河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

BtoBコミュニケーション

インフォグラフィックスの作成と有効な利用の仕方

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊶

《質問》

インフォグラフィックスについて大変興味があります。しかしいざそれを制作するとなると、どのようにすればいいのか、またどんなメディア展開がふさわしいのかまだ理解できていません。確か、展示会の説明パネルの代わりにインフォグラフィックスを利用すると効果があるように伺った記憶があります。まずインフォグラフィックスとは何か、そして作成の仕方とどんなメディアに展開すればよいのかご教授いただければ幸いです。(車両部品メーカー・マーケティング部)

 

《回答》

インフォグラフィックスは人によってその定義や理解の仕方がかなり異なります。広義に考えれば、私たちに身近な地図や交通機関の路線図がその代表例です。またピクトグラムもごく一般的に使用されています。たとえばよく目にする非常口やトイレのサインがこれに当たります。さらに少し専門的ですが、電気配線図や設計図などもインフォグラフィックスと解釈できます。

しかしここで言うインフォグラフィックスは、言わば情報デザインであり、さまざまな情報やデータとその関係性をビジュアルで表したものを指しています。そしてインフォグラフィックスでは出来るだけ文字に頼らないビジュアルコミュニケーションが必要となります。

一方でピクトグラムは単一の情報や現象をビジュアル化したもので、ピクトグラムそれぞれの関係性はありません。しかしピクトグラムを組み合わせて一つのインフォグラフィックスにまとめ上げることは可能です。

また、電気配線図などの専門的なチャートは、確かにインフォグラフィックスの範疇に入るものですが、そこには一定の約束事が存在します。たとえばコンセントのマークや配電盤のマークなど、素人には一目で理解できないマークや図によって構成され、その専門家たちにとっては効率的なビジュアルコミュニケーションの役割を果たしますが、一般の人にとっては全く理解できないビジュアルと言えます。ただ電気配線図は専門家向けですが、インフォグラフィックスの定義を説明するのに非常に都合の良いものです。上述したようにインフォグラフィックスでは出来るだけ文字を使わないことと述べましたが、仮に電気配線図を文字のみで説明するとなると、気が遠くなるほどの文章量が必要になりますし、それを読みながら電気配線するなど至難のわざとも言えます。

このようにインフォグラフィックスは文字によるコミュニケーションではなくイラストや図によるビジュアルコミュニケーションなのです。

我が国は欧米に比べて極端にインフォグラフィックスが遅れています。その理由は欧米諸国はほとんどが多民族国家であり、文字によるコミュニケーションが困難なため「誰が見ても理解できる」インフォグラフィックスを多用せざるを得ないため自然にインフォグラフィックスの表現手法が洗練されてきました。一方我が国は単一民族国家ですから、ほとんどの場合文字によってコミュニケーションが可能です。したがって面倒なビジュアルをデザインするよりも文字で表現する方が手っ取り早いことがインフォグラフィックスの発展を妨げています。

その証拠に我が国で目にするインフォグラフィックスはとにかく文字の量が多すぎ、情報を「見せて理解させる」ことから「読ませて理解させる」作品が多く見られます。

この場合グラフィックスは挿絵のように文章の補助的な役割しか果たしていません。おそらくビジュアルだけでは十分情報が伝わらないから文章を使用せざるを得ないと言う思いがあるのでしょうが、これがインフォグラフィックスの発展を阻害しているのです。

ここで大まかなインフォグラフィックスの作り方を述べたいと思います。まず伝えたい情報の整理が基本になります。この場合出来るだけ簡潔に情報ごとに列挙する方がいいでしょう。次にそれらの情報の関係性を流れや集団化などで紐付けしていきます。この段階の情報はまだ文章でも問題ありません。最後にそれぞれの情報をビジュアル化する訳ですが、極力文字を使わないことを前提に、伝えたい情報やデータをどのようなビジュアルで表現すればよいのか、を考えます。情報の流れが重要であればフローチャートのような形が考えられますし、量や状態を示すのであればグラフやブロックダイアグラムなどの表現手法を使います。

ここで気をつけなければならないのは、けっして電気配線図のような約束事に基づいたマークやシンボルを使用しないことです。誰もが見るだけで理解できるようなデザインを追求しなければなりません。

見るだけで理解できることを重視するあまり、具象的なイラストなどを使用することが少なくありませんが、あまり具象的な図柄になってしまうと図柄自身の意味にとらわれすぎて全体の関係性が理解しづらくなることがあります。その意味では抽象的な図柄を用いることも考えられます。しかし単純な抽象図はその図の意味が不明になってしまいます。したがってそれらのさじ加減が重要なポイントになります。具象図の場合も出来るだけ余分なビジュアルを除いて抽象化することが大切です(たとえばシルエットなど)。

インフォグラフィックスには文字は不要と述べましたが、「記号」としての文字は言わばビジュアルの一部であり、とりわけデータの表現では多用されます。ピクトグラムの一種ではありますがたとえば交通標識の速度制限などで「60」と表示されておれば、誰もがその数字を読むのではなく見るだけで制限速度が時速60kmだと理解できます。ただしこれも交通法規による約束事が前提となっていますから、単独で用いれば何のことか理解できません。しかしインフォグラフィックスの中で関係性を表現するためにこのような数字や単語を適切に使用すれば、コミュニケーション効率はさらに向上してきます。

インフォグラフィックスのメディア展開で、本欄でも展示会の説明パネルの代用と提唱していたのは、さまざまな展示会で調査した結果、説明パネルを読んでいる来場者の平均所要時間が20秒だったからです。20秒と言えば文字数に換算すると120文字程度です。しかもほとんどの来場者は説明パネルには目も向けません。つまり展示会での説明パネルは読まれているのではなく見られているのです。それなら見て理解が出来るインフォグラフィックスにした方が、コミュニケーション効率が上がるだろうという推測に基づいています。

インフォグラフィックスは冒頭お話ししたように情報やデータをビジュアルで表現するものです。どうしても文字(文章)で記載しないと心許ない気持ちは分かりますが、いくら文章で述べたところで、説明パネルのように読んでくれなければ制作者の自己満足となりかねません。

勇気を出して文字の量を極力削減したインフォグラフィックスなら、展示会以外にも広告やWEBサイトなどすべてのメディアでのコミュニケーション改革が可能になります。ヘッドラインと社名以外の文字を排除したインフォグラフィックスだけの新聞広告は、文字を多用した広告よりも端的にメッセージすることが可能だと考えています。

 

中小企業が異業種交流展へ出展する際、留意するポイントは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊵

《質問》

弊社は資本金4000万円で従業員60名の中小企業です。従来から広告は全く行っておらず(広告専門部署はありません)、わずかに年間数件の展示会に出展するのみです。展示会と言ってもほとんどが一小間のごく小規模です。このたび一般の展示会とは違った異業種交流展に出展する予定ですが、一般展示会と異業種交流展の違いや出展に際しての留意事項がありましたらご教授いただきたく思います。ちなみに一般展示会での出展効果はあまり把握していません。(金型メーカー・製造部)

 

《回答》

一般展示会と異業種交流展とはその性格も来場者の目的も大きく異なっていますが、このことはあまり知られていません。したがって異業種交流展でも、一般展示会と同じような展示手法をとる企業が少なくなく、出展者側も来場者側も結果的に有効な結果が得られていないのが現状です。

ここで一般展示会と異業種交流展の特性上の違いを述べたいと思います。

一般展示会はほとんどの場合出展者は広い意味での同業者です。つまり出展者同士は競合企業になります。ただ業界展と違ってテーマ性のある一般展示会の場合は、必ずしも出展者が同業者であることはなく、異業種が混在することはあります。しかし出展目的はあくまでも商談機会を得ることであり、ひいては受注の確保が出展者側の最大の目的になります。そして来場者は自社の生産性を向上させるためや自社製品の性能向上のための設備導入を目的として来場されます。

それを裏付けるように、一般展示会での来場者の属性は開発設計部門と営業部門がそれぞれ30%前後となっており来場者の大半を占めています。このうち開発設計部門の30%がいわゆる有効来場者と言えるものです。営業部門は30%と比率は高いですが、ほとんどの場合、前述した競合企業の集まった展示会ですから、彼らの役割は競合企業のリサーチが主目的となります。競合企業の技術レベルがどの程度なのか、どんな新製品を開発しているのか、それを探るのが営業部門と一部の開発設計部門なのです。

したがって、有効来場者は極めて少なく以前本欄でも述べているように、出展者自らが見込み客を呼ばなければなかなか商談機会が得られず受注にも結びつきません。このあたりが、「展示会に出展しても効果がよく分からない」と言われる所以です。

一方異業種交流展の場合は大きく異なります。まず出展者は異業種ですから競合企業は非常に少なくなります。場合によると出展者が有効潜在顧客であることも考えられます。ここで問題なのは、出展目的です。一般展示会と同じように受注の確保を期待しても思うような結果は得られません。それは来場者の属性と来場目的が一般展示会と全く異なるからです。

異業種交流展の来場者属性は、最も多いのは営業部門で25%前後となっています。その次に多いのは企画マーケティング部門で20%前後、そしてなんと経営管理部門が17%前後となっています。このことから来場者の最大の目的は自社にはないシーズの探索や新製品の共同開発の相手を探し出すことであることが容易に推測出来ます。ちなみに営業部門が多いですが、これは競合企業のリサーチではなく、大手企業のバイヤーによる一括仕入れを目的としたものと考えられます。ここで注目すべきなのが、企画マーケティングと経営管理部門の来場者が非常に多いことです。一般展示会ではこれらの部門からの来場者はそれぞれ数%程度であり、その23倍以上もある異業種交流展の最大の特徴とも言えます。

これは何を意味しているのでしょう。じつは今、大手企業では自社のシーズだけでは革新的な新製品開発が困難になっている現状があります。その理由で最も大きいのは一時期の不況時に有能な技術者が大量解雇されたり定年退職した結果、技術開発のプロセスに大きなエアーポケットが生じてきている証とも言えます。それを補うためには、どんな状況下にあってもユニークな技術で独自の製品や部品開発を行っている中小企業との協業やM&Aを視野に入れなければならないのです。一般展示会ではほとんど顔を見せない大手企業の経営管理部門が多数来場されていることは、おそらく中小企業との技術提携やM&Aを目的としているのでしょう。

M&Aはともかく、もはや大手企業は中小企業の持つ独自技術無しでは新製品開発が出来なくなっていると極論することも出来ます。その大手企業にとって異業種交流展は絶好の機会でもあるのです。

これに加えて興味深い現象が異業種交流展では起きています。それは出展者同士が協業して革新的な新製品を生み出そうとする傾向が強くなってきていることです。つまり、一般展示会のような競合企業の集まりではなく異業種の集合ですからこういったことも可能になるのです。

展示会効果を最大化するために最も重要なのは「見込み客を集客すること」と本欄でもくどいくらい呼びかけていますが、これは一般展示会に適応できるものです。異業種交流展の場合は、極端に言えば出展者が見込み客を集客する必要はありません。御社のように広告活動を全く行っていない中小企業では、失礼ながらそんなに多くの見込み客を持っておられるとも思えませんから。異業種交流展では大手企業にとって死活問題となる革新的な新製品開発のネタ(シーズ)を求めてわざわざ来場されるわけですから、集客に力を注ぐよりもそれに応じられるような技術や製品の見せ方やアピールの仕方を工夫しなければなりません。

来場者である大手企業は血眼になって協業先を探索しているわけですから、限られた時間内に出来るだけ多くのブースを回り、自社に有効な技術を見つけ出そうとしています。したがって、自らの優位性を説明パネルなどでこと細かく述べても誰も読んでくれません。まず「御社のコア技術を端的に述べること」が重要です。できればインフォグラフィックスなどで視覚に訴える方が効果的ですが、もし文字に頼らなければならない場合は、極力120文字以内でしっかりと端的に記述することが肝要です。そして御社の技術や製品の優位性を担保するためには、出来るだけ数字で表現した方が説得力はあると考えます。

さらに展示会の鉄則である「必ず稼働させること」も忘れてはなりません。部品などの場合は稼働は難しいと思われますが、その場合は使用状況の映像や予想できる応用分野などを簡潔に表示することで対応できます。

社会を驚かすような革新的な新製品や新技術は、とかく異業種の融合によってもたらされることは過去を遡ってみればよく理解できると思います。その貴重な場が異業種交流展とも言えるのです。

ご質問の「中小企業が異業種交流展へ出展する際、留意するポイント」は、御社の技術を端的に出来れば数字を使ってアピールすることにつきると思います。

なお、上述した来場者属性の数字は一般展示会については10数件の展示会の平均値を、そして異業種交流展の数字は中小企業基盤整備機構が主催している新価値創造展の数字を参考にしています。


取扱説明書はブランディングに有効か

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊴

《質問》

以前本欄でブランディング手法について拝見しました。そこではプロダクトブランディングが有効だと記され、製品の取扱説明書もブランディングの要因になると言われていました。取扱説明書は私の担当ではないですが、弊社でも取扱説明書の専門部署があります。ブランディングに有効な取扱説明書がどのようなものかについて、もう少し詳しくご教授いただければありがたいと思います。(医療機器メーカー・製品企画部)

《回答》

「認知度向上のための効果的なブランディング手法」の本稿からのご質問ですね。

プロダクトブランディングが有効なのは、とりわけBtoB業界では製品やサービスがメディアよりも遙かに日常の露出が多いことが要因です。いくらメディアを使用して製品や企業の優位性を訴えても、製品やサービスがお客様から信任を得ていなければ好ましいブランドは成り立ちません。その意味ではまず有効なブランディングにはお客様から評価されるものづくりやサービスが不可欠となってきます。

しかし現状は多様なメディアを駆使したブランディングが主流で、製品やサービスの使用現場でのブランド認識率が軽視されています。誰もが経験することですが、いくら素晴らしい広告を行っていてもその企業の提供する製品やサービスが使いづらかったり故障が多ければ当該企業のブランドは一気に低下してしまいます。

ご質問は取扱説明書がブランディングにどのように影響を与えるか、と言うことだと思いますが、じつはブランディングにおいて取扱説明書はいわばエアーポケットのような存在になっています。

素晴らしい先端技術を駆使して優れた性能を持つ製品であり、間違いなく使用者に新たな価値をもたらすものであれば、プロダクトブランディングには極めて有効に作用します。

しかしここでその製品の取扱説明書が読みづらいとか緊急時にどのページを見れば対応できるのか即座に判断できないような作りでは、せっかくの製品のブランド価値は低下してしまうのです。

言うなれば製品と取扱説明書は一心同体でブランディングに寄与しているのです。しかし現実は製品開発部門と取扱説明書の制作部門がほとんどの企業の場合分離しています。ここが大きな課題となっています。

極論を申し上げれば、プロダクトブランディングの基礎となるプロダクトコミュニケーションは、じつは使用者と製品そのものとのコミュニケーションと言えます。しかし現実には製品が使用者に向かって語る訳ではありません。したがってその間に取扱説明書というメディアが存在し、製品の語りを代替しているのです。つまり、プロダクトコミュニケーションにおける取扱説明書は本来は邪魔な存在とも言えます。

とはいうものの取扱説明書なくして製品の操作は不可能でしょうし、使用者側も製品を駆使するに当たってどうしても取扱説明書を頼りにしてしまっているのが現状です。

取扱説明書をプロダクトブランディングの一環として有効に機能させるためにはいくつかの課題を克服しなければなりません。まず、前述した製品開発者と取扱説明書制作者との分離を解消することです。これには製品開発時点で取扱説明書制作担当の参加が必要条件となります。開発担当は技術的な視点でものづくりを行い、取扱説明書担当者は使用者の視点で操作性やUI(ユーザーインターフェイス)に取り組むことになります。

つまり開発者目線と使用者目線とを開発の時点ですでに融合させていることが不可欠だと言うことです。製品開発時に見落とされがちなのは、開発者目線と使用者心理は異なるということです。開発者は性能や機能重視でものづくりしますが、使用者は性能や機能がよいのは当たり前で、むしろ適確な操作やトラブル発生時の心理状態が製品に対するブランドイメージに影響を与えます。

現在はどの企業でもプロダクトコミュニケーションは十分とは言えず、これがコーポレートブランディングとプロダクトブランディングに齟齬を来たし、結果的にコーポレートブランディングの低下を招くことが少なくありません。

プロダクトコミュニケーションには二つの課題があり、一つは取扱説明書によるテクニカルコミュニケーション伝達力の課題。もう一つは使用者の取扱説明書に対するテクニカルコミュニケーション読解力の課題です。これらを解決するためにも前述した開発時点から取扱説明書担当者の参加が望まれるのです。

