河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

ニーズ

デザインドリブン・イノベーションは広告でも有効か

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉝

《質問》

昨年春から我が社では製品開発部門が中心となって「デザインドリブン・イノベーション」に取り組んでいます。私はコーポレートコミュニケーション部門の責任者をしており、新製品開発の進捗確認などのために時折その会議に参加することがあります。デザインドリブン・イノベーションに取り組んで以来、まだ目新しい製品の開発には至っていませんが、その理念は非常に興味深く、もしかして製品開発だけでなく広告分野でも応用できるのでは、と考えています。しかしどこを探しても広告におけるデザインドリブン・イノベーションを語った文献や資料を見つけ出すことが出来ません。そこで貴協会で上記の資料などありましたら入手したくお願いする次第です。また貴協会では広告分野でのデザインドリブン・イノベーションの可能性や効果などについてどのように考えておられるのかご教示いただければ幸いです。(匿名希望・コーポレートコミュニケーション部)

 

《回答》

素晴らしい発想です。広告分野において、デザインドリブン・イノベーションに取り組んでいる企業はおそらく皆無であり当協会にもそれに関する論文や資料はありません。しかし私は広告分野でもデザインドリブン・イノベーション(以下DDI)は非常に効果的であり、広告文化を大きく革新させる要素を持っていると考えています。

その理由を述べる前に、本誌の読者にDDIについて少し説明しておく必要があると思いますので簡単に記しておきます。

DDIの概念はそんなに新しいものではなく、すでに2003年頃にミラノ工科大学のVerganti教授によって提唱されました。ではなぜその成果が現在になっても数少ないのか、その要因として考えられるのが未だに各企業はマーケティング志向が強すぎる点です。

DDIはいわゆるマーケットニーズを重視した「マーケット・プル」政策と自社技術を重視した「テクノロジー・プッシュ」政策の二つの側面を包含しています。ところが現在でも多くの企業は「もうテクノロジー・プッシュ」ではモノは売れない。「マーケット・プル」思考でなければだめだと言う考え方に傾倒し、その結果マーケティング重視になっているのです。

さらにDDIではテクノロジーやマーケットニーズではなく、「意味(生活や社会、文化)の急進的な変化」が最も重要だと述べられている点も、取り組み姿勢に混乱を起こしていると考えられます。モノからコトへと、もうかなり古くから提唱されていますが、そのコトがじつは「意味」を意味するのです。その意味の重要性や認識度合いが各社ともまちまちであるためにDDIは本来の成果を上げられずに今に至っているのです。

ここまで述べただけでもさらに難しい話になってきていると思います。DDIを少し乱暴かも知れませんが簡単に説明すれば、ひと言「マーケティングはやめなさい。マーケットニーズよりも自社の技術やシーズをもっと大切にして、それらによって生活や社会に変革をもたらすような製品開発をしましょう」と言うことです。

つまりマーケットの意見などに左右されずに、マーケットや一般生活者ですが気づいていない驚くような製品や技術開発が重要だと言うことです。僭越ながらこの論理は、製品開発や広告分野でのメッセージで最も重要なのはニーズではなく「課題」であると述べているASICAモデルに合致するものでもあります。

DDIが成功した事例はまだ少なく、わずかにiPhoneやロボット掃除機などに代表されるに留まっています。ビジネスマンのワークスタイルや生活者のコミュニケーションに大きな変革をもたらしたiPhone。そしてだれもが考えなかった掃除機。このロボット型掃除機を開発したのは家電会社ではなく地雷探査用のロボットを開発していた企業なのです。もし地雷探知を行っているロボット企業がマーケティングを行っても、けっして掃除機の開発テーマはもたらされなかったでしょう。部屋の空間認識をしてあらゆる場所を走り回って掃除するこの商品が生まれてから、私達の生活は大きく変化しました。仕事や買い物に出かけている間に部屋を綺麗に掃除してくれるため、日常生活で掃除の必要がなくなったのです。

