脈をオーディエンス自らの心で読み取り、自分なりに解釈するものです。最も強烈なメッセージは「無言のメッセージ」であることはだれもが経験していることです。ここでは、メッセージ発信者の真意を読み取る努力をオーディエンスが行います。つまり、メッセージが何を意味するのかをオーディエンスが考えを巡らせて自分なりの到達点を見つけます。この到達点がメッセージ発信者の意図した内容と異なっていても問題ありません。重要なのは「広告を見て考えてもらう」と言うことなのですから。
一方のアピールは情報発信者が極論を言えば「我が社は素晴らしい会社です」と自ら自己自慢を広告というメディアを借りて行うものです。どうしても企業PR広告はこのような体裁になってしまいがちですが、こんな自己自慢をだれが信用するでしょうか? しかもこのアピールは直裁的に行われるため、オーディエンスに考える余裕を与えません。ここが大きな問題点なのです。
上述したようにブランド認知には記憶と記憶再生率が大きく影響します。まず記憶しなければリコール(記憶再生)は不可能ですが、じつは私達はリコールの数百倍、数千倍の記憶を持っています、ただ思い出せないだけなのです。
ではリコールに重要な要因は何かと言えば「自分で考えたことはリコールしやすい」と言うことです。このことから自ら考える機会を与えるメッセージ広告と直裁的なアピール広告のリコール度合いの違いは明白になってきます。
では何をメッセージ広告の主題として選定すればいいのかを説明します。とかく広告と言えばニーズ重視になりがちですが、じつはニーズは顧客サイドでも充分把握しており現在のような技術革新の早い時代には早晩解決される可能性が高く、オーディエンスに考える余裕を与えるとは言えません。
そこで重要なのが「課題提示」と「ソリューションの暗示」なのです。課題は将来引き起こされる問題と理解でき、ともすれば顧客サイドでも認識していない場合があります。現在社会課題を含めて様々な分野に多くの課題が存在しています。これをあえて提示することで、顧客から広告主の自信の現れと見なされる結果に導くことが可能です。さらにその課題に対するソリューションを暗示するメッセージがあれば最高です。
ここで言う課題については広告の主題となる大変重要なものですので、もう少し詳しく説明したいと思います。
じつはBtoB広告協会主催のBtoBコミュニケーション大学校を受講された方はすでに記憶されているかも知れませんが、2012年のASICAモデル(BtoB購買プロセスモデル)の講座の中で、課題の例として電気自動車を取り上げています。当時は電気自動車の重要なコンポーネントとしてモータや電池の高性能化が叫ばれ、その開発に様々な企業がチャレンジしていた時代です。
その講座の中で、電気自動車の将来の課題として「音源装置」を指摘していました。つまり、ほとんど無音に近い状態で走行する電気自動車は、将来その無音が安全上の問題になるだろうという予測のもとに提示したわけです。
それが2016年、ようやく自動車業界でも問題視され、あえて電気自動車に音源を備える方向で議論が始まりました。
当時はもちろん電気自動車にあえて音を出させることなど考えている企業はほとんどない状況でしたが、もしこのときある音響メーカーなどが「音のない自動車に安全はない」のようなヘッドラインで自動車の無音がいかに危険であるかをメッセージしていたら、当時の風潮に対する違和感が余計に記憶を増幅し、今になって即座にリコールに結びつき、その先見性からブランド価値は急速に高まったと考えます。
課題とはこういうものなのです。
ところでコーポレートブランディングで多くの企業が見逃しているのはじつは「建物」なのです。建築物はだれもが日頃から目にする大きなブランディング要素であるにもかかわらず、最近はどの企業も最新の建築部材の仕様に縛られて、画一的な建築デザインになっています。いくら優れた広告を展開しても、それ以上に目にする機会が多い建築物にメッセージ性がなければ、ブランド構築はちぐはぐになってしまいます。
またどこにもないユニークな本社ビルなどが出来れば、ランドマークとしての価値も高まり、最高のブランディングメディアとなるでしょう。つまり建築物そのものをメディア化すると言うことです。御社では今すぐにこんなことを言っても無理でしょうが、将来本社ビルの改築や新築の際には重要ポイントとして考えておいても無駄にはなりません。
このようにコーポレートブランディングでは、広告やWEBなどの既存メディアだけでなく、企業が保有している建築物にも目を配る必要があります。また、マスコミを対象とした広報活動の強化は、ブランド構築に大きな役割を果たすことも忘れてはなりません。単に新製品発表だけでなく、企画広報と称して企業内での様々な出来ごことや考えを丹念に広報することは、すでに述べた記憶とリコールの観点からもブランディングの第一歩とも言えます。
