河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

ディスプレイ

コスト効率の良い展示会ディスプレイの手法とは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉜

《質問》

弊社では大規模な展示会が9月にあり、120㎡程度の規模で出展しました。しかし展示会終了後、思ったように集客が得られず、引き合い数も計画を下回り、全社的に展示会のコスト効率が悪すぎるのでは? と言った意見が多くなりつつあります。このままでは次回は規模を縮小する方向で考えています。展示会でのディスプレイはコストがかかりもっと効率の良いディスプレイが出来ないものかと検討しているところです。コストをかけずに多くの引き合いが得られるディスプレイについて、ご教授いただければ幸いです。(機械部品メーカー・広報企画部)

 

《回答》

ご依頼の件はじつは展示会そのものが常に持っている大きな課題です。展示会でのコスト効率は、展示会での成約数を投入したコストで割れば得られます。御社では展示会での引き合いを重視されているようですが、正確には展示会で得られた受注額が重要な係数となります。しかしとりわけBtoB業界では引き合いから受注までの期間が長く、余程精緻なトラッキングを行わないと上記の数式を生かすことが出来ません。このトラッキングの重要性や手法については本稿のシリーズ⑯で述べておりますので参考にしてください。

さて、展示会でのコスト効率を上げるために欠かせないのは、最もコストのかかるディスプレイ費用を出来るだけ押さえることです。米国の展示会サーベイ会社のデータでは、記憶に残る展示会の要素として製品やデモ、説明員が上位にランクされ、ディスプレイや説明パネルは悲しいほどランクは低い結果となっています。

言うまでもなく展示会終了後の来場者の記憶残留率は、その後の受注に大きく影響します。しかしディスプレイや説明パネルはほとんど記憶されず、結果的には受注への寄与度はかなり低いと見ざるを得ません。

このデータの信憑性を確認するために、私が個人的に一昨年数件の展示会で調査をしました。その内容は「説明パネルは本当に記憶に残らないのか?」というテーマで調べた結果、平均すると来場者一人当たりが説明パネルを読むのに費やす時間は僅か20秒でした。20秒と言えば字数で換算すると130字前後となります。つまり彼らは説明パネルを読んでいるのではなく、見ているだけなのです。そこには多くの文字が羅列され印象的なビジュアルはほとんどありません。これでは記憶されないのも無理はないでしょう。

それにもかかわらず現在の各社のブースを眺めてみると、相変わらず文字だらけの説明パネルのオンパレードです。これだけでもコスト効率を大きく下げている要因になります。

ではどのように改善すればよいのかお話ししたいと思います。まず説明パネルをブースから排除すること。読まれもしない文字で構成されたパネルなど無用の長物です。しかし読まなくても少なくとも20秒間は見ています。それなら見て分かるようなグラフィック主体のパネルに置き換えることが効果的かも知れません。ただパネル形式だとどうしてもグラフィックの表現面で限界があります(挿絵的にならざるを得ない)。そこでいっそのこと壁面全体をグラフィックで埋め尽くすことにチャレンジしてはどうでしょう。いわゆるインフォグラフィックス(情報デザイン)で壁面を構成するのです。その代わりブース全体の造作は極めてシンプルにすることでコストも抑えられます。

文字を使わずにグラフィックで表現するとなるとかなり熟練したデザイン能力が必要になりますが、展示会のコスト効率を上げるには致し方ないことです。

ブース全体をインフォグラフィックスで構成された企業は今のところ目にしたことがありませんが、おそらく今後この手法が展示会ディスプレイの主流になってくると思っています。

とかく説明パネルでは説明したい事柄を思う存分語りすぎて、その結果文字だらけのパネルになってしまっているのです。しかし一方でインフォグラフィックは情報を抽象化していますから、見ただけでは即座に理解できず、かといって気になる数字や図表が描かれていればどうしても説明員に問いたくなるものです。ここで説明員と来場者とのコンタクトポイントが得られます。結論を言いますと、来場者が説明して欲しくなるような、また説明員が説明したくなるようなブースデザインが最も効果的なディスプレイと言え、コンタクトポイント画像化し結果的に引き合いも増えてくるのです。紙幅の関係からこれ以上詳細は割愛しますが、なぜこの手法が効果的なのか、展示会のコスト効率が上がるのかについては別項「カタリスト・マーケティング」について述べていますので参考にしていただければ、と思います。

