河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

ブランディング

取扱説明書はブランディングに有効か

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊴

《質問》

以前本欄でブランディング手法について拝見しました。そこではプロダクトブランディングが有効だと記され、製品の取扱説明書もブランディングの要因になると言われていました。取扱説明書は私の担当ではないですが、弊社でも取扱説明書の専門部署があります。ブランディングに有効な取扱説明書がどのようなものかについて、もう少し詳しくご教授いただければありがたいと思います。(医療機器メーカー・製品企画部)

《回答》

「認知度向上のための効果的なブランディング手法」の本稿からのご質問ですね。

プロダクトブランディングが有効なのは、とりわけBtoB業界では製品やサービスがメディアよりも遙かに日常の露出が多いことが要因です。いくらメディアを使用して製品や企業の優位性を訴えても、製品やサービスがお客様から信任を得ていなければ好ましいブランドは成り立ちません。その意味ではまず有効なブランディングにはお客様から評価されるものづくりやサービスが不可欠となってきます。

しかし現状は多様なメディアを駆使したブランディングが主流で、製品やサービスの使用現場でのブランド認識率が軽視されています。誰もが経験することですが、いくら素晴らしい広告を行っていてもその企業の提供する製品やサービスが使いづらかったり故障が多ければ当該企業のブランドは一気に低下してしまいます。

ご質問は取扱説明書がブランディングにどのように影響を与えるか、と言うことだと思いますが、じつはブランディングにおいて取扱説明書はいわばエアーポケットのような存在になっています。

素晴らしい先端技術を駆使して優れた性能を持つ製品であり、間違いなく使用者に新たな価値をもたらすものであれば、プロダクトブランディングには極めて有効に作用します。

しかしここでその製品の取扱説明書が読みづらいとか緊急時にどのページを見れば対応できるのか即座に判断できないような作りでは、せっかくの製品のブランド価値は低下してしまうのです。

言うなれば製品と取扱説明書は一心同体でブランディングに寄与しているのです。しかし現実は製品開発部門と取扱説明書の制作部門がほとんどの企業の場合分離しています。ここが大きな課題となっています。

極論を申し上げれば、プロダクトブランディングの基礎となるプロダクトコミュニケーションは、じつは使用者と製品そのものとのコミュニケーションと言えます。しかし現実には製品が使用者に向かって語る訳ではありません。したがってその間に取扱説明書というメディアが存在し、製品の語りを代替しているのです。つまり、プロダクトコミュニケーションにおける取扱説明書は本来は邪魔な存在とも言えます。

とはいうものの取扱説明書なくして製品の操作は不可能でしょうし、使用者側も製品を駆使するに当たってどうしても取扱説明書を頼りにしてしまっているのが現状です。

取扱説明書をプロダクトブランディングの一環として有効に機能させるためにはいくつかの課題を克服しなければなりません。まず、前述した製品開発者と取扱説明書制作者との分離を解消することです。これには製品開発時点で取扱説明書制作担当の参加が必要条件となります。開発担当は技術的な視点でものづくりを行い、取扱説明書担当者は使用者の視点で操作性やUI(ユーザーインターフェイス)に取り組むことになります。

つまり開発者目線と使用者目線とを開発の時点ですでに融合させていることが不可欠だと言うことです。製品開発時に見落とされがちなのは、開発者目線と使用者心理は異なるということです。開発者は性能や機能重視でものづくりしますが、使用者は性能や機能がよいのは当たり前で、むしろ適確な操作やトラブル発生時の心理状態が製品に対するブランドイメージに影響を与えます。

現在はどの企業でもプロダクトコミュニケーションは十分とは言えず、これがコーポレートブランディングとプロダクトブランディングに齟齬を来たし、結果的にコーポレートブランディングの低下を招くことが少なくありません。

プロダクトコミュニケーションには二つの課題があり、一つは取扱説明書によるテクニカルコミュニケーション伝達力の課題。もう一つは使用者の取扱説明書に対するテクニカルコミュニケーション読解力の課題です。これらを解決するためにも前述した開発時点から取扱説明書担当者の参加が望まれるのです。

話はそれますが、今後社会やビジネスの分野では大きな課題が待っています。超高齢化による取扱説明書認知度の低下。製品の高機能化やデジタル化によるデジタルデバイドの問題。オーバースペックとも言える製品の多機能化に反した使用者側での取扱説明書の読解力の低下など。これらの課題は今後否応なく各企業に押し寄せ、場合によれば製品開発のプロセスそのものを大きく改革せざるを得ない事態がやってくると推察できます。

この事態に対応するためにはまずプロダクトコミュニケーションの基本である製品そのものが使用者と対話できる機能が不可欠になってきます。つまり取扱説明書がなくても製品を操作でき、トラブル発生時には適切な対応の仕方を製品自らが指示を出す仕組みです。おそらく遠くない時期にはすべての製品にはAIと音声認識機能が組み込まれ、製品と使用者との対話は実現するでしょう。

さらに興味深いのは、じつは製品の操作やトラブル対応はメーカーよりも使用者の方が熟知していると言うことです。その意味では製品開発時に使用者を参加させることも選択肢としてはあると思いますが、機密情報の管理という側面からなかなか難しいと考えます。それならば、使用者の製品に対する操作方法やトラブル対応情報をクラウドでデータベース化し、さらにスマホやタブレットを製品にかざすだけで機器認証ができ、必要とするクラウド内の情報を得ることも可能になるでしょう。