次に「プロダクトブランディング」について述べたいと思います。企業のブランド担当者もあまり意識していませんが、とりわけBtoB企業でもっとも露出度の高いのはじつは製品やサービスなのです。顧客リストを眺めればその数の多さに驚くはずです。
使用者がほとんど毎日接するこれらの製品やサービスをメディア化することによって、ブランディングの効率は格段に向上します。そのために重要なことは、製品やサービスの質がよいことはもちろんですが、製品デザイン、取扱説明書そして操作性を高めることであり、これらはブランド構築に継続的な効果をもたらすのです。
BtoC分野でも自分の好みのブランド商品を購入した結果、使いづらかったりすぐに故障し、サービス体制も悪ければほとんどの場合二度と購入することはないでしょう。もしこれらの不具合がSNSなどで拡散されてしまったら、マスメディアでせっかく構築したブランド価値は一気に崩壊してしまいます。
逆に購入した製品の性能やデザインが良くて、BtoB企業でも購買企業の二次製品の質に良い影響を与えた場合、当然のことながらリピート購買となります。これが前述した、「ある一定の閾値までブランド浸透率が上がると、勝手に製品は売れる」と言うことに繋がるのだと考えられます。
企業ではブランド担当者と製品開発部門は分離されている場合がほとんどですが、可能ならブランド構築のためにこれらの部門を統合させる勇気も必要になります。
すでにお話ししたようにブランディングは企業経営にとって大きな影響を与えます。そのためには組織を超えたブランド対策が必要だと言うことをくれぐれも忘れないでいただきたいと思います。
最後に最も重要な「ヒューマンブランディング」についてお話しします。
プロダクトに次いで顧客や社会との接触機会が多い社員をメディア化すると言うことです。言いかえれば社員一人ひとりが自社のブランド構築に大きな影響を与えているのです。ただ拙著「ASICAれ!」で述べているように、企業は経営者の資質によってその風土が特徴的な形態を有します。したがって、このヒューマンブランディングは経営者自らが率先して行う必要があります。
どんな製品であっても、それを販売する営業担当や故障時に対応するサービス担当の態度や言葉遣いによって知らぬ間にその企業のブランドに影響を与えることがあります。
経営者や社員の不祥事が一夜にしてブランド失墜の原因になることは極端な例ですが、通常の商談やサービス対応の際、対面だけでなくメール対応においても一担当者のふとした言動が相手企業からの信頼を損なう要因になることを忘れてはなりません。何も相手企業に媚びる必要はありませんが、営業やサービス担当者が自信を持って相手企業の立場で真摯に対応することが、ブランド構築に予想以上の効果をもたらすのです。
その意味では昨今各企業が行っている階層別研修は逆効果になります。階層別研修は社員のコモディティ化を促し社員の個性を剥奪してしまいます。むしろ専門教育を徹底し、相手企業の知らない技術的内容にまで踏み込んで前向きに提案することがブランド価値を上げる要因となります。
現在あらゆるメディアや企業経営にデジタル化が進んでいますが、じつは企業に対する問い合わせの70%前後が電話によるものであることはあまり知られていません。もし電話問い合わせで、コールセンターが適切な回答をしなかったりたらい回しにしてしまったら、もう二度とその企業の製品を購入する気にならないことはだれもが経験しています。いくらデジタル化が進んでもヒューマンというアナログ的な要素をより重要視する企業風土がなければ、早晩その企業のブランド価値は低下していくのです。
以上のようにブランディングには「コーポレートブランディング」と「プロダクトブランディング」「ヒューマンブランディング」が一体となって行わなければ、ブランド効果はほとんどありませんが、残念なところブランディングの教科書には「プロダクトブランディング」と「ヒューマンブランディング」が言及されることは少なく、この点は気をつけた方がいいと思います。
あなたが言われるように数年来ブランディングに関する様々書籍が出版され、各企業ともそれに踊らされるようにブランディングに躍起になっています。しかしその結果はどうでしょう。この数年間で飛躍的にブランドイメージが向上した企業がいったいどのくらいあるでしょう? 皆無に近いと思います。それはほとんどの企業は理論や教科書に則って取り組んだとしても、コストをかけた大がかりなメディア戦略に依存しすぎプロダクトやヒューマンを軽視しているからなのです。
最後に興味深いお話しを。ブランディングにはコストがかかると考えられていますが、ヒューマン→プロダクト→コーポレートの順はコストのかからない順でありまたブランディング効果が大きい順でもあります。だから難解な書籍に惑わされることなく、どんな企業でも安価にブランディングは可能なのです。
《質問》
