6.企業の社会的責任を果たすために上場廃止した企業がある

 

ここでCSRの担当者なら誰もが知る企業の社会的責任についての象徴的な話題を紹介したい。

米国にあるジーンズの老舗リーバイ・ストラウス社(通称リーバイス)は1971年に上場し、古くから企業の社会性について独自の理念を持っていた。

1982年からHIV/AIDSの啓発と予防に積極的に取り組み、1991年に策定した「グローバル・ソーシング&オペレイティング・ガイドライン」は世界各国の製造請負業者や原材料調達先に対して、賃金、労働時間、労働条件、倫理など各種の条件に合致しなければ取引しないといういわばサプライヤー向けの行動規範であり、これは現在でもハンドリングされている。いうなればCSRの元祖だ。

ところがこのリーバイ・ストラウス社。1992年に児童就労の実態が明らかになった。普通の企業ならここで社長か誰かが記者会見し、誠に申し訳ない、以後気をつけます、で済ませてしまうのだろうが、リーバイ・ストラウス社はそうではなかった。それならばとまず現地に学校を作り、児童をきちんと教育し、就労年齢に達した時点で雇用する策を提示した。雇用の創出という社会的責任と同時に貧困層への雇用機会の促進といった地域社会への責任を果たそうとしたこの策に対して、株主から猛烈な反対があった。

学校を作って教育するような金があるなら配当に回せ、というのである。今でもどこかで耳にするような言葉だが、ここで当社がとった行動はLBOを利用したMBO(マネジメント・バイアウト---経営者による買収)によって上場廃止し、私有企業となったのである。

株主の金よこせ運動よりも企業の社会的責任を優先した出来事だった。

資本主義がもはや金融資本主義と姿を変え、企業の株式ですらマネーゲームのカードとされるなか、決して少なくない上場維持コストを負担してまで上場を継続する必然性を疑わせるとともに、企業としての矜持が社会的責任を果たす上での骨格となることを見せ付けられた。

ちなみに日本法人であるリーバイ・ストラウスジャパンでは、WEBサイトにCSRページもなければCSR報告書も発行していない。不思議に思って当社の広報に尋ねてみたところ、「グローバル・ソーシング&オペレイティング・ガイドライン」で厳密にサプライチェーンも含めて管理し、古くから社会的に不公正な立場にある人々を支援するなど、もはや企業の社会的責任は当たり前であり、取り立ててCSR活動をアピールするつもりはないとのことだった。これこそが本来のCSRだろう。企業の存在そのものが社会的責任と同義なのだ。冒頭に述べたCSRを絶叫すればするほど胡散臭くなる、とはこういうことだ。

さらに最近SRI(社会的責任投資)が騒がれだしている。CSRに熱心な企業に積極的に投資しようという触れ込みであるが、多くの場合ファンドを組成して投資を行うことになる。もとより企業の社会的責任は、直接的な利益を得るための営業活動とは一線を画している。

SRIがリターンを求めない政策投資なら理解できるが、金儲けの権化のようなファンドが純投資としてこれに関わることへ強い違和感を持つのは筆者だけではあるまい。IR同様にCSRがマネーゲームの手段になり下がるのでは、という危惧さえある。