話はそれますが、今後社会やビジネスの分野では大きな課題が待っています。超高齢化による取扱説明書認知度の低下。製品の高機能化やデジタル化によるデジタルデバイドの問題。オーバースペックとも言える製品の多機能化に反した使用者側での取扱説明書の読解力の低下など。これらの課題は今後否応なく各企業に押し寄せ、場合によれば製品開発のプロセスそのものを大きく改革せざるを得ない事態がやってくると推察できます。

この事態に対応するためにはまずプロダクトコミュニケーションの基本である製品そのものが使用者と対話できる機能が不可欠になってきます。つまり取扱説明書がなくても製品を操作でき、トラブル発生時には適切な対応の仕方を製品自らが指示を出す仕組みです。おそらく遠くない時期にはすべての製品にはAIと音声認識機能が組み込まれ、製品と使用者との対話は実現するでしょう。

さらに興味深いのは、じつは製品の操作やトラブル対応はメーカーよりも使用者の方が熟知していると言うことです。その意味では製品開発時に使用者を参加させることも選択肢としてはあると思いますが、機密情報の管理という側面からなかなか難しいと考えます。それならば、使用者の製品に対する操作方法やトラブル対応情報をクラウドでデータベース化し、さらにスマホやタブレットを製品にかざすだけで機器認証ができ、必要とするクラウド内の情報を得ることも可能になるでしょう。

この場合は使用者がクラウドデータベースに製品情報を入力しなければなりませんが、このプロセスもブランディングでは有効に作用することが考えられます。言い換えれば、使用者による使用者のための取扱説明書がクラウドに存在し、タブレットなどで即座にアクセスできる次世代の取扱説明書(操作指示・トラブル対応)データベースなのです。

このいずれもがまだまだ技術的にもコスト的にも無理だと思われる場合、もう一つの有効な手段は取扱説明書を「読む取扱説明書」ではなく「見る取扱説明書」に変貌させることです。我々の頭脳での情報処理は文章を読むよりも視覚的に見せる方が遙かに効率的です。そのためにはまだ我が国ではあまり普及していませんが、インフォグラフィックスを多用した取扱説明書が待たれるところです。

プロダクトブランディングはBtoB企業では非常に有効ですが、それを阻害している要因として取扱説明書の存在があること、そして取扱説明書を改善するか不要にするほどの製品機能の改革が、今後プロダクトブランディングの観点から重要になってくると思われます。

バーチャル展示会の有効性について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊳

《質問》

昨今デジタルの分野では、VR等を筆頭に凄まじい進化を遂げています。これにあわせて我が社では展示会をバーチャル化しVR等を駆使した新しいネット展示会を企画しているところです。しかし会社では、ほんとにネット上の展示会に効果があるのかどうか、またコストがかかりすぎるのでは、と言った意見が多く思うように企画が進んでいません。ネット上のバーチャル展示会が有効であることを、社内に説得できるような論拠をご教授いただければ幸いです(工作機械メーカー・営業企画部)

 


《回答》

まずお話では、ネット上でバーチャルに展示会を行い、そこでVRなど仮想空間を駆使してバーチャル展示の価値を上げたいと考えておられると言うことだと認識します。

前向きにバーチャル展示やデジタル技術を導入して販売促進に役立てたいという貴方の考え方は今後のネット社会の発展のためにも貴重なものだと考えます。

しかし、大変心苦しいですが結論を先にお話ししますと、現状のインターネット状況(ハード面およびソフト面)や各企業のネットへの対応を考慮しますと、まず貴方が考えておられるバーチャル展示会が成功するのは非常に困難だと思います。

その根拠をお話ししたいと思います。

貴方が考えておられる「ネット上のバーチャル展示会」。よく考えれば少し違和感がありませんか? 我々が日常何気なく使っているインターネットで閲覧できるすべてのコンテンツは、じつはすべてバーチャルであることに気づくはずです。

たとえば企業のWEBサイトにしても、ネット上に企業が存在するわけではなく、サーバーの中にコンピュータ言語で記載されたコンテンツをブラウザを通じてあたかもそこに企業があるかのように理解しているのです。これがインターネットの特性でもありますが、まずインターネット上のコンテンツがバーチャルであることを認識すべきだと思います。

するとバーチャル展示会というのはどのように捉えればいいのでしょうか? 「バーチャル上に展開するバーチャル展示会」という不思議で非論理的な展示会になってしまいます。

さらに申し上げれば、じつはネット上のすべてのコンテンツがバーチャルであるなら、もうすでにバーチャル展示会は実現されているとも言えます。つまり我々がキーワードなどで検索しヒットした企業のWEBサイト。これがリアルの展示会におけるブースと同じ機能を持っていると理解できます。

しかもこのバーチャル展示会は365日世界中で開催されている展示会だとも言えます。ここでは誰でもが自由にさまざまな企業(WEBサイト=ブース)を訪問し、情報収集したり問い合わせを行うことが可能なのです。

したがって、論理的に考えると「バーチャル展示会」というのはあり得ないことであり、あえてWEBサイトとは別にバーチャル展示会を行うのはコストの無駄遣いにつながってしまいます。

そしてもう一つの重要なポイントである「VR」ですが、これは特殊な機材(VRゴーグルなど)が準備されていて始めて効果が得られるものです。ネット上でたとえVRを駆使したコンテンツを公開しても、本格的な3次元仮想空間は体験できません。なぜならまだ現状ではパソコンに接続したVRゴーグルを利用して3次元仮想空間を実現できるまでには至っていないからです。したがってWEBサイト上で3次元的に見せるとしてもそれはあくまでも3次元っぽく見せた2次元の世界でしかありません。

話は横道にそれますが、2003年にSecond Lifeというネット上で仮想空間を作り出し、企業が参加してまさしく展示会やセミナーなどを行うという画期的な仕組みが注目を集めたことはご存じだと思います。しかしそれもわずか数年もたたずに頓挫してしまいました。頓挫した最大の理由はトラフィックの問題だと言われています。つまり、ネット上で3次元仮想空間を作り出し、そこにアバターと称される人たちが参加する仕組みが膨大なデータ容量を必要とし、ネットワークの容量を超えてしまったためにアバター(参加する我々)の動きが鈍くなりとても実用には耐えられなくなってしまったのです。この仮想世界には多くの企業が参加していましたが、企業内でSecond Lifeにアクセスすると企業のネットワーク環境にも悪い影響を与え、まして業務中にこのような動きの遅いサイトにアクセスすることは時間の無駄遣いにもなり許されるものではありません。このような現象が多発したために、素晴らしいビジョンを持っていたにもかかわらずSecond Lifeは頓挫してしまったのです。

企業のWEBサイトで3次元仮想空間を作り出すとなると、おそらくSecond Lifeと同じような結果が待ち受けていると考えられます。貴方が企画しておられるバーチャル展示会がどのようなものかは分かりませんが、VRを駆使してバーチャル空間を構築すると言うことから、間違いなくデータ容量の問題が出てきて結果的にはアクセス数は漸減していくと考えています。

このようにインターネット上でバーチャル展示会を行うのは、いわば「バーチャル・バーチャル展示会」となりイベントとしては興味を持たれて当初はそれなりの訪問数を確保できるかも知れませんが、やがて訪問者も少なくなり維持コストなどのコスト負担が問題視されてくると思われます。

さらにもっとも大きな問題は、展示会はあくまでもリアルに行うから展示会であると言うことです。別稿でも述べておりますが、展示会はフェイス・ツー・フェイスマーケティングの最高の場であり、リアルに製品や説明員と接触することによって受注に寄与できる使命を持っています。

バーチャル展示会はこの展示会の最も重要なポイントをすべて投げ捨てるものであり、とても展示会としての機能は期待できません。

ただVRに関しては、御社が工作機械メーカーであることを考えると、リアルな展示会では巨大な装置の持ち込みに支障を来すことも考えられます。おそらくこのことがバーチャル展示会の発想につながったのだと推測しますが、それならばリアルな展示会でVRコーナーを設置して、製品の稼働状態を仮想現実としてみせるには非常に効果があると思います。ここではVRに必要なゴーグルなどの設備を準備しておけば十分対応できますし、スタンドアローンですのでトラフィックの問題も回避できます。

このようにお話しするとおそらく、お客様にわざわざ展示会場に来ていただく手間を煩わせることになる、と言った否定的な意見が出て来ると思われます。しかしお客様にとって動きが遅くVRといえども十分な情報が得られず、さらに説明員に直接問い合わせることも出来ないバーチャル展示会を社内から閲覧するよりもリアルな展示会に出向く方が遙かに業務効率が上がると考えられるでしょう。

貴方のせっかくの企画に水を差すようで申し訳ありませんが、現実的な営業活動やコスト効率を考えると、企画の見直しをされた方が良いと思っています。

ディレクターシステムについてご教授ください

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊲

《質問》

先日あるセミナーで「ディレクターシステム」について知りました。短時間の講義内容でしたので詳細がよく理解できずにおります。しかし広告宣伝部門の効率的な運営の仕方として大変興味があります。弊社は部員が5人の小規模な広告宣伝部門ですのでぜひ参考にしたいと思っています。できましたら実際に運営されている企業様の事例なども紹介いただければありがたいと思っています。(食品製造機械メーカー・広告宣伝部)

 

《回答》

「ディレクターシステム」はひとことで言えば、広告宣伝部門のすべての担当者(広告経理などを除く)がディレクターとして業務を行うと言うことです。

では現状の企業はどうなのかを考えてみましょう。現在では多くの企業は外注指向で、この場合の外注先は広告代理店がほとんどだと考えられます。そして外注先に対する発注形態は、まずオリエンテーションを行い、その内容にしたがって制作されたプレゼンテーションを評価することが主なプロセスになっています。この場合は、外注でほとんどの広告宣伝メディアやツールの制作を行いますから、作業効率は非常に高いと言えます。しかしコスト効率は後述するように適切とは言えませんし、それ以上に問題なのは、自社に広告に対するノウハウなどの蓄積ができないことです。

一方で現在ではほとんど少なくなりましたが、広告企画から制作まですべてを自社で行う場合です。これには当然広告宣伝業務の専門教育を受けた人材が存在していることが絶対条件になりますが、じつは外注費用が発生しない分コスト効率が良いように思われますが、決してそうではないことは後述します。

ここで広告(展示会やカタログを含めた広義の広告)の制作プロセスを考えてみたいと思います。

まず一番大切なのは、広告を行う目的とターゲットの選定です。その次にメディアの選定になりますが、これはマスメディアに限らずカタログなどのプロモーションメディアや展示会などのフェイス・ツー・フェイスメディアも含まれます。

ここで欠かせないのがマーケティングリサーチのデータですが、じつはマーケティングリサーチそのものが極めて不確実性を持っていることに気づかれていない場合が散見できます。したがって大げさなマーケティングリサーチを行うよりも、営業担当者からの顧客へのヒアリングや意見などを参考にした方が効率的な面があります。

念のため申し上げておきますが、有効なマーケティングリサーチはアンケートなどではなく、サンプル一人一人に対して2時間程度の時間をかけて対面でヒアリングすることです。そしてデータとして有効性が認められるには最低500サンプルが必要になります。したがってリサーチには合計で500万〜1000万円のリサーチコストがかかることになります。これが高額すぎるからと言って最近ではネットを利用したアンケートが流行っていますが、価格は安い分データの信頼性は極端に落ちることは念頭に置くべきだと考えています。

次に重要なのは、広告コンセプトの策定です。コンセプトとセールスポイントを混同されがちですが、コンセプトとは広告を通じてオーディエンスにどのようなメッセージを伝えるのかと言うことです。したがってセールスポイントはコンセプトに包含されていますし、有効なコンセプトとはコンセプトからセールスポイントがメッセージとしてオーディエンスに伝わらなければなりません。

ここで重要な点は、自社の企業理念や製品・技術・マーケットは自社の社員が一番よく知っているということです。先に挙げたすべて外注する場合、酷いケースではこのコンセプト策定まで外注するケースが少なくありませんが、自社についての詳細があまり理解されていない広告代理店に適切なコンセプトが策定できるはずもありません。

コンセプトが策定されればそれに則ったクリエイティブ作業に入ります。ここでは広告やデザインの知見を持つ専門家が広告宣伝部に存在しているかどうかで大きく変わってきます。専門家がいなければ当然外部プロダクションに外注せざるを得ませんし、専門家がいれば内制は十分可能でしょう。しかし内制の場合気をつけたいのはコストの問題です。社内で制作するから外注費用がかからずコストダウンに寄与できると考えがちですが、じつは単位時間あたりの人件費は多くの場合プロダクションよりもメーカーの方が高く、内制によって結果的に余計なコスト負担をもたらしていることを忘れてはなりません。

そしてこの一連の作業を行う場合、広告宣伝部門にデザインや広告に関する知見を持つ専門家がいるいないに関わらず有効な制作手法が「ディレクターシステム」なのです。

ここで言うディレクターとはもちろん自社の広告宣伝部員を指します。そこでディレクターの役割を少し述べますと、まず広告目的やターゲティングから始めてメディアの選択を行い、コンセプトを策定し、それに適切なクリエイティブを導き出す役割と言えます。そしてディレクターシステムでは、自社の内情や製品・技術・マーケットの状況についてもっともよく知っている人材がディレクターとして機能するわけですから、最高の仕組みだと考えています。

ちなみに広告代理店に丸投げした場合、ディレクターのコストは全体の510%必要になってきます。しかも企業内容を熟知していないディレクターにこれだけのコストを費やすことになります。

多くの企業の場合はデザインや広告に対する知見を持つ人材は少ないと思われますが、メディア選定とコンセプト設計の段階まではこれらの知見はあまり必要ではありません。むしろマーケットに対する知見の方が優先されますので、このことからも自社の人材がディレクターとして機能する方が効率的でよい広告が期待できるのです。

クリエイティブに関しては自社に専門家がいなければ当然制作プロダクションに外注することになりますが、ここで重要な点を述べておきます。それは安易に広告代理店に外注するのではなく直接制作プロダクションとともに、自社のディレクターがクリエイターと議論し、クリエイティブを完成させることが成功への近道です。

自社にクリエイティブの専門家がいる場合でも、彼らがディレクターとして外部プロダクションの外注する方が遙かにコスト効率は良くなります。

そしてプロダクションから提示されたプレゼンテーションの評価に移るわけですが、重要なのは決して会議など社内の多数意見を頼らないことです。あくまでもオーディエンス向けの広告ですので、社内の意見や論理は関係ありませんし、会議コストも無視できません。したがってディレクターの責任によって自らが自信を持って評価すればいいのです。

ディレクターシステムはこのようにクリエイティブコストの削減と質の向上のための秘策だとも言えます。単純に広告代理店に丸投げするのではなくて、広告やプロモーションの要所は自社で押さえ、クリエイティブのみを外注することがディレクターシステムの根幹になります。

他社の事例を希望されていますが、当該企業の内部情報に関するものであり具体的な企業紹介はこの場では差し控えたいと思います。

認知度向上のための、効率的なブランディング手法とは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊱

《質問》

弊社はBtoB企業であるため知名度が低く、何とかもっと知名度を上げて業績に反映できないかと模索しています。すでに多くのブランディングに関する書籍を読みましたが、いずれも非常に難解でとても現実の業務に生かすことは難しいように感じています。ブランディングとはこんなに複雑で学者でしか理解できないようなものなのでしょうか。もっと分かりやすくだれにでも取り組むことが出来るブランディング手法をご教授いただければ大変助かります。(機械メーカー・総務部)

 

《回答》

ご指摘の通り最近はブランディングに関する書籍は多く出版されていますが、いずれも一般社会人が理解するには非常に難解な内容であることは確かです。それはどうしても経営学の立ち位置でブランディングを述べると、様々な論文の引用などから自ずと難しい内容にならざるを得ないからです。

そのような難しい書物を読むまでもなく、これから述べる内容を御社の出来る範囲で行っていただければ、ある程度の成果は間違いなく出てくると思いますので、安心してください。

その前に、御社が誤解されている重要な点を指摘しておきたいと思います。

まず、ブランディングと認知度は少なからず関係しますが、認知度と業績は直接的には関係ありません。認知度が高くなったからと言って売上げが増加するわけではなく、また認知度が極端に低い企業でも毎年売上げ増加を達成している企業もあります。

したがってブランディングの目的は、まずターゲットとなる見込み客層に対するブランド認知と記憶、さらには記憶再生がいかに効率的に行われるか、であり業績はその効率がもたらす結果として表れてくるものです。しかし一方で、ブランドの重要性を語る上で大変興味深い現象があります。具体的なデータは持ち合わせていませんが、ブランド浸透率がある程度まで達成できると、極端な場合販売力が弱くても商品は売れてしまう現象です。おそらく見込み客や顧客の中で、態度変容にまで影響を与えるブランドの好意的な評価と記憶再生率が影響していると考えられます。