弊社はIT周辺機器を開発販売している中小企業で、競合企業が多い中企業ブランド強化のために組織の再編も含めて検討しているところです。従来は特別な広報宣伝部門はなく、営業部門でカタログ制作や展示会に対応してきました(すべて外注です)。ブランディングにあたって、まずコンセプトを明確にする必要があると代理店から提案があり、現在コンセプトの策定に四苦八苦しているところです。
私自身恥ずかしながらコンセプトをどのように設定すればいいのか、またすべて代理店に任せて済むものなのか良く理解できていません。そこで、企業ブランド再構築のために必要なコンセプト作りの手法などがありましたらご教授いただきたく、よろしくお願いします。(IT機器メーカー・営業部)
《回答》
今回のご質問の趣旨は、御社の企業ブランド強化(ブランディング)を目的とするために、コンセプトを策定するということだと理解します。
まず、どんな企業にとっても最も大切なのはコーポレートコンセプトです。コンセプトという文言はよく使われるのですが、その本質を理解されているケースはあまり目にしません。コンセプトが「目的」や「目標」とすり替えて安易に使用されている場合が少なくないのです。
さらにコンセプトは企業哲学のようなもので、当該企業のあらゆるモノや人、組織にも関与します。したがってとりあえずの流れを述べるとすれば、コーポレートコンセプト→プロダクトコンセプト(開発業務を含む)→組織編成コンセプト→人材育成コンセプト、という流れになります。その他、サービスや販社との関係構築にあたってのコンセプトも存在するでしょう。
そこでご質問のあったコンセプトメイキングについて、ですが。正直なところ各社とも非常に軟弱なコンセプトメイキングがなされているのが現状です。それは上述した「目的や目標」さらには「ビジョン」にすり替えられたフレーズをコンセプトと称しているもので、ビジネスオリエンテッドな現状ではある意味で致し方ないかも知れません。
しかしコンセプトは企業哲学であり、まずは当該企業がその哲学に基づいて社会に対して何をメッセージすべきなのかを考えることからコンセプトメイキングは始まります。
そこで大きな問題を抱え込むのがコンセプトメイキングをマーケティングの一環として理解してしまうことです。コンセプトとマーケティングはまったく関係有りません。現在はどの企業もマーケティング重視の傾向が強くなりつつあるのも、前述した軟弱なコンセプトが誕生する要因だと思っています。
つまりどういうことかと言いますと、マーケティングは販売を目的として、マーケットや社会の現状におけるニーズをリサーチすることですが、これでは得られるデータはマーケットや社会の現在の要望や要求になってしまいます。
コーポレートコンセプトは決してマーケットや社会に迎合したモノではなく、その企業独自のメッセージであるべきです。流行も関係有りません。誰が何を考えようがそれも関係有りません。ただひたすら自社にとってマーケットや社会にどんな貢献が出来るのかを自分たちで考えることが重要です。
簡単に言いますと、コンセプトメイキングで重要なのはマーケットや社会の意見を無視するということです。これはよく考えれば当たり前なのですが、たとえば同業社がマーケティングリサーチをしてコーポレートコンセプトを策定すればどのような結果が待っているでしょう。マーケティングリサーチの精度が高ければ高いほど、どのような企業も同じデータを得ることになってしまいます。その結果コーポレートコンセプトも独自性がなく歯の浮いた似たようなコンセプトになるのです。さらに恐ろしいのがそのコンセプトに基づいてプロダクトコンセプトや組織編成コンセプトに至ればまた他社と同じような商品や組織形態が生まれ、もはや企業そのものがコモディティー化する要因を作ってしまいます。
最近、どの企業も同じような商品ばかりで結果的に価格競争に陥ったり、同じような組織形態で似たような人材が多くなっているのはこれが原因です。
いうまでもなく企業が勝ち残っていくためには、マーケットや社会に媚びず、独自の技術と独自の経営手法によって企業運営していくことが大切です。この根幹になるのかコーポレートコンセプトなのです。
したがってまずコーポレートコンセプトを策定するにあたって重視しなければならないのは、「御社のシーズが何か」を明確にすることです。ニーズは無視した方が混乱しません。そしてそのシーズを元にして、現在ではなく未来のマーケットや社会にどのように貢献できるのかを考えることですが、ここで良くやる失敗は外部コンサルタントや代理店に依頼することです。自社のシーズや社員の特性は自社が最も良く理解しています。それを外部のブレインに頼ってしまうと、外部ブレインが理解できないことをマーケットや社会に求めようとして前述したマーケティングリサーチへと進んでしまうのです。これは絶対に避けなければならない大切な部分であり、しかも最も重要なスタートラインです。
ここで得られたメッセージにはいくつかの種類があります。