この場合は使用者がクラウドデータベースに製品情報を入力しなければなりませんが、このプロセスもブランディングでは有効に作用することが考えられます。言い換えれば、使用者による使用者のための取扱説明書がクラウドに存在し、タブレットなどで即座にアクセスできる次世代の取扱説明書(操作指示・トラブル対応)データベースなのです。

このいずれもがまだまだ技術的にもコスト的にも無理だと思われる場合、もう一つの有効な手段は取扱説明書を「読む取扱説明書」ではなく「見る取扱説明書」に変貌させることです。我々の頭脳での情報処理は文章を読むよりも視覚的に見せる方が遙かに効率的です。そのためにはまだ我が国ではあまり普及していませんが、インフォグラフィックスを多用した取扱説明書が待たれるところです。

プロダクトブランディングはBtoB企業では非常に有効ですが、それを阻害している要因として取扱説明書の存在があること、そして取扱説明書を改善するか不要にするほどの製品機能の改革が、今後プロダクトブランディングの観点から重要になってくると思われます。

認知度向上のための、効率的なブランディング手法とは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊱

《質問》

弊社はBtoB企業であるため知名度が低く、何とかもっと知名度を上げて業績に反映できないかと模索しています。すでに多くのブランディングに関する書籍を読みましたが、いずれも非常に難解でとても現実の業務に生かすことは難しいように感じています。ブランディングとはこんなに複雑で学者でしか理解できないようなものなのでしょうか。もっと分かりやすくだれにでも取り組むことが出来るブランディング手法をご教授いただければ大変助かります。(機械メーカー・総務部)

 

《回答》

ご指摘の通り最近はブランディングに関する書籍は多く出版されていますが、いずれも一般社会人が理解するには非常に難解な内容であることは確かです。それはどうしても経営学の立ち位置でブランディングを述べると、様々な論文の引用などから自ずと難しい内容にならざるを得ないからです。

そのような難しい書物を読むまでもなく、これから述べる内容を御社の出来る範囲で行っていただければ、ある程度の成果は間違いなく出てくると思いますので、安心してください。

その前に、御社が誤解されている重要な点を指摘しておきたいと思います。

まず、ブランディングと認知度は少なからず関係しますが、認知度と業績は直接的には関係ありません。認知度が高くなったからと言って売上げが増加するわけではなく、また認知度が極端に低い企業でも毎年売上げ増加を達成している企業もあります。

したがってブランディングの目的は、まずターゲットとなる見込み客層に対するブランド認知と記憶、さらには記憶再生がいかに効率的に行われるか、であり業績はその効率がもたらす結果として表れてくるものです。しかし一方で、ブランドの重要性を語る上で大変興味深い現象があります。具体的なデータは持ち合わせていませんが、ブランド浸透率がある程度まで達成できると、極端な場合販売力が弱くても商品は売れてしまう現象です。おそらく見込み客や顧客の中で、態度変容にまで影響を与えるブランドの好意的な評価と記憶再生率が影響していると考えられます。

このような観点から見れば、ブランディングは企業経営にとって非常に重要な位置づけにあると思われます。しかもブランドを醸成する要因は多くの分野にまたがっています。

ブランディングは大きく分けて、「コーポレートブランディング」「プロダクトブランディング」「ヒューマンブランディング」の三つに分けることが出来ます。

まずブランド担当者に最も馴染みのある「コーポレートブランド」について述べたいと思います。

まず代表的なブランディングはマスメディアを使用した「ブランディング広告」ですが、ここでもブランディング広告と企業PRの混同が起きています。これは非常に重要なことですのでもう少し詳しくお話しします。

簡単に言えば現在ブランディング広告とされているもののほとんどは企業PR広告と言えます。ではブランディング広告と企業PR広告の違いがどこにあるのか。ブランディング広告は「メッセージ広告」と言いかえられます。一方の企業PR広告は「アピール広告」と言えるでしょう。メッセージとアピールではどちらがオーディエンスの心を打ち共感をもたらすでしょう。

メッセージは直接語られていない文脈をオーディエンス自らの心で読み取り、自分なりに解釈するものです。最も強烈なメッセージは「無言のメッセージ」であることはだれもが経験していることです。ここでは、メッセージ発信者の真意を読み取る努力をオーディエンスが行います。つまり、メッセージが何を意味するのかをオーディエンスが考えを巡らせて自分なりの到達点を見つけます。この到達点がメッセージ発信者の意図した内容と異なっていても問題ありません。重要なのは「広告を見て考えてもらう」と言うことなのですから。

一方のアピールは情報発信者が極論を言えば「我が社は素晴らしい会社です」と自ら自己自慢を広告というメディアを借りて行うものです。どうしても企業PR広告はこのような体裁になってしまいがちですが、こんな自己自慢をだれが信用するでしょうか? しかもこのアピールは直裁的に行われるため、オーディエンスに考える余裕を与えません。ここが大きな問題点なのです。

上述したようにブランド認知には記憶と記憶再生率が大きく影響します。まず記憶しなければリコール(記憶再生)は不可能ですが、じつは私達はリコールの数百倍、数千倍の記憶を持っています、ただ思い出せないだけなのです。

ではリコールに重要な要因は何かと言えば「自分で考えたことはリコールしやすい」と言うことです。このことから自ら考える機会を与えるメッセージ広告と直裁的なアピール広告のリコール度合いの違いは明白になってきます。

では何をメッセージ広告の主題として選定すればいいのかを説明します。とかく広告と言えばニーズ重視になりがちですが、じつはニーズは顧客サイドでも充分把握しており現在のような技術革新の早い時代には早晩解決される可能性が高く、オーディエンスに考える余裕を与えるとは言えません。