このような観点から見れば、ブランディングは企業経営にとって非常に重要な位置づけにあると思われます。しかもブランドを醸成する要因は多くの分野にまたがっています。

ブランディングは大きく分けて、「コーポレートブランディング」「プロダクトブランディング」「ヒューマンブランディング」の三つに分けることが出来ます。

まずブランド担当者に最も馴染みのある「コーポレートブランド」について述べたいと思います。

まず代表的なブランディングはマスメディアを使用した「ブランディング広告」ですが、ここでもブランディング広告と企業PRの混同が起きています。これは非常に重要なことですのでもう少し詳しくお話しします。

簡単に言えば現在ブランディング広告とされているもののほとんどは企業PR広告と言えます。ではブランディング広告と企業PR広告の違いがどこにあるのか。ブランディング広告は「メッセージ広告」と言いかえられます。一方の企業PR広告は「アピール広告」と言えるでしょう。メッセージとアピールではどちらがオーディエンスの心を打ち共感をもたらすでしょう。

メッセージは直接語られていない文脈をオーディエンス自らの心で読み取り、自分なりに解釈するものです。最も強烈なメッセージは「無言のメッセージ」であることはだれもが経験していることです。ここでは、メッセージ発信者の真意を読み取る努力をオーディエンスが行います。つまり、メッセージが何を意味するのかをオーディエンスが考えを巡らせて自分なりの到達点を見つけます。この到達点がメッセージ発信者の意図した内容と異なっていても問題ありません。重要なのは「広告を見て考えてもらう」と言うことなのですから。

一方のアピールは情報発信者が極論を言えば「我が社は素晴らしい会社です」と自ら自己自慢を広告というメディアを借りて行うものです。どうしても企業PR広告はこのような体裁になってしまいがちですが、こんな自己自慢をだれが信用するでしょうか? しかもこのアピールは直裁的に行われるため、オーディエンスに考える余裕を与えません。ここが大きな問題点なのです。

上述したようにブランド認知には記憶と記憶再生率が大きく影響します。まず記憶しなければリコール(記憶再生)は不可能ですが、じつは私達はリコールの数百倍、数千倍の記憶を持っています、ただ思い出せないだけなのです。

ではリコールに重要な要因は何かと言えば「自分で考えたことはリコールしやすい」と言うことです。このことから自ら考える機会を与えるメッセージ広告と直裁的なアピール広告のリコール度合いの違いは明白になってきます。

では何をメッセージ広告の主題として選定すればいいのかを説明します。とかく広告と言えばニーズ重視になりがちですが、じつはニーズは顧客サイドでも充分把握しており現在のような技術革新の早い時代には早晩解決される可能性が高く、オーディエンスに考える余裕を与えるとは言えません。

そこで重要なのが「課題提示」と「ソリューションの暗示」なのです。課題は将来引き起こされる問題と理解でき、ともすれば顧客サイドでも認識していない場合があります。現在社会課題を含めて様々な分野に多くの課題が存在しています。これをあえて提示することで、顧客から広告主の自信の現れと見なされる結果に導くことが可能です。さらにその課題に対するソリューションを暗示するメッセージがあれば最高です。

ここで言う課題については広告の主題となる大変重要なものですので、もう少し詳しく説明したいと思います。

じつはBtoB広告協会主催のBtoBコミュニケーション大学校を受講された方はすでに記憶されているかも知れませんが、2012年のASICAモデル(BtoB購買プロセスモデル)の講座の中で、課題の例として電気自動車を取り上げています。当時は電気自動車の重要なコンポーネントとしてモータや電池の高性能化が叫ばれ、その開発に様々な企業がチャレンジしていた時代です。

その講座の中で、電気自動車の将来の課題として「音源装置」を指摘していました。つまり、ほとんど無音に近い状態で走行する電気自動車は、将来その無音が安全上の問題になるだろうという予測のもとに提示したわけです。

それが2016年、ようやく自動車業界でも問題視され、あえて電気自動車に音源を備える方向で議論が始まりました。

当時はもちろん電気自動車にあえて音を出させることなど考えている企業はほとんどない状況でしたが、もしこのときある音響メーカーなどが「音のない自動車に安全はない」のようなヘッドラインで自動車の無音がいかに危険であるかをメッセージしていたら、当時の風潮に対する違和感が余計に記憶を増幅し、今になって即座にリコールに結びつき、その先見性からブランド価値は急速に高まったと考えます。

課題とはこういうものなのです。

ところでコーポレートブランディングで多くの企業が見逃しているのはじつは「建物」なのです。建築物はだれもが日頃から目にする大きなブランディング要素であるにもかかわらず、最近はどの企業も最新の建築部材の仕様に縛られて、画一的な建築デザインになっています。いくら優れた広告を展開しても、それ以上に目にする機会が多い建築物にメッセージ性がなければ、ブランド構築はちぐはぐになってしまいます。

またどこにもないユニークな本社ビルなどが出来れば、ランドマークとしての価値も高まり、最高のブランディングメディアとなるでしょう。つまり建築物そのものをメディア化すると言うことです。御社では今すぐにこんなことを言っても無理でしょうが、将来本社ビルの改築や新築の際には重要ポイントとして考えておいても無駄にはなりません。

このようにコーポレートブランディングでは、広告やWEBなどの既存メディアだけでなく、企業が保有している建築物にも目を配る必要があります。また、マスコミを対象とした広報活動の強化は、ブランド構築に大きな役割を果たすことも忘れてはなりません。単に新製品発表だけでなく、企画広報と称して企業内での様々な出来ごことや考えを丹念に広報することは、すでに述べた記憶とリコールの観点からもブランディングの第一歩とも言えます。

次に「プロダクトブランディング」について述べたいと思います。企業のブランド担当者もあまり意識していませんが、とりわけBtoB企業でもっとも露出度の高いのはじつは製品やサービスなのです。顧客リストを眺めればその数の多さに驚くはずです。

使用者がほとんど毎日接するこれらの製品やサービスをメディア化することによって、ブランディングの効率は格段に向上します。そのために重要なことは、製品やサービスの質がよいことはもちろんですが、製品デザイン、取扱説明書そして操作性を高めることであり、これらはブランド構築に継続的な効果をもたらすのです。

BtoC分野でも自分の好みのブランド商品を購入した結果、使いづらかったりすぐに故障し、サービス体制も悪ければほとんどの場合二度と購入することはないでしょう。もしこれらの不具合がSNSなどで拡散されてしまったら、マスメディアでせっかく構築したブランド価値は一気に崩壊してしまいます。

逆に購入した製品の性能やデザインが良くて、BtoB企業でも購買企業の二次製品の質に良い影響を与えた場合、当然のことながらリピート購買となります。これが前述した、「ある一定の閾値までブランド浸透率が上がると、勝手に製品は売れる」と言うことに繋がるのだと考えられます。

企業ではブランド担当者と製品開発部門は分離されている場合がほとんどですが、可能ならブランド構築のためにこれらの部門を統合させる勇気も必要になります。

すでにお話ししたようにブランディングは企業経営にとって大きな影響を与えます。そのためには組織を超えたブランド対策が必要だと言うことをくれぐれも忘れないでいただきたいと思います。

最後に最も重要な「ヒューマンブランディング」についてお話しします。

プロダクトに次いで顧客や社会との接触機会が多い社員をメディア化すると言うことです。言いかえれば社員一人ひとりが自社のブランド構築に大きな影響を与えているのです。ただ拙著「ASICAれ!」で述べているように、企業は経営者の資質によってその風土が特徴的な形態を有します。したがって、このヒューマンブランディングは経営者自らが率先して行う必要があります。

どんな製品であっても、それを販売する営業担当や故障時に対応するサービス担当の態度や言葉遣いによって知らぬ間にその企業のブランドに影響を与えることがあります。

経営者や社員の不祥事が一夜にしてブランド失墜の原因になることは極端な例ですが、通常の商談やサービス対応の際、対面だけでなくメール対応においても一担当者のふとした言動が相手企業からの信頼を損なう要因になることを忘れてはなりません。何も相手企業に媚びる必要はありませんが、営業やサービス担当者が自信を持って相手企業の立場で真摯に対応することが、ブランド構築に予想以上の効果をもたらすのです。
 
 その意味では昨今各企業が行っている階層別研修は逆効果になります。階層別研修は社員のコモディティ化を促し社員の個性を剥奪してしまいます。むしろ専門教育を徹底し、相手企業の知らない技術的内容にまで踏み込んで前向きに提案することがブランド価値を上げる要因となります。

現在あらゆるメディアや企業経営にデジタル化が進んでいますが、じつは企業に対する問い合わせの70%前後が電話によるものであることはあまり知られていません。もし電話問い合わせで、コールセンターが適切な回答をしなかったりたらい回しにしてしまったら、もう二度とその企業の製品を購入する気にならないことはだれもが経験しています。いくらデジタル化が進んでもヒューマンというアナログ的な要素をより重要視する企業風土がなければ、早晩その企業のブランド価値は低下していくのです。

以上のようにブランディングには「コーポレートブランディング」と「プロダクトブランディング」「ヒューマンブランディング」が一体となって行わなければ、ブランド効果はほとんどありませんが、残念なところブランディングの教科書には「プロダクトブランディング」と「ヒューマンブランディング」が言及されることは少なく、この点は気をつけた方がいいと思います。

あなたが言われるように数年来ブランディングに関する様々書籍が出版され、各企業ともそれに踊らされるようにブランディングに躍起になっています。しかしその結果はどうでしょう。この数年間で飛躍的にブランドイメージが向上した企業がいったいどのくらいあるでしょう? 皆無に近いと思います。それはほとんどの企業は理論や教科書に則って取り組んだとしても、コストをかけた大がかりなメディア戦略に依存しすぎプロダクトやヒューマンを軽視しているからなのです。

最後に興味深いお話しを。ブランディングにはコストがかかると考えられていますが、ヒューマン→プロダクト→コーポレートの順はコストのかからない順でありまたブランディング効果が大きい順でもあります。だから難解な書籍に惑わされることなく、どんな企業でも安価にブランディングは可能なのです。

残業規制強化の中、クリエイティブ業務をどのように効率化すればよいか

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉟

《質問》

最近弊社では働き方改革の名の下で残業規制が強化され、とりわけ我々のようなクリエイティブ業務に携わるものにとって非常に仕事がやりづらくなってきています。広告相談室にお問い合わせするのは場違いとは知りつつも、このままではクリエイティブに専念することが大変難しくなってきているのが現状です。そこで少しでもクリエイティブ業務を効率化する方法などがあればご教示いただきたく、あえて問い合わせさせていただきました。(金属製品メーカ・コーポレートコミュニケーション部)

 

《回答》

ご相談の内容から貴方はクリエイティブ業務を担当されていると推察します。それが広告代理店などの外注と共に行うものなのか、自ら内制されるのか不明ですのでそのいずれについても対応方法を述べたいと思います。

まず貴方は「クリエイティブ業務の効率化」をめざしておられますが、その根拠となるのは残業規制、つまり業務時間の削減だと思います。そこでまず効率化しなければならないのは、クリエイティブ以外の業務です。クリエイティブ専任と言っても様々な事務的な業務が発生しますし、それに取り組む時間はけっして少なくありません。その代表例が「会議」です。御社では最近会議が増加していませんか? これは最近多くの企業に共通していることですが、やたら会議やそのための資料作成が増えてクリエイティブに費やす時間が損なわれていると言った声を耳にします。

もとより会議はある案件の検討や決定に際して、表向きは多様な意見をもとに議論を行い最適な結果を求める、ということだと思われていますが実際は単なる責任の分散にしか過ぎません。しかも問題なのは、会議を行うことによって結果は最大公約数的に可もなく不可もなくの状況に落ち着くか、次回に再検討となることが往々にしてあります。実際米国のある大学での実験では、会議を行うことによって参加メンバーのIQは徐々に低下するというデータがあります。この結果が何となく頷けるのは、会議中発言者と参加メンバーとの関係性を見ればよく分かります。参加人数が多ければ多いほど発言の機会、つまり議論の機会は少なくなり、残りの時間は他人の話を聞いているか他のことを考えているか、居眠っているかのいずれかになります。

また参加メンバーの一人当たりの人件費を算出すると、会議にどれほどのコストが費やされているのかよく理解できますが、ほとんどの場合コストに見合わない結論が出ているはずです。

会議の最小単位は一対一で行う「相談」や「連絡・報告」になりますが、これも無駄な時間と考えられます。会議をやめ、相談や連絡・報告は出来ればやめた方が効率的ですが、報告と連絡がどうしても必要なら1分以内に済ますよう努力すべきだと考えます。

会議に限らず様々な書類づくりや事務作業も同様で、これらの業務も本当に必要なものだけに限定して作業するようにした方がいいと思います。意外に「やらなくても問題なかった」という作業が多く存在しているのは事実です。

さてクリエイティブの効率化についてですが、本来クリエイティブ業務と時間との相関関係はありません。たとえばあるコンセプトを決めるのに5分で済む人がいれば1週間かかっても結論が出ないという人もいます。したがってクリエイティブ業務の効率化は不可能と言えます。

内制を行う場合、DTPなどデジタルを駆使して作業することが効率化だと思われるかも知れませんが、それはクリエイティブではなくクリエイティブを定着化させるための作業の効率化なのです。ここでもデジタル化の普及によって意外にも作業効率が低下している様子がうかがえます。パソコンでクリエイティブ作業を行う場合、一昔前と比べて大きく効率が落ちていることにあまり気づかれていません。

昔のアナログ時代はクリエイティブを決定すれば後は手作業に移行しました。この手作業はあらかじめ設計したクリエイティブにしたがって自動的に行ういわば事務的な作業と言えます。私が現役の頃はこの時間をじつは次のクリエイティブの発想に用いていました。つまり同時に二つの業務を行っていたことになります。

それが現在ではパソコンに向かってクリエイティブの定着作業を行う場合、どうしても他のことを考える余裕がなくなってきています。脳の働きがどうなのかよく分かりませんが、現実的に私自身も現在は昔に比べて効率が落ちている気がしています。そこで重要なのは定着作業は極力事務的に済ませることであり、そのためにはクリエイティブ段階で充分サムネイルやラフスケッチを手書きで準備しておくことです。

さらにクリエイティブはいわば24時間考える余裕があります。食事をしていても遊んでいても自由に考えを巡らすことが出来るのです。だからクリエイティブの効率化はあり得ないというわけです。

一方代理店などと共に作業をする場合の非効率の最大の要因はじつはコンペ方式による制作業務です。複数の代理店に対して同じようなオリエンを行う無駄。代理店から提示されたプレゼンを、けっしてプロダクションのクリエイターよりも能力が優れているとは思えない人たち(役員など)による審査。そして審査結果に基づいた無意味なやり直しなど、上げればきりがありません。

代理店に外注する場合、まずコンペはやめること。そしてオリエンは必要最小限の内容に絞って行う事。提示されたプレゼンは余程の問題がない限りは受け入れること。ここではけっして個人の好みで作品の善し悪しを決めないこと。これがクリエイティブに付随する作業を最も効率化する要因になります。

クリエイティブを外注する場合、内制では出来ないレベルの質を持つ作品を求める訳ですから、そこで何だかんだとクライアント風を吹かせて難癖をつけることは非常に非効率的と言えますし、道理にも合っていません。

このように代理店(専門家集団)と共に仕事をすれば、クリエイティブの質は上がりクリエイティブ効率も格段に良くなるはずです。さらに重要なのはコンペ方式をやめることによって同じ代理店や同じクリエイターと長く付き合うことになりますが、これがますますクリエイティブの効率化に寄与する点です。同じクリエイターと永年にわたって制作業務を行う事によって、徐々にクリエイター自身もクライアントの事情が理解でき製品や技術に関しての知識も豊富なってきます.その結果、オリエンすら必要なくなることも考えられるのです。

最近はガバナンスなどややこしい制度によってどうしてもコンペが必要となる場面があるかも知れません。しかしガバナンスが必要としている「合意形成」が、じつはクリエイティブを確実に低下させることも忘れてはなりません。

結論として、まずクリエイティブの効率化は不可能であるが、クリエイティブ作業の効率化は大きく改善できる余地があること。そして会議や相談など無駄な時間は極力削減することがひいてはクリエイティブに費やす時間の確保に繋がることをご理解いただければ、と考えます。

マーケティングとセリングの違いをご教授ください

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉞

《質問》

もう数年前から弊社ではマーケティング重視の掛け声の下で、マーケティング部門を新設し営業活動を行っています。しかしその一方で目立った業績の変化は見られません。私自身は三年前まで営業部に所属し、その後現在の広報宣伝部に異動しました。業績への裏付けが明確でないにもかかわらず、未だに弊社ではマーケティングのデジタル化やオートメーション化の議論に躍起になっていますが、個人的にはいささか疑問点があります。そこでお尋ねしたいのですが、マーケティングと営業との違いはどこにあるのでしょうか。私には同じように思えて仕方ありません。(電子機器メーカ・広報宣伝部)