まずは、単純にメッセージとして社員や取引先に周知すること。この場合基本的にはコーポレートコンセプトはメディアなどでマーケットおよび社会に周知する必要はありません。あくまでも基本的なコンセプトとして社内の誰もが理解することが先決です。
もう一つは積極的にマーケットや社会にメッセージする方法があります。この場合は、単なるメッセージではなく、未来のマーケットや社会に対する課題提供や啓発活動の一環として捉えます。
私は数々のメディアで一貫したコーポレートコンセプトを展開するには後者の方が良いと思っていますし、その方が遥かにマーケットや社会に対するインパクトは強くなります。所謂メッセージ広告というのはこのような課題提供型の広告のことを意味しています。
さて、このようにしてコーポレートコンセプトが明確になれば、前述したプロセスでプロダクトコンセプトや組織編成コンセプト、さらには人材育成コンセプトへと繋がっていくわけですが、いずれもコーポレートコンセプトがその中に活かされていなければなりません。とりわけプロダクトコンセプトを策定する場合、マーケットを意識しすぎて、大きな間違いであるニーズを追いかけたコンセプトを策定してしまいがちです。技術革新が超スピードで進行する現在、ニーズを追いかけていては商品化された時点でそのニーズが陳腐化してしまいます。
そしてブランディング作業は、コーポレートコンセプトさえしっかりと策定できれば、それに沿った形でメディアごとに表現を変えて多様な広告展開が可能になります。
大切なのは、ブランディングを先行させて、コーポレートコンセプトを後付けすることは絶対に避けるべきだということです。
よくブランディング策定の際に議論される「マーケットや社会にどのように思われたいか」などといった主体性の欠如した視点ではなく、堂々と「どのように思われても良い。我が社はこうだ」とメッセージすることが、じつは最もアピール力を生むことを忘れてはなりません。
《質問》
《回答》
最近はどの企業も人事ローテーションが激しくなり昔のように広告や宣伝の専門家が宣伝部長になることは珍しくなりました。したがって何も心配されることはありません。
宣伝部の業務は大きく分けて広告宣伝予算の獲得、広告宣伝媒体の選別、クリエイティブ業務、媒体への発注作業、広告効果測定などがあります。この中で宣伝部長として最も重要な仕事は、ズバリ「広告宣伝予算の獲得」です。最近はほとんどの企業が利益至上主義に陥り、そのしわ寄せで極力経費を削減する傾向が顕著になってきました。そんな中で予算の獲得は非常に困難な業務でもあります。
じつは企業が経費削減の一環として広告宣伝費をターゲットにする理由のひとつとして、未だに広告宣伝部門を「コストセンター」と間違って認識していることが上げられます。広告宣伝はひいてはブランド形成や販売促進(プロモーション)に欠かせない業務であり、いわば「プロフィットセンター(利益を生む部門)」なのです。
これが理解されていないと予算獲得に非常な無駄骨を余儀なくされてしまいます。まず経理部門にこのことを充分説得されることが重要かと思いますし、そのためにはある程度の理論武装が必要です。広告宣伝部門がプロフィットセンターであることは、販売促進面から見れば受注獲得のため、そしてブランド形成の側面から見れば企業価値の向上のために行う「投資」業務であることからも明白です。決して経費ではないのです。
販売促進面では短期的には半年程度でリターンが得られますし、ブランド形成面では5年程度は必要になりますが、強力なリターンをもたらします。たとえばある一定のブランド形成が行われれば、極端な場合営業活動が多少貧弱でも不思議なことに製品は売れてしまいます。その閾値がどのあたりにあるのかは明言できませんが、いずれにしてもこれらが「投資」である証拠として認識できます。
それではいったいどのくらいの広告宣伝費が妥当なのか、ですが一般的にはBtoB企業の場合ルーチン作業では売上高の0.65%程度が標準額だと言えます。これにブランド強化や何かのプロジェクトが加われば、売上高の0.8〜1%程度は要求しても差し支えありません。とりわけリブランドなど重要プロジェクトのケースでは1.2%程度は必要になってくるでしょうが、それも前述したように初期のブランディング目標が達成できれば5年程度経てば間違いなくリターンが増加し、広告宣伝費のもとは充分取り返せます。この5年を待てず、すぐにリターンを求めることが経理部門ではある種の責務になっており、そのために広告宣伝費を経費として削減対象にしてしまっているのです。
まずは広告宣伝費を投資の観点から捉え、十分納得のいく予算を獲得されることが宣伝部長の一番の役割でもあります。
ここで私独自の考え方ですが、「部員一人当たり広告宣伝費」について見てみたいと思います。広告宣伝費は宣伝業務を行う部員にとってお小遣いではなく「飯」なのです。飯がなくては戦はできないと言われますが、まさに広告宣伝業務は同業他社との戦の場なのです。部員一人当たり広告宣伝費が少なければ戦ができないどころか、モチベーションは下がり基礎体力(クリエイティブやコンセプトメイキング力)が低下してきます。これは企業にとって死活問題でもあります。まず部員一人一人に十分な飯を与え競合企業との戦に備えることが肝心ですが、企業にとって見れば経費が少なければ少ないほど喜ぶ不可解な状況が散見できます。これが将来の負け戦にボディブローのように効いてくるのがおそらく理解できないのでしょう。
