河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

ドラッカー

マーケティングとセリングの違いをご教授ください

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉞

《質問》

もう数年前から弊社ではマーケティング重視の掛け声の下で、マーケティング部門を新設し営業活動を行っています。しかしその一方で目立った業績の変化は見られません。私自身は三年前まで営業部に所属し、その後現在の広報宣伝部に異動しました。業績への裏付けが明確でないにもかかわらず、未だに弊社ではマーケティングのデジタル化やオートメーション化の議論に躍起になっていますが、個人的にはいささか疑問点があります。そこでお尋ねしたいのですが、マーケティングと営業との違いはどこにあるのでしょうか。私には同じように思えて仕方ありません。(電子機器メーカ・広報宣伝部)


《回答》

マーケティングと営業の違いについてのご質問ですが、いわゆるマーケティングとセリングの違いとしてお答えします。

マーケティングはドラッカーの言葉を借りれば「売れる仕組みを作る」ものであり、セリングは「売る仕組みを作る」ことと理解できます。一方でマーケティング・ミックスと言われている4P(プロダクト---製品、プライス---売価、プレイス---流通、プロモーション---販売促進)の中でプロモーション以外の項目すべてが、じつはセリングに必要な項目なのです。このことがセリングとマーケティングを混乱させている要因だと考えられます。

セリングの「売る仕組み」には製品価格や営業体制、販売チャンネルや流通戦略の昔ながらの販売政策が主となります。一方のマーケティングの「売れる仕組み」は極めて曖昧な概念であり、一昔前は宣伝広告などがマーケティングの主流と言われていました。それがニーズ重視の時代になり、もっと顧客やマーケットのニーズに合致した製品開発や顧客動向を見て販売戦略を立てる様々な仕組みづくりが考案(適切かどうかは別問題)され、これがマーケティングの主要な概念になったのです。

しかしよく考えればこれらの概念もすでに昔からセリングに包含されていたものです。当然のことながらどんな企業であっても売れない製品を作るはずはなく、ましてや売れそうもない販売戦略は立てません。その意味から言えば、私見ですがマーケティングの「売れる仕組み」は「売るためのサポート」と理解した方が分かりやすいと思っています。もとよりドラッカー先生には申し訳ありませんが、とりわけBtoB業界で「売れる仕組み」とその後の「マーケティングはセリングを不要にするものである」という極論は、まさに机上の空論としか考えられないのです。

私は常々「各企業がマーケティングに心酔した結果、セリングの衰退をもたらした」と考えています。事実現在の各企業におけるセリングの劣化ぶりには目を覆うばかりです。その兆候は2000年頃から露わになってきました。

仕事柄メディアや印刷会社、広告代理店などからの売り込みがほとんどでしたが、2000年以前は各社の営業担当それぞれに特徴があり、けっして見栄えがよいとは言えない資料を前にしても、その人柄や絶妙な口調にある種の好感を抱いたものでした。そしてついついその口車に乗せられて仕事を発注する羽目になったことも多々ありました。

それが2000年頃を境に一変したのです。どの企業の営業担当もパワーポイントで作った小綺麗な資料を前に、蕩々と説明し続けます。話の内容はほぼ資料を読んでいるだけ、というものでとりわけ意外性のある殺し文句などは見当たりません。さらに担当者の顔の表情も不思議にどの企業も似たような様相を見るにつけ、気味悪ささえ感じるようになりました。ここでは営業担当にとって最も大切なスキルである商談力や説得力はまったく影を潜め、単に商品やサービスの説明をパワーポイントの資料に沿って粛々と行っている様子です。

言ってみれば昔のネチネチした営業活動からスマートな営業スタイルに変革されたとも言えますが、営業は売ってなんぼの世界です。いくらスマートな商品説明をしたところで売れなければ営業としては失格ですし、その手法は間違いなのでしょう。

おそらくマーケティング部門で作られた難解な理屈をもとに、営業担当が説明しやすいように整理された資料だと思われますが、その資料には説得力はもちろんなく、読むのも面倒になるくらいの綺麗事の羅列なのです。

もとより営業の本質はフェイスツーフェイスで相手の顔色を伺いながら言葉を選んでこちらのペースに巻き込むことなのですが、このフェイスツーフェイスでの対話スキルが極めて劣化しだしたのもこの頃です。これにはメールの普及や画一的な社員教育など様々な要因があるでしょうが、販売の最前線がこのような状況ではいくらマーケティング云々と声を大にしてもまったく意味のないことです。