《回答》

マーケティングと営業の違いについてのご質問ですが、いわゆるマーケティングとセリングの違いとしてお答えします。

マーケティングはドラッカーの言葉を借りれば「売れる仕組みを作る」ものであり、セリングは「売る仕組みを作る」ことと理解できます。一方でマーケティング・ミックスと言われている4P(プロダクト---製品、プライス---売価、プレイス---流通、プロモーション---販売促進)の中でプロモーション以外の項目すべてが、じつはセリングに必要な項目なのです。このことがセリングとマーケティングを混乱させている要因だと考えられます。

セリングの「売る仕組み」には製品価格や営業体制、販売チャンネルや流通戦略の昔ながらの販売政策が主となります。一方のマーケティングの「売れる仕組み」は極めて曖昧な概念であり、一昔前は宣伝広告などがマーケティングの主流と言われていました。それがニーズ重視の時代になり、もっと顧客やマーケットのニーズに合致した製品開発や顧客動向を見て販売戦略を立てる様々な仕組みづくりが考案(適切かどうかは別問題)され、これがマーケティングの主要な概念になったのです。

しかしよく考えればこれらの概念もすでに昔からセリングに包含されていたものです。当然のことながらどんな企業であっても売れない製品を作るはずはなく、ましてや売れそうもない販売戦略は立てません。その意味から言えば、私見ですがマーケティングの「売れる仕組み」は「売るためのサポート」と理解した方が分かりやすいと思っています。もとよりドラッカー先生には申し訳ありませんが、とりわけBtoB業界で「売れる仕組み」とその後の「マーケティングはセリングを不要にするものである」という極論は、まさに机上の空論としか考えられないのです。

私は常々「各企業がマーケティングに心酔した結果、セリングの衰退をもたらした」と考えています。事実現在の各企業におけるセリングの劣化ぶりには目を覆うばかりです。その兆候は2000年頃から露わになってきました。

仕事柄メディアや印刷会社、広告代理店などからの売り込みがほとんどでしたが、2000年以前は各社の営業担当それぞれに特徴があり、けっして見栄えがよいとは言えない資料を前にしても、その人柄や絶妙な口調にある種の好感を抱いたものでした。そしてついついその口車に乗せられて仕事を発注する羽目になったことも多々ありました。

それが2000年頃を境に一変したのです。どの企業の営業担当もパワーポイントで作った小綺麗な資料を前に、蕩々と説明し続けます。話の内容はほぼ資料を読んでいるだけ、というものでとりわけ意外性のある殺し文句などは見当たりません。さらに担当者の顔の表情も不思議にどの企業も似たような様相を見るにつけ、気味悪ささえ感じるようになりました。ここでは営業担当にとって最も大切なスキルである商談力や説得力はまったく影を潜め、単に商品やサービスの説明をパワーポイントの資料に沿って粛々と行っている様子です。

言ってみれば昔のネチネチした営業活動からスマートな営業スタイルに変革されたとも言えますが、営業は売ってなんぼの世界です。いくらスマートな商品説明をしたところで売れなければ営業としては失格ですし、その手法は間違いなのでしょう。

おそらくマーケティング部門で作られた難解な理屈をもとに、営業担当が説明しやすいように整理された資料だと思われますが、その資料には説得力はもちろんなく、読むのも面倒になるくらいの綺麗事の羅列なのです。

もとより営業の本質はフェイスツーフェイスで相手の顔色を伺いながら言葉を選んでこちらのペースに巻き込むことなのですが、このフェイスツーフェイスでの対話スキルが極めて劣化しだしたのもこの頃です。これにはメールの普及や画一的な社員教育など様々な要因があるでしょうが、販売の最前線がこのような状況ではいくらマーケティング云々と声を大にしてもまったく意味のないことです。

さらにこの状況が危惧されるのは、ブランディング面において非常に良くない結果を醸し出していることです。ブランディングと言えば高いコストをもとにマスメディアを使った広告活動が重視されていますが、じつは最もブランディングに大きな影響を与えるのは「人」であることを見逃されているケースが少なくありません。どんなに綺麗な広告やインパクトのある広告を継続的に行っていても、その企業に属する「人」の言動が不自然であればブランド価値は地に落ちてしまいます。

その意味から考えると前述したどの企業も特徴のない営業担当による商談の結果、各社のブランドも似たようなものになることに気づかなければなりません。

とりわけ最近ではMA(マーケティングオートメーション)が注目され、それをテーマにしたセミナーは大盛況です。ここでも各企業がいかにマーケティングに心酔し、それがオートメーション化されることでさらなる業績の拡大に寄与できるだろうから、なんとか早く導入しなければ、と言う焦りを感じます。

どんな手法であれマーケティングがオートメーション化されることなどあるはずもなく、たとえAIを駆使したとしても「売れるマーケティング」には至らないでしょう。なぜなら我が国は資本主義社会であり、言いかえれば競争社会です。もし仮に優れたMAの手法があるとすれば、競合企業がこぞって導入するはずです。その結果はどうなるでしょう? 需要が極端に拡大しない限りMA導入企業すべての業績が良くなることはあり得ないのです。その競争に勝つために最も重要な要因は、くどいようですがセリングのスキルだと言うことに気づかなければなりません。

最後にマーケティングをセリングよりも上位概念と位置づける考え方であり、フィリップ・コトラーの提唱した「STPマーケティング」がありますが、ここで言うS(セグメンテーション)、T(ターゲティング)、P(ポジショニング)それぞれも、じつは古くから営業(セリング)において最も初期的な段階で取り組んでいた営業戦略の手法であったことも再確認する必要があります。

マーケティングに心酔することなく、人の個性を生かした営業担当の再構築(セリングの再構築)がこれからの企業には最も重要な課題だと思っています。

マーケティングとセリングの違いというご質問ですが、結論としてはマーケティングの概念はセリングにすべて含まれていることをご理解いただけると思います。

デザインドリブン・イノベーションは広告でも有効か

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉝

《質問》

昨年春から我が社では製品開発部門が中心となって「デザインドリブン・イノベーション」に取り組んでいます。私はコーポレートコミュニケーション部門の責任者をしており、新製品開発の進捗確認などのために時折その会議に参加することがあります。デザインドリブン・イノベーションに取り組んで以来、まだ目新しい製品の開発には至っていませんが、その理念は非常に興味深く、もしかして製品開発だけでなく広告分野でも応用できるのでは、と考えています。しかしどこを探しても広告におけるデザインドリブン・イノベーションを語った文献や資料を見つけ出すことが出来ません。そこで貴協会で上記の資料などありましたら入手したくお願いする次第です。また貴協会では広告分野でのデザインドリブン・イノベーションの可能性や効果などについてどのように考えておられるのかご教示いただければ幸いです。(匿名希望・コーポレートコミュニケーション部)

 

《回答》

素晴らしい発想です。広告分野において、デザインドリブン・イノベーションに取り組んでいる企業はおそらく皆無であり当協会にもそれに関する論文や資料はありません。しかし私は広告分野でもデザインドリブン・イノベーション(以下DDI)は非常に効果的であり、広告文化を大きく革新させる要素を持っていると考えています。

その理由を述べる前に、本誌の読者にDDIについて少し説明しておく必要があると思いますので簡単に記しておきます。

DDIの概念はそんなに新しいものではなく、すでに2003年頃にミラノ工科大学のVerganti教授によって提唱されました。ではなぜその成果が現在になっても数少ないのか、その要因として考えられるのが未だに各企業はマーケティング志向が強すぎる点です。

DDIはいわゆるマーケットニーズを重視した「マーケット・プル」政策と自社技術を重視した「テクノロジー・プッシュ」政策の二つの側面を包含しています。ところが現在でも多くの企業は「もうテクノロジー・プッシュ」ではモノは売れない。「マーケット・プル」思考でなければだめだと言う考え方に傾倒し、その結果マーケティング重視になっているのです。

さらにDDIではテクノロジーやマーケットニーズではなく、「意味(生活や社会、文化)の急進的な変化」が最も重要だと述べられている点も、取り組み姿勢に混乱を起こしていると考えられます。モノからコトへと、もうかなり古くから提唱されていますが、そのコトがじつは「意味」を意味するのです。その意味の重要性や認識度合いが各社ともまちまちであるためにDDIは本来の成果を上げられずに今に至っているのです。

ここまで述べただけでもさらに難しい話になってきていると思います。DDIを少し乱暴かも知れませんが簡単に説明すれば、ひと言「マーケティングはやめなさい。マーケットニーズよりも自社の技術やシーズをもっと大切にして、それらによって生活や社会に変革をもたらすような製品開発をしましょう」と言うことです。

つまりマーケットの意見などに左右されずに、マーケットや一般生活者ですが気づいていない驚くような製品や技術開発が重要だと言うことです。僭越ながらこの論理は、製品開発や広告分野でのメッセージで最も重要なのはニーズではなく「課題」であると述べているASICAモデルに合致するものでもあります。

DDIが成功した事例はまだ少なく、わずかにiPhoneやロボット掃除機などに代表されるに留まっています。ビジネスマンのワークスタイルや生活者のコミュニケーションに大きな変革をもたらしたiPhone。そしてだれもが考えなかった掃除機。このロボット型掃除機を開発したのは家電会社ではなく地雷探査用のロボットを開発していた企業なのです。もし地雷探知を行っているロボット企業がマーケティングを行っても、けっして掃除機の開発テーマはもたらされなかったでしょう。部屋の空間認識をしてあらゆる場所を走り回って掃除するこの商品が生まれてから、私達の生活は大きく変化しました。仕事や買い物に出かけている間に部屋を綺麗に掃除してくれるため、日常生活で掃除の必要がなくなったのです。

このように生活や社会のあり方などに大きな変化や革新をもたらすのがDDIの最大の目的であり、そこにはマーケットニーズは逆に邪魔になります。それよりも自社の技術を多方面に生かして、それぞれの分野で変革をもたらすことを念頭に置いて製品開発に取り組むことが大切なのです。

さて本題の広告分野でのDDIについて述べたいと思います。広告も製品同様に現在はマーケティング志向が極めて強いか自社技術のアピールに没頭しているかのどちらかです。その結果マーケットに媚びた歯の浮いたような広告になったり、自社技術をアピールしすぎて独りよがりの広告が目につきます。

広告にDDIの理念を導入すればどうなるでしょう。まず自社のシーズや技術をアピールすることになりますが、その裏側には生活者や社会の抱えている、しかもまだだれも気づいていない課題に対するソリューション(課題解決策)が埋め込まれていなければなりません。このような広告はマーケットリサーチをしても的確な指針は得られません。何しろマーケットですら自覚していない課題をリサーチするわけですから、データとして把握できるはずがないのです。また単なる技術広告や製品広告ではあまりにも課題に対するメッセージがなく、広告と言うよりも告知に近い様相を呈してきます。

製品におけるDDIと同様に、広告分野でも「あっ、そういう考え方があったのか。今まで気づかなかったがいいことを教えてくれた」という反応があってこそ企業や社会、マーケットの変革に繋がってきます。つまり新しい「意味」を広告を利用してメッセージするのです。これからの広告にはこのように非常に大きな役割が求められると思っています。

またDDIを行うに当たって不可欠なのは「意味の解釈者」の存在だと言われています。様々な価値観を持つこの解釈者は、自社に限らず多様な分野(たとえば芸術、デザイン、建築、医学など)から選抜し、ネットワークを組むことで意味の集約を図ろうとするものです。ここでも重要なのは現状の意味を前提にするのではなく、将来を見据えた新たな社会や生活に言及した意味を探索することです。

こうなるとたいそう大がかりな取り組みになり腰が引けてしまいそうですが、まずは身近で一風変わった考えや価値観を持っている人材を23人集め、議論することから初めてもいいでしょう。広告に限定すれば、デザイナーやコピーライター、そしてできれば顧客も含めて侃々諤々議論すれば、きっと社会を驚かせるような広告が生まれると思います。

マーケットを変革し新たな意味を持つマーケットを形成する。社会を変革し、私達の生活を含めて新たな意味を持つ社会を創り出す。これがこれからの広告に求められる課題であり、そのために広告においてもDDIは重要な役割を演じると考えます。

コスト効率の良い展示会ディスプレイの手法とは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉜

《質問》

弊社では大規模な展示会が9月にあり、120㎡程度の規模で出展しました。しかし展示会終了後、思ったように集客が得られず、引き合い数も計画を下回り、全社的に展示会のコスト効率が悪すぎるのでは? と言った意見が多くなりつつあります。このままでは次回は規模を縮小する方向で考えています。展示会でのディスプレイはコストがかかりもっと効率の良いディスプレイが出来ないものかと検討しているところです。コストをかけずに多くの引き合いが得られるディスプレイについて、ご教授いただければ幸いです。(機械部品メーカー・広報企画部)

 

《回答》

ご依頼の件はじつは展示会そのものが常に持っている大きな課題です。展示会でのコスト効率は、展示会での成約数を投入したコストで割れば得られます。御社では展示会での引き合いを重視されているようですが、正確には展示会で得られた受注額が重要な係数となります。しかしとりわけBtoB業界では引き合いから受注までの期間が長く、余程精緻なトラッキングを行わないと上記の数式を生かすことが出来ません。このトラッキングの重要性や手法については本稿のシリーズ⑯で述べておりますので参考にしてください。

さて、展示会でのコスト効率を上げるために欠かせないのは、最もコストのかかるディスプレイ費用を出来るだけ押さえることです。米国の展示会サーベイ会社のデータでは、記憶に残る展示会の要素として製品やデモ、説明員が上位にランクされ、ディスプレイや説明パネルは悲しいほどランクは低い結果となっています。

言うまでもなく展示会終了後の来場者の記憶残留率は、その後の受注に大きく影響します。しかしディスプレイや説明パネルはほとんど記憶されず、結果的には受注への寄与度はかなり低いと見ざるを得ません。

このデータの信憑性を確認するために、私が個人的に一昨年数件の展示会で調査をしました。その内容は「説明パネルは本当に記憶に残らないのか?」というテーマで調べた結果、平均すると来場者一人当たりが説明パネルを読むのに費やす時間は僅か20秒でした。20秒と言えば字数で換算すると130字前後となります。つまり彼らは説明パネルを読んでいるのではなく、見ているだけなのです。そこには多くの文字が羅列され印象的なビジュアルはほとんどありません。これでは記憶されないのも無理はないでしょう。

それにもかかわらず現在の各社のブースを眺めてみると、相変わらず文字だらけの説明パネルのオンパレードです。これだけでもコスト効率を大きく下げている要因になります。

ではどのように改善すればよいのかお話ししたいと思います。まず説明パネルをブースから排除すること。読まれもしない文字で構成されたパネルなど無用の長物です。しかし読まなくても少なくとも20秒間は見ています。それなら見て分かるようなグラフィック主体のパネルに置き換えることが効果的かも知れません。ただパネル形式だとどうしてもグラフィックの表現面で限界があります(挿絵的にならざるを得ない)。そこでいっそのこと壁面全体をグラフィックで埋め尽くすことにチャレンジしてはどうでしょう。いわゆるインフォグラフィックス(情報デザイン)で壁面を構成するのです。その代わりブース全体の造作は極めてシンプルにすることでコストも抑えられます。

文字を使わずにグラフィックで表現するとなるとかなり熟練したデザイン能力が必要になりますが、展示会のコスト効率を上げるには致し方ないことです。

ブース全体をインフォグラフィックスで構成された企業は今のところ目にしたことがありませんが、おそらく今後この手法が展示会ディスプレイの主流になってくると思っています。

とかく説明パネルでは説明したい事柄を思う存分語りすぎて、その結果文字だらけのパネルになってしまっているのです。しかし一方でインフォグラフィックは情報を抽象化していますから、見ただけでは即座に理解できず、かといって気になる数字や図表が描かれていればどうしても説明員に問いたくなるものです。ここで説明員と来場者とのコンタクトポイントが得られます。結論を言いますと、来場者が説明して欲しくなるような、また説明員が説明したくなるようなブースデザインが最も効果的なディスプレイと言え、コンタクトポイント画像化し結果的に引き合いも増えてくるのです。紙幅の関係からこれ以上詳細は割愛しますが、なぜこの手法が効果的なのか、展示会のコスト効率が上がるのかについては別項「カタリスト・マーケティング」について述べていますので参考にしていただければ、と思います。