そこで重要なのが「課題提示」と「ソリューションの暗示」なのです。課題は将来引き起こされる問題と理解でき、ともすれば顧客サイドでも認識していない場合があります。現在社会課題を含めて様々な分野に多くの課題が存在しています。これをあえて提示することで、顧客から広告主の自信の現れと見なされる結果に導くことが可能です。さらにその課題に対するソリューションを暗示するメッセージがあれば最高です。

ここで言う課題については広告の主題となる大変重要なものですので、もう少し詳しく説明したいと思います。

じつはBtoB広告協会主催のBtoBコミュニケーション大学校を受講された方はすでに記憶されているかも知れませんが、2012年のASICAモデル(BtoB購買プロセスモデル)の講座の中で、課題の例として電気自動車を取り上げています。当時は電気自動車の重要なコンポーネントとしてモータや電池の高性能化が叫ばれ、その開発に様々な企業がチャレンジしていた時代です。

その講座の中で、電気自動車の将来の課題として「音源装置」を指摘していました。つまり、ほとんど無音に近い状態で走行する電気自動車は、将来その無音が安全上の問題になるだろうという予測のもとに提示したわけです。

それが2016年、ようやく自動車業界でも問題視され、あえて電気自動車に音源を備える方向で議論が始まりました。

当時はもちろん電気自動車にあえて音を出させることなど考えている企業はほとんどない状況でしたが、もしこのときある音響メーカーなどが「音のない自動車に安全はない」のようなヘッドラインで自動車の無音がいかに危険であるかをメッセージしていたら、当時の風潮に対する違和感が余計に記憶を増幅し、今になって即座にリコールに結びつき、その先見性からブランド価値は急速に高まったと考えます。

課題とはこういうものなのです。

ところでコーポレートブランディングで多くの企業が見逃しているのはじつは「建物」なのです。建築物はだれもが日頃から目にする大きなブランディング要素であるにもかかわらず、最近はどの企業も最新の建築部材の仕様に縛られて、画一的な建築デザインになっています。いくら優れた広告を展開しても、それ以上に目にする機会が多い建築物にメッセージ性がなければ、ブランド構築はちぐはぐになってしまいます。

またどこにもないユニークな本社ビルなどが出来れば、ランドマークとしての価値も高まり、最高のブランディングメディアとなるでしょう。つまり建築物そのものをメディア化すると言うことです。御社では今すぐにこんなことを言っても無理でしょうが、将来本社ビルの改築や新築の際には重要ポイントとして考えておいても無駄にはなりません。

このようにコーポレートブランディングでは、広告やWEBなどの既存メディアだけでなく、企業が保有している建築物にも目を配る必要があります。また、マスコミを対象とした広報活動の強化は、ブランド構築に大きな役割を果たすことも忘れてはなりません。単に新製品発表だけでなく、企画広報と称して企業内での様々な出来ごことや考えを丹念に広報することは、すでに述べた記憶とリコールの観点からもブランディングの第一歩とも言えます。

次に「プロダクトブランディング」について述べたいと思います。企業のブランド担当者もあまり意識していませんが、とりわけBtoB企業でもっとも露出度の高いのはじつは製品やサービスなのです。顧客リストを眺めればその数の多さに驚くはずです。

使用者がほとんど毎日接するこれらの製品やサービスをメディア化することによって、ブランディングの効率は格段に向上します。そのために重要なことは、製品やサービスの質がよいことはもちろんですが、製品デザイン、取扱説明書そして操作性を高めることであり、これらはブランド構築に継続的な効果をもたらすのです。

BtoC分野でも自分の好みのブランド商品を購入した結果、使いづらかったりすぐに故障し、サービス体制も悪ければほとんどの場合二度と購入することはないでしょう。もしこれらの不具合がSNSなどで拡散されてしまったら、マスメディアでせっかく構築したブランド価値は一気に崩壊してしまいます。

逆に購入した製品の性能やデザインが良くて、BtoB企業でも購買企業の二次製品の質に良い影響を与えた場合、当然のことながらリピート購買となります。これが前述した、「ある一定の閾値までブランド浸透率が上がると、勝手に製品は売れる」と言うことに繋がるのだと考えられます。

企業ではブランド担当者と製品開発部門は分離されている場合がほとんどですが、可能ならブランド構築のためにこれらの部門を統合させる勇気も必要になります。

すでにお話ししたようにブランディングは企業経営にとって大きな影響を与えます。そのためには組織を超えたブランド対策が必要だと言うことをくれぐれも忘れないでいただきたいと思います。

最後に最も重要な「ヒューマンブランディング」についてお話しします。

プロダクトに次いで顧客や社会との接触機会が多い社員をメディア化すると言うことです。言いかえれば社員一人ひとりが自社のブランド構築に大きな影響を与えているのです。ただ拙著「ASICAれ!」で述べているように、企業は経営者の資質によってその風土が特徴的な形態を有します。したがって、このヒューマンブランディングは経営者自らが率先して行う必要があります。

どんな製品であっても、それを販売する営業担当や故障時に対応するサービス担当の態度や言葉遣いによって知らぬ間にその企業のブランドに影響を与えることがあります。

経営者や社員の不祥事が一夜にしてブランド失墜の原因になることは極端な例ですが、通常の商談やサービス対応の際、対面だけでなくメール対応においても一担当者のふとした言動が相手企業からの信頼を損なう要因になることを忘れてはなりません。何も相手企業に媚びる必要はありませんが、営業やサービス担当者が自信を持って相手企業の立場で真摯に対応することが、ブランド構築に予想以上の効果をもたらすのです。
 
