BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉘

《質問》
 

私は現在金属加工会社の宣伝部をとりまとめています。といっても、この4月に宣伝部長を仰せつかったばかりで、それ以前は人事部に所属していました。人事異動に際して、会社の上層部からは、「とにかく前任者の流れで上手くやってくれればよいから」と言われ引き受けざるを得ませんでしたが、正直なところ宣伝や広告に関する知見はまったくなく、会社の期待にどれほど応えられるのか心配です。部員は5名おりますが皆ベテランです。その中の一人から貴協会はBtoB広告の専門機関だと知り(申し訳ありませんが会員ではないです)、まず宣伝部長として今後どのように業務を遂行していけばよいのかご教授をいただければ、と思いご相談申し上げる次第です。大変お恥ずかしいことですが、どうかよろしくお願いします。(金属加工業・宣伝部長) 

《回答》
 

最近はどの企業も人事ローテーションが激しくなり昔のように広告や宣伝の専門家が宣伝部長になることは珍しくなりました。したがって何も心配されることはありません。
 

宣伝部の業務は大きく分けて広告宣伝予算の獲得、広告宣伝媒体の選別、クリエイティブ業務、媒体への発注作業、広告効果測定などがあります。この中で宣伝部長として最も重要な仕事は、ズバリ「広告宣伝予算の獲得」です。最近はほとんどの企業が利益至上主義に陥り、そのしわ寄せで極力経費を削減する傾向が顕著になってきました。そんな中で予算の獲得は非常に困難な業務でもあります。

 じつは企業が経費削減の一環として広告宣伝費をターゲットにする理由のひとつとして、未だに広告宣伝部門を「コストセンター」と間違って認識していることが上げられます。広告宣伝はひいてはブランド形成や販売促進(プロモーション)に欠かせない業務であり、いわば「プロフィットセンター(利益を生む部門)」なのです。

 これが理解されていないと予算獲得に非常な無駄骨を余儀なくされてしまいます。まず経理部門にこのことを充分説得されることが重要かと思いますし、そのためにはある程度の理論武装が必要です。広告宣伝部門がプロフィットセンターであることは、販売促進面から見れば受注獲得のため、そしてブランド形成の側面から見れば企業価値の向上のために行う「投資」業務であることからも明白です。決して経費ではないのです。
 

販売促進面では短期的には半年程度でリターンが得られますし、ブランド形成面では5年程度は必要になりますが、強力なリターンをもたらします。たとえばある一定のブランド形成が行われれば、極端な場合営業活動が多少貧弱でも不思議なことに製品は売れてしまいます。その閾値がどのあたりにあるのかは明言できませんが、いずれにしてもこれらが「投資」である証拠として認識できます。
 

それではいったいどのくらいの広告宣伝費が妥当なのか、ですが一般的にはBtoB企業の場合ルーチン作業では売上高の0.65%程度が標準額だと言えます。これにブランド強化や何かのプロジェクトが加われば、売上高の0.81%程度は要求しても差し支えありません。とりわけリブランドなど重要プロジェクトのケースでは1.2%程度は必要になってくるでしょうが、それも前述したように初期のブランディング目標が達成できれば5年程度経てば間違いなくリターンが増加し、広告宣伝費のもとは充分取り返せます。この5年を待てず、すぐにリターンを求めることが経理部門ではある種の責務になっており、そのために広告宣伝費を経費として削減対象にしてしまっているのです。
 

まずは広告宣伝費を投資の観点から捉え、十分納得のいく予算を獲得されることが宣伝部長の一番の役割でもあります。
 

ここで私独自の考え方ですが、「部員一人当たり広告宣伝費」について見てみたいと思います。広告宣伝費は宣伝業務を行う部員にとってお小遣いではなく「飯」なのです。飯がなくては戦はできないと言われますが、まさに広告宣伝業務は同業他社との戦の場なのです。部員一人当たり広告宣伝費が少なければ戦ができないどころか、モチベーションは下がり基礎体力(クリエイティブやコンセプトメイキング力)が低下してきます。これは企業にとって死活問題でもあります。まず部員一人一人に十分な飯を与え競合企業との戦に備えることが肝心ですが、企業にとって見れば経費が少なければ少ないほど喜ぶ不可解な状況が散見できます。これが将来の負け戦にボディブローのように効いてくるのがおそらく理解できないのでしょう。
 

次に重要なのが宣伝部長は「二股稼業」であることです。つまり片足は社会や顧客企業の側に立ちながら、もう一つの足は社内に置く、と言うことです。現在ほとんどの企業がそうであるように、広告宣伝のメッセージやアピールはインサイドアウトの傾向が非常に強くなっています。本来広告はオーディエンス(社会や顧客企業)に感動を与え、その対価としてレピュテーション(評判)や受注が得られるのですが、どうしても企業システムの中ではオーディエンスを無視したインサイドアウトの業務プロセスが一般的になっています。

 その卑近な例は至るところにありますが、たとえばどの企業でも行っているクリエイティブの上司承認や役員承認です。広告にとってクリエイティブはオーディエンスの心を打つ最も重要な要素ですが、それを社内の上層部にお伺いを立てることが当たり前のようにまかり通っています。いくら社長と言えども役員と言えども、クリエイティブにとっては全くの素人です。なぜそんな素人の意見を重要視し、オーディエンスの意見を聞かないのか不思議でなりません。インサイドアウトの典型的な例です。

 この場合、いちいちオーディエンスの意見を聞くのは確かに面倒ですし、オーディエンスですらクリエイティブに関しては素人です。それならば、幸いにも御社の部員の方はベテランが5名もおられるようですので、そのベテランにすべて任せてしまえばいいと思います。企業におけるすべての業務のコスト要因は時間によって決定されますが、このようにして5名のベテランを信じて好きなようにクリエイティブに精を出してもらうことでかなりのコストセーブが可能になり、その分をまた投資に回せます。
 

最後に重要なポイントを申し上げます。オーディエンスに感動されるようなアウトサイドインに基づいた広告宣伝活動やブランディングを行う際、決して「ニーズ」に振り回されないことです