BtoBマーケティングでは複数の組織人の関与がある、と述べたが、実はこれからの広告の役割として最も重要なポイントが、そこにある。巷で言われているように、広告ではものは売れない。広告で売るのではなく、売れる仕組みを作るのが広告のメディアとしての価値でもある。BtoBビジネスでは製品購買に際して多様な立場の組織人(決裁者)の関わりを受ける。購買担当窓口と決裁者の当該製品に対する価値認識も当然異なる。
ここで重要なのは、製品そのものではなく、製品を提供している企業に対する認識の度合いである。この認識の度合いであるが、得てして認知度や知名度が重視されるが、そうではなく企業の独自の価値観や哲学と言った、人に置き換えれば人格に相当するような部分がどの程度認識されているか、と言うことである。
マス広告での対応は、下記の2点がこれから重要になる。
(a)売るためでなく、売れる仕組みづくりのための広告
(b)独自メッセージの発信がCSRに結びつく
正直なところ、最近の広告はどれも100%は信用されていない。当たり前のことであるが、企業は自社や自社製品を悪く言うはずはない。そのことをマーケットや社会は充分理解して、広告を見ているのである。「この製品は凄いですよ!」とか「我が社は素晴らしいですよ!」と言っても、それを頭から信じる人はまず無いだろう。これからの広告では、自社や製品の優位性を口うるさくアピールするのではなく、「我が社はこんな考えを持っています」とか「この課題に対して我々はこう考える」といったその企業独自のメッセージを発していくことが重要になる。
近頃目にする地球温暖化に対する各企業のメッセージが、あたかも申し合わせたかのようなお決まりの文句で体裁を整えられているのを見ると、その企業独自のメッセージを伝えるには相当な勇気がいるのかも知れない。しかし、もう横並び感覚は捨てて、もっと自信を持って発信したい。初めは気にも留められなかったメッセージが、何かのきっかけで頭をもたげてくることもあるし、この方が記憶定着度は高くなる。
最近、WEBの普及で新聞は読まれなくなったと言われるが、企業内の上位決裁者である社長やその周辺は、むしろWEBよりも新聞を見る機会の方が多い。社用車の中でインターネットは難しいが、新聞は読める。地下鉄の中でWEBブラウジングは厄介だが、新聞は読める。
こうしてその企業の為人が組織人を含むあらゆる人々に理解され、信頼され、記憶されることで、ひいてはBtoBビジネスでの購買決裁に有利に働くと考えるべきであろう。
最近はレピュテーションが注目されているが、好ましい評判を意識して力づくでプロモーションするのではなく、このような根気強い独自のメッセージの継続がレピュテーションに繋がると理解した方が良い。
その意味では特に新聞広告はこれから注目に値すると考える。
従来のような「売り」を前面にした広告でなく、「独自のメッセージ」を伝え合うような場にしていきたい。つまり、企業が保有する独自の技術や製品、人材で、社会をどのように発展させようとしているのか、どのような世の中にしていきたいのかを提言する広告である。いうまでもなく資本主義社会では、企業が最も力を持っている。それを広告というメディアを通して、社会づくりに活かしていくべきであり、これこそが真のCSRと言えるのではないだろうか。現在では公共広告機構が最もこれに近い活動をしているが、できれば各企業が自社の独自技術に根ざしたメッセージが欲しい。
こんな広告が乱舞する新聞ができれば、確実に企業がリードして社会を変えていくことも可能になる。
なお、このメッセージは企業独自の技術や製品から生まれている以上、マス広告だけでなくあらゆるメディアで整合性を持たなければならない。それによってクロスメディアは自然と達成できるものである。
6.もう一度ホスピタリティを。
広告が効かないことを新興メディアの台頭のせいにしてはならない。
この項では、企業購買のプロセスモデルとして提唱した「ASICA理論」については言及しなかったが、選択可能情報量の爆発的な増加とメディアの進化によって、確実に購買モデルに変化が生じてきている。また最近は特に経済合理性を追求するあまり、「人」と言う数字では語れない要素を無視するかあるいは無理矢理押し込んだ広告評価システムによって、間違った数字で広告を路頭に迷わせているふしがある。血眼になって数字を追いかけるのではなく、BtoBビジネスの原点に立ち返って、もう一度「真のホスピタリティ」を考える柔らかな気持ちを持ちたい。それによって必ず広告は、また新たな進化を始めると確信する。(完)