 その意味では昨今各企業が行っている階層別研修は逆効果になります。階層別研修は社員のコモディティ化を促し社員の個性を剥奪してしまいます。むしろ専門教育を徹底し、相手企業の知らない技術的内容にまで踏み込んで前向きに提案することがブランド価値を上げる要因となります。

現在あらゆるメディアや企業経営にデジタル化が進んでいますが、じつは企業に対する問い合わせの70%前後が電話によるものであることはあまり知られていません。もし電話問い合わせで、コールセンターが適切な回答をしなかったりたらい回しにしてしまったら、もう二度とその企業の製品を購入する気にならないことはだれもが経験しています。いくらデジタル化が進んでもヒューマンというアナログ的な要素をより重要視する企業風土がなければ、早晩その企業のブランド価値は低下していくのです。

以上のようにブランディングには「コーポレートブランディング」と「プロダクトブランディング」「ヒューマンブランディング」が一体となって行わなければ、ブランド効果はほとんどありませんが、残念なところブランディングの教科書には「プロダクトブランディング」と「ヒューマンブランディング」が言及されることは少なく、この点は気をつけた方がいいと思います。

あなたが言われるように数年来ブランディングに関する様々書籍が出版され、各企業ともそれに踊らされるようにブランディングに躍起になっています。しかしその結果はどうでしょう。この数年間で飛躍的にブランドイメージが向上した企業がいったいどのくらいあるでしょう? 皆無に近いと思います。それはほとんどの企業は理論や教科書に則って取り組んだとしても、コストをかけた大がかりなメディア戦略に依存しすぎプロダクトやヒューマンを軽視しているからなのです。

最後に興味深いお話しを。ブランディングにはコストがかかると考えられていますが、ヒューマン→プロダクト→コーポレートの順はコストのかからない順でありまたブランディング効果が大きい順でもあります。だから難解な書籍に惑わされることなく、どんな企業でも安価にブランディングは可能なのです。

社会に通用するコンセプトメイキングのしかた

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉛

《質問》

弊社はIT周辺機器を開発販売している中小企業で、競合企業が多い中企業ブランド強化のために組織の再編も含めて検討しているところです。従来は特別な広報宣伝部門はなく、営業部門でカタログ制作や展示会に対応してきました(すべて外注です)。ブランディングにあたって、まずコンセプトを明確にする必要があると代理店から提案があり、現在コンセプトの策定に四苦八苦しているところです。
私自身恥ずかしながらコンセプトをどのように設定すればいいのか、またすべて代理店に任せて済むものなのか良く理解できていません。そこで、企業ブランド再構築のために必要なコンセプト作りの手法などがありましたらご教授いただきたく、よろしくお願いします。(IT機器メーカー・営業部)

  

《回答》

今回のご質問の趣旨は、御社の企業ブランド強化(ブランディング)を目的とするために、コンセプトを策定するということだと理解します。

まず、どんな企業にとっても最も大切なのはコーポレートコンセプトです。コンセプトという文言はよく使われるのですが、その本質を理解されているケースはあまり目にしません。コンセプトが「目的」や「目標」とすり替えて安易に使用されている場合が少なくないのです。

さらにコンセプトは企業哲学のようなもので、当該企業のあらゆるモノや人、組織にも関与します。したがってとりあえずの流れを述べるとすれば、コーポレートコンセプト→プロダクトコンセプト(開発業務を含む)→組織編成コンセプト→人材育成コンセプト、という流れになります。その他、サービスや販社との関係構築にあたってのコンセプトも存在するでしょう。

そこでご質問のあったコンセプトメイキングについて、ですが。正直なところ各社とも非常に軟弱なコンセプトメイキングがなされているのが現状です。それは上述した「目的や目標」さらには「ビジョン」にすり替えられたフレーズをコンセプトと称しているもので、ビジネスオリエンテッドな現状ではある意味で致し方ないかも知れません。

しかしコンセプトは企業哲学であり、まずは当該企業がその哲学に基づいて社会に対して何をメッセージすべきなのかを考えることからコンセプトメイキングは始まります。

そこで大きな問題を抱え込むのがコンセプトメイキングをマーケティングの一環として理解してしまうことです。コンセプトとマーケティングはまったく関係有りません。現在はどの企業もマーケティング重視の傾向が強くなりつつあるのも、前述した軟弱なコンセプトが誕生する要因だと思っています。

つまりどういうことかと言いますと、マーケティングは販売を目的として、マーケットや社会の現状におけるニーズをリサーチすることですが、これでは得られるデータはマーケットや社会の現在の要望や要求になってしまいます。

コーポレートコンセプトは決してマーケットや社会に迎合したモノではなく、その企業独自のメッセージであるべきです。流行も関係有りません。誰が何を考えようがそれも関係有りません。ただひたすら自社にとってマーケットや社会にどんな貢献が出来るのかを自分たちで考えることが重要です。

簡単に言いますと、コンセプトメイキングで重要なのはマーケットや社会の意見を無視するということです。これはよく考えれば当たり前なのですが、たとえば同業社がマーケティングリサーチをしてコーポレートコンセプトを策定すればどのような結果が待っているでしょう。マーケティングリサーチの精度が高ければ高いほど、どのような企業も同じデータを得ることになってしまいます。その結果コーポレートコンセプトも独自性がなく歯の浮いた似たようなコンセプトになるのです。さらに恐ろしいのがそのコンセプトに基づいてプロダクトコンセプトや組織編成コンセプトに至ればまた他社と同じような商品や組織形態が生まれ、もはや企業そのものがコモディティー化する要因を作ってしまいます。