このように生活や社会のあり方などに大きな変化や革新をもたらすのがDDIの最大の目的であり、そこにはマーケットニーズは逆に邪魔になります。それよりも自社の技術を多方面に生かして、それぞれの分野で変革をもたらすことを念頭に置いて製品開発に取り組むことが大切なのです。

さて本題の広告分野でのDDIについて述べたいと思います。広告も製品同様に現在はマーケティング志向が極めて強いか自社技術のアピールに没頭しているかのどちらかです。その結果マーケットに媚びた歯の浮いたような広告になったり、自社技術をアピールしすぎて独りよがりの広告が目につきます。

広告にDDIの理念を導入すればどうなるでしょう。まず自社のシーズや技術をアピールすることになりますが、その裏側には生活者や社会の抱えている、しかもまだだれも気づいていない課題に対するソリューション(課題解決策)が埋め込まれていなければなりません。このような広告はマーケットリサーチをしても的確な指針は得られません。何しろマーケットですら自覚していない課題をリサーチするわけですから、データとして把握できるはずがないのです。また単なる技術広告や製品広告ではあまりにも課題に対するメッセージがなく、広告と言うよりも告知に近い様相を呈してきます。

製品におけるDDIと同様に、広告分野でも「あっ、そういう考え方があったのか。今まで気づかなかったがいいことを教えてくれた」という反応があってこそ企業や社会、マーケットの変革に繋がってきます。つまり新しい「意味」を広告を利用してメッセージするのです。これからの広告にはこのように非常に大きな役割が求められると思っています。

またDDIを行うに当たって不可欠なのは「意味の解釈者」の存在だと言われています。様々な価値観を持つこの解釈者は、自社に限らず多様な分野(たとえば芸術、デザイン、建築、医学など)から選抜し、ネットワークを組むことで意味の集約を図ろうとするものです。ここでも重要なのは現状の意味を前提にするのではなく、将来を見据えた新たな社会や生活に言及した意味を探索することです。

こうなるとたいそう大がかりな取り組みになり腰が引けてしまいそうですが、まずは身近で一風変わった考えや価値観を持っている人材を23人集め、議論することから初めてもいいでしょう。広告に限定すれば、デザイナーやコピーライター、そしてできれば顧客も含めて侃々諤々議論すれば、きっと社会を驚かせるような広告が生まれると思います。

マーケットを変革し新たな意味を持つマーケットを形成する。社会を変革し、私達の生活を含めて新たな意味を持つ社会を創り出す。これがこれからの広告に求められる課題であり、そのために広告においてもDDIは重要な役割を演じると考えます。

ASICAモデルについての質問

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉗

《質問》
 

私は現在印刷業界で日々クライアントと接し、広告やカタログの企画制作のお手伝いをしています。最近複数のクライアントから「ASICAモデルって知ってる?」と言う質問が多く、調べてみると日本BtoB広告協会から提唱されている理論だと知りました。クライアントの話では最近はASICAモデルに則った広告制作やカタログ制作が有効だと言うことが徐々に知れ渡っているようで、「貴方ももっと勉強しなさい」と言われてしまいました。大変恐縮ですがこの欄をお借りしてASICAモデルについてご教授いただければ大変有り難いと思っています。(印刷会社・クリエイティブ営業部)
 

《回答》
 

ASICAモデルはBtoB購買のプロセスモデルとして理論化したもので、既に2008年に当協会の機関誌で発表しています。詳しくはその頃の機関誌をご覧いただくか、拙著「ASICAれ!」(2012年刊、日刊工業新聞)をお読みいただければほとんど理解できると思います。しかし200ページもの書物を読むのも面倒でしょうから、ここではASICAモデルの主要部分について、かいつまんでお話しさせていただきます。
 

確かにASICAモデルはおかげさまで最近各企業に認知され、広告制作などに生かされつつありますし、とりわけBtoB業界では非常に有効なプロモーションプロセスだと思っています。またここに来てBtoC業界でもその有効性が認められようとしています。
 