次に重要なのが宣伝部長は「二股稼業」であることです。つまり片足は社会や顧客企業の側に立ちながら、もう一つの足は社内に置く、と言うことです。現在ほとんどの企業がそうであるように、広告宣伝のメッセージやアピールはインサイドアウトの傾向が非常に強くなっています。本来広告はオーディエンス(社会や顧客企業)に感動を与え、その対価としてレピュテーション(評判)や受注が得られるのですが、どうしても企業システムの中ではオーディエンスを無視したインサイドアウトの業務プロセスが一般的になっています。
その卑近な例は至るところにありますが、たとえばどの企業でも行っているクリエイティブの上司承認や役員承認です。広告にとってクリエイティブはオーディエンスの心を打つ最も重要な要素ですが、それを社内の上層部にお伺いを立てることが当たり前のようにまかり通っています。いくら社長と言えども役員と言えども、クリエイティブにとっては全くの素人です。なぜそんな素人の意見を重要視し、オーディエンスの意見を聞かないのか不思議でなりません。インサイドアウトの典型的な例です。
この場合、いちいちオーディエンスの意見を聞くのは確かに面倒ですし、オーディエンスですらクリエイティブに関しては素人です。それならば、幸いにも御社の部員の方はベテランが5名もおられるようですので、そのベテランにすべて任せてしまえばいいと思います。企業におけるすべての業務のコスト要因は時間によって決定されますが、このようにして5名のベテランを信じて好きなようにクリエイティブに精を出してもらうことでかなりのコストセーブが可能になり、その分をまた投資に回せます。
最後に重要なポイントを申し上げます。オーディエンスに感動されるようなアウトサイドインに基づいた広告宣伝活動やブランディングを行う際、決して「ニーズ」に振り回されないことです。現在のように技術革新が急速に進展している時代、ニーズは早晩解決されます。広告の企画や制作には少なくとも半年程度はかかります。「今のニーズ」をもとに広告戦略を立てても出稿段階ではそのニーズは解決されているかも知れないのです。そうなるとその広告は時代遅れの烙印を押されてしまいます。
ではニーズではなく何が必要かと言えば「課題」です。それもだれも今気づいていない社会や顧客企業に潜む課題を発掘し、そのソリューションを広告やカタログなどを通じて提示していくことです。だれも認識していない課題を提示し、そのソリューションを提供することで、オーディエンスに感動を巻き起こし、御社の信頼性と独自性はますます強固になり、結果的に強力なリターンが待っているのです。
《質問》
最近インターナルブランディングが注目され、我が社でも導入の気運が高まっています。そこでお尋ねしたいのですが、インターナルブランディングの効果と導入手法について、具体的な事例などがありましたらご教示いただきたいと思います。現在のところ我が社では、外部のコンサルタント(代理店?)に依頼する方向で進めています。(通信メーカー)
《回答》
確かにここ数年インターナルブランディングが注目されていますね。この考えは1990年代に米国企業でなされた活動が参考になっています。
結論から申し上げますと、私はインターナルブランディングにはまったく効果もなくその必要性もないと思っています。まさにお金の無駄遣いです。
ここで確認しておきたいのですが、まずブランドとはある対象(意識を持つ個人がほとんど)が被対象(個人や企業、団体、商品、サービスなど)に対して抱く心の変容を指します。つまりブランド形成には必ず被対象とそれを評価する対象者が存在することになりますし、ブランディングはそれらの関係性を構築するために行うものと考えられます。
たとえばブランディング広告などは、被対象である企業や商品に対して対象者が信頼性を持つ、好ましい感情を持つ、親しみを持つなどの心理的な変容を意図として行われます。その意味では外部に対する所謂エクスターナルブランディングは企業価値の増大化に欠かせない活動とも言えます。
ではインターナルブランディングの構図を考えてみたいと思います。一般的にはインターナルブランディングは、当該企業の企業理念やブランドを基盤にして、従業員一人一人が適切に行動し業務改革を行うための活動、あるいは従業員に自社ブランドの持つ意味や価値を徹底して理解させ、業務に活かすことを目的とする、とされています。
こうしてみると一見「なるほどインターナルブランディングは社内活性化と企業価値の向上に大きく役立つ」と思いがちですが、大きな落とし穴がここにあることにあまり気づかれていません。
