BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉛

《質問》

弊社はIT周辺機器を開発販売している中小企業で、競合企業が多い中企業ブランド強化のために組織の再編も含めて検討しているところです。従来は特別な広報宣伝部門はなく、営業部門でカタログ制作や展示会に対応してきました(すべて外注です)。ブランディングにあたって、まずコンセプトを明確にする必要があると代理店から提案があり、現在コンセプトの策定に四苦八苦しているところです。
私自身恥ずかしながらコンセプトをどのように設定すればいいのか、またすべて代理店に任せて済むものなのか良く理解できていません。そこで、企業ブランド再構築のために必要なコンセプト作りの手法などがありましたらご教授いただきたく、よろしくお願いします。(IT機器メーカー・営業部)

  

《回答》

今回のご質問の趣旨は、御社の企業ブランド強化(ブランディング)を目的とするために、コンセプトを策定するということだと理解します。

まず、どんな企業にとっても最も大切なのはコーポレートコンセプトです。コンセプトという文言はよく使われるのですが、その本質を理解されているケースはあまり目にしません。コンセプトが「目的」や「目標」とすり替えて安易に使用されている場合が少なくないのです。

さらにコンセプトは企業哲学のようなもので、当該企業のあらゆるモノや人、組織にも関与します。したがってとりあえずの流れを述べるとすれば、コーポレートコンセプト→プロダクトコンセプト(開発業務を含む)→組織編成コンセプト→人材育成コンセプト、という流れになります。その他、サービスや販社との関係構築にあたってのコンセプトも存在するでしょう。

そこでご質問のあったコンセプトメイキングについて、ですが。正直なところ各社とも非常に軟弱なコンセプトメイキングがなされているのが現状です。それは上述した「目的や目標」さらには「ビジョン」にすり替えられたフレーズをコンセプトと称しているもので、ビジネスオリエンテッドな現状ではある意味で致し方ないかも知れません。

しかしコンセプトは企業哲学であり、まずは当該企業がその哲学に基づいて社会に対して何をメッセージすべきなのかを考えることからコンセプトメイキングは始まります。

そこで大きな問題を抱え込むのがコンセプトメイキングをマーケティングの一環として理解してしまうことです。コンセプトとマーケティングはまったく関係有りません。現在はどの企業もマーケティング重視の傾向が強くなりつつあるのも、前述した軟弱なコンセプトが誕生する要因だと思っています。

つまりどういうことかと言いますと、マーケティングは販売を目的として、マーケットや社会の現状におけるニーズをリサーチすることですが、これでは得られるデータはマーケットや社会の現在の要望や要求になってしまいます。

コーポレートコンセプトは決してマーケットや社会に迎合したモノではなく、その企業独自のメッセージであるべきです。流行も関係有りません。誰が何を考えようがそれも関係有りません。ただひたすら自社にとってマーケットや社会にどんな貢献が出来るのかを自分たちで考えることが重要です。

簡単に言いますと、コンセプトメイキングで重要なのはマーケットや社会の意見を無視するということです。これはよく考えれば当たり前なのですが、たとえば同業社がマーケティングリサーチをしてコーポレートコンセプトを策定すればどのような結果が待っているでしょう。マーケティングリサーチの精度が高ければ高いほど、どのような企業も同じデータを得ることになってしまいます。その結果コーポレートコンセプトも独自性がなく歯の浮いた似たようなコンセプトになるのです。さらに恐ろしいのがそのコンセプトに基づいてプロダクトコンセプトや組織編成コンセプトに至ればまた他社と同じような商品や組織形態が生まれ、もはや企業そのものがコモディティー化する要因を作ってしまいます。

最近、どの企業も同じような商品ばかりで結果的に価格競争に陥ったり、同じような組織形態で似たような人材が多くなっているのはこれが原因です。

いうまでもなく企業が勝ち残っていくためには、マーケットや社会に媚びず、独自の技術と独自の経営手法によって企業運営していくことが大切です。この根幹になるのかコーポレートコンセプトなのです。

したがってまずコーポレートコンセプトを策定するにあたって重視しなければならないのは、「御社のシーズが何か」を明確にすることです。ニーズは無視した方が混乱しません。そしてそのシーズを元にして、現在ではなく未来のマーケットや社会にどのように貢献できるのかを考えることですが、ここで良くやる失敗は外部コンサルタントや代理店に依頼することです。自社のシーズや社員の特性は自社が最も良く理解しています。それを外部のブレインに頼ってしまうと、外部ブレインが理解できないことをマーケットや社会に求めようとして前述したマーケティングリサーチへと進んでしまうのです。これは絶対に避けなければならない大切な部分であり、しかも最も重要なスタートラインです。

ここで得られたメッセージにはいくつかの種類があります。

まずは、単純にメッセージとして社員や取引先に周知すること。この場合基本的にはコーポレートコンセプトはメディアなどでマーケットおよび社会に周知する必要はありません。あくまでも基本的なコンセプトとして社内の誰もが理解することが先決です。

もう一つは積極的にマーケットや社会にメッセージする方法があります。この場合は、単なるメッセージではなく、未来のマーケットや社会に対する課題提供や啓発活動の一環として捉えます。

私は数々のメディアで一貫したコーポレートコンセプトを展開するには後者の方が良いと思っていますし、その方が遥かにマーケットや社会に対するインパクトは強くなります。所謂メッセージ広告というのはこのような課題提供型の広告のことを意味しています。

さて、このようにしてコーポレートコンセプトが明確になれば、前述したプロセスでプロダクトコンセプトや組織編成コンセプト、さらには人材育成コンセプトへと繋がっていくわけですが、いずれもコーポレートコンセプトがその中に活かされていなければなりません。とりわけプロダクトコンセプトを策定する場合、マーケットを意識しすぎて、大きな間違いであるニーズを追いかけたコンセプトを策定してしまいがちです。技術革新が超スピードで進行する現在、ニーズを追いかけていては商品化された時点でそのニーズが陳腐化してしまいます。

そしてブランディング作業は、コーポレートコンセプトさえしっかりと策定できれば、それに沿った形でメディアごとに表現を変えて多様な広告展開が可能になります。

大切なのは、ブランディングを先行させて、コーポレートコンセプトを後付けすることは絶対に避けるべきだということです。

よくブランディング策定の際に議論される「マーケットや社会にどのように思われたいか」などといった主体性の欠如した視点ではなく、堂々と「どのように思われても良い。我が社はこうだ」とメッセージすることが、じつは最もアピール力を生むことを忘れてはなりません。