ASICAモデルの最大のポイントは、「ホスピタリティ・マーケティング」を基盤にしたプロセスモデルであることです。ここで言うホスピタリティとは、最近流行っている「おもてなし」と言う意味ではなく、顧客や社会が抱えている課題を解決し、最終的に喜んでいただく、と言う意味です。したがって顧客に媚びたり顧客の言いなりになって商品販売やプロモーションを行う事ではない、と言うことをまず念頭に置いておく必要があります。
 

ASICAモデルは、A(アサインメント=課題)、S(ソリューション=課題解決)、I(インスペクション=検証)、C(コンセント=承認)、A(アクション=購買)の各プロセスを経てビジネスが完結することを意味しています。したがってビジネスのトリガーになるのはアサインメント(課題)なのです。

従来から広告分野では誰もが知っているAIDMA理論がありますが、この理論ではトリガーはA(アテンション=注目)になっています。なぜ注目を無視して課題がトリガーになるのかというと、現在のように驚異的に氾濫している情報の中ではもう既に「注目」という機会は期待できません。情報氾濫期ではすべての情報はノイズと衣を替え、オーディエンスにとって有益な情報はごく僅かしかないと言えます。それに替わって社会や生活がますます複雑化するに伴い、あらゆる場面で「課題」が生じてきています。
 

ここでニーズと課題の違いをお話ししたいと思います。従来からとりわけ広告分野や商品開発において、ニーズの先取りとかニーズにあった広告企画が求められてきました。ところが最近のように技術開発のスピードが速くなるにつれ、今のニーズは早晩解決されてしまいます。広告企画ではおよそ26カ月の期間を要し、商品開発ともなれば半年〜2年の期間が必要ですが、ニーズを追いかけると広告が完成した頃、商品が完成した頃には既にめざしていたニースは満たされてしまっているという現象が多々見られます。マーケティングリサーチによる広告や商品企画はこのニーズを分析して行いますが、その結果せっかく作った商品が売れないとか、広告が効かないと言う結果に陥っているのです。
 

一方で課題は場合によると顧客や社会ですら認識していない隠れた問題とも言えます。このやがて芽を出す地下に潜っている課題を掘り出して顧客や社会に提示することが広告企画の場面でも重要なのです。ニーズを満たされても今の時代ではほとんどの人はそんなに喜びません。時代の趨勢から当たり前だからなのです。ところが自分が知らなかった課題を提示され、その解決策を露わにすることで顧客や社会に強烈に印象づけることが可能になります。とりわけ相手が企業では「よくそこまで考えてくれた」と感謝され、それが信頼へと繋がっていくのです。
 

このようにASICAモデルのトリガーはまず課題探索から始まりますし、そのためには顧客企業はもちろんあらゆる分野の現状理解とそこから将来表面化すると思われる課題を把握することが非常に重要と言えます。つまり広告分野でも商品開発分野でも、現状のニーズの調査ではなく将来の課題探索が重要だと言えます。

課題さえ明確にできればどのようなメッセージでそれを理解させるか、と言うプロセスに移りますが、それ以降はメディアの選択とASICAモデルの各プロセスに合致したコンテンツを準備すればそんなに難しい事ではありません。
 

課題の次のソリューションは、自社の技術や製品でどのような課題解決が可能なのかを述べることになりますが、このメッセージは課題の提示と一体化した方が分かりやすいでしょう。ここでは新聞広告やWEBサイトが威力を発揮します。
 

インスペクション段階ではまさにWEBサイトが重要なメディアになります。提示されたソリューションが自社に合致するかどうかを競合企業などと比較検討するわけですから、WEBサイトが最も手っ取り早いと言えます。その意味ではWEBサイトにはあらゆる情報を搭載しておくことが不可欠です。とかくWEBサイトのコンテンツ企画の際、軸足を自社に起きがちですが、重要なのは自社を社外から客観的に眺めて競合企業に勝てるコンテンツづくりを行う事です。
 