もう一つ別の観点から展示会のコスト効率を改善するとっておきの手法を紹介します。それは、リユーザブル(使い回しが出来る)のブースシステムです。私が現役の頃に実現させましたが、このシステムはブース全体を壁面や柱、展示台など数種類のモジュールから構成されています。しかも各モジュールにはあらかじめ電気配線が施され、モジュールを組み合わせるだけで電気設備が整ったブースが簡単に構築できます。当時は為替が110円の時代でしたので、ブースシステムは米国で製作しました。米国だと安価な建築部材は選ぶのに苦労するほど多くあります。ここで重要なのは、使い回ししますから汚れや傷が目立たない建築部材を使用することです。当初は5年償却のつもりで総予算5500万円で製作しました。対応ブースの規模は0.8㎡から216㎡と設定しました。モジュールの組みあわせで様々な規模に対応できます。組み立ては六角レンジ一本ですべて対応可能な特殊な連結金具(これも米国製)を使用しました。

結果的には5600万円かかりましたが、従来方式に比べて年間で2000万円のコスト削減を実現しました。ちなみに当時の年間展示会コストは出展料などすべて含めて約9000万円でしたから、20%以上のコストダウンが可能になったのです。現在このようなリユーザブルのブースシステムを利用している企業は皆無ですが、その最大の理由はまずイニシャルコストが大きすぎることと膨大なシステムの保管場所の確保やコストの問題だと思います。しかしそれらのコストを加味しても上記のように年間20%以上のコスト削減が可能になったのは事実で、各社ももっとこの手法を利用すれば効率的な展示会運営が可能になるはずです。

上記のようにコスト削減に大きく寄与するということは、たとえばインフォグラフィックスにもっとコストを投入するとか説明員教育を徹底するなど、米国リサーチ会社のデータにある記憶に残らないブースデザインと説明パネルを改革することと、ブース全体を活性化させるカタリスト・マーケティングにコストを振り分けることが出来るのです。そして何よりも、展示会でのコスト効率を考えれば、たとえ展示会において受注がなくても年間2000万円の利益を展示ブースそのものがたたき出しているという見方をすれば、この手法も一考の余地があると思います。

展示会での集客について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ①
 

《質問》

先般ある展示会に出展したのですが、思ったような集客が得られませんでした。弊社の営業サイドからは展示会の装飾をもっと目立つようにしないからだ、と非難されています。確かにコストをかけて目立つ装飾にすればそれなりに集客は見込めると思うのですが、コストパフォーマンスの観点で疑問があります。コストをかけずに集客する方法があればご教示いただきたいのですが。(計器メーカー)


《回答》

まず御社の営業サイドが要望している「装飾をもっとハデにして集客する」考え方は明らかに間違っています。バブル時期は当たり前のように派手な装飾やコンパニオンを使ったイベントが展示ブースで行われ、それなりの集客がありました。しかしそうして得られた来場者はどのような人たちでしょう? 

とりわけコンパニオンが行うイベントは現在でも散見でき、そこでは多くの来場者に溢れています。でもその来場者が御社の真の顧客になる可能性は極めて低いと思います。コンパニオン見たさや何か派手な催しをやっているから自然に人が集まっているだけで、イベントが終われば人は去っていきます。こんな手法で集客しても何の意味もありません。

展示会の効果測定手法には二通りあります。ひとつは来場者数です。それはいわば展示会をメディアとしてみた場合の社名認知にあたるものです。もう一つはズバリ受注件数(額)です。本来の展示会効果はこの受注件数が重要ですが、展示会を広報メディアの側面から見ることも否定できませんから、展示会効果測定はこの二つの指標のかけ算になります。

もう少し詳しくお話ししますと来場者効果は単位コストあたりの来場者数で計算できます。一方受注効果は来場者一人当たりの受注額で得られます。先の算式では来場者は分母になりコストが分子になります。後の算式では来場者が分母になり受注額が分子になります。これらを掛け合わせると分母と分子にある来場者は消去され、結果的に分母にコスト、分子に受注額という単純な算式になります。言うなればこの算式は単一コストあたりの受注額ということができ、これはまさに通常営業の営業効率そのものと言えるわけです。