それは前述のように、ブランドの価値は当該企業や従業員が決めることではなく、あくまでも対象者の心に宿るものです。それを「我が社のブランドにはこんな価値があるから、従業員全員がそれを徹底してその価値にふさわしい行動をすべきである」というのは本末転倒以外の何物でもありません。
さらに問題なのは、多くの企業が行っている(あるいは行おうとしている)インターナルブランディングに対する手法にブランドブックの作成や社員研修、グループ活動などが上げられることです。
まずはブランドブック。いわば教典のようなこのツールは、「我が社はこんなブランドや理念を持っている。みなさんの日常業務にここ考えを浸透させ企業発展とさらなるブランド価値向上に役立てましょう」と半ばトップダウンで行われる活動の基盤になるものです。
ここでは従業員の目は教典やその教義に集中し、本来ブランド形成に大きな力を持つ社会やマーケット、さらには他の組織に属する人々の存在は忘れ去られています。拙著「ASICAれ!」で述べている、企業として最悪の低気圧型ホスピタリティ(常に社会や顧客ではなく上司や社長など企業の上層部にばかり目が行く企業のスタイル)の様式がここに現れています。
くどいようですが、ブランドを作り上げるのは社会に属する個人であることから考えると、この手法はまったく逆の効果をもたらすとしか考えられません。さらに従業員と言えどもそれぞれに個性を持つ一人の人間です。それをブランドブックという聞こえはいいですが、いわば教典まがいのツールによって個性を埋没させるのはけっして好ましいことではありません。
次に社員研修。最近はどの企業でも頻繁に社員研修が行われていますが、ここでもその弊害にあまり気づかれていないようです。研修そのものを否定はしませんが、問題なのは多くの社員研修が「階層別研修」であることです。つまり、課長や部長などそれぞれの階層ごとに「課長はこうあるべきだ。部下の指導はこうすべきだ」と強引に教え込まれます。
ここでも個々人が持つ個性は否定され、当該企業の管理職としてふさわしい組織人に育成されるのです。言うまでもなくどんな管理職であってもそれぞれに個性があってしかるべきで、その個性に憧れて部下は成長していくものです。同じような考えや無個性の管理職だらけでは企業そのものの個性も消滅し、ひいてはブランド形成にはまったく役立たないと考えられます。
ブランド形成の対象が社会における個人や顧客であることを考えれば、まず重要なのは企業運営の根幹となる商品やサービスの高付加価値を目指すことです。さらに、顧客との接点である営業担当の商談能力もブランド形成には重要です。その意味ではもし研修を行うなら、優れた商品開発者や営業担当の育成を目的として、階層別ではなく業務別研修に徹するべきでしょう。しかしここでも個々人の個性は重視されるべきですし、それに則った研修にする必要があります。
インターナルブランディングを目指したグループ活動などまったく無意味です。そんな時間があるなら、もっと商品開発に集中したり顧客訪問によって顧客と会話をすることの方がはるかに意味があります。
ところで、ここでは具体的な企業名はあげませんが、一昔前は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり次々と新商品を発表し、マーケットや個人から支持を得ていた多くの企業が、現在ではみな同じ無個性の企業になってしまっている現状が散見できます。これにはさまざまな理由があるのですが、その大きな要因に社員の無個性化があり、それを誘導するのが上記の階層別研修であったり、インターナルブランディングとは行かないまでも、「みんなで同じ方向を目指して頑張ろう」式のややこしい活動だったりするのです。
ブランド形成が社会に属する個人の心の変容に要因があることから、まず重要なのはその接点である個性的で有益な商品の開発と営業担当の商談能力の向上がブランディングに大きく影響します。つまりエクスターナルブランディングです。それをさしおいてインターナルブランディングに熱を入れるのは、おそらくエクスターナルブランディングがうまく行っていないための対症療法とも考えられます。しかしこの対症療法が、ますます病状を悪化させるのは上述のとおりです。
極論を言えば社内規範を逸脱するくらいの個性ある人材を輩出し、それによってどの企業にもない独自の商品を世に送り出すこと。これによってその企業のブランド価値は大きく飛躍します。
とはいうもののどうしてもインナーの活性化を目指したいのでしたら、まず「インターナルマーケティング」にチャレンジすることです。これが成功すれば、必然的によい意味でのインターナルブランディングが自然に形成できます。
3.プロダクトコミュニケーション
BtoB企業にとって商品やサービスが最大の露出機会であることは意外と見過ごされている。BとC企業には遠く及ばない広告宣伝予算で、そのほとんどがカタログや展示会などのプロモーションツールで消化され、必然的にマスメディアを利用したブランド露出は制限されてしまう。