もう一つ別の観点から展示会のコスト効率を改善するとっておきの手法を紹介します。それは、リユーザブル(使い回しが出来る)のブースシステムです。私が現役の頃に実現させましたが、このシステムはブース全体を壁面や柱、展示台など数種類のモジュールから構成されています。しかも各モジュールにはあらかじめ電気配線が施され、モジュールを組み合わせるだけで電気設備が整ったブースが簡単に構築できます。当時は為替が110円の時代でしたので、ブースシステムは米国で製作しました。米国だと安価な建築部材は選ぶのに苦労するほど多くあります。ここで重要なのは、使い回ししますから汚れや傷が目立たない建築部材を使用することです。当初は5年償却のつもりで総予算5500万円で製作しました。対応ブースの規模は0.8㎡から216㎡と設定しました。モジュールの組みあわせで様々な規模に対応できます。組み立ては六角レンジ一本ですべて対応可能な特殊な連結金具(これも米国製)を使用しました。

結果的には5600万円かかりましたが、従来方式に比べて年間で2000万円のコスト削減を実現しました。ちなみに当時の年間展示会コストは出展料などすべて含めて約9000万円でしたから、20%以上のコストダウンが可能になったのです。現在このようなリユーザブルのブースシステムを利用している企業は皆無ですが、その最大の理由はまずイニシャルコストが大きすぎることと膨大なシステムの保管場所の確保やコストの問題だと思います。しかしそれらのコストを加味しても上記のように年間20%以上のコスト削減が可能になったのは事実で、各社ももっとこの手法を利用すれば効率的な展示会運営が可能になるはずです。

上記のようにコスト削減に大きく寄与するということは、たとえばインフォグラフィックスにもっとコストを投入するとか説明員教育を徹底するなど、米国リサーチ会社のデータにある記憶に残らないブースデザインと説明パネルを改革することと、ブース全体を活性化させるカタリスト・マーケティングにコストを振り分けることが出来るのです。そして何よりも、展示会でのコスト効率を考えれば、たとえ展示会において受注がなくても年間2000万円の利益を展示ブースそのものがたたき出しているという見方をすれば、この手法も一考の余地があると思います。

社会に通用するコンセプトメイキングのしかた

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉛

《質問》

弊社はIT周辺機器を開発販売している中小企業で、競合企業が多い中企業ブランド強化のために組織の再編も含めて検討しているところです。従来は特別な広報宣伝部門はなく、営業部門でカタログ制作や展示会に対応してきました(すべて外注です)。ブランディングにあたって、まずコンセプトを明確にする必要があると代理店から提案があり、現在コンセプトの策定に四苦八苦しているところです。
私自身恥ずかしながらコンセプトをどのように設定すればいいのか、またすべて代理店に任せて済むものなのか良く理解できていません。そこで、企業ブランド再構築のために必要なコンセプト作りの手法などがありましたらご教授いただきたく、よろしくお願いします。(IT機器メーカー・営業部)

  

《回答》

今回のご質問の趣旨は、御社の企業ブランド強化(ブランディング)を目的とするために、コンセプトを策定するということだと理解します。

まず、どんな企業にとっても最も大切なのはコーポレートコンセプトです。コンセプトという文言はよく使われるのですが、その本質を理解されているケースはあまり目にしません。コンセプトが「目的」や「目標」とすり替えて安易に使用されている場合が少なくないのです。

さらにコンセプトは企業哲学のようなもので、当該企業のあらゆるモノや人、組織にも関与します。したがってとりあえずの流れを述べるとすれば、コーポレートコンセプト→プロダクトコンセプト(開発業務を含む)→組織編成コンセプト→人材育成コンセプト、という流れになります。その他、サービスや販社との関係構築にあたってのコンセプトも存在するでしょう。

そこでご質問のあったコンセプトメイキングについて、ですが。正直なところ各社とも非常に軟弱なコンセプトメイキングがなされているのが現状です。それは上述した「目的や目標」さらには「ビジョン」にすり替えられたフレーズをコンセプトと称しているもので、ビジネスオリエンテッドな現状ではある意味で致し方ないかも知れません。

しかしコンセプトは企業哲学であり、まずは当該企業がその哲学に基づいて社会に対して何をメッセージすべきなのかを考えることからコンセプトメイキングは始まります。

そこで大きな問題を抱え込むのがコンセプトメイキングをマーケティングの一環として理解してしまうことです。コンセプトとマーケティングはまったく関係有りません。現在はどの企業もマーケティング重視の傾向が強くなりつつあるのも、前述した軟弱なコンセプトが誕生する要因だと思っています。

つまりどういうことかと言いますと、マーケティングは販売を目的として、マーケットや社会の現状におけるニーズをリサーチすることですが、これでは得られるデータはマーケットや社会の現在の要望や要求になってしまいます。

コーポレートコンセプトは決してマーケットや社会に迎合したモノではなく、その企業独自のメッセージであるべきです。流行も関係有りません。誰が何を考えようがそれも関係有りません。ただひたすら自社にとってマーケットや社会にどんな貢献が出来るのかを自分たちで考えることが重要です。

簡単に言いますと、コンセプトメイキングで重要なのはマーケットや社会の意見を無視するということです。これはよく考えれば当たり前なのですが、たとえば同業社がマーケティングリサーチをしてコーポレートコンセプトを策定すればどのような結果が待っているでしょう。マーケティングリサーチの精度が高ければ高いほど、どのような企業も同じデータを得ることになってしまいます。その結果コーポレートコンセプトも独自性がなく歯の浮いた似たようなコンセプトになるのです。さらに恐ろしいのがそのコンセプトに基づいてプロダクトコンセプトや組織編成コンセプトに至ればまた他社と同じような商品や組織形態が生まれ、もはや企業そのものがコモディティー化する要因を作ってしまいます。

最近、どの企業も同じような商品ばかりで結果的に価格競争に陥ったり、同じような組織形態で似たような人材が多くなっているのはこれが原因です。

いうまでもなく企業が勝ち残っていくためには、マーケットや社会に媚びず、独自の技術と独自の経営手法によって企業運営していくことが大切です。この根幹になるのかコーポレートコンセプトなのです。

したがってまずコーポレートコンセプトを策定するにあたって重視しなければならないのは、「御社のシーズが何か」を明確にすることです。ニーズは無視した方が混乱しません。そしてそのシーズを元にして、現在ではなく未来のマーケットや社会にどのように貢献できるのかを考えることですが、ここで良くやる失敗は外部コンサルタントや代理店に依頼することです。自社のシーズや社員の特性は自社が最も良く理解しています。それを外部のブレインに頼ってしまうと、外部ブレインが理解できないことをマーケットや社会に求めようとして前述したマーケティングリサーチへと進んでしまうのです。これは絶対に避けなければならない大切な部分であり、しかも最も重要なスタートラインです。

ここで得られたメッセージにはいくつかの種類があります。

まずは、単純にメッセージとして社員や取引先に周知すること。この場合基本的にはコーポレートコンセプトはメディアなどでマーケットおよび社会に周知する必要はありません。あくまでも基本的なコンセプトとして社内の誰もが理解することが先決です。

もう一つは積極的にマーケットや社会にメッセージする方法があります。この場合は、単なるメッセージではなく、未来のマーケットや社会に対する課題提供や啓発活動の一環として捉えます。

私は数々のメディアで一貫したコーポレートコンセプトを展開するには後者の方が良いと思っていますし、その方が遥かにマーケットや社会に対するインパクトは強くなります。所謂メッセージ広告というのはこのような課題提供型の広告のことを意味しています。

さて、このようにしてコーポレートコンセプトが明確になれば、前述したプロセスでプロダクトコンセプトや組織編成コンセプト、さらには人材育成コンセプトへと繋がっていくわけですが、いずれもコーポレートコンセプトがその中に活かされていなければなりません。とりわけプロダクトコンセプトを策定する場合、マーケットを意識しすぎて、大きな間違いであるニーズを追いかけたコンセプトを策定してしまいがちです。技術革新が超スピードで進行する現在、ニーズを追いかけていては商品化された時点でそのニーズが陳腐化してしまいます。

そしてブランディング作業は、コーポレートコンセプトさえしっかりと策定できれば、それに沿った形でメディアごとに表現を変えて多様な広告展開が可能になります。

大切なのは、ブランディングを先行させて、コーポレートコンセプトを後付けすることは絶対に避けるべきだということです。

よくブランディング策定の際に議論される「マーケットや社会にどのように思われたいか」などといった主体性の欠如した視点ではなく、堂々と「どのように思われても良い。我が社はこうだ」とメッセージすることが、じつは最もアピール力を生むことを忘れてはなりません。

デジタルマーケティングについてのご相談

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉚

《質問》
 

最近弊社では営業部門を主体として、デジタルマーケティングの導入を検討しています。弊社は金属加工の中堅メーカーで、年間売上高は500億円程度です。顧客は自動車業界をはじめ多岐にわたります。我が社のようなBtoB企業にとって、デジタルマーケティングがどの程度効果が有るのか、またそもそもデジタルマーケティングを導入するとすれば、何から初めて良いのか迷っているところです。BtoB企業におけるデジタルマーケティングの効果や可能性などについてご教授いただけたら幸いです。(金属加工業・企画室) 

《回答》
 

デジタルマーケティングは最近になって急速に注目され、導入を急ぐ企業も増え始めています。一方で、デジタルマーケティングの意味やその効果についてはまだまだ十分に理解されていないところもあります。
 

デジタルマーケティングは当然のことながらインターネットとWEBサイトの普及、さらに最近注目されているビッグデータの取り回しが可能になったことで、一挙に耳目を集めるようになってきました。
 

ビッグデータのマーケティング分野での有効性については、本稿ですでに述べておりますのでご参考いただければ、と思います。
 

さて、ご質問のデジタルマーケティングがどれほどマーケティングやセリングに効果が有るのかと言うことですが、結論を申し上げると、とりわけBtoB企業ではほとんど効果は期待できないと考えます。
 

その理由は、ひと言で言えばすべてデジタルで情報処理を行う事に要因があります。そもそもデジタルマーケティングは、商材の販売や新製品開発に有効なデータをもたらすことを前提に捉えられています。
 

データのすべての要素は、当然のことながら「人」の行動変容や心理変容が係わってきます。しかし人の心理や行動は、すべてデジタルで表現できるものではありません。むしろ、デジタルでは表せないアナログ的な変容の方がマーケティングにとっては重要な要素になります。
 

それがBtoB企業となればなおさら難しい問題を孕んできます。得られたデータが個人の変容なのか企業の変容なのか明確に判断することは困難です。というよりも、企業の変容というのは考えられず、それは企業という組織に属する組織人(市井人とは異なる性格を持つ個人)の変容と考えられるでしょう。
 

これらの不可解なデータを元にしてマーケティングに生かそうというのがデジタルマーケティングなのです。
 

そこで少し寄り道をしてマーケティングについて述べたいと思います。
 

我が国に本格的にマーケティングの概念が導入されたのは、およそ50年前くらいです。それまではマーケティング理論などは眼中になく、ただひたすら各企業は顧客と親密な関係性を構築し、その結果として業績に寄与させてきました。ここではマーケティングではなく、セリングが顧客との接点として最も重要な概念だったのです。
 

そして今から50年前にマーケティング理論が紹介されるやいなや、大手企業を中心にこぞってマーケティングに注目するようになりました。その結果はどうでしょう。為替の問題などグローバルな要因があったにせよ、50年前と比べて各大手企業の業績や活力は大きく変化したでしょうか? 私はほとんど変化なく、むしろマーケティングの導入によってセリング(売る力)が弱くなってきているようにも感じます。
 

つまり、「マーケティングがセリングを弱体化させた」と考えています。
 

それが今度はすべてデジタルでマーケティングを行うという、非常に乱暴な手法に各社とも血眼になっています。その根底にあるのは、間違ったマーケティングの考え方と、企業における経営効率の追究です。そこで経営効率の追究について見てみましょう。御社でも当然インターネットや社内ネットワークは十分に整備されていると思います。その結果経営効率はどの程度向上しているでしょう? 確かに在庫管理や工程管理などは格段にデジタル化の恩恵を受けているでしょう。しかしこの効率化された業務はすべて「状態管理」の部分なのです。

 デジタル化によって状態管理は従来の手作業から代替した結果、飛躍的に効率化がなされました。しかしその一方で大変重要な要素を置き去りにしていることも確かです。その最も大きいのが「個人のコミュニケーションスキルの低下」です。とりわけメールコミュニケーションやスマホに慣れた若年層にその傾向が強く見られます。そして皮肉なことに、我が国を世界一の経済国に押し上げた企業のセリング(売る力)は、この顧客とのコミュニケーション力によって大きく左右されます。
 

さらに大きな問題は、最近どの企業からも驚くような新製品が生まれてこないことに代表されるように、商品開発力も落ち込んできているのです。前述のコミュニケーション力と商品開発力は、企業の状態管理による効率化よりも遥かに重要な資産とも言えます。これらが弱体化した要因は、すべてデジタル化された企業経営にあると言っても過言ではないでしょう。
 

先に、我が国にマーケティング理論が導入されてから企業の弱体化が始まったと述べましたが、それはよく考えれば当たり前のことです。つまり有効なマーケティング理論があったとして、各社がそれを導入すればどうなるでしょう。どの企業も同じような商品を開発し同じような売り方をする。それでは売れないどころか価格競争に陥るのは目に見えています。だから最近は驚くような新製品を目にすることが少なくなったのです。企業も社員もコモディティ化された結果であり、それを促したのが経営の側面にまでデジタル化を進めたことなのです。
 

ご質問のデジタルマーケティングはまさにこの悪弊をさらに強化することになります。どんな有能な社員もいずれはコモディティ化され、自らの大切な独自性を発揮できなくなるでしょう。そして企業にしても皆同じような製品を世に出し、同じような売り方をし、最終的には価格競争に巻き込まれるでしょう。
 

もしどうしてもデジタルマーケティングを導入するならば、そこから得られたデータを読み解く能力を合わせて育成しなければなりません。つまり同じデータを元にしても他社とは違った結論を導く能力です。ここでは個人が持つ「勘」がものを言い、データ解析をデジタルで行うなどもってのほかです。
 

デジタルマーケティングを本格的に導入しようとするとシステム構築だけでも膨大なコスト負担が強いられますが、それを回収するためには、データベースに現れないいわゆる行間を読む力や未来を予測する能力(勘)が不可欠となってきます。皮肉なことにこの二つはいずれもデジタルとは相容れないところに存在するものなのです。

デジタルマーケティングの根幹は、様々なデータによる現状解析によって未来(将来売れる製品開発)を探索することだと思われがちですが、上述した「人」の心理変容や行動変容は、決して過去と現在の延長線上に未来があるとは言えないことを充分理解しておく必要があると思います。       

BtoB企業の効果的な製品広告とは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉙

《質問》
 

弊社はグローバルに事業展開している機械メーカーです。おもに工作機械や産業ロボットを開発・販売しています。従来から専門紙や業界紙を中心に広告展開しています。しかし広告効果が本当にあるのかどうか社内でも議論になることがあります。営業部門はBtoB企業では広告効果はあまり期待できない、それよりも展示会やカタログに注力すべきだという意見が強くなりつつあります。私は各メディアを万遍なく利用して広告展開すべきだと思っているのですが、効果が云々と言われるとどうしても営業部門を説得することができません。我が社のようなBtoB企業での製品広告を効果的に展開するにはどのような取り組みが重要なのでしょうか。(機械メーカー・コーポレートコミュニケーション部)
 

《回答》
 

最近はインターネット広告などネットを主体としたプロモーションが注目され、旧来の印刷メディアでの広告展開にネガティブな意見が少なくありません。その要因として、新聞や雑誌メディアの購読部数の減少が上げられますが、もっと重要なのは広告効果測定での引き合い件数の出所が不明確なことが問題視されているのでしょう。
 

ここではインターネット広告は除外して、新聞広告や雑誌広告などの旧来のメディアでの広告展開について述べていきたいと思います。
 

まず広告効果測定の重要な係数になる引き合い件数のカウントの仕方ですが、最近はメディアからの引き合いはほとんどないと考えられます。1990年頃から普及しだしたインターネットによって印刷メディアでの引き合いはWEBサイトを通じて得られることがその要因です。したがって新聞や雑誌メディアからの引き合いがないからといって、広告効果が少ないとは言い切れないことを充分認識しておく必要があります。つまり、現在は印刷メディアに限らずほとんどのメディアからの引き合いは、一旦WEBサイトを通じて得られると考えなければなりません。
 

WEBサイトから得られた引き合いがどのような経路を辿って来たのかはログを解析すればある程度分かります。おそらく何らかのメディアでの情報が起点となって検索されWEBサイトに到達していることが理解できると思いますが、どのようなキーワードでどのページにアクセスされたかによってそれが広告によるものなのか他のメディアによるものなのかはかなりSEO対策を綿密に施しておかなければ判別できません。
 

御社の営業部門が「BtoB企業では製品広告の効果はあまり期待できない」と思われるのは以上のような現象が元になっていると考えられますが、決して製品広告の効果がないのではなく、効果測定の係数が変化していることを充分理解すべきです。
 

ところで、ではどのような製品広告が効果的なのか、についてお話ししたいと思います。

 すでに御社では専門紙や業界紙を利用されていますので、メディアの選択に関しては大きな問題はないと思います。問題はどのような広告クリエイティブなのかですが、とかくBtoB企業が行う製品広告はいわゆる「カタログ広告」になる場合が多く見受けられます。これは充分気をつけた方がいいでしょう。

 とりわけ営業部門が主体になって広告展開する場合、幾つものセールスポイントを列挙したり、細かなスペックを記載してまるでカタログのようになってしまっている広告を見かけることが少なくありません。要するに新聞や雑誌メディアに「チラシ」を掲載しているのとほぼ同じ考え方です。広告をこのように煩雑な特徴やスペック、写真で盛りだくさんにしたくなる気持ちは、少なくとも営業サイドに立てばよく理解できますが、最早このような広告は広告とは呼べない代物になってしまっています。
 

広告の重要な役割は「引き合いを得ること」です。一方でカタログの役割は「製品を販売すること」です。ただカタログの場合はそこに営業担当が介在しますから、あくまでもセールスツールとしての役割になります。

このように役割が明確に違うにもかかわらず、広告にカタログ機能を持たせることは非常に効率が悪くなります。まずポイントが明確でなく多くの特徴が列挙されたり細かなスペックが記載されてしまうと、営業サイドとしては「ん、これで十分だ」と思いがちですが、広告で製品が売れることは期待できないことは以前本欄でも述べています。
 

BtoBにおける購買プロセスから考えると。まず重要なのは広告で購買を期待するのではなく見込み客を得ることなのです。それが広告でほとんどカタログの焼き直しのようなクリエイティブであれば、そこで良くも悪くもある程度製品が理解されWEBサイトに誘導することができません。一方で、WEBのプロモーションサイトに比べるとあまりにも広告の内容では貧弱になってしまいます。したがって、中途半端に理解されてWEBサイトにも誘導できない、つまり見込み客が得られないという最悪のケースが待ち受けているのです。
 

つぎに製品広告の効果的な取り組み方、についてお話ししたいと思います。
 

まず重要なポイントは「語りすぎないこと」です。広告でカタログのようにすべてを語るのではなく、一つか二つのセールスポイントに絞ってそれを印象的なビジュアルや場合によればインフォグラフィックなどを駆使し、さらにオーディエンスの心に訴えるヘッドラインで構成することです。たとえば新聞で全15段という大きなスペースであったとしても決して語りすぎてはなりません。言い方を変えれば「?」や「なぜなの?」「なるほど」といったオーディエンスの心理変容を起こさせ間髪を入れずにその「?」を理解させるためにWEBサイトに誘導できる広告が現在では優れた製品広告だと言えるでしょう。
 

すべてを語らずなかば中途半端な広告にはおそらく営業部門から猛烈な拒否反応が出てくると予測されますが、何度も述べるようにどんなに頑張っても広告ですべてを理解させるには限界があり、しかもBtoB分野ではいわゆる衝動買いが期待できないため、広告で製品が売れることは皆無と言えます。製品広告の役割はWEBサイトへの引き合いを得ることを営業共々充分認識しておかなければなりません。
 

ではどのようなコンテンツが製品広告に有効なのか、ですがこれはターゲットによって異なってきます。ターゲットが顧客企業の現場サイドであれば、顧客企業が抱えているであろう課題に対するソリューションを前面に出すべきでしょう。課題とソリューションを上手く一体化して広告展開できれば最高です。ここでは当該製品の特徴やスペックなど必要なく、その製品を導入することでどんな課題が解決できるのかを端的に示唆すべきです。ターゲットが顧客企業の決裁者の場合は上記の他に、導入効果を具体的に理解されるヘッドラインが生きてくるでしょう。ここでも細かな製品特徴やスペックは必要ありません。詳細はWEBサイトで説明できますから。
 

 紙幅の関係上あまり多くは述べられませんが、BtoB企業における製品広告の最も重要なポイントは、「語りすぎないこと」なのです。その一方でWEBサイトのランディングページやプロモーションサイトを充実させておくことが重要なのは言うまでもありません。つまり印刷メディアの広告とWEBサイトが一体化されたプロモーションが最も効果的な広告だと言えるのです。     

宣伝部長の役割

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉘

《質問》
 

私は現在金属加工会社の宣伝部をとりまとめています。といっても、この4月に宣伝部長を仰せつかったばかりで、それ以前は人事部に所属していました。人事異動に際して、会社の上層部からは、「とにかく前任者の流れで上手くやってくれればよいから」と言われ引き受けざるを得ませんでしたが、正直なところ宣伝や広告に関する知見はまったくなく、会社の期待にどれほど応えられるのか心配です。部員は5名おりますが皆ベテランです。その中の一人から貴協会はBtoB広告の専門機関だと知り(申し訳ありませんが会員ではないです)、まず宣伝部長として今後どのように業務を遂行していけばよいのかご教授をいただければ、と思いご相談申し上げる次第です。大変お恥ずかしいことですが、どうかよろしくお願いします。(金属加工業・宣伝部長) 

《回答》
 

最近はどの企業も人事ローテーションが激しくなり昔のように広告や宣伝の専門家が宣伝部長になることは珍しくなりました。したがって何も心配されることはありません。
 

宣伝部の業務は大きく分けて広告宣伝予算の獲得、広告宣伝媒体の選別、クリエイティブ業務、媒体への発注作業、広告効果測定などがあります。この中で宣伝部長として最も重要な仕事は、ズバリ「広告宣伝予算の獲得」です。最近はほとんどの企業が利益至上主義に陥り、そのしわ寄せで極力経費を削減する傾向が顕著になってきました。そんな中で予算の獲得は非常に困難な業務でもあります。

 じつは企業が経費削減の一環として広告宣伝費をターゲットにする理由のひとつとして、未だに広告宣伝部門を「コストセンター」と間違って認識していることが上げられます。広告宣伝はひいてはブランド形成や販売促進(プロモーション)に欠かせない業務であり、いわば「プロフィットセンター(利益を生む部門)」なのです。

 これが理解されていないと予算獲得に非常な無駄骨を余儀なくされてしまいます。まず経理部門にこのことを充分説得されることが重要かと思いますし、そのためにはある程度の理論武装が必要です。広告宣伝部門がプロフィットセンターであることは、販売促進面から見れば受注獲得のため、そしてブランド形成の側面から見れば企業価値の向上のために行う「投資」業務であることからも明白です。決して経費ではないのです。
 

販売促進面では短期的には半年程度でリターンが得られますし、ブランド形成面では5年程度は必要になりますが、強力なリターンをもたらします。たとえばある一定のブランド形成が行われれば、極端な場合営業活動が多少貧弱でも不思議なことに製品は売れてしまいます。その閾値がどのあたりにあるのかは明言できませんが、いずれにしてもこれらが「投資」である証拠として認識できます。
 

それではいったいどのくらいの広告宣伝費が妥当なのか、ですが一般的にはBtoB企業の場合ルーチン作業では売上高の0.65%程度が標準額だと言えます。これにブランド強化や何かのプロジェクトが加われば、売上高の0.81%程度は要求しても差し支えありません。とりわけリブランドなど重要プロジェクトのケースでは1.2%程度は必要になってくるでしょうが、それも前述したように初期のブランディング目標が達成できれば5年程度経てば間違いなくリターンが増加し、広告宣伝費のもとは充分取り返せます。この5年を待てず、すぐにリターンを求めることが経理部門ではある種の責務になっており、そのために広告宣伝費を経費として削減対象にしてしまっているのです。
 

まずは広告宣伝費を投資の観点から捉え、十分納得のいく予算を獲得されることが宣伝部長の一番の役割でもあります。
 

ここで私独自の考え方ですが、「部員一人当たり広告宣伝費」について見てみたいと思います。広告宣伝費は宣伝業務を行う部員にとってお小遣いではなく「飯」なのです。飯がなくては戦はできないと言われますが、まさに広告宣伝業務は同業他社との戦の場なのです。部員一人当たり広告宣伝費が少なければ戦ができないどころか、モチベーションは下がり基礎体力(クリエイティブやコンセプトメイキング力)が低下してきます。これは企業にとって死活問題でもあります。まず部員一人一人に十分な飯を与え競合企業との戦に備えることが肝心ですが、企業にとって見れば経費が少なければ少ないほど喜ぶ不可解な状況が散見できます。これが将来の負け戦にボディブローのように効いてくるのがおそらく理解できないのでしょう。
 

次に重要なのが宣伝部長は「二股稼業」であることです。つまり片足は社会や顧客企業の側に立ちながら、もう一つの足は社内に置く、と言うことです。現在ほとんどの企業がそうであるように、広告宣伝のメッセージやアピールはインサイドアウトの傾向が非常に強くなっています。本来広告はオーディエンス(社会や顧客企業)に感動を与え、その対価としてレピュテーション(評判)や受注が得られるのですが、どうしても企業システムの中ではオーディエンスを無視したインサイドアウトの業務プロセスが一般的になっています。

 その卑近な例は至るところにありますが、たとえばどの企業でも行っているクリエイティブの上司承認や役員承認です。広告にとってクリエイティブはオーディエンスの心を打つ最も重要な要素ですが、それを社内の上層部にお伺いを立てることが当たり前のようにまかり通っています。いくら社長と言えども役員と言えども、クリエイティブにとっては全くの素人です。なぜそんな素人の意見を重要視し、オーディエンスの意見を聞かないのか不思議でなりません。インサイドアウトの典型的な例です。

 この場合、いちいちオーディエンスの意見を聞くのは確かに面倒ですし、オーディエンスですらクリエイティブに関しては素人です。それならば、幸いにも御社の部員の方はベテランが5名もおられるようですので、そのベテランにすべて任せてしまえばいいと思います。企業におけるすべての業務のコスト要因は時間によって決定されますが、このようにして5名のベテランを信じて好きなようにクリエイティブに精を出してもらうことでかなりのコストセーブが可能になり、その分をまた投資に回せます。
 

最後に重要なポイントを申し上げます。オーディエンスに感動されるようなアウトサイドインに基づいた広告宣伝活動やブランディングを行う際、決して「ニーズ」に振り回されないことです。現在のように技術革新が急速に進展している時代、ニーズは早晩解決されます。広告の企画や制作には少なくとも半年程度はかかります。「今のニーズ」をもとに広告戦略を立てても出稿段階ではそのニーズは解決されているかも知れないのです。そうなるとその広告は時代遅れの烙印を押されてしまいます。
 

ではニーズではなく何が必要かと言えば「課題」です。それもだれも今気づいていない社会や顧客企業に潜む課題を発掘し、そのソリューションを広告やカタログなどを通じて提示していくことです。だれも認識していない課題を提示し、そのソリューションを提供することで、オーディエンスに感動を巻き起こし、御社の信頼性と独自性はますます強固になり、結果的に強力なリターンが待っているのです。

   

ASICAモデルについての質問

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉗

《質問》
 

私は現在印刷業界で日々クライアントと接し、広告やカタログの企画制作のお手伝いをしています。最近複数のクライアントから「ASICAモデルって知ってる?」と言う質問が多く、調べてみると日本BtoB広告協会から提唱されている理論だと知りました。クライアントの話では最近はASICAモデルに則った広告制作やカタログ制作が有効だと言うことが徐々に知れ渡っているようで、「貴方ももっと勉強しなさい」と言われてしまいました。大変恐縮ですがこの欄をお借りしてASICAモデルについてご教授いただければ大変有り難いと思っています。(印刷会社・クリエイティブ営業部)
 

《回答》
 

ASICAモデルはBtoB購買のプロセスモデルとして理論化したもので、既に2008年に当協会の機関誌で発表しています。詳しくはその頃の機関誌をご覧いただくか、拙著「ASICAれ!」(2012年刊、日刊工業新聞)をお読みいただければほとんど理解できると思います。しかし200ページもの書物を読むのも面倒でしょうから、ここではASICAモデルの主要部分について、かいつまんでお話しさせていただきます。
 

確かにASICAモデルはおかげさまで最近各企業に認知され、広告制作などに生かされつつありますし、とりわけBtoB業界では非常に有効なプロモーションプロセスだと思っています。またここに来てBtoC業界でもその有効性が認められようとしています。
 

ASICAモデルの最大のポイントは、「ホスピタリティ・マーケティング」を基盤にしたプロセスモデルであることです。ここで言うホスピタリティとは、最近流行っている「おもてなし」と言う意味ではなく、顧客や社会が抱えている課題を解決し、最終的に喜んでいただく、と言う意味です。したがって顧客に媚びたり顧客の言いなりになって商品販売やプロモーションを行う事ではない、と言うことをまず念頭に置いておく必要があります。
 

ASICAモデルは、A(アサインメント=課題)、S(ソリューション=課題解決)、I(インスペクション=検証)、C(コンセント=承認)、A(アクション=購買)の各プロセスを経てビジネスが完結することを意味しています。したがってビジネスのトリガーになるのはアサインメント(課題)なのです。

従来から広告分野では誰もが知っているAIDMA理論がありますが、この理論ではトリガーはA(アテンション=注目)になっています。なぜ注目を無視して課題がトリガーになるのかというと、現在のように驚異的に氾濫している情報の中ではもう既に「注目」という機会は期待できません。情報氾濫期ではすべての情報はノイズと衣を替え、オーディエンスにとって有益な情報はごく僅かしかないと言えます。それに替わって社会や生活がますます複雑化するに伴い、あらゆる場面で「課題」が生じてきています。
 

ここでニーズと課題の違いをお話ししたいと思います。従来からとりわけ広告分野や商品開発において、ニーズの先取りとかニーズにあった広告企画が求められてきました。ところが最近のように技術開発のスピードが速くなるにつれ、今のニーズは早晩解決されてしまいます。広告企画ではおよそ26カ月の期間を要し、商品開発ともなれば半年〜2年の期間が必要ですが、ニーズを追いかけると広告が完成した頃、商品が完成した頃には既にめざしていたニースは満たされてしまっているという現象が多々見られます。マーケティングリサーチによる広告や商品企画はこのニーズを分析して行いますが、その結果せっかく作った商品が売れないとか、広告が効かないと言う結果に陥っているのです。
 

一方で課題は場合によると顧客や社会ですら認識していない隠れた問題とも言えます。このやがて芽を出す地下に潜っている課題を掘り出して顧客や社会に提示することが広告企画の場面でも重要なのです。ニーズを満たされても今の時代ではほとんどの人はそんなに喜びません。時代の趨勢から当たり前だからなのです。ところが自分が知らなかった課題を提示され、その解決策を露わにすることで顧客や社会に強烈に印象づけることが可能になります。とりわけ相手が企業では「よくそこまで考えてくれた」と感謝され、それが信頼へと繋がっていくのです。
 

このようにASICAモデルのトリガーはまず課題探索から始まりますし、そのためには顧客企業はもちろんあらゆる分野の現状理解とそこから将来表面化すると思われる課題を把握することが非常に重要と言えます。つまり広告分野でも商品開発分野でも、現状のニーズの調査ではなく将来の課題探索が重要だと言えます。

課題さえ明確にできればどのようなメッセージでそれを理解させるか、と言うプロセスに移りますが、それ以降はメディアの選択とASICAモデルの各プロセスに合致したコンテンツを準備すればそんなに難しい事ではありません。
 

課題の次のソリューションは、自社の技術や製品でどのような課題解決が可能なのかを述べることになりますが、このメッセージは課題の提示と一体化した方が分かりやすいでしょう。ここでは新聞広告やWEBサイトが威力を発揮します。
 

インスペクション段階ではまさにWEBサイトが重要なメディアになります。提示されたソリューションが自社に合致するかどうかを競合企業などと比較検討するわけですから、WEBサイトが最も手っ取り早いと言えます。その意味ではWEBサイトにはあらゆる情報を搭載しておくことが不可欠です。とかくWEBサイトのコンテンツ企画の際、軸足を自社に起きがちですが、重要なのは自社を社外から客観的に眺めて競合企業に勝てるコンテンツづくりを行う事です。
 

コンセント段階はじつは課題に次いで重要なプロセスとなります。何しろここで承認されなければいくら優れたソリューションを提示して顧客に納得させても、最終的には他決の恐れがあるからです。承認決裁者向けのメディアは特に存在しませんが、ここではブランディング広告などで決裁者の潜在意識に植え付ける手法が有効です。また我が国ではあまり見かけませんが、社長向けのカタログなども効果的です。さらに現在どの企業も経理部門が力を持っています。企業成長を考えるとあまりよい傾向ではないのですが、時代の趨勢と見れば致し方ないことでもあります。それならば経理部門向けのカタログを企画しても面白いと思います。カタログは本来商品の特異性や優位性などを述べますが、経理部門にとってそんなことはどうでもいいのです。当該商品を導入することで顧客企業にどれだけの利益がもたらされるのか、を数式などを駆使して丁寧に述べることができれば最高です。
 

こうしてコンセントが上手く達成できれば晴れて購買(アクション)に繋がってくるのですが、ここで重要なメディアを忘れてはなりません。展示会です。本来展示会はPRの場ではなく受注の場なのですが、なぜか展示会に決裁者や検証者の来場を促す企業が皆無なのが不思議です。展示会はASICAモデルのすべてのプロセスに対応できますし、とりわけ実機を前にして検証作業や決裁の動機付けには他のメディアにはない力を持っています。展示会の有効性をASICAモデルからも再認識すべきでは、と考えています。

 

BtoB企業での新聞広告やテレビCMの活用効果

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉖


《質問》

弊社は建設機械や運搬関連器具を製造販売していますが、現在ほとんど広告活動を行っておりません。その理由は弊社のようなBtoB企業ではマスメディアで広告を行っても受注にはあまり寄与しないという昔からの感覚があるからです。私は個人的にはもっとマスメディアを活用して知名度を上げることも企業として重要なのではないか、と思っているのですが、上司からは「そんな無駄なことは必要ない」のひと言でなかなか広告予算が配分されないのが悔しく思っています。そこで質問したいのですが、本当にBtoB企業ではマスメディアを活用しても効果は期待できないのでしょうか? もし活用するとすればどのような広告展開が可能なのかご教授いただくようお願いします。(建設機械メーカー・営業企画部)

 

《回答》

大変貴重なご質問を頂戴しありがとうございます。

確かに多くのBtoB企業はマスメディアを軽視する傾向が非常に強いのが現実の中で、貴方の広告に対する前向きな姿勢に敬服します。

まず新聞広告の価値については、本Q&Aシリーズ④で述べておりますので、併せてご覧いただければより詳しくご理解いただけるかと思います。

今回は少し視点を変えてお答えしたいと思います。

まずBtoB企業における新聞広告やテレビCMに対する取り組み姿勢は、はっきり言って間違っています。貴方の考え方の方が正しいのです。このことについてしばらくお話しします。

企業の上層部が「受注への寄与率が低いからマスメディア広告を控えたい」という気持ちはよく分かります。しかしとりわけBtoB企業はその商材の購買プロセスが非常に複雑で多くの組織にまたがって決裁される傾向があります。マス広告が受注に寄与しないと言う理由は、まず広告ターゲットを間違っているからです。最も購買に関与するターゲットは顧客企業の決裁権を持つ上層部です。最も強い決裁権を持つのは「社長」です。こういった人たちをターゲットにせず、ただ漠然と企業PRに終始している広告が少なくありません。情報過多の現在ピンポイントでターゲティングしなければ、広告という情報は単なるノイズとして受け流されてしまいます。

したがって新聞広告で重要なのは顧客企業や社会に対するブランディングを意識した広告です。ターゲットは社会ではオピニオンリーダー、企業では決裁権を持つ上層部となりますが、ひと言で言えば社長向けの広告とも考えられます。ここでは商品のPRに終始するのではなく、社会や顧客企業が抱えている課題もしくは将来課題に発展するであろう問題点に対するソリューション、つまり御社がこれらの課題にどのような技術や商品で解決できるのか、を明確にメッセージすることが大切です。つまり美辞麗句満載のPR広告ではなく、社会も顧客企業も気づいていない課題に対するメッセージを発信するのです。

人でも企業でも自分たちが気づかない課題とソリューションを明示されれば、その企業の信頼性は急激に向上するものです。この「社会や企業が気づいていない課題」がポイントになります。

このような新聞広告はまだ現在は極めて少ない状況ですが、将来、新聞広告の大きな役割は社会(企業を含めて)が抱える課題の提示とそのソリューションをメッセージする広告スタイルが主流になってくると思います。

また新聞そのものの価値については前述した過去の本欄をご覧いただければ理解できると思いますが、ネットが普及した現在でも印刷媒体としての新聞の価値は決して衰えてはいません。確かに新聞の販売数量は徐々に低下していますが、それはBtoB分野に限れば一社あたりの購読数がインターネットの影響で低下しただけのことで、メディアとしての新聞の価値が低下したものではありません。

一方テレビCMについても前述とまったく同様のコンセプトで問題ありません。社会に対するメッセージCMは新聞以上に到達率は高いでしょう。しかしここで気をつけなければならないのは、単に視聴率を気にしてくだらないバラエティ番組に関与しないことです。BtoB分野であってもテレビは一人の心理変容が影響します。テレビCMは番組の流れを引きずった状態で見られます。その意味では番組の流れを邪魔しないテイストで構成しなければなりません。バラエティ番組であればバラエティ風のCMになってしまいます。そこで小難しいメッセージを発信してもおそらく視聴者はトイレに行くだけでしょう。テレビCMでの狙い目は、視聴ターゲットが明確で「ながら視聴」の少ないBSCSを選択した方がいいでしょう。広告料金も地上波に比べると格安ですから。

新聞広告にしろテレビCMにしろ、そこで商品が売れることは期待できません。そのことが御社の上層部が言われる「マス広告をしても受注に結びつかない」と思われている所以です。メディアはそれぞれ役割分担を持っています。マス広告で注目された後はほとんどの場合WEBサイトにアクセスされます。したがってWEBサイトの構成も上述したメッセージ広告をさらに詳細に述べたサイト構成は不可欠となります。この件に関しては紙幅の関係上Q&Aシリーズ⑲の「プロモーションサイト」について言及した本欄をご覧ください。


 新聞広告は確かに最近は低調気味ですが、それはまず新聞の価値を正確に把握していないことと、昔のようなダイレクトに新聞広告からの引き合いが低下したのが主な要因です。新聞広告は社会に対する自社からのメッセージであること、そして引き合いや意見はWEBを通じて行われていることを充分把握しておくべきでしょう。

ところで新聞広告に代わってインターネット広告が主流だと言われていますが、それこそBtoB企業でインターネット広告はあまり効果はありません。単に価格が安いだけでどこもかしこもインターネット広告に躍起になっていますが、BtoB企業でのネットアクセスの目的を考えると画面にちらちら出てくる広告をクリックする暇などないのです。それよりも、昨年末話題になった「vvvウィルス(ランサムウェア)」が気がかりです。当初はインターネット広告にウィルスが仕込まれていたと言われていましたが、実際はそうではなくメールの添付ファイルが原因でした。しかしよく考えればデジタルの世界はもうなんでもありです。インターネット広告にウィルスを仕込ませる事はそんなに難しいものではありません。それが現実になるとインターネット広告そのものの価値が急減してしまい、おそらく最も安全な新聞広告やテレビCMに回帰してくるはずです。ちなみに私はウィルスが恐いと言うより、前述したネットアクセスの目的に関係ない広告が煩わしく「広告ブロッカー」をブラウザに搭載していますから、インターネット広告は一切目にすることはありません。今後広告に興味ない人やとりわけセキュリティにうるさい企業でも広告ブロッカーを搭載する事が考えられますし、そうなればインターネット広告はまったく本来の機能は果たせなくなってしまうのです。

いずれにしても、新聞の価値は低下したわけではなくこれからは各企業ともメッセージ主体の広告が主役になってくると思います。これこそが本当のCSRなのです。

このようなマスメディアの活用を行えば、結果的に御社の信頼度は向上し受注にも貢献できると考えています。

展示会の効果測定手法について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉕

《質問》
 

弊社は鋼材を主とするメーカーで年商500億円規模の中堅企業です。2015年は合計で12件の展示会に参加しました。ところがどうもその展示会の効果が有ったのかどうかよく分かりません。私は広報部門ですが営業担当者に問いただしても展示会効果はよく分からないという回答でした。ただ2014年に比べて展示会での引き合いは着実に増加しているため、社内では一応展示会の効果はあったと理解されているようです。しかし私は本当に展示会の効果がどのようにして測定できるのかまだ疑問点も多く社内の意見には懐疑的です。信頼できる展示会効果測定手法についてご教授いただければ幸いです。(鋼材メーカー・広報宣伝部)
 

《回答》
 

展示会効果については多くの企業で未だに明確に把握されていないのが実情です。その原因は展示会をPR(広告)と位置づけるかセリング(営業)と位置づけるか、が極めて曖昧なところにあります。
 

1990年代以前は展示会は主に広報宣伝部門の所轄になっていました。それはまだメディアが現在ほど発達しておらず、展示会もまた広報の一端を担っていたことがその理由です。ところが1990年代中盤以降展示会のあり方は大きく変化してきました。インターネットやWEBサイトの普及によって、展示会における広報の役割はほとんどなくなってしまったのです。未だにこの現象に気づかない企業が少なくありませんが、おそらくどの展示会でも1995年前後を境界にして来場者数は減少傾向にあったと考えられます。それは展示会で情報収集(出展社から見れば広報の役割)がWEBサイトで充分まかなえるため、あえて時間やコストを負担してまで展示会に行く必要がなくなったからです。
 

最近の展示会来場目的を各展示会ごとに見ても、情報収集は急減しています。それに代わって現れたのが商談や新技術の探索と言ったより実務的な目的なのです。
 

ここでよく考えてみれば、情報収集を目的とした来場者はほとんど購買意思はもとより購買決定権のない人たちばかりです。展示会をPRの場として捉えるならこれらの人たちにアピールするのは意味もありますが、展示会でのPR活動がいかに非効率的かは後ほど述べます。
 

このように現在の展示会はPRの場から営業やマッチングの場へと変化して来つつあることに気づかなければなりません。
 

さて前置きはこのあたりにして展示会の効果測定を明確に理解できる考え方を述べたいと思います。

展示会の効果として見なされるのは二通りあります。一つはみなさんご存じの「PR効果」です。これは来場者に社名や商品を見てもらい認知されることが前提になります。いわば企業PRや商品PRを行うことで、カタログ請求などの引き合い(リード)を得ることによって完成されます。これは大凡ブースへの来場者数に比例します。この意味でもブース来場者が多ければ多いほど展示会は賑わいを見せるのですが、このことが来場者重視の幻想が未だに払拭できない要因となっています。
 

もう一つの効果は「セールス効果」です。これは来場者から得られた引き合いを、後の営業活動によってどれだけ受注に結びついたかが問題になります。ここで重要なのが以前この稿でも述べた展示会終了後のトラッキングシステムなのです。とりわけBtoB分野では引き合いから受注まで最短で数ヶ月、長ければ数年かかるケースもありますが、いくら期間が長くてもきちんとトラッキングしておく必要性はセールス効果を明確にするためには欠かせないのです。
 

このセールス効果はほとんどの企業で曖昧に扱われてしまっています。その理由はトラッキングが徹底されていない事が最大の原因です。面倒なトラッキングはさておいて展示会の効果を来場者数でお茶を濁す傾向が、いつまでたっても止まらない理由がここにあります。
 

本来、展示会効果は「PR効果」と「セールス効果」の掛け算によって決定されます。
 

ではそれぞれの効果測定式を見てみましょう。まずPR効果は単一コストあたりの来場者によって計算できます。つまり投下コストでどれだけの来場者を得られたか、が基本的なPR効果となります。算式で表せば、分母にコストを、分子に来場者数を置きます。来場者が多くなればなるほどPR効果は増大することがこの算式で理解できます。
 

一方セールス効果は、来場者一人当たりどれだけ受注できたかによって決定されます。いくら来場者が多くても受注が少なければセールス効果は少なくなってしまいます。したがってここでは分母に来場者数、分子に受注金額(成約額)を置くことになります。受注額が増えれば当然セールス効果は増加します。
 

そして重要なのは展示会効果はこれら二つの効果の掛け算であることです。もう既にここまで記せばある程度の方はおわかりいただけると思いますが、この二つの算式をよく眺めてみれば、来場者数はPR効果式では分子に置かれ、セールス効果式では分母に置かれます。と言うことは二つの効果を掛け算すると分母と分子は同数ですからそれぞれ消去されます。その結果成り立つ算式は、分母にコスト、分子に受注金額(成約額)と変化します。この算式は言うまでもなくセールス効率(営業効率)を表しています。ここから導かれるのは、展示会はもはや来場者数は問題ではなくコストと受注金額という単純な要素によって決定されると言うことです。
 

このことが展示会は既にPRの場ではなくて営業の場であることを実証していると言えます。これを十分ご理解いただきたいと思います。
 

さて、とは言っても展示会でのPRも重要な目的ではないか、と反論があると思いますが、様々なメディアのPRコストを比べてみればいかに展示会でのPRは無意味かが理解できます。CPMで換算してもいいですがここではより簡単にオーディエンス一人当たりのPRコストを見てみましょう。電波メディアでは一人当たりの到達コストは0.5円〜3円程度ですし、新聞広告だと2.5円〜5円となります。WEBサイトの場合はサイト構築コストが大きくばらつきがあり明確ではありませんが、おそらく50円〜1000円程度でしょう。これに比べて展示会の場合は5000円から1万円もかかってしまいます。これだけ見ても展示会でPRするのはいかに非効率的かが理解できるかと思います。
 

ただ重要なのは電波メディアでもマス広告でもその目的は見込み客の獲得にあり、展示会の目的は見込み客の刈り取りの場(受注に寄与する場)であることです。したがって自ずとコストが大幅に異なるのは当然と言えましょう。
 

そして最も気をつけなければならないのは、見込み客の獲得を目的とするマス広告やWEBサイトでいかに質の高い見込み客を得るかです。そのために広告やWEBコンテンツは充分考慮しておく必要があります。つまり事業のクロージングの場である展示会のために、受注確度の高い見込み客を得る広告活動が連携していなければならないのです。
 

やみくもに来場者数を気にしたりせず、優秀な見込み客だけを展示会に来てもらうことを心がければ、上述した算式から必ず展示会効果は急増するはずです。

結論は、展示会効果は当該展示会が関与した受注をコストで割った数字と言うことになり、その推移を毎年監視していくことが大切です。

 

WEB訪問数を増加させるための手法

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉔

《質問》
 

最近弊社のWEBサイトへの訪問数が停滞気味です。現状ではWEBからの引き合いを元にした営業活動によってかなりの受注額を確保しています。そんな中で訪問数がここ1年間ほど停滞気味なのが気になっています。訪問数をもっと増やす有効な手法があればご教授いただきたいのですが。(機械部品メーカー・広報室)
 

《回答》
 

WEB訪問数の停滞あるいは減少は、最近おそらくどの企業でも見られるはずです。その要因としてもうすでにWEBは普及し尽くしたことにあります。
 

WEB訪問数の減少が引き合いや受注額の減少にも関連してくるとなると、簡単に見過ごすことはできませんし、何らかの手立てが必要となってきます。
 

まず訪問数を増加させるための手法について述べてみます。
 

言うまでもなく現在はある企業のURLを打ち込んでトップページから入ってくることは極めて希です。おそらく20%もないと考えられます。ほとんどはGooglYahoo等からのキーワード検索によってジャンプしてきます。その意味ではまず検索にかかりやすいコンテンツ構成が必要となってきます。いわゆるSEOと呼ばれる手法を徹底させることが肝要ですが、その前に重要なことがあります。
 

我が国の企業サイトは,あまりにも技術的なコンテンツが少なすぎます。製品紹介のページであっても単に特徴や応用範囲、仕様などを述べているだけです。一方訪問者から見れば様々な要件で言葉を探し検索します。どういう訳かそのキーワードが一般的な製品紹介ページでは掲載されていないケースが少なくありません。
 

この違いはまず製品紹介ページがカタログ的なコンテンツになっていることが最も大きな理由だと考えられます。商談の現場ではカタログをベースにして営業担当が顧客とやりとりを行うのですが、その状況がコンテンツに反映されていないのです。簡単な例で示しますと、カタログ商談の際にほとんどの場合顧客側から質問がなされます。質問があると言うことはカタログには掲載されていないからなんです。そんな状況を無視してカタログ的なコンテンツをアップしたところで、訪問者が質問内容のキーワードで検索してもヒットしないのは当たり前です。
 

まず製品ページではカタログの焼き直しのようなコンテンツではなく、現実の商談内容に沿った形できめ細かくコンテンツづくりをする必要があるでしょう。そのためにはあらかじめ対象マーケットや顧客がどのような課題を抱えていて、どんな質問をしてくるのかを検証しなければなりません。つまりメーカー目線ではなくユーザー目線でサイト構築する必要があるのです。
 

そうすれば自ずとコンテンツ量は増加してきますし、それに伴ってコンテンツに含まれるワードも様々に展開され、結果的に検索ロボットにヒットさせやすくなるのです。
 

次に重要なポイントをお話ししたいと思います。
 

我が国の企業はどうも閉鎖的でなかなか実現しづらいとは思いますが、技術者や開発担当者のブログを構築することです。ブログと言えば日記的な簡単な記述を思い浮かべますが、そうではなく論文調の詳細な内容に踏み込んで記述することが重要です。米国ではこの手法は当たり前になっていますが、我が国ではまだ本格的な技術ブログサイトを目にしたことがありません。これは企業内の人材に対する考え方や社員の考え方によるところが非常に大きく影響しています。
 

米国ではまず企業よりも自身を売り込むことが社員にとって大切な心構えになっています。その根底にはあわよくば今の企業よりももっと条件の良い企業にヘッドハントされることを望むスタンスが、特に技術系の社員に多く見られます。
 

一方我が国はとかく企業機密保持の観点からコンテンツ内容も顧客から見れば中途半端で、まして技術的な詳細内容など書こうものなら即座に会社からストップがかかってしまいます。しかしもうそんな時代ではないのです。訪問数の停滞は別の言い方をすればコンテンツの停滞とも言えます。したがってこれからのWEBサイトでは超企業機密以外の情報はすべてアップすることが重要なポイントとなります。
 

そこで有効なのが技術者や開発担当者の生の声で構成したブログなのです。具体的には1テーマあたり3000字くらいで書き上げればいいと思います。もし論文などで長文であれば、それをいくつかに分割して掲載すればいいでしょう。
 

それによってカタログには決して掲載されない様々な文言が乱立し、結果的に検索ロボットにヒットされやすくなります。ただその場合は当然技術者のブログサイトにアクセスされるのですが、インターフェイスを考慮してそのアクセスをメインサイトに誘導する工夫も必要です。いわゆる企業内インバウンドマーケティングがこれであり、訪問数を増加させる重要な手法でもあります。
 

次に今後重要視されるコンテンツとして「映像」が考えられます。基本的にはYouTubeに連動させる方法が有効ですが、この場合には必ずYouTubeに投稿する前に「タグ」を設定しておくことが肝要です。なぜなら映像そのものは検索ロボットではヒットされずあくまでもそこに埋め込まれた「タグ」によって検索されるからです。さらに御社の商品でなく、似たような商品の映像を閲覧された場合、タグが明確であれば必ずYouTubeの右側に関連動画として紹介されますので非常に有効です。このタグはあまり多くても意味がなくせいぜい10個くらいが適当かと考えられますし、顧客やマーケットを意識して顧客目線で文言を設定することが大切です。そしてYouTubeの映像を自社サイトにリンクしておけば立派なサイト構築が可能になります。
 

ただ問題点もあります。我が国の多くの企業は未だに社内からYouTube等の動画サイトへアクセスすることが禁じられています。それだったら意味がないだろうと思われがちですが、じつは最近はPCよりもスマホからのアクセスが急増しており、スマホの場合には自由に閲覧可能です。その意味ではこれからのサイト構築はスマホやタブレットでの閲覧を考慮したRWD(レスポンシブWEBデザイン)を基本に考えておかなければならないと思います。
 

そのほかにはSNSFacebookTwitter)を利用して訪問数を上げる手法もありますが、まずインフルエンサー(購買影響力を持つ人たち)に彼らのブログやTwitter等で紹介されなければなりません。しかしとりわけBtoB分野ではこのインフルエンサーを探し出すのが厄介なのと、これもまた社内からSNSへのアクセス制限がなされていることを考えると、有効に活用できるのはまだ少し時間がかかるかと考えています。
 

いずれにしても重要なポイントは顧客目線に従った文言を利用して、できるだけ多くのコンテンツでサイト構築することが訪問数を稼ぐ第一歩となります。 

ここでは決して美辞麗句に飾られた宣伝文句は、くれぐれも使用しないように努めなければなりません。     

広告宣伝部門における社員教育について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉓

《質問》
 

弊社は創業40年で年商300億円の中堅企業です。このたび創業以来初めて本格的な広告宣伝部ができ、私もその部署に配属されました。それまでは企業広告は総務部が、製品広告やカタログ及び展示会は各事業部が行っていました。企業ブランドの観点から広告宣伝業務を一箇所に集中させることがその目的だそうです。そこで質問ですが、私を含めて部員は5名ですが皆広告宣伝に関しては素人同然です。もちろん部長も以前は生産本部におりましたので広告に関しての知見はまったくありません。このような組織をできるだけ早く軌道に乗せるための社員教育をどのようにすればよいのかご教授いただきたく、恥ずかしながら質問させていただきます。(電子部品メーカー・広告宣伝部)
 

《回答》
 

広告宣伝部門における社員教育の手法がご質問の内容だと思いますが、じつは現在多くの企業で間違った社員教育による弊害が起きています。とりあえず広告宣伝部門から外れて一般的な社員教育の実態を述べたいと思います。
 

現在多くの企業が行っている社員教育は外部のコンサルタントなどによる階層別研修がほとんどです。階層別研修というのは、たとえば部長研修や係長研修など昇進に伴う階層ごとに研修を行う手法です。この研修方法が好ましくない理由として、まずそれぞれの階層に応じて同じプログラムで行い、その多くはたとえば「部長はこうあるべきだ」という内容です。それをもっともらしくゲーム理論などを応用して行うのですが、要するに均質化された社員を育成するプログラムと言えるでしょう。
 

本来、社員は様々な個性を持っており、その個性そのものが企業の財産でもあるわけです。しかしこの研修では極論を言えば各人の個性をなくし、同じような社員に仕立て上げることが目的となっています。そこが最も大きな問題点なのです。
 

企業の個性や独自性は言うまでもなく社員の個性や独自性によって決定されます。カリスマ的な社長を持つ企業の場合は、社長の個性が企業の個性に置き換わる場合がありますが、その結果社員の個性は著しく毀損される傾向が強いです。階層別研修はいわばカリスマ社長に代わって外部コンサルタントが社員の個性を埋没させる作業を行っているとも言えます。
 

私は40数年間ある企業で広告宣伝部門の責任者としてその任を背負ってきました。振り返ってみるとここ20年くらい前から不思議な現象に気づいていました。広告宣伝部門ですから取引先はプロダクションやメディア、代理店、印刷会社が多いのですが、20年ほど前からどの企業の営業担当も同じようなプレゼンの仕方を行うようになってきたのです。そこには昔見られた各社の独自の営業手法が跡形もなく消えていました。20年前と言えば各社が階層別研修に注力し始めた時期と一致します。つまり、この研修手法によって各企業の社員は個性を奪われ、マニュアルに従った営業手法が身についてしまったのでしょう。いわゆる社員のコモディティー化です。
 

こんな営業手法では顧客(つまり私自身)を説得することは不可能です。ビジネスと言えども、人と人との付き合いはそれぞれの個性がぶつかり合って面白みが生じ、上手く行けば受注につながるものです。
 

このように階層別研修には多くの問題点があるにもかかわらず、それに気づいていない企業は少なくありません。
 

基本的には社員教育で重要なのは専門教育であり、それを具現化したOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)です。たとえば営業部門なら階層別ではなく外部の優れた営業担当者(たとえば商事会社など)から教育を受けるなどですが、最も効果的でコストがかからないのはOJTなのです。しかしじつはそのOJTが今不可能になりつつあるのも現実です。それはリーマンショックやそれ以前の不況時に多くの優秀な社員が早期退職などで解雇されたことが原因です。したがって今OJTをしようにも、プロはどこにも居ずまわりは素人ばかりというのが現状でしょう。
 

そこで本題に入りますが、御社の場合はまさにOJTが不可能な状況だと思います。その中でどのようにして社員教育をすればよいかですが、まずくどいようですが階層別研修には極力参加させない方がよいでしょう。御社の事情でどうしても参加しなければならないのなら、参加したフリをするだけであまり真剣に取り組まない方が望ましいと思います。なぜなら広告宣伝部門が最も気をつけなければならないのは、この部員のコモディティー化だからです。
 

本来は広告宣伝部門に特化した専門教育が必要なのですが、それを総合的に行う外部コンサルタントはおそらく見つからないでしょう。その場合、BtoB広告協会で行っている「BtoBコミュニケーション大学」に参加されるのが最も効率のよい学び方だと思います。なんだか宣伝ぽくなって恐縮ですが、広告宣伝業務に必要な基礎的な理論や事例を手っ取り早く短時間(3カ月程度)で習得できますので。
 

しかしこのコミュニケーション大学の講義も基本的には基礎理論が主となっており、それを応用して御社独自の広告宣伝メディアの展開をされるには、また御社独自のポリシーが必要となってきます。
 

他にいわゆる広告宣伝の有効な手法などと言ったビジネス本に頼ることも考えられますが、それはできるだけ避けた方が無難です。先日ビジネス本を多く出版しているある有力出版社の役員と話したのですが、その時彼が言っていたのは「優秀なビジネスマンはビジネス本は読まない。無能な人ほどこれらの本に頼りたがる。そんな人間を相手に本作りするのもなかなか辛いものです」と。
 

要するにビジネス本などでノウハウを会得しても結局前述の階層別研修と同じ結果が待ち受けているのです。つまりその本を読んだ人は皆同じ手法をとり結局コモディティー化から抜け出せないというわけです。
 

最近の広告(カタログや展示会も含めて)は単なる「通知」になっており、広告で最も重要な「感動」「共鳴」「共感」をめざしたクリエイティブがほとんど見られなくなりました。本来広告はマーケットや社会、顧客に対して意外性や驚きを与え、それに感動させて共鳴してもらうことが重要な役割であるはずです。その意味では他社の右へならえ的な広告は何の意味もなく、御社独自の切り口やコンセプトが何よりも不可欠な要素となってきます。
 

   OJTも不可能で広告宣伝の専門教育もできない実情ではどうしても他社の優れた広告作品をお手本にしがちでしょう。それもひとつの有力な学び方と言えますが、ここで重要なのは、勇気を持って他社とはまったく正反対のコンセプトやクリエイティブに挑戦することです。広告にはセオリーは存在しません。もっと自由にもっと気ままに広告作りを続けていくことが最善の教育となるでしょう。そしてその積み重ねでやがてOJTが可能になる時期が来ます。しかし、とは言ってもコミュニケーションの基礎理論は熟知しておく必要はありますので、その場合はBtoBコミュニケーション大学で得た知識がものを言うと考えています。     

マーケティング業務におけるビッグデータの有効性についての質問

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉒

《質問》
 

弊社では今後マーケティングリサーチの一環としてビッグデータの取り扱いを検討しています。その理由は、データから得られる様々な要因を元に、新技術や新製品の開発に生かそうというものです。昨今ビッグデータが宝の山のように言われ、弊社としてもその貴重なデータをなんとか自社の企業価値向上のために生かせることができないか、と考えています。そこでビッグデータをマーケティングに応用する場合の注意点や課題などがありましたら教えていただきたく、ご相談する次第です(電気機器メーカー・マーケティング本部マーケティング担当)
 

《回答》
 

最近話題になっているビッグデータをマーケティングに応用する傾向は今後様々な企業で普及してくると思います。しかし結論を申し上げますと、まだ時期尚早です。
 

おそらく現状のデータでは、あまりにも巨大すぎて各企業がマーケティングに生かそうとしても、コストばかりかかって有意義な結果は見いだせないでしょう。その理由は、まずビッグデータと称されるものはすべて「過去」のデータであり、必ずしも将来の需要動向を表しているものではないと言うことです。
 

もし仮にビッグデータがマーケティングに有効性を持つなら、それを活用したすべての企業がヒット商品を連発するはずですが、資本主義社会はある意味で競争社会ですから全企業がヒット商品に恵まれて勝ち残ることは現実的ではありません。と言うより、ヒット商品はそんなに簡単に生まれるものではありません。まして過去のいわば客観的最大公約数としてしか見られないようなデータを元に、売れる商品を開発すること自体コスト効率が良いとは思えません。
 

そもそもビッグデータは、その規模の違いこそあれほとんどが前述したように過去の人間や企業の購買形態や嗜好、属性、行動様式をデータ化したものです。その意味では、統計分野や役所での過去データの把握や解析には役に立つかも知れません。しかし民間企業で未来をめざすマーケティング分野では、おそらくほとんど役に立たないか、そのデータの取り扱いに四苦八苦するでしょう。
 

そこで、「いやそんなことはない。データ解析はすべてコンピュータで行えば抜群の効率化が期待できる」と言った反論が予想されます。しかしここにデジタル社会の大きな落とし穴が潜んでいるのです。仮にデータ解析用のアルゴリズムを設計したとしても、それは単なるプログラムにしか過ぎません。つまり同じようなプログラムを使用すればどんな企業でも同じ結果が現れてくるのです。それが競争社会におけるマーケティングに本当に役立つでしょうか?
 

もっとも分かりやすい例は、ネットショップ大手が行っている「リコメンド機能」です。今や多くのネットショップが行っていますが、これは過去の購買データを元にして「あなたの好みはこの商品でしょう」のように、聞きもしないのにうるさく画面に表示されるものです。それが「あっ、そうだ。これが欲しかったんだ」というのであればいいですが、現状では過去に購入した商品と似たような商品しか表示されません。ある意味ではユーザーに購入意欲の限定を強いることにもなりますし、むしろセリングとしてはマイナスの要因となります。
 

これがビッグデータの限界です。つまり購入者の過去の嗜好は解析できても、未来の嗜好まではデータとして出せないのです。こんな状況でマーケティングに役立つはずがありません。
 

さらに問題だと思われるのが、ビッグデータは誰もがどんな企業もが入手できる汎用的なデータだと言うことです。だからこそできるだけ早くビッグテータを取り込んでマーケティングに役立てたい、と言う気持ちが逸るのは理解できます。しかしこれは多人数での会議や情報共有と非常に似た性格を持っています。言うまでもなく、ヒット商品は会議で多くの意見を参考にしたり情報共有したからと言って容易く生まれるものではありません。
 

アップルのスティーブ・ジョブズが述べたように「欲しいものはあなたの心の中にある」のです。言うなれば、欲しいものは本人も気がついていない心の深層分野に存在していると言うことです。データ解析でその深層心理を顕在化することは、現在の技術、おそらく将来的にも不可能に近いでしょう。それほど人間の心理は複雑で先が読めないものなのです。したがって人間不在のマーケティングやデータ解析はまったく意味がないと言えます。
 

一方BtoB分野は組織購買であるため、ある程度ビッグデータが活用できそうにも思われますが、ここでも大きな罠が潜んでいます。まず企業(組織)は個人の集合体です。そして最終的な購買決裁は個人(組織人)が行います。組織購買の場合は個人の嗜好や感情は無視すべきですから、前述のような人間の複雑性の影響は受けないように思われるでしょう。だからビッグデータは役に立つと短絡的に考えがちですが、重要なのは取引企業の将来の開発志向や設備投資の傾向を解析することです。しかしこのような重要事項をビッグデータから解析されるような危険な情報を企業自らが発信するはずはありません。したがってBtoB分野においてもビッグデータの活用によって、期待するほどの効果は得られないと考えます。
 

ビッグデータの導入やマーケティングに生かすことについて、否定的な意見ばかり述べていますが、データの使いようによっては極めて有効な場合も考えられます。
 

前述したようにビッグデータは過去のデータであり、いわば過去の社会状況を表しているとも言えます。
 

売れる新商品開発で最も大事なことは、消費者も気がついていない「課題」を解決する商品であることは言うまでもありません。ビッグデータを元にして、社会における将来の課題を探索することはある程度可能ですし、それを新商品(ソリューション)開発に生かすことも興味深いことです。しかしここで気をつけなければならないのは、データ解析をプログラムで行ってしまうことです。そうすれば確かに過去の課題は明確化されるでしょう。でも競合企業が同じようなことをすれば、結局同じ結果を持つことになります。
 

重要なのはここからです。自社独自の技術や他企業とのアライアンスによって課題に対するソリューションをどのように開発していくのか、が企業に課せられた大きな課題でもあるのです。しかもソリューション開発はもうプログラムでは不可能です。結局は企業に属する個々人の勘や未来を見通す能力がものを言うのですが、残念ながら最近それらの劣化が著しく、その能力開発は至難の業と言わざるをえません。
 

したがってビッグデータをマーケティングに活用するには、まず困難であるにせよデジタルに頼らない個々人のスキルアップが先決で、それとワンセットで導入しないことには膨大なデータに手をこまねくだけになってしまいます。
むしろマーケティング分野ではなく、ビッグデータの特性から施設管理やパレートの法則等とリンクさせた生産性の向上をめざす方が現実的だと考えます。     

★プロフィール
河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。
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