このことから展示会は広報宣伝のメディアではなく、営業の「場」と理解できます。

ブースを目立つようにするとかコンパニオンを使って派手な演出を行うことは、広報メディアとしての価値はあるでしょうが、直接的に展示会効果をもたらすものではありません。「一生懸命装飾に力を入れて演出も凝ったのに、ほとんど引き合いがなかった」という言葉を時折耳にします。これは展示会を広報メディアとして捉え、もう一つの効果をめざす手法が疎かになっていた証拠です。

では真の意味での展示会効果を上げるのはどのようにすればいいでしょうか。前述のように展示会は営業の「場」です。したがって展示会に集客するのは顧客または潜在顧客でなければなりません。ここで威力を発揮するのが広告やWEBサイトから得られた引き合い(見込み客)リストです。広告はともかくWEBサイトから資料請求するのは住所氏名を記入したりと結構手間がかかります。あえてこの手間を費やしてまで資料請求するのはかなり確度の高い潜在顧客と理解できます。このような人たちに対して、展示会という営業の場で実際に商品を見せて稼働させ、それなりのデータや導入効果を理解していただくのが展示会の最も重要な役割なのです。

御社に限らずさまざまな企業は広告やWEBなど他のメディアで広報活動を行っています。そこで得られた個人情報は貴重な潜在顧客と見なす事ができますが、どういう訳か広告などで引き合いがあってもカタログを送ってそれでおしまい、と言うケースが目につきます。BtoB分野の場合、本来広告はカタログ請求を得るために行うものであり、カタログは商品を販売するためのメディアです。しかしBtoCならいざ知らずBtoBではカタログで商品が売れることは極めて希です。そこには必ず営業担当が同席し、カタログを営業ツールとして扱い、営業担当のプレゼンスキルによって受注の成否が決定されます。したがって広告やWEBから引き合いがあったとしてもカタログ送付だけで受注に結びつくことは滅多にありません。

かといって引き合いごとにいちいち営業担当が引き合い先に出かけ営業活動を行うのは大変非効率的です。おそらく一日かけても23件回るのが関の山でしょう。これが効率的に行えるのがじつは展示会なのです。展示会では上述の営業担当によるカタログをツールとしたプレゼンに加えて、実機を前にしてより効果的な販売活動が期待できますし、何よりも一日で少なくとも十数件以上の商談をこなすことが可能になります。

つまりここから導き出されるのは、展示会の集客は「見込み客」に限定することです。おそらくどの企業でも広告などの引き合いで得られた見込み客リストは数千件から数万件あるはずです。このリストから当該展示会に即した(業種・地区など)見込み客を選定し、まず案内状を送付することです。そして重要なのがその選定された見込み客一人一人の担当営業を明確化することです。担当営業は個人名で案内状を送った後、展示会の開催前一週間くらいに電話(メールもいいですが電話の方が効果あり)で再度勧誘することです。こうすれば間違いなく集客は増えます。おそらく今までの手法にくらべて2050%位の集客アップが見込めるはずですし、何よりも重要なのはそのいずれもが顧客になる可能性のある人たちだということです。

それからもう一つ大切なことがあります。見込み客ではなくすでに顧客に登録されている人たちの周辺の部門にも隠れた見込み客が存在すると言うことです。たとえばある企業の工務部の人が顧客だとすれば、その企業の設計部や開発部などの人はまだ見込み客と見なすことができます。顧客リストにその何倍もの見込み客が隠れているのです。したがって従来顧客から可能性のある見込み客を紹介してもらうことも忘れてはなりなせん。

このように展示会の集客で最も重要なのは目立つ装飾やイベントなどではなく、すでに御社が抱えておられる見込み客を展示会という営業の場に引っ張り出すことなのです。かといって貧相な装飾でよいといっているわけではありません。ブースディスプレイはいかに商品を見やすくするか、商談に際しての心地よさを提供するかといういわばホスピタリティーの大きな役割を演じます。展示会における装飾は人集めが目的ではなく、営業の場をどのように上手く演出し受注に貢献できるか、が重要なのです。

詳しくは「BtoB Communications誌」の20106月号に掲載した拙文「ASICAモデルから見た展示会の可能性」をご覧いただければ、と思います

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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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