河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

展示会メディア

ASICAモデルからみた展示会の可能性(8/8)

12.ASICAモデルとこれからの展示会


BtoBコミュニケーションの過程であまりメディアの関与がない「I:inspection検証」や「C:consent同意/承認」のプロセスにおいても、展示会は有効だ。顧客企業の担当窓口との間で一通りの商談を済ませば一段落ではあるが、じつは顧客企業側ではその後の検証作業(製品の導入効果)や同意形成(決裁者による承認)プロセスが残っている。ここで十分なフォローがないと、一発逆転で他決してしまうことすらある。もし商談途中の案件があるなら、顧客企業の担当窓口だけでなく、上位の決裁者などを展示会に招くことも商談成立に効果がある。


ASICAモデルの最後の「A:action(購買/行動)」レベルでは、展示会は顧客の囲い込みに大きな役割を果たす。商談が成立した以降も次の商談に繋がるように、常に展示会に招いて課題探索を行う仕組みづくりが重要である。顧客は次の見込み客であることと、従来顧客の囲い込みよりも新規顧客の開拓の方にはるかにコストが掛かることを考えれば、むしろ展示会は従来顧客(将来の見込み客)のために用意されたホスピタリティの場と言えるのである。
 

BtoBの購買プロセスとASICA

今後さらなるネットの進化によって、BtoB分野においてもSNSやツイッターなどのソーシャルメディアが台頭してくるだろう。とかくこれらの目新しい手法に目が行きがちであるが、その根底に潜む要因にも目を向ける必要がある。インターネットが普及し、WEBサイトやブログで誰もが情報受発信することが可能になった後、SNSやツイッターが出現したことは、メディアがどんなに進化しても、最終的には人々が「対話」を求めていることを意味する。さらにSNSなどで、匿名ではなく実名でのディスカッションの重要性が議論されていることを考えれば、いずれリアルなFace to Faceコミュニケーションのありかたが再認識されてくるだろう。

そんな中にあって「接触メディア」として特異な性格を持つ展示会は、 Face to Faceマーケティングにおける将来もっとも注目されるべきメディアだと考える。
このように書けば昔返りのように思われるかも知れないが、文明は螺旋階段のように進化し、その過程で幾度となく原点回帰を繰り返すものである。

ASICAモデルからみた展示会の可能性(7/8)

11. 展示会効果の捉え方と効果測定例


さて、ここで展示会の効果測定についても考えてみたい。展示会の最終的な目的は「受注拡大(受注確保)」にあるだろうが、それ以外にも展示会は様々な機能を保有している。集客ありきの考え方も、展示会を広告媒体として見るなら否定はできない。要は、展示会を「広告媒体」として捉えるか「営業の場」として捉えるかによって、その効果に対する概念は変わってくる。


展示会には多くの来場者があり、当然そこではブランドの露出が行われ、認知度向上の効果がある。また、ブース内で顧客や見込み客とのコミュニケーションやソリューションの提示を通じて、顧客満足度の向上や需要創造の機会もある。展示会効果測定において、明確に数字として捉えることができるのは、「投資コスト」「来場者数(自社ブース・会場全体)」「商談額(受注額)」となる。これらの数字を用いて展示会効果測定の基準を作ることになるが、この数字以外の見えない効果、つまりブランドイメージやすぐには受注には結びつかないが、好意的な受注予備軍をどのように取り扱うかが課題として残る。

展示会効果測定の一例(1)
展示会効果測定の一例(2)

ここで端的な展示会効果測定の一例を示す。
まず展示会効果を「PR効果」と「セールス効果」の二つに分けて捉える。


a.PR効果=PR効果は来場者数を投資コストで除したものであり、単位コストでどれだけ多くの来場者が得られたかを示す。

PR効果=来場者数÷投資コスト → 認知効率

b.セールス効果=セールス効果は受注額(引き合い額・商談額)を来場者数で除したものであり、来場者ひとりあたりどれだけの受注が得られたかを示す。

セールス効果=受注額(引き合い額・商談額)÷来場者数 → 受注効率

このように展示会には二つの効果があると考えられ、最終的な展示会効果はこの二つの効果を掛け合わせることによって得られると理解することができる。つまり、

展示会効果=(来場者数÷投資コスト)×(受注額÷来場者数)

展示会効果=PR効果×セールス効果

となるが、ここではそれぞれの効果測定で分子と分母になる「来場者数」が相殺され、結果的には「受注額(引き合い額・商談額)」を「投資コスト」で除した数字となる。

展示会効果=受注額÷投資コスト

こうしてみれば展示会効果は単純に投資コストと受注額によって算出できるようであるが、実は相殺された「来場者数」の「量」ではなく「質」に大きな意味があることを忘れてはならない。この「質」の表現は数字では困難であるが、来場者の「質」の向上によってPR効果面でのブランド認知の「質」が向上する。また当然来場者の質が向上すれば結果的に受注額も増加し、セールス効果も向上する。

前述したように、展示会のROIを向上する条件として説明員の質の問題を取り上げたが、同時に来場者の質もまたROIに大きく影響する。この来場者の質を高めることが、6項で述べた集客の課題に合致する。またここでの来場者を、「展示会場全体の来場者」と設定した場合と「自社ブース来場者」と設定した場合とではやや意味合いは異なってくる。さらに、「受注額」を「引き合い額」や「リード件数(カタログ請求件数)」と置き換えることもできるが、各企業それぞれに営業形態や企業運営形態に沿った形で独自の効果算出式を構築すればよいと考える。

重要なのは展示会効果算出式で得られた数字は絶対的なものではなく、各展示会や年ごとの変化率の把握(トレンドの把握)として位置づけた方が良い。なお、受注成立にはセールスコールの質(引き合い処理の仕方)が大きく影響するため、多面的な営業活動の一環としてこの数式を捉えることも重要である。

また、数字では表れない様々な要素、例えば顧客創造やリレーションシップなども、最終的には後々の受注額に寄与するものと考えられ、またとりわけBtoB分野では受注成立までに長期間要することもあるため、この効果測定算式は継続的に使用しその結果のトレンドを数年に渡って把握していくことが重要と考える。

展示会効果測定の基本的な考え方

ASICAモデルからみた展示会の可能性(6/8)

9.説明員のスキルアップが展示会のROIを改善する


さて、唐突ですが「あなたがもっとも好きな企業は?」「その企業が好きになった理由やきっかけは?」と問われたらどう答えるだろう。BtoB分野では、おそらくほとんどの人がまず製品(技術)を思い浮かべ、その次にそれを購入したりサービスを受けた際の担当員の対応や、経営者の人柄がポイントになるだろう。広告がきっかけと答える人はごく僅かと思われる。

展示会においてこれを証明するようなデータがある。米国の Exhibit Surveys 社 が2006年まで毎年発表していた「Best-Remembered Exhibits」である。


展示ブースにおける記憶再生率と記憶の理由

これは展示会効果を、記憶される割合のレベルで測定し、展示会を構成する各要素との関係を定量的に把握したデータである。ここでは、展示会を構成する要素として「製品デモンストレーション」「製品そのもの」「文献(説明パネル)」「展示デザイン」「説明員」「ブランド認知度」などとし、一年間に開催された様々な展示会の終了後ある一定期間経ってから、「あなたがもっとも記憶している展示会」「その展示会の中でもっとも記憶している企業ブース」「その企業ブースがもっとも記憶される理由(要素)」についてアンケート調査を行ったものである。


表からわかるように、当然製品そのものに対する興味や製品のデモンストレーションおよびブランド認知度が高いポイントを占めているが、意外なのは、展示会の演出に重要な役割を持つと考えられる「展示デザイン」よりも「説明員の応対」の方が高いポイントを獲得していることである。これは今後展示会を運営していく中で非常に重要な課題になってくる。
従来、展示会には高いコストをかけて装飾を施し、どこよりも目立つように、またどこよりも格好良くデザインするのが広告マンとしてのプライドでもあった。その一方で、営業担当や技術者に対して、多忙な日常業務を割いて展示会の説明員として参加要請する後ろめたさもあった。


このデータを見る限り、展示会でのそれらの取り組みはまったく無意味であったことがわかる。もっともコストの掛かる展示ディスプレイに注力するのではなく、あくまでも製品とデモンストレーションが主役になるようなシンプルな装飾に止め、代わりに固定費として捉えられる説明員の応対の質を改善することが、展示会のROIを向上させる最大の近道なのである。
Face to Faceマーケティングや、人を集める重要性を述べた6項から8項までの内容とこれらを照らし合わせると、これからの展示会でいかに「製品」と「人」がその成否を握っているのか理解できる。


10.展示会のROI向上に寄与する説明員の条件

 

展示会を成功させる要因として、「説明員」の重要性が理解できたが、だからといって大勢の説明員をブース内に立たせるだけではかえって逆効果になる。よく目にするほとんどの説明員が待ちの姿勢で通路側を睨んでいる光景には尻込みしてしまう。そもそも自ら見込み客を招いたなら、待っているのではなく迎えに行かなくてはならない。来場者から話しかけられるのを待つような姿勢では、到底ホスピタリティは提供できないし、来場者の記憶にも残らない。


それではどのようなスキルが説明員に求められるのだろうか。まず来場者からの質問や課題に的確に答えられる技術的な知識を持っていること。話し上手であるが薄っぺらな知識しかない営業担当よりも、少々口べたでも自らの技術に誇りを持つ技術担当の方が説得力はある。
次に来場者の抱えている課題が十分に把握でき、場合によっては気付かれてない課題すら提示できるような当該分野での基本知識を備えていること。そして、課題に対して自信を持って明確なソリューションを提示できること。

ここまで行けばASICAモデルの「A:assignment課題」「S:solution解決策」「I:inspection検証」「C:consent同意/承認」のプロセスが満足できる。

展示会での説明を、単に製品説明という側面ではなく、来場者の持っている課題を引き出し、ともに考え、解決策を提示するという姿勢、つまり提案営業の心構えが展示会のROIを高める最大の要因なのである。そのため説明員には、単に自社の製品や技術だけでなく、顧客企業も含めた業界全体の動向を常に把握する能力が欠かせない。説明員と言うより、顧客企業のコンサルタンシーとして取り組む意気込みが求められる。

ASICAモデルからみた展示会の可能性(5/8)

7.ホスピタリティ・マーケティングから見た展示会


ASICAモデル提唱の際、BtoBビジネスの原点はホスピタリティにあると述べた。詳しくは「産業広告」の40周年記念号(2009年10月)をご覧いただきたいが、BtoBを構成する組織間の良好な関係性の維持にホスピタリティは不可欠である。では、展示会におけるホスピタリティとは何だろう。ホテルなどのサービス業界で通常用いられているこの概念は、客人をもてなすと言う意味があるため、米国の展示会でよく見られるギブアウェイ(景品)やブース内での飲食物の提供などと思われがちであるがそうではない。ホスピタリティの概念をもっとシンプルに「人に喜んでもらう」と理解すればわかりやすい。


自らが顧客側に立って考えればよく理解できるが、BtoB分野での顧客にとっての最大の喜びは、業務を遂行する上での難題(課題)の解決である。様々な課題を抱えた来場者が、展示会の場で課題解決できるのは最高のホスピタリティと言えるだろう。しかもWEBサイトなどビジュアルや音声だけに頼るのではなく、技術者と直に接して解決策を議論できるメディアは展示会以外には考えられない。だからこそ出展社側は、展示会で単に製品を並べるだけではなく、当然のことながら製品のデモを含めたスタッフ(技術者)から的確なソリューションを提供できる体制で臨まなければならない。


刺激反応型パラダイムの時代に流行っていた、コンパニオンにお仕着せのセリフを覚えさせて製品紹介するなどの手法は、現在の展示会では時代錯誤と言えるし、ホスピタリティの観点から見れば何の価値もない。くどいようではあるが、どんなにネットが普及しても技術者からFace to Faceでホスピタリティが提供できるのは、通常営業と展示会だけであり、営業効率から見れば展示会に勝る場はないと考えられる。
 

展示会におけるホスピタリティとは

8.セールス効率から見た展示会の価値


展示会を行動科学とマーケティングの両面から科学的にデータ解析する分野は、我が国では未成熟であるが、米国ではある程度研究されている。展示会におけるセールス効率についても詳細に研究されたデータがある。残念ながら原本は見あたらないが、過去に産業広告誌で紹介された石川忠弘氏の訳文をそのまま引用したい。


Business Marketing誌の記事から、「米国では、一回あたりの平均セールスコール費用は、292ドルかかり、取引成立までに平均3.7回のセールスコールを必要とする。したがって、成約取引一件あたり計1,080ドルかかる計算である。一方、展示会の場合、展示ブースへの入場者一人あたりのコストが185ドル、取引成立までの平均セールスコール回数が0.8回、一回あたりの平均セールスコール費用が292ドルだから234ドル、合わせて419ドルと、半分以下の費用で済んでいる。平均コール回数が一回未満なのは、取引がコールしないまま成立する場合があることを示唆している(産業広告vol.25 No.2)」


広大な国土をもつ米国でのセールスコールは確かにコストが掛かるだろうし、我が国ではまた違った解析結果になるのかも知れないが、少なくとも展示会でのセールス効率は通常営業のそれとくらべてはるかに高いことが見て取れる。また前述の記事紹介で重要な部分は、「取引がコールしないまま成立する場合があることを示唆している」のくだりである。つまり、様々な手段で得られた見込み客を、最終的に展示会というトレードの場で顧客に変えるビジネスモデルが米国では日常化していると考えられる。


その前提には、日頃から営業担当は見込み客のデータベースをしっかり把握し、効率の悪い客先訪問ではなく、展示会の場で取引を成立させると言ったビジネスモデルが必要になってくる。これはまさに「市」が営業効率を求めた結果として形成されたケースと同じと言える。
 

セールス効率からみた展示会の位置づけ

ASICAモデルからみた展示会の可能性(4/8)

6.人が集まるのか、人を集めるのか


昨年来我が国に限らず世界的に展示会の集客が低下してきている。もちろん不景気の影響が大きいと思うが、その原因は他にもある。

「この展示会は来場者数が少ないから出展しない」という声が当たり前のように聞こえてくるが、そこには集客は誰か(展示会主催者)がやってくれるはず、という甘えが隠れている。じつはこれが大きな勘違いであることに、多くの人は気付いていない。刺激反応型パラダイムの時代では、当然ながら刺激を求めてあちこちからわざわざ展示会に人はやってきた。しかしパラダイムが変化した今、交通費を払ってまでむやみに展示会に出かける人は少ないだろう。

展示会は、もはや黙っていては人は来てくれないものと認識すべきである。

経費削減の中、展示会に出展しなくても顧客訪問を中止する企業はない。それは課題を抱えた見込み客が存在するからで、その見込み客を展示会に誘うのがじつはマーケティング力なのである。どんなに頑張っても1日に訪問できる顧客数はせいぜい10件程度だろう。そんなに効率の悪い営業活動を行いながら、その何倍もの見込み客と接することができる展示会になぜ人を呼ばないのか。

自社が持っている膨大な見込み客にどれだけアプローチがかけられるか、それを出展企業すべてが行えるかによって展示会の価値が決まってくる。他社が集客した見込み客のおこぼれを期待するようでは、先が知れている。アプローチの仕方も案内状だけを送付して後はなしのつぶて、というのはほとんど効果がない。展示会直前には少なくとも電話やメールで顧客に来場を促すくらいの通常営業と同じ心遣いが必要である。

ちなみに筆者が以前行った自社の調査では、同じ展示会で案内状だけを送付した年と、開催直前に電話フォローした年とを比較してみると、電話フォローの年に25%の集客向上があった。

ここでもう一度展示会の原点である「市」の成り立ちについて振り返ってみよう。「市」が、物を探し歩く非効率の改善と物財交換のための効率的な「場」として成立し、そこで情報交換もなされたことを考えれば、顧客側からは、あちこちソリューションを探し回らなくてもそこに行けば様々な課題解決策が一堂に得られる場として展示会を捉えることができる。また出展企業側から見れば、あちこちに顧客訪問しなくても、そこに行けば見込み客が一堂に会している場として展示会の価値を認めることができる。つまり展示会構成企業がそれぞれに、見込み客への集客に最大限の努力を払うことは「市」の形成要因であった価値交換効率改善の最大の条件なのである。

ASICAモデルからみた展示会の可能性(3/8)

5.インターネット時代の展示会の役割と本来の価値(Face to Faceマーケティング)

インターネットの普及によって広報メディアとしての展示会は、ほとんど価値がなくなった。だからと言ってこれから展示会は発展しない、と考えるのはあまりにも早計である。とりわけ景気が低迷している時期には、展示会に参加しない理由に広報メディアとしての効果論をアリバイにする場合が多いが、そこでは展示会の本来持っている価値がほとんど議論されていない。
WEBサイトをいくら充実させても、そこで顧客と握手ができるのか?最先端のツイッターなどの手段を用いても、WEBサイト上で顧客の目を見ながら直接会話ができるのか?さらに顧客はWEBサイト上で実際に製品を手にとってその機能を確認できるのか?
様々な分野でネット至上論が展開されているが、唯一展示会だけはネットで代替できない機能を持っている。「接触メディア」としての機能である。Face to Faceマーケティングの一環として、顧客と直接面と向かって話せるメディアは展示会以外にない。もとより我々は五感を駆使して情報処理している。この五感がバランスよく機能して初めて正確な情報処理が可能になる。インターネットなど新しい技術が旧来のメディアを駆逐するような論調を目にするが、じつは五感を完備したメディアは旧来のリアルメディアである場合が多い。逆に言えば、インターネットメディアには視覚と聴覚の二感しか備えていない危うさがある。さらに旧来メディアのなかでもオーディエンスに対する広義の触覚を備えているメディアは展示会だけである。
この「接触メディア」機能が、展示会の本来の価値なのである。今後ますますネットの普及に伴って、やがて五感が満足できないネットに飽き足りた時、Face to Faceマーケティングの重要性が必ず見直される。ASICAモデルから見ても、Aから最後のAまですべてのプロセスをカバーできるメディアは展示会以外にない。インターネットの普及で代替できるのは展示会場で集めたカタログであり、展示会そのものではない。むしろ顧客との接触が最大の機能である展示会では、情報発信機能ではなく顧客とのコミュニケーション機能を重視した方が良い。 
そのコミュニケーションの核になるのが、ASICAモデルの課題(Assignment)探索であり、課題解決策(Solution)の提示である。一般に公開されている情報は展示会では必要ない。WEBサイトにも公開していない「顧客企業それぞれが持つこれからの課題と解決策」について顧客と議論できる場として展示会を運営すべきである。そのため、展示会には製品展示の場だけでなく、セミナーやワークショップなど双方向の仕掛けを導入しなければならない。つまり、五感をフル活用できる場として展示会を演出することが重要になってくる。
WEBの普及による展示会価値の変化

ASICAモデルからみた展示会の可能性(2/8)

3.マーケティングパラダイムの革新が展示会を変えた
 
消費行動プロセス「AIDMA」がローランド・ホールによって提唱されたのが1920年代であり、この一世紀近くにわたっては広告界やマーケティング界には新しい理論が満ちあふれ、それぞれが確固たる地位を築いた。そしてその根底にあった概念が、AIDMAモデルからもわかるように「刺激によるAttention」であった。これを後押ししたのが、物や便利さへの憧れであり、物に関する情報への切実な欲望であった。これらに対する刺激的なビジュアルやコピーが広告をいきいきとさせ、展示会でもことさら他社よりも目立つことが要求された。
刺激反応型パラダイムと称されたこのマーケティングの枠組みは、先進諸国では大量消費絶調の1990年代に最高潮に達した。我が国では○○博覧会と銘打ったイベントがあちこちで開催され、通常の展示会でも、主役であるはずの製品(物)はさておき、コンパニオンや映像を多用した派手な演出が目立っていた。やがて物が充足し、情報に飽き足りた社会は、もはや小手先の刺激には反応しなくなった。代わって物の価値表示(価格)と本来の価値との妥当性が問われ、その選別が慎重に行われるようになった。価値交換パラダイムへの変貌である。あわせて、物に充足した我々は物の活用や効用に対して新たな課題を持つようになる。飽食の時代を経て、食べることよりもダイエットや健康食品に課題の矛先が代わった現代のように。
しかし課題そのものと解決策の提示がマーケティングの新たな枠組みとして成り立ちつつある今でも、依然として広告や展示会で、従来のような刺激反応型のパラダイムに準拠した手法をとることが現在でも多く見られる。展示会は博覧会に代表される刺激反応型パラダイムから、課題解決のための価値交換型パラダイムへと変貌したことを念頭に置くべきである。
 
4.インターネットの普及が展示会の役割を変えた
 
マーケティングパラダイムの変化に呼応するかのように現れたインターネットによって、展示会の役割は大きく変わった。従来、展示会は情報収集の場として重要な役割を担っていた。新製品や新技術の調査と言う目的が展示会にはあったが、それ以上に我々が血眼になったのは、自社に関連する製品や技術のカタログ集めだった。各ブースで集めたカタログを、両手一杯にぶら下げて会場を後にする光景は当たり前で、展示会場では、持ちきれないカタログを発送する宅配便の受付があった。展示会は情報収集の名を借りたカタログ集めの場であったのだ。
それがインターネットによって一変する。1995年から翌年にかけて普及しだしたインターネットは、企業の情報発信機能を根底から変えた。さらに情報の受け手側であるオーディエンスもWEBサイトを訪問することによって主体的に情報収集することが可能になった。こうなれば情報収集の場としての展示会の機能はもはや意味をなさなくなってくる。高額なコストをかけてブースディスプレイを行った結果、得られた1件当たりのリード(引き合い)コストは、他の広告メディアの到達コストと比較すると圧倒的に不利なのは誰の目からも明らかであった。「これからはWEBが展示会の代わりになる」とか「これからはオンライン展示会だ」といった声が聞かれ、さらにはインターネット時代に展示会は不要とまで言われるようになってきた。
確かに広報機能としての展示会の役割はWEBサイトに代替されるが、そもそも展示会の機能がそれだけだったのだろうか。逆に考えれば、我々は刺激反応型パラダイムの中で、展示会の本来機能を忘れ、とにかく目立つことや誰でもいいから人を集め、ブースが賑わっていることが展示会の価値であるという勘違いをしていたのかもしれない。
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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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