そんな中で、実はもっともエンドユーザーとの接触を保っているのがこの商品やサービスなのである。これはブランドコミュニケーションにも大いに関係するのだが、たとえば、「あなたは昨日見たテレビや新聞で、○○会社はどんな広告をしていましたか?」と問われた場合、ほとんどの人は明確に答えられないであろう。ここで言う○○会社がたとえBtoC分野の誰もが知っている企業であったとしてもだ。
言うまでもなくブランド形成における広告の役割は、その累積記憶度が大きく影響する。ブランド認知から記憶にまで昇華させるには、気が遠くなるほどの広告露出機会があって初めて可能になる。
一方上記の質問に代えて「あなたは○○会社にどんなイメージを持っていますか?」との質問では、接触機会のある企業に対してはほとんどの人が答えることができる。しかしここで想起されるブランドイメージはどのようにして形成されているのだろう。
おそらく過去に購入経験があった商品やサービスに対する何らかのイメージが、潜在的に影響しているものと思われる。あるサービスマンの理不尽な対応や想定外の商品の不具合がその企業のイメージを著しく損なってしまうのは誰もが経験することである。
このように商品やサービスが我々に与えるブランドイメージは、広告のそれとは比較にならないくらい重要な役割を演じている。その意味でも、商品やサービスに対する質の向上はブランド形成の最重要課題と言える。
またたとえBtoB商品であっても、心地よい作業空間の提供という観点から製品デザインにも一通りの質を与えるべきだろう。潤沢な広告宣伝予算を持たないBtoB企業にとっては、製品やサービスそのものがマスメディアであると捉えることができるし、それと接触したエンドユーザーそのものがまたメディアとなってブランド形成に一役買ってくれるかも知れない。
2.CSRの一環としてのブランドコミュニケーション
最近CSRや企業の説明責任ということが注目されているが、実はこの「企業の説明責任」が従来はほとんど行われていなかった。説明責任というと、事故や事件などネガティブな事柄に対しての説明責任と捉えられがちであるが、企業活動そのものに対して、また商品や技術そのものについて消費者に限らず社会全般にわたってきちっと説明する責任が、企業にはある。
そんな企業PRをしてもものは売れないよ、というのが企業経営者の常であろうが、口喧しくCSRなどというのならまず社会に対して自社の技術や優位性を分かり易く伝えるのが先決だろう。20世紀はとにかくマスメディアによる露出で商品の販売優先だったが、21世紀は各企業の持つ独自の技術や開発姿勢を、せめて高校生でも分かるような平易なメッセージで企業を売る時代だと言える。
いわゆるエクセレントカンパニーとか多額の資本を担保としたマスメディアでの露出によって注目される企業が多い一方、我が国にはほとんどブランド露出が行われていないにもかかわらず、世界でもまれに見る高度な技術を持った中小の企業が多く存在する。これらの企業がもっと自社の説明責任を果たしてもらいたいし、そうすることによってとかく物づくりの疲弊が云々されている中で、国民の企業を見る目や我が国の技術力への自信も深まってくると思われる。
WEBサイトを利用したこれらの情報開示は、極めて低コストで可能であり、しかもサイトへのアクセスが今ではURLの打ち込みよりもグーグルなどの検索サイトからの訪問の方がはるかに多いことを考えると、知名度のほとんどない企業でも十分な効果をもたらすだろう。
「いやあ、うちはネジしか作っていませんから、そんな情報誰も見ませんよ。」といわれるかも知れないが、BtoCの分野で我々が日常目にする商品には必ずこのネジなどの部品を含む。部品の優秀さが最終商品の品質を決定づけることは言うまでもなく、似たり寄ったりの過剰な商品に囲まれた現代は、むしろ部品の優位性がその商品の価値を差別化する時代とも言える。
事実最近は最終商品のメーカでさえ、商品の差別化のために使用部品の特異性を売りにしているケースを見受ける。こんな中で部品メーカがその技術を分かり易く社会にアピールすることは、ブランドコミュニケーションの第一歩だろう。
ではブランドコミュニケーションにおける演出はどうすればいいのか。マスメディアでのそれは、情報発信者である企業側がある意味では情報操作することができたし、実態にそぐわない華美なブランド演出が横行していた。しかしネット時代ではむしろ情報の受け手側、つまり社会や消費者の側にその判断が委ねられることになる。
ここではまず正確な情報を分かり易く伝える、というコミュニケーションの基本が最も重要になってくる。そのバックボーンには、企業自らの技術や商品に対する思い入れと自信があってこそ、初めて可能になる。
最近はブランディングコンサルタントなどにブランド演出を丸投げするケースが見受けられるが、まずは自社で今一度独自の技術とそれが社会に与える影響や効果を見つめ直すことが必要であろう。