コンセント段階はじつは課題に次いで重要なプロセスとなります。何しろここで承認されなければいくら優れたソリューションを提示して顧客に納得させても、最終的には他決の恐れがあるからです。承認決裁者向けのメディアは特に存在しませんが、ここではブランディング広告などで決裁者の潜在意識に植え付ける手法が有効です。また我が国ではあまり見かけませんが、社長向けのカタログなども効果的です。さらに現在どの企業も経理部門が力を持っています。企業成長を考えるとあまりよい傾向ではないのですが、時代の趨勢と見れば致し方ないことでもあります。それならば経理部門向けのカタログを企画しても面白いと思います。カタログは本来商品の特異性や優位性などを述べますが、経理部門にとってそんなことはどうでもいいのです。当該商品を導入することで顧客企業にどれだけの利益がもたらされるのか、を数式などを駆使して丁寧に述べることができれば最高です。
 

こうしてコンセントが上手く達成できれば晴れて購買(アクション)に繋がってくるのですが、ここで重要なメディアを忘れてはなりません。展示会です。本来展示会はPRの場ではなく受注の場なのですが、なぜか展示会に決裁者や検証者の来場を促す企業が皆無なのが不思議です。展示会はASICAモデルのすべてのプロセスに対応できますし、とりわけ実機を前にして検証作業や決裁の動機付けには他のメディアにはない力を持っています。展示会の有効性をASICAモデルからも再認識すべきでは、と考えています。

 

宣伝力変革の時代 (2/5)

②課題社会の広告。「売る」から「売れる」へ。


前稿で展示会の機能が顧客の課題解決の場にあるとした。
ここでいう課題とは従来広告分野などでよく唱えられてきたニーズやウォンツとは異なった概念である。ニーズやウォンツはいわば欲望がもたらした「今、そこにある必要性」とでも理解できるが、課題(アサインメント)は「これから直面するであろう問題」といえる。場合によれば顧客ですら気付いていない将来の問題である。

ここ十数年で飛躍的に進歩したIT技術やそれに伴う情報量の急激な増加によって、もはやニーズやウォンツは十分に満たされ、替わって今までは表に出なかった潜在的な課題が問われるようになった。食欲などの原始的な欲が飽食の時代を経て満たされてくると、今度はダイエットやメタボ防止、健康食が注目されるように、文明社会では欲やニーズの充足が新たな課題を生むことになる。

最近広告が効かなくなったといわれるが、広告そのものに問題があるのではなく「今そこにあるニーズ」をキャッチコピーにしたところで、広告が陽の目を見る頃にはオーディエンスの意識の中ではすでにそのニーズは陳腐化し、新たな課題を抱えているから届かないのだろう。それほど時代は速いテンポで移り変わっている。顧客企業が抱える課題発掘と解決策の提案は、BtoB分野ではごく当たり前のビジネススタイルであった。

しかし急速な技術革新の最中にあって徐々にその手法も崩れかけ、BtoC分野では心変わりの激しい一般消費者の目先のニーズを追いかけるあまり、個人や社会の奥深くにある課題を見つけるノウハウが育っていないのかも知れない。課題の探求には多くの周辺知識が要求される。顧客企業との綿密なコミュニケーションはもちろんだが、むしろ顧客のコンサルタンシーとしてのナレッジマネジメントが不可欠になってくる。

ドラッカーは究極のマーケティングは「売れる仕組みを作ることである」といった。「売れる広告」と「売る広告」とは異なる。広告の分野で周知のAIDMAモデルにおけるアテンションやインタレストを重視して、ひたすら自己PRする広告は「売る広告」である。「売れる広告」とはBtoBBtoCに限らず顧客が将来遭遇すると予測される課題を提示し、その解決策(ソリューション)を提案する広告といえる。
高度経済成長期に端を発した欲望社会が終焉し、技術革新と情報過多による様々な問題に取り囲まれた課題社会を迎えて、広告もそろそろイノベーションが必要なのだろう。

ニーズとウオンツ




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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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