最近、どの企業も同じような商品ばかりで結果的に価格競争に陥ったり、同じような組織形態で似たような人材が多くなっているのはこれが原因です。

いうまでもなく企業が勝ち残っていくためには、マーケットや社会に媚びず、独自の技術と独自の経営手法によって企業運営していくことが大切です。この根幹になるのかコーポレートコンセプトなのです。

したがってまずコーポレートコンセプトを策定するにあたって重視しなければならないのは、「御社のシーズが何か」を明確にすることです。ニーズは無視した方が混乱しません。そしてそのシーズを元にして、現在ではなく未来のマーケットや社会にどのように貢献できるのかを考えることですが、ここで良くやる失敗は外部コンサルタントや代理店に依頼することです。自社のシーズや社員の特性は自社が最も良く理解しています。それを外部のブレインに頼ってしまうと、外部ブレインが理解できないことをマーケットや社会に求めようとして前述したマーケティングリサーチへと進んでしまうのです。これは絶対に避けなければならない大切な部分であり、しかも最も重要なスタートラインです。

ここで得られたメッセージにはいくつかの種類があります。

まずは、単純にメッセージとして社員や取引先に周知すること。この場合基本的にはコーポレートコンセプトはメディアなどでマーケットおよび社会に周知する必要はありません。あくまでも基本的なコンセプトとして社内の誰もが理解することが先決です。

もう一つは積極的にマーケットや社会にメッセージする方法があります。この場合は、単なるメッセージではなく、未来のマーケットや社会に対する課題提供や啓発活動の一環として捉えます。

私は数々のメディアで一貫したコーポレートコンセプトを展開するには後者の方が良いと思っていますし、その方が遥かにマーケットや社会に対するインパクトは強くなります。所謂メッセージ広告というのはこのような課題提供型の広告のことを意味しています。

さて、このようにしてコーポレートコンセプトが明確になれば、前述したプロセスでプロダクトコンセプトや組織編成コンセプト、さらには人材育成コンセプトへと繋がっていくわけですが、いずれもコーポレートコンセプトがその中に活かされていなければなりません。とりわけプロダクトコンセプトを策定する場合、マーケットを意識しすぎて、大きな間違いであるニーズを追いかけたコンセプトを策定してしまいがちです。技術革新が超スピードで進行する現在、ニーズを追いかけていては商品化された時点でそのニーズが陳腐化してしまいます。

そしてブランディング作業は、コーポレートコンセプトさえしっかりと策定できれば、それに沿った形でメディアごとに表現を変えて多様な広告展開が可能になります。

大切なのは、ブランディングを先行させて、コーポレートコンセプトを後付けすることは絶対に避けるべきだということです。

よくブランディング策定の際に議論される「マーケットや社会にどのように思われたいか」などといった主体性の欠如した視点ではなく、堂々と「どのように思われても良い。我が社はこうだ」とメッセージすることが、じつは最もアピール力を生むことを忘れてはなりません。

ASICAモデルについての質問

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉗

《質問》
 

私は現在印刷業界で日々クライアントと接し、広告やカタログの企画制作のお手伝いをしています。最近複数のクライアントから「ASICAモデルって知ってる?」と言う質問が多く、調べてみると日本BtoB広告協会から提唱されている理論だと知りました。クライアントの話では最近はASICAモデルに則った広告制作やカタログ制作が有効だと言うことが徐々に知れ渡っているようで、「貴方ももっと勉強しなさい」と言われてしまいました。大変恐縮ですがこの欄をお借りしてASICAモデルについてご教授いただければ大変有り難いと思っています。(印刷会社・クリエイティブ営業部)
 

《回答》
 

ASICAモデルはBtoB購買のプロセスモデルとして理論化したもので、既に2008年に当協会の機関誌で発表しています。詳しくはその頃の機関誌をご覧いただくか、拙著「ASICAれ!」(2012年刊、日刊工業新聞)をお読みいただければほとんど理解できると思います。しかし200ページもの書物を読むのも面倒でしょうから、ここではASICAモデルの主要部分について、かいつまんでお話しさせていただきます。
 

確かにASICAモデルはおかげさまで最近各企業に認知され、広告制作などに生かされつつありますし、とりわけBtoB業界では非常に有効なプロモーションプロセスだと思っています。またここに来てBtoC業界でもその有効性が認められようとしています。
 

ASICAモデルの最大のポイントは、「ホスピタリティ・マーケティング」を基盤にしたプロセスモデルであることです。ここで言うホスピタリティとは、最近流行っている「おもてなし」と言う意味ではなく、顧客や社会が抱えている課題を解決し、最終的に喜んでいただく、と言う意味です。したがって顧客に媚びたり顧客の言いなりになって商品販売やプロモーションを行う事ではない、と言うことをまず念頭に置いておく必要があります。
 

ASICAモデルは、A(アサインメント=課題)、S(ソリューション=課題解決)、I(インスペクション=検証)、C(コンセント=承認)、A(アクション=購買)の各プロセスを経てビジネスが完結することを意味しています。したがってビジネスのトリガーになるのはアサインメント(課題)なのです。

従来から広告分野では誰もが知っているAIDMA理論がありますが、この理論ではトリガーはA(アテンション=注目)になっています。なぜ注目を無視して課題がトリガーになるのかというと、現在のように驚異的に氾濫している情報の中ではもう既に「注目」という機会は期待できません。情報氾濫期ではすべての情報はノイズと衣を替え、オーディエンスにとって有益な情報はごく僅かしかないと言えます。それに替わって社会や生活がますます複雑化するに伴い、あらゆる場面で「課題」が生じてきています。
 