ネジ1本でも技術の進歩や社会の発展に欠かせない力を持っているのであるから。自社の思い入れそのものがブランドであり、ブランドコミュニケーションとは、その思いを企業の説明責任と言う側面から社会にメッセージすることだと思う。
しかし一方で、今までいわば密かに顧客と接触して与え与えられた情報を、誰が見るかもわからないネットで公開することに大きな抵抗感を持つ企業も見受けられる。BtoB企業は言うなれば今まで極めて閉鎖された社会の中で、その存在価値を維持していたとも言えるだろう。確かにセキュリティをはじめとしたネット社会特有の問題を抱え、いまだに社内LANから動画などの閲覧は禁止という企業も少なくない。
重要なのは、ネット社会の弊害というネガティブな側面を眺めつつ、50年に一度あるかないかのこのコミュニケーション変革を自社の企業システムにどのように植え付けていくか、が課題となる。
今後インターネットはまた新たな進化を遂げ、いわゆるWEB2.0に代表されるような社会や顧客を巻き込んだコミュニケーションダイナミズムが展開されようとしている。ここでも企業がもっとも嫌う情報のリークや個人認証の問題を抱えているが、時代は急速に移り変わろうとしているのも事実である。
いずれにしても、従来のいわばリアルな営業(コミュニケーション)活動と、ネットでの先端的な営業活動とのけじめを明確につけ、それぞれを共存させる仕組みづくりが必要となる。ここでは、このような社会的な背景を睨みながら、BtoB企業がなし得る4つのコミュニケーション(ブランドコミュニケーション・プロダクトコミュニケーション・マーケティングコミュニケーション・ヒューマンコミュニケーション)の形態とその課題について述べてみたい。
1.ブランドコミュニケーション
BtoB企業の多くは売上高広告宣伝費率が低く、マスメディアを駆使したブランド戦略はどうも敷居が高い。ブランディングに成功しているBtoB企業もあることはあるが、そのほとんどは企業規模も大きく多額の広告宣伝予算に裏付けられたマスメディアでの露出の効果と言える。もちろんその背後には綿密なブランド戦略が存在するのだろうが、要は予算の問題が欠かせない。ほとんどのBtoB企業はとてもマスメディアを利用したブランド戦略など考えられないと言うのが正直なところだろう。
しかしインターネットはこの難問を見事に打開する。WEBサイトの構築はそのデザインや仕組みによってコストにも大きな幅があるが決して多額の費用を必要とするものではない。このWEBサイトを利用したブランドコミュニケーションは、コストパフォーマンスから見ても妥当性が極めて高い。しかしここで壁になるのが前述した情報公開での及び腰の姿勢である。情報公開に対してこのアレルギーがある以上、これからますます進化するネットコミュニケーションから置き去りにされるのは目に見えている。今の時代はいくら隠そうとしても自然と漏れるものであり、むしろ漏れる以上に新しい情報をどんどん公開していく企業姿勢そのものが、ブランド形成の大きな要因となるのである。
一方、新聞広告やテレビCMなどでも最近BtoB企業が活発にメッセージしているのを見かける。これはBtoBよりむしろBtoS(Society)と言った方が適切と思うが、特定の人(C--Consumer)や企業(B--Business)にではなく、社会全般に対して企業の存在意義を訴えていこうとするものだ。
実は私自身は今後マスメディアではこのBtoSコミュニケーションが主流になってくるものと考えている。その背景にはやはりインターネットの存在がある。ネットによってあらゆる情報を入手することが可能となった。そこには正確な情報もあり当然間違った情報もあるが、受け手はそれぞれの情報を自在に組み合わせてひとつのイメージを自らの中に構築する。
BtoC分野ではたとえば価格comなどによって使用者からの新鮮な情報を得ることもできる。これは企業が発信する情報よりもむしろ信頼度が高く見なされる傾向があり、こと商品情報に関していえば、最近問題視されている広告の売る機能が低下しつつあることにも関連していると考えられる。もはや広告によっていくら商品の優位性を伝えようとも、使用者の正直な評価には太刀打ちできない構図がここにある。
それに替わってBtoSでは、社会に対して企業の存在意義や社会が抱えている様々な課題に対しての企業としての考え方などを独自のメッセージとして提示し、オーディエンスとともに考えると言う姿勢がこれからは重要になってくる。
つまり、企業側から一方通行的にブランド認知を強制するのではなく、オーディエンスとの共通課題に対する理解のプロセスで、ブランド認知という付加価値を得る手法である。
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。 現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。