ところで一昨年12月、Apple2010年以降Macworld Conference & Expoへの出展を取りやめると発表した。本イベントはMac愛好者なら誰もが知るAppleの象徴的な催しであり、なおかつ展示会の本質に切り込んだ貴重な行事でもあった。

この決定を耳にした気の早い広告マンから、展示会の終焉だとか、展示会はウェブサイトに代替される運命にあるといった論調が当たり前のようになされた。100年に一度といわれる金融危機に端を発した不況が急速に進展する今、各社とも当然のように広告宣伝費の大幅な削減が余儀なくされる事態において、むしろAppleの決定は展示会からの撤退や規模縮小のアリバイづくりに大きく寄与するであろう。しかし、一方でこの出来事は今一度展示会のメディアとしての価値を見直す良い機会を提供してくれた。

Appleがこのイベントから撤退するもっとも大きな要因として、アップルストアに展示会代替機能があることをあげている。Appleのリテールストアは全世界284箇所に及び、そこでは製品展示はもちろんありとあらゆるソリューションを提供し毎週400万人以上が訪問している。そしてAppleのウェブサイトでは膨大なテーマのテクニカルサポートが行われ、それに加えて個人のブログやニュースサイトでも逐一最新の情報やソリューションが提供されている。いわばメーカーと顧客が一体になってブランドを育て、次のテクノロジを待ち望む姿がそこにある。これこそが本来の展示会の役割である。

Appleはいつの日かMacworld Conference & Expoを全世界で同時に行うことを前提にリテールストアの構築と価値形成を行ってきたのだろう。こういった体制整備の元でAppleMacworld Conference & Expoの撤退を決定したのであって、それを展示会の終焉と理解するのは早計である。

我々BtoB企業が顧客と常に対話できるリテールストアを持っているのは極めてまれで、ウェブサイトでのコミュニケーション手法についてもはなはだ頼りない。展示会を単に情報提供の場であると考えるならネットで代替も可能だろうが、そもそもそのようなスタンスで展示会に参加すること自体今の時代では何の効果も得られない。

展示会の本質的な価値は、顧客(来場者)の抱えている課題発掘と顧客へのソリューション提供の場であることにある。この詳細は別項の「ASICAモデル」をご覧いただきたいが、その価値を持つメディアは今のところ展示会をおいては見あたらない。今後とりわけBtoB企業が展示会を成功させるためには、まず情報提供という旧来の目的から脱却しなければならない。単に製品を展示するのではなく、顧客の抱えている課題を認識し合い、デモや技術スタッフを通じてその場でソリューションを提示する。この新しいメディア形態として、BtoB分野ではますます展示会の意義が見直されて来るであろう。その一例として、一度近くのアップルストアを覗いてみるのもいいかもしれない。(続)