《質問》
インフォグラフィックスについて大変興味があります。しかしいざそれを制作するとなると、どのようにすればいいのか、またどんなメディア展開がふさわしいのかまだ理解できていません。確か、展示会の説明パネルの代わりにインフォグラフィックスを利用すると効果があるように伺った記憶があります。まずインフォグラフィックスとは何か、そして作成の仕方とどんなメディアに展開すればよいのかご教授いただければ幸いです。(車両部品メーカー・マーケティング部)
《回答》
インフォグラフィックスは人によってその定義や理解の仕方がかなり異なります。広義に考えれば、私たちに身近な地図や交通機関の路線図がその代表例です。またピクトグラムもごく一般的に使用されています。たとえばよく目にする非常口やトイレのサインがこれに当たります。さらに少し専門的ですが、電気配線図や設計図などもインフォグラフィックスと解釈できます。
しかしここで言うインフォグラフィックスは、言わば情報デザインであり、さまざまな情報やデータとその関係性をビジュアルで表したものを指しています。そしてインフォグラフィックスでは出来るだけ文字に頼らないビジュアルコミュニケーションが必要となります。
一方でピクトグラムは単一の情報や現象をビジュアル化したもので、ピクトグラムそれぞれの関係性はありません。しかしピクトグラムを組み合わせて一つのインフォグラフィックスにまとめ上げることは可能です。
また、電気配線図などの専門的なチャートは、確かにインフォグラフィックスの範疇に入るものですが、そこには一定の約束事が存在します。たとえばコンセントのマークや配電盤のマークなど、素人には一目で理解できないマークや図によって構成され、その専門家たちにとっては効率的なビジュアルコミュニケーションの役割を果たしますが、一般の人にとっては全く理解できないビジュアルと言えます。ただ電気配線図は専門家向けですが、インフォグラフィックスの定義を説明するのに非常に都合の良いものです。上述したようにインフォグラフィックスでは出来るだけ文字を使わないことと述べましたが、仮に電気配線図を文字のみで説明するとなると、気が遠くなるほどの文章量が必要になりますし、それを読みながら電気配線するなど至難のわざとも言えます。
このようにインフォグラフィックスは文字によるコミュニケーションではなくイラストや図によるビジュアルコミュニケーションなのです。
我が国は欧米に比べて極端にインフォグラフィックスが遅れています。その理由は欧米諸国はほとんどが多民族国家であり、文字によるコミュニケーションが困難なため「誰が見ても理解できる」インフォグラフィックスを多用せざるを得ないため自然にインフォグラフィックスの表現手法が洗練されてきました。一方我が国は単一民族国家ですから、ほとんどの場合文字によってコミュニケーションが可能です。したがって面倒なビジュアルをデザインするよりも文字で表現する方が手っ取り早いことがインフォグラフィックスの発展を妨げています。
その証拠に我が国で目にするインフォグラフィックスはとにかく文字の量が多すぎ、情報を「見せて理解させる」ことから「読ませて理解させる」作品が多く見られます。
この場合グラフィックスは挿絵のように文章の補助的な役割しか果たしていません。おそらくビジュアルだけでは十分情報が伝わらないから文章を使用せざるを得ないと言う思いがあるのでしょうが、これがインフォグラフィックスの発展を阻害しているのです。
ここで大まかなインフォグラフィックスの作り方を述べたいと思います。まず伝えたい情報の整理が基本になります。この場合出来るだけ簡潔に情報ごとに列挙する方がいいでしょう。次にそれらの情報の関係性を流れや集団化などで紐付けしていきます。この段階の情報はまだ文章でも問題ありません。最後にそれぞれの情報をビジュアル化する訳ですが、極力文字を使わないことを前提に、伝えたい情報やデータをどのようなビジュアルで表現すればよいのか、を考えます。情報の流れが重要であればフローチャートのような形が考えられますし、量や状態を示すのであればグラフやブロックダイアグラムなどの表現手法を使います。
ここで気をつけなければならないのは、けっして電気配線図のような約束事に基づいたマークやシンボルを使用しないことです。誰もが見るだけで理解できるようなデザインを追求しなければなりません。
見るだけで理解できることを重視するあまり、具象的なイラストなどを使用することが少なくありませんが、あまり具象的な図柄になってしまうと図柄自身の意味にとらわれすぎて全体の関係性が理解しづらくなることがあります。その意味では抽象的な図柄を用いることも考えられます。しかし単純な抽象図はその図の意味が不明になってしまいます。したがってそれらのさじ加減が重要なポイントになります。具象図の場合も出来るだけ余分なビジュアルを除いて抽象化することが大切です(たとえばシルエットなど)。
インフォグラフィックスには文字は不要と述べましたが、「記号」としての文字は言わばビジュアルの一部であり、とりわけデータの表現では多用されます。ピクトグラムの一種ではありますがたとえば交通標識の速度制限などで「60」と表示されておれば、誰もがその数字を読むのではなく見るだけで制限速度が時速60kmだと理解できます。ただしこれも交通法規による約束事が前提となっていますから、単独で用いれば何のことか理解できません。しかしインフォグラフィックスの中で関係性を表現するためにこのような数字や単語を適切に使用すれば、コミュニケーション効率はさらに向上してきます。
インフォグラフィックスのメディア展開で、本欄でも展示会の説明パネルの代用と提唱していたのは、さまざまな展示会で調査した結果、説明パネルを読んでいる来場者の平均所要時間が20秒だったからです。20秒と言えば文字数に換算すると120文字程度です。しかもほとんどの来場者は説明パネルには目も向けません。つまり展示会での説明パネルは読まれているのではなく見られているのです。それなら見て理解が出来るインフォグラフィックスにした方が、コミュニケーション効率が上がるだろうという推測に基づいています。
インフォグラフィックスは冒頭お話ししたように情報やデータをビジュアルで表現するものです。どうしても文字(文章)で記載しないと心許ない気持ちは分かりますが、いくら文章で述べたところで、説明パネルのように読んでくれなければ制作者の自己満足となりかねません。
勇気を出して文字の量を極力削減したインフォグラフィックスなら、展示会以外にも広告やWEBサイトなどすべてのメディアでのコミュニケーション改革が可能になります。ヘッドラインと社名以外の文字を排除したインフォグラフィックスだけの新聞広告は、文字を多用した広告よりも端的にメッセージすることが可能だと考えています。