《質問》
弊社ではもう十数年にわたりPR誌を制作し、お客様に郵送しています。ところが最近、全社的な経費削減のあおりを受けてこのPR誌を廃止するよう上司から指示されました。上司の言い分は「WEB全盛の今、印刷物としてのPR誌には価値がないし誰も読まないだろう」と言うものです。私としてはお客様との貴重な接点であるPR誌をこのまま継続したく考えていますが、上司を説得する理論的なバックボーンを持ち合わせていません。そこで、PR誌のメディア価値とブランディングや業績への関与度合いについてご教授いただければありがたいです。(建築資材メーカー・営業企画部)
《回答》
十数年間PR誌をお客様に送り届けてこられたことに敬服します。企業として大変重要な役割を担ってこられたと思います。しかし現在、御社同様多くの企業でコスト削減を目的としてPR誌の廃止やページ数の縮小が相次いでいます。
これは企業自体にPR誌に対する価値が明確化されていないことと、WEBサイトなどに見られる顧客とのコンタクト(引き合い)がPR誌では実感できない結果、受注に直結しないメディアであるという誤解がその要因となっています。
御社がどのようなスタイルのPR誌を作られているのか分かりませんが、ここでまずPR誌のあり方を確認しておく必要があります。
PR誌は名称から見れば製品や企業を宣伝(PR)する冊子、と理解されがちです。そしてここに大きな落とし穴があることにあまり気づかれていません。事実多くの企業が発行するPR誌のほとんどが、新製品の紹介や納入事例などで埋め尽くされており、まさに製品のPRメディアとなっています。
PR誌なのでそれでよいのでは、と思われがちですが、そうすると、通常の製品カタログとの違いが不明確になってきます。しかも製品カタログは前号でも述べているように、営業担当のツールとして商談を効率よく進ませる機能が必要です。しかしPR誌が製品カタログと同様の内容であっても、そこには営業担当も商談機会もありません。つまりPR誌が製品カタログ化してしまうと、結局製品カタログにも及ばない中途半端なメディアとなってしまいます。
ではPR誌の本来の価値は何なのかを考えてみたいと思います。PR誌は本来既存顧客をターゲットとしたメディアであることをまず念頭に置く必要があります。蛇足ですが、PRの意味は宣伝ではなく社会や顧客との良好な関係を保つことであり、その意味ではPRの「R(リレーション)」に軸足を置くのが鉄則です。つまりPR誌の本来の価値は、「既存顧客との良好な関係性の維持」と言うことになります。
では顧客との関係性を良好に維持するとはどういうことか、を考えてみたいと思います。
顧客企業では新製品開発や新事業開拓、さらには生産性の向上による業績改善など様々な課題を持っていることはすでに別稿の「ASICAモデル」で述べています。それらの課題に対してソリューションを提供することが営業の第一歩なのですが、それは製品カタログを用いた通常の営業活動の役割です。PR誌の重要ポイントは、顧客自身がソリューションを考えるヒントを多様な側面から提供することにあります。
ここでは御社の製品や技術はとりあえず横に置いておいて、多くの企業が抱える課題やその前提となる社会課題についての知見を丁寧に述べることになります。現在では多様な社会課題が存在しますので、その材料には事欠かないと思います。
ただ、御社の事業範囲と大きく乖離した内容になってしまうと、単なる情報提供だけに終わってしまいますし、読者である顧客側でも御社のブランドとの整合性が不明瞭になってしまいます。これでは顧客との良好な関係性の維持という本来の目的からずれてしまうことになります。したがって、大切なのはあくまで建築資材メーカーである御社のオピニオンとして社会課題について述べなければなりません。要は、PR誌の内容から御社のブランドが類推できることが大切なのです。
たとえば、御社は建築資材メーカーですが、PR誌のテーマを広く建築全般にわたって将来生じると思われる課題について言及することです。どこにもない新しい工法の建築や完璧な防災に配慮した建築材料の将来性、そして逆に古代の建築に施された人々の智慧など、少しでも顧客課題の解決のヒントになる内容で構成できれば顧客にも大いに喜んでいただけると思います。そして重要なのはそれらの内容は御社独自の考え方に基づいた方がより顧客との関係性は強固になります。顧客から「その内容はもう知ってる」と思われると逆に御社の知見や技術力に疑問符が付きます。そうではなく「そうなのか。よく言ってくれた。大変参考になった」と思われればもう御社へのロイヤリティは急速に向上します。
つまり、課題の発見とその解決方法は、顧客企業であっても知られていない独自の視点とソリューションの提示が重要なのです。
このような形でPR誌を編集・発行していけば、いずれ顧客側から「次はどんなテーマが出てくるんだろう」と言う期待感が生まれ、それが顧客との良好な関係性の継続へとつながっていくのです。
またこの内容をWEBサイトに移植すると、WEBサイト自体のアクセス数の増加に寄与できます。最新の検索アルゴリズムは従来のようなキーワードありきではなく、コンテンツ全体の有用性を検索ロボットのAIが判断しますので、顧客に有用な情報は優先的に検索サイトにインデックスされます。そして、上記のような内容であれば、様々な文言が記述されるはずですのでキーワード検索にも有効に働きます。そして何よりも役に立つコンテンツは他の企業やサイトからリンクが張られる可能性が高く、上記のアルゴリズムから、いわゆる被リンクされるサイトはまた優先的にインデックスされますので、PR誌を制作しそのコンテンツをWEBなどに二次利用することによってそのメディア価値は飛躍的に向上します。
このようにPR誌は顧客との良好な関係性の維持という企業にとって最も重要な課題に有効に機能する唯一の貴重なメディアであり、しかも上記のようにWEBへの展開も含めてコンテンツの露出機会の増加に伴ってブランド構築にも寄与できます。そして何より顧客からの信頼性とレピュテーションが得られれば業績にも大きく関与するのは言うまでもありません。