さらにこの状況が危惧されるのは、ブランディング面において非常に良くない結果を醸し出していることです。ブランディングと言えば高いコストをもとにマスメディアを使った広告活動が重視されていますが、じつは最もブランディングに大きな影響を与えるのは「人」であることを見逃されているケースが少なくありません。どんなに綺麗な広告やインパクトのある広告を継続的に行っていても、その企業に属する「人」の言動が不自然であればブランド価値は地に落ちてしまいます。

その意味から考えると前述したどの企業も特徴のない営業担当による商談の結果、各社のブランドも似たようなものになることに気づかなければなりません。

とりわけ最近ではMA(マーケティングオートメーション)が注目され、それをテーマにしたセミナーは大盛況です。ここでも各企業がいかにマーケティングに心酔し、それがオートメーション化されることでさらなる業績の拡大に寄与できるだろうから、なんとか早く導入しなければ、と言う焦りを感じます。

どんな手法であれマーケティングがオートメーション化されることなどあるはずもなく、たとえAIを駆使したとしても「売れるマーケティング」には至らないでしょう。なぜなら我が国は資本主義社会であり、言いかえれば競争社会です。もし仮に優れたMAの手法があるとすれば、競合企業がこぞって導入するはずです。その結果はどうなるでしょう? 需要が極端に拡大しない限りMA導入企業すべての業績が良くなることはあり得ないのです。その競争に勝つために最も重要な要因は、くどいようですがセリングのスキルだと言うことに気づかなければなりません。

最後にマーケティングをセリングよりも上位概念と位置づける考え方であり、フィリップ・コトラーの提唱した「STPマーケティング」がありますが、ここで言うS(セグメンテーション)、T(ターゲティング)、P(ポジショニング)それぞれも、じつは古くから営業(セリング)において最も初期的な段階で取り組んでいた営業戦略の手法であったことも再確認する必要があります。

マーケティングに心酔することなく、人の個性を生かした営業担当の再構築(セリングの再構築)がこれからの企業には最も重要な課題だと思っています。

マーケティングとセリングの違いというご質問ですが、結論としてはマーケティングの概念はセリングにすべて含まれていることをご理解いただけると思います。

マーケティング部門の新設についてのご意見

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑬

《質問》

我が社では今後の景気回復を前提に、より拡販をめざしてマーケティング部門の必要性が唱えられています。現在は宣伝部でコーポレート関連のメディア展開を行い、各事業部でそれぞれにカタログや展示会などの企画運営を行っています。新たにマーケティング部門を設置するとしたら、既存の部内の方が良いのか独立した部門の方が良いのかご意見頂戴できれば幸いです。(電子部品メーカー・宣伝部)

《回答》

最近ではフィリップ・コトラーによるマーケティング3.0が提唱されるなど、SNSに代表されるソーシャルメディアの普及によって新たなマーケティング理論が矢継ぎ早に紹介されています。それに伴って、各企業とも新しいマーケティングに乗り遅れまいとする焦りのようなものを感じています。おそらく御社でもそのような背景があってマーケティング部門の新設を検討されているのだと思います。

ところで、マーケティングの概念は約50年前に米国から我が国に導入され、その後さまざまなマーケティング理論が提唱されてきました。そしてよく考えてみるとこの50年間、ネットの普及や社会構造の変化、為替や景気の極端な変動に晒された各企業の業績はどうだったでしょうか。

確かに50年の間に企業は成長し、それなりの売上げをなし、一見成長してきたかに思えますが、一方では賃金の停滞や有力企業の衰退など、必ずしも全体を見つめると大きく様変わりしたとは思えません。むしろ気がかりなのは、衰退傾向にある有力企業ほど新しいマーケティング理論を導入し、全社体制でマーケティングに取り組んできたことです。これは何を意味しているのかよく考えなければなりません。

翻ってピーター・ドラッカーは「マーケティングは売れる仕組みを作ることであり、最終的には単純なセリング(販売)を無くすこと」だとも言っています。言いたいことはよく分かるのですがあまりにも机上の空論で、とりわけBtoB分野で販売をなくして勝手に売れる仕組みなどとうてい無理な話です。それにもかかわらず各社(特にグローバル企業と呼ばれる有力企業)はこぞって新しいマーケティング理論を導入し、その理論に翻弄された結果、大切なものを失ってしまったのだと考えています。