ここでニーズと課題の違いをお話ししたいと思います。従来からとりわけ広告分野や商品開発において、ニーズの先取りとかニーズにあった広告企画が求められてきました。ところが最近のように技術開発のスピードが速くなるにつれ、今のニーズは早晩解決されてしまいます。広告企画ではおよそ26カ月の期間を要し、商品開発ともなれば半年〜2年の期間が必要ですが、ニーズを追いかけると広告が完成した頃、商品が完成した頃には既にめざしていたニースは満たされてしまっているという現象が多々見られます。マーケティングリサーチによる広告や商品企画はこのニーズを分析して行いますが、その結果せっかく作った商品が売れないとか、広告が効かないと言う結果に陥っているのです。
 

一方で課題は場合によると顧客や社会ですら認識していない隠れた問題とも言えます。このやがて芽を出す地下に潜っている課題を掘り出して顧客や社会に提示することが広告企画の場面でも重要なのです。ニーズを満たされても今の時代ではほとんどの人はそんなに喜びません。時代の趨勢から当たり前だからなのです。ところが自分が知らなかった課題を提示され、その解決策を露わにすることで顧客や社会に強烈に印象づけることが可能になります。とりわけ相手が企業では「よくそこまで考えてくれた」と感謝され、それが信頼へと繋がっていくのです。
 

このようにASICAモデルのトリガーはまず課題探索から始まりますし、そのためには顧客企業はもちろんあらゆる分野の現状理解とそこから将来表面化すると思われる課題を把握することが非常に重要と言えます。つまり広告分野でも商品開発分野でも、現状のニーズの調査ではなく将来の課題探索が重要だと言えます。

課題さえ明確にできればどのようなメッセージでそれを理解させるか、と言うプロセスに移りますが、それ以降はメディアの選択とASICAモデルの各プロセスに合致したコンテンツを準備すればそんなに難しい事ではありません。
 

課題の次のソリューションは、自社の技術や製品でどのような課題解決が可能なのかを述べることになりますが、このメッセージは課題の提示と一体化した方が分かりやすいでしょう。ここでは新聞広告やWEBサイトが威力を発揮します。
 

インスペクション段階ではまさにWEBサイトが重要なメディアになります。提示されたソリューションが自社に合致するかどうかを競合企業などと比較検討するわけですから、WEBサイトが最も手っ取り早いと言えます。その意味ではWEBサイトにはあらゆる情報を搭載しておくことが不可欠です。とかくWEBサイトのコンテンツ企画の際、軸足を自社に起きがちですが、重要なのは自社を社外から客観的に眺めて競合企業に勝てるコンテンツづくりを行う事です。
 

コンセント段階はじつは課題に次いで重要なプロセスとなります。何しろここで承認されなければいくら優れたソリューションを提示して顧客に納得させても、最終的には他決の恐れがあるからです。承認決裁者向けのメディアは特に存在しませんが、ここではブランディング広告などで決裁者の潜在意識に植え付ける手法が有効です。また我が国ではあまり見かけませんが、社長向けのカタログなども効果的です。さらに現在どの企業も経理部門が力を持っています。企業成長を考えるとあまりよい傾向ではないのですが、時代の趨勢と見れば致し方ないことでもあります。それならば経理部門向けのカタログを企画しても面白いと思います。カタログは本来商品の特異性や優位性などを述べますが、経理部門にとってそんなことはどうでもいいのです。当該商品を導入することで顧客企業にどれだけの利益がもたらされるのか、を数式などを駆使して丁寧に述べることができれば最高です。
 

こうしてコンセントが上手く達成できれば晴れて購買(アクション)に繋がってくるのですが、ここで重要なメディアを忘れてはなりません。展示会です。本来展示会はPRの場ではなく受注の場なのですが、なぜか展示会に決裁者や検証者の来場を促す企業が皆無なのが不思議です。展示会はASICAモデルのすべてのプロセスに対応できますし、とりわけ実機を前にして検証作業や決裁の動機付けには他のメディアにはない力を持っています。展示会の有効性をASICAモデルからも再認識すべきでは、と考えています。

 

効果的なプロモーションサイトの作り方

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑲

《質問》

弊社では昨年からインターネット広告に注力しています。現在は広告をクリックすると弊社WEBサイトの所定のページにジャンプする仕組みで対応していますが、その効果が具体的に把握できません。確かにインターネット広告を行う以前よりも少しだけアクセス数が増えたようですが、それが弊社の受注にどれほど寄与しているのかまったく不明です。インターネット広告を行う場合、現状のようなやり方でよいのか、それとも特設ページを作る必要があるのか(予算の関係上難しい面もありますが)ご教授いただければ幸いです。またインターネット広告での効果測定はどのようにすればいいのか併せて教えていただきたく、よろしくお願いします。(機械加工メーカー)

 《回答》

まずインターネット広告の効果については本誌の201411月号をご覧いただければと思います。一言で言えば私の個人的な見解では少なくともBtoB業界においてはインターネット広告の効果は期待できないと理解しています。

さてご質問の内容を少し整理してみたいと思います。インターネット広告は一般の新聞広告や雑誌広告などと同様にいわゆる「広告」です。しかし新聞広告などと異なってそのコンテンツは極めて希薄であり、説得力もありません。その意味ではたとえば新聞広告で言えば「突き出し広告」と同様の機能しか持っていないと考えられます。

