BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉟

《質問》

最近弊社では働き方改革の名の下で残業規制が強化され、とりわけ我々のようなクリエイティブ業務に携わるものにとって非常に仕事がやりづらくなってきています。広告相談室にお問い合わせするのは場違いとは知りつつも、このままではクリエイティブに専念することが大変難しくなってきているのが現状です。そこで少しでもクリエイティブ業務を効率化する方法などがあればご教示いただきたく、あえて問い合わせさせていただきました。(金属製品メーカ・コーポレートコミュニケーション部)

 

《回答》

ご相談の内容から貴方はクリエイティブ業務を担当されていると推察します。それが広告代理店などの外注と共に行うものなのか、自ら内制されるのか不明ですのでそのいずれについても対応方法を述べたいと思います。

まず貴方は「クリエイティブ業務の効率化」をめざしておられますが、その根拠となるのは残業規制、つまり業務時間の削減だと思います。そこでまず効率化しなければならないのは、クリエイティブ以外の業務です。クリエイティブ専任と言っても様々な事務的な業務が発生しますし、それに取り組む時間はけっして少なくありません。その代表例が「会議」です。御社では最近会議が増加していませんか? これは最近多くの企業に共通していることですが、やたら会議やそのための資料作成が増えてクリエイティブに費やす時間が損なわれていると言った声を耳にします。

もとより会議はある案件の検討や決定に際して、表向きは多様な意見をもとに議論を行い最適な結果を求める、ということだと思われていますが実際は単なる責任の分散にしか過ぎません。しかも問題なのは、会議を行うことによって結果は最大公約数的に可もなく不可もなくの状況に落ち着くか、次回に再検討となることが往々にしてあります。実際米国のある大学での実験では、会議を行うことによって参加メンバーのIQは徐々に低下するというデータがあります。この結果が何となく頷けるのは、会議中発言者と参加メンバーとの関係性を見ればよく分かります。参加人数が多ければ多いほど発言の機会、つまり議論の機会は少なくなり、残りの時間は他人の話を聞いているか他のことを考えているか、居眠っているかのいずれかになります。

また参加メンバーの一人当たりの人件費を算出すると、会議にどれほどのコストが費やされているのかよく理解できますが、ほとんどの場合コストに見合わない結論が出ているはずです。

会議の最小単位は一対一で行う「相談」や「連絡・報告」になりますが、これも無駄な時間と考えられます。会議をやめ、相談や連絡・報告は出来ればやめた方が効率的ですが、報告と連絡がどうしても必要なら1分以内に済ますよう努力すべきだと考えます。

会議に限らず様々な書類づくりや事務作業も同様で、これらの業務も本当に必要なものだけに限定して作業するようにした方がいいと思います。意外に「やらなくても問題なかった」という作業が多く存在しているのは事実です。

さてクリエイティブの効率化についてですが、本来クリエイティブ業務と時間との相関関係はありません。たとえばあるコンセプトを決めるのに5分で済む人がいれば1週間かかっても結論が出ないという人もいます。したがってクリエイティブ業務の効率化は不可能と言えます。

内制を行う場合、DTPなどデジタルを駆使して作業することが効率化だと思われるかも知れませんが、それはクリエイティブではなくクリエイティブを定着化させるための作業の効率化なのです。ここでもデジタル化の普及によって意外にも作業効率が低下している様子がうかがえます。パソコンでクリエイティブ作業を行う場合、一昔前と比べて大きく効率が落ちていることにあまり気づかれていません。

昔のアナログ時代はクリエイティブを決定すれば後は手作業に移行しました。この手作業はあらかじめ設計したクリエイティブにしたがって自動的に行ういわば事務的な作業と言えます。私が現役の頃はこの時間をじつは次のクリエイティブの発想に用いていました。つまり同時に二つの業務を行っていたことになります。

それが現在ではパソコンに向かってクリエイティブの定着作業を行う場合、どうしても他のことを考える余裕がなくなってきています。脳の働きがどうなのかよく分かりませんが、現実的に私自身も現在は昔に比べて効率が落ちている気がしています。そこで重要なのは定着作業は極力事務的に済ませることであり、そのためにはクリエイティブ段階で充分サムネイルやラフスケッチを手書きで準備しておくことです。

さらにクリエイティブはいわば24時間考える余裕があります。食事をしていても遊んでいても自由に考えを巡らすことが出来るのです。だからクリエイティブの効率化はあり得ないというわけです。

一方代理店などと共に作業をする場合の非効率の最大の要因はじつはコンペ方式による制作業務です。複数の代理店に対して同じようなオリエンを行う無駄。代理店から提示されたプレゼンを、けっしてプロダクションのクリエイターよりも能力が優れているとは思えない人たち(役員など)による審査。そして審査結果に基づいた無意味なやり直しなど、上げればきりがありません。

代理店に外注する場合、まずコンペはやめること。そしてオリエンは必要最小限の内容に絞って行う事。提示されたプレゼンは余程の問題がない限りは受け入れること。ここではけっして個人の好みで作品の善し悪しを決めないこと。これがクリエイティブに付随する作業を最も効率化する要因になります。

クリエイティブを外注する場合、内制では出来ないレベルの質を持つ作品を求める訳ですから、そこで何だかんだとクライアント風を吹かせて難癖をつけることは非常に非効率的と言えますし、道理にも合っていません。

このように代理店(専門家集団)と共に仕事をすれば、クリエイティブの質は上がりクリエイティブ効率も格段に良くなるはずです。さらに重要なのはコンペ方式をやめることによって同じ代理店や同じクリエイターと長く付き合うことになりますが、これがますますクリエイティブの効率化に寄与する点です。同じクリエイターと永年にわたって制作業務を行う事によって、徐々にクリエイター自身もクライアントの事情が理解でき製品や技術に関しての知識も豊富なってきます.その結果、オリエンすら必要なくなることも考えられるのです。

最近はガバナンスなどややこしい制度によってどうしてもコンペが必要となる場面があるかも知れません。しかしガバナンスが必要としている「合意形成」が、じつはクリエイティブを確実に低下させることも忘れてはなりません。

結論として、まずクリエイティブの効率化は不可能であるが、クリエイティブ作業の効率化は大きく改善できる余地があること。そして会議や相談など無駄な時間は極力削減することがひいてはクリエイティブに費やす時間の確保に繋がることをご理解いただければ、と考えます。