その大切なものとは、ドラッカーが無くそうとしていた「セリング」なのです。BtoB分野では組織体組織の購買形態を持ちますが、組織が自分の意思を持って販売するわけではなく、あくまでも組織の一員である組織人(社員)対相手企業の組織人との取引になります。ここでは、どんなにSNSなどの新しいネット上の仕組みがあろうと、社会構造が変化しようと、最も有力なのは相手企業(顧客)との信頼関係です。そして信頼関係は極論を言えばたった一人の営業担当の人となりによって強固なものになることもあります。つまり。セリングを徹底することにより、顧客との関係は良好になり、ひいてはそれが受注に大きく貢献するのです。

「失われた25年」などと言ってつい最近まではデフレの影響で各企業の業績は惨憺たるのでした。その理由は為替の変動など多くの絡み合った要因があるにせよ、1995年頃から普及しだしたネット依存の傾向も無視できません。

一見、ネットの普及は企業にとって生産活動や販売活動の合理化に寄与していると思われがちですが、それは機械的・無機的な分野に於いてのみと理解して良いでしょう。顧客とのコミュニケーションはけっしてメールなど文字情報だけで完結できるものではありません。上述のようにフェイス・ツー・フェイスで相手の顔つきを見ながらコミュニケーションを行い、その結果お互いの信頼関係が構築できなければ継続的なお付き合いはもちろん、まして受注に結びつかせる営業活動など不可能です。

この「失われた25年」に弱体化した企業の多くは、米国式のマーケティング理論に翻弄され、基本的なセリングを蔑ろにした結果だとも言えます。「マーケティングがセリングを劣化させた」のです。

いくらマーケティングに一所懸命になっても、顧客との接点に存在している営業担当がセリングに力点を置かなければ絶対に商品は売れません。その意味では、まずセリングを強化するためにマーケティング活動をサポート役として機能させることが重要です。差し出がましいようですが、ドラッカーの理論とはまったく逆なのです。

もっと極論すれば「セリングが強化されればマーケティングは不要になる」とも言えます。なぜなら、現在のマーケティングのベースになるのはいわゆるマーケティングリサーチですが、その多くはアンケート方式によるものです。とりわけ最近ではWEB上でラジオボタンをプチプチ押すような安易なリサーチが横行していますが、質問数が多くなれば疲れていいかげんにボタンを押してしまう。また質問が難解であっても適当にボタンを押す傾向があります。そんなアンケートから得られたデータに何の価値があるのか理解できません。

話は変わりますが、各企業ともマーケティング部門は予想外に大きな力を持っています。単に営業をマーケティングと置き換えている企業も少なくないですが、マーケティング部門が独立している場合、ほとんどは営業部門や宣伝部門の上位に位置しています。

「マーケティングの連中は理屈ばかり言って、俺たち現場の状況はまったく理解してくれない。で、売れなかったら俺たちの責任になるんだからやってられないよ」と言った愚痴とも批判ともとれる言葉を時折耳にすることがあります。

御社でマーケティング部門を新設されることについては、いわゆる世の中の趨勢から否定するつもりはありません。しかしあまりマーケティングを過信しない方が良いと考えます。そしてもし新設されるなら、既存の宣伝部か営業部の下部にサポートチームとしておかれる方が良いと思います。なぜなら基本的には顧客に最も近いところに存在する営業部隊が中心となって、顧客の抱えている課題やニーズを発掘し、それを企業全体でソリューションを開発し、顧客に提供することが本来のマーケティングですから。

また御社はメーカーとお見受けしますが、メーカーの最も重視すべきポイントはやはり「良い製品」を作ることです。良い製品を作ったからと言って売れるわけではない、そんな考えは一昔前の古くさい考えだ、と言われていますが、それはとりもなおさずマーケティングを正当化するために言っているだけなのです。良い製品を作ってこそ良いメーカーであるのは当たり前で、それで時宜を得たプロモーションを企画するのが宣伝部であり、営業担当個人のスキルとの熱意で売り込むのがセリングなのです。その意味からすると、マーケティング部門を製品開発部に設置するのも興味深いと思います。

くどいようですが顧客との接点にある営業部隊からのマーケットの課題やニーズを開発部門のマーケティングチームに伝え、よりよい製品を作る手立てとなれば最強の企業運営が可能になると思います。 

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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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