そこで重要なのがインターネット広告からどのようなページにジャンプさせるかです。御社がなされているような、通常のビジネスサイトの所定のページにリンクするやり方はかなりイージーでありあまり効果は期待できません。つまりこの方式では単に検索エンジンの代わりにインターネット広告を用いているに過ぎないのです。

BtoB分野でのクロスメディアの観点から見れば、いわゆる新聞、雑誌、テレビなどのマスメディアでの広告で商品が売れることはまずありません。これらのメディアの活用目的は各社様々ですが、ブランディングや商品の告知、見込み客の獲得などに留まっています。話はそれますが、これらのマスメディアから得られた見込み客を顧客に変換する装置としてじつは「展示会」が存在します。あるいは見込み客に対する営業活動(フェイスツーフェイスでの商談)もその刈り取りに重要な役割を演じます。

この流れから見ると、インターネット広告は内容の希薄な広告でありそれだけでは見込み客は得られません。だから所定のページにジャンプさせてそこで商品や技術の詳細を述べて見込み客を得る仕組みになっています。いわば二段構えの広告戦略とも言えますし、穿った見方をすれば無駄の多い広告活動とも言えます。

ではどのようなページにジャンプさせるのが効果的なのか考えてみたいと思います。前述のように広告から得られた見込み客を顧客に変換するために展示会や営業活動が必要になります。それならば、インターネット広告からジャンプさせるページは十分な営業力を持つページでなければなりません。いわゆるスペシャルサイトとかプロモーションサイトと言われる特設ページがそれにあたるわけです。ここでは当該商品や技術・サービスの内容を分かりやすく理解してもらうために、図表や動画などを充分駆使しなければなりません。何しろ通常営業と異なってフェイスツーフェイスの商談ができないわけですから、それに匹敵するくらいの説得力を持つサイトでなければならないのです。

ここで注意しなければならないのは、商談現場のプロセスを無視してやたら画像を大きく扱ったり動画をふんだんに使ったりすることです。そのようなサイトでは訪問者は視線移動が激しくなり整理された形で情報伝達ができないため、記憶にも残らず当然説得力もなくなります。あくまでも商品やサービスを売ることが目的ですから、実商談のプロセスを尊重し起承転結を明確にして丁寧に述べることが大切です。

しかしコミュニケーション達成率から考えても、営業担当による商談能力以上のサイト構築は事実上非常に困難だと言わざるをえません。たとえば営業担当がフェイスツーフェイスで1時間かけて商談する内容を特設サイトで構築すれば気が遠くなるほどのページ数が必要になり、読み手もすべて網羅して読んでくれるとは限りません。そこで威力を発揮するのが映像なのですが、残念ながら現状ではWEBサイト上での映像表現に優れたスキルを持つ人材が極めて少ない問題があります。

そしてもっと重要な問題がここに秘められていることに気がつきます。十分に営業活動に匹敵できるサイトがもし構築できるなら、何も特設サイトやスペシャルサイトなど気にせずにすべての商品やサービスをスペシャルにすればいいのです。当然コンテンツ量も数倍に膨れあがりますし、それなりの制作コストも必要になるでしょう。しかしその一方で、貧弱なコンテンツよりも遥かに検索エンジンにヒットされやすいポジティブな側面が生まれてきます。

現在インターネットはほぼ飽和状態にあり、WEBサイトへの訪問数や引き合い(見込み客)数も右肩上がりではなくなっている状態です。いわば企業におけるインターネットビジネスの限界がそろそろやってきたとも言えますし、それを打開するためにも従来のような画一的なCMSを利用したコンテンツ制作から一歩前に出て、すべての商品やサービス、さらには企業そのものをもっとダイナミックにスペシャルサイト化すべき時代になってきていると考えます。

しかしここまでコストをかけてスペシャルサイト化したところで、BtoB業界ではWEBサイトで直接受注に結びつけることは極めて希です。と言うことは、どんなに優れたサイトであっても、購買プロセスから見れば所詮は広告と何ら変わりがないとも言えます。

インターネット広告の効果測定についてですが、ずばり見込み客の獲得数になります。コスト効率を考えるならサイト構築に費やしたコストを獲得見込み客数で割れば算出できますし、その数値の推移を追いかけていくことが効果測定の原点になります。訪問者数が多いとか、特定のページでの滞留時間が長いなどは効果測定には何の影響も与えません。

一方で見込み客を顧客化(受注する)するには展示会か営業活動を待たなければなりません。そこで重要なのは展示会にしろ通常営業にしろいわゆる対面営業のスキルが問題になってくることです。多くの作業がデジタル化された現在、対面営業のスキルの低下が各社とも顕著になっています。その原因はここでは述べませんが、どんな優れた広告であってもWEBサイトであっても、最終的な見込み客の刈り取り能力がなければこれらに投下したコストはすべて無駄になってしまいます。その意味でも、まず営業担当の商談力の強化(セリングの強化)が今重要な時期だと思っています。

 

インターナルブランディングの必要性と効果について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑰

《質問》

最近インターナルブランディングが注目され、我が社でも導入の気運が高まっています。そこでお尋ねしたいのですが、インターナルブランディングの効果と導入手法について、具体的な事例などがありましたらご教示いただきたいと思います。現在のところ我が社では、外部のコンサルタント(代理店?)に依頼する方向で進めています。(通信メーカー)

《回答》

確かにここ数年インターナルブランディングが注目されていますね。この考えは1990年代に米国企業でなされた活動が参考になっています。

結論から申し上げますと、私はインターナルブランディングにはまったく効果もなくその必要性もないと思っています。まさにお金の無駄遣いです。

ここで確認しておきたいのですが、まずブランドとはある対象(意識を持つ個人がほとんど)が被対象(個人や企業、団体、商品、サービスなど)に対して抱く心の変容を指します。つまりブランド形成には必ず被対象とそれを評価する対象者が存在することになりますし、ブランディングはそれらの関係性を構築するために行うものと考えられます。

たとえばブランディング広告などは、被対象である企業や商品に対して対象者が信頼性を持つ、好ましい感情を持つ、親しみを持つなどの心理的な変容を意図として行われます。その意味では外部に対する所謂エクスターナルブランディングは企業価値の増大化に欠かせない活動とも言えます。

ではインターナルブランディングの構図を考えてみたいと思います。一般的にはインターナルブランディングは、当該企業の企業理念やブランドを基盤にして、従業員一人一人が適切に行動し業務改革を行うための活動、あるいは従業員に自社ブランドの持つ意味や価値を徹底して理解させ、業務に活かすことを目的とする、とされています。

こうしてみると一見「なるほどインターナルブランディングは社内活性化と企業価値の向上に大きく役立つ」と思いがちですが、大きな落とし穴がここにあることにあまり気づかれていません。

それは前述のように、ブランドの価値は当該企業や従業員が決めることではなく、あくまでも対象者の心に宿るものです。それを「我が社のブランドにはこんな価値があるから、従業員全員がそれを徹底してその価値にふさわしい行動をすべきである」というのは本末転倒以外の何物でもありません。

さらに問題なのは、多くの企業が行っている(あるいは行おうとしている)インターナルブランディングに対する手法にブランドブックの作成や社員研修、グループ活動などが上げられることです。

まずはブランドブック。いわば教典のようなこのツールは、「我が社はこんなブランドや理念を持っている。みなさんの日常業務にここ考えを浸透させ企業発展とさらなるブランド価値向上に役立てましょう」と半ばトップダウンで行われる活動の基盤になるものです。

 ここでは従業員の目は教典やその教義に集中し、本来ブランド形成に大きな力を持つ社会やマーケット、さらには他の組織に属する人々の存在は忘れ去られています。拙著「ASICAれ!」で述べている、企業として最悪の低気圧型ホスピタリティ(常に社会や顧客ではなく上司や社長など企業の上層部にばかり目が行く企業のスタイル)の様式がここに現れています。

 くどいようですが、ブランドを作り上げるのは社会に属する個人であることから考えると、この手法はまったく逆の効果をもたらすとしか考えられません。さらに従業員と言えどもそれぞれに個性を持つ一人の人間です。それをブランドブックという聞こえはいいですが、いわば教典まがいのツールによって個性を埋没させるのはけっして好ましいことではありません。

次に社員研修。最近はどの企業でも頻繁に社員研修が行われていますが、ここでもその弊害にあまり気づかれていないようです。研修そのものを否定はしませんが、問題なのは多くの社員研修が「階層別研修」であることです。つまり、課長や部長などそれぞれの階層ごとに「課長はこうあるべきだ。部下の指導はこうすべきだ」と強引に教え込まれます。
 
ここでも個々人が持つ個性は否定され、当該企業の管理職としてふさわしい組織人に育成されるのです。言うまでもなくどんな管理職であってもそれぞれに個性があってしかるべきで、その個性に憧れて部下は成長していくものです。同じような考えや無個性の管理職だらけでは企業そのものの個性も消滅し、ひいてはブランド形成にはまったく役立たないと考えられます。

ブランド形成の対象が社会における個人や顧客であることを考えれば、まず重要なのは企業運営の根幹となる商品やサービスの高付加価値を目指すことです。さらに、顧客との接点である営業担当の商談能力もブランド形成には重要です。その意味ではもし研修を行うなら、優れた商品開発者や営業担当の育成を目的として、階層別ではなく業務別研修に徹するべきでしょう。しかしここでも個々人の個性は重視されるべきですし、それに則った研修にする必要があります。

インターナルブランディングを目指したグループ活動などまったく無意味です。そんな時間があるなら、もっと商品開発に集中したり顧客訪問によって顧客と会話をすることの方がはるかに意味があります。

ところで、ここでは具体的な企業名はあげませんが、一昔前は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり次々と新商品を発表し、マーケットや個人から支持を得ていた多くの企業が、現在ではみな同じ無個性の企業になってしまっている現状が散見できます。これにはさまざまな理由があるのですが、その大きな要因に社員の無個性化があり、それを誘導するのが上記の階層別研修であったり、インターナルブランディングとは行かないまでも、「みんなで同じ方向を目指して頑張ろう」式のややこしい活動だったりするのです。

ブランド形成が社会に属する個人の心の変容に要因があることから、まず重要なのはその接点である個性的で有益な商品の開発と営業担当の商談能力の向上がブランディングに大きく影響します。つまりエクスターナルブランディングです。それをさしおいてインターナルブランディングに熱を入れるのは、おそらくエクスターナルブランディングがうまく行っていないための対症療法とも考えられます。しかしこの対症療法が、ますます病状を悪化させるのは上述のとおりです。

極論を言えば社内規範を逸脱するくらいの個性ある人材を輩出し、それによってどの企業にもない独自の商品を世に送り出すこと。これによってその企業のブランド価値は大きく飛躍します。

とはいうもののどうしてもインナーの活性化を目指したいのでしたら、まず「インターナルマーケティング」にチャレンジすることです。これが成功すれば、必然的によい意味でのインターナルブランディングが自然に形成できます。

 
★プロフィール
河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。
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