4.マーケティングコミュニケーション

セールスプロモーションの側面から見れば、マーケットの限定されたBtoB企業が、展示会やカタログなどのプロモーションにその多くのコストを費やすのは当然のことである。

ここで展示会でのコミュニケーションについて少し考えてみたい。BtoB企業の展示会はBtoC企業ほどではないが、相変わらず展示ブースのデザインに力点を置く場合が多い。展示会場の中でいかに目立つか、いかに人を呼び込めるかが重要な課題となっている以上それを否定はしないが、実は展示会において意外と知られていないのが「説明員の質」が来場者の記憶残留度にかなりの影響を与えていると言うことだ。

米国ののリサーチでは、来場者にとってもっとも記憶残留度の高い企業は、まず新製品の展示など製品に纏わるデモンストレーションが効果的であったかどうか。その次は説明員の対応が適切であったかどうか。3番目と4番目はブースデザインとプレゼンテーションが拮抗している。

意外にもオーディオビジュアルを使用したプレゼンテーションは記憶残留度にはあまり大きな効果は与えていないと言う結果が出ている。説明パネルに関してはほとんど影響を与えない最低点となっている。

これから分かるように展示会では製品のデモンストレーションと合わさって説明員がいかに来場者の問題解決に適切なサポートを行うか、が最大効果を発揮するポイントだと思える。展示会場はまさに顧客とBtoB企業とのコミュニケーションの場であるということなのだろう。

しかもエキジビットサーベイ社は展示会でのリード(引き合い)を元にした成約コストは、広告のそれとくらべて半分以下で達成できるとしている。マーケティングにおいて、展示会での説明員と顧客との充実したコミュニケーションはそのまま受注という対価に反映されるのである。その意味でも、展示会ではいかにして自社技術を熟知し、なおかつ適切なソリューションの提供と言うコンサルタント的な能力を備えた説明員を動員するか、が大きな課題と考える。

これと同じことがおそらくカタログにも言えるのではないか。とかく商品の特徴やセールスポイントを羅列してカタログとしての体裁を保とうとするが、今日ではもはや製品情報伝達メディアとしての機能はカタログでは薄れ、代わりに顧客の問題解決に対する明確な回答がその中に潜んでなければならない。こうして企画されたカタログは、展示会の説明員と同様にまたそれを駆使する優秀な営業担当によって、そのメディアとしての価値が増幅され、マーケティングコミュニケーションを完遂することができるのである。

2005年、ARF(米国広告調査財団)他はメディア評価に際し、従来の露出や到達率に替わって「エンゲージメント」を指標とする旨の提言を行った。このエンゲージメントは我が国では約束とか絆と解釈されているが、私は「共鳴」と理解している。つまり露出に意味があるのでなく、いかに社会やエンドユーザーの共鳴を得られるか、が今後の広告に課せられた命題なのである。さらにARFはエンゲージメントを得るためにコンテキスト(文脈)が重要であるとしている。

クロスメディアによってあらゆるステークホルダーへメッセージする場合、それぞれのメディアで展開されるコンテンツの意味的な関係性が大変重要であると言うことだろう。その意味でも前述のブランド、プロダクト、マーケティング(人)の織りなすコミュニケーションが、一貫した文脈をもってなされて初めて社会の共鳴を得ることが可能となり、共鳴によってそのメッセージの持つ力はますます強化され、成長していく。今、まさにコミュニケーションパラダイムの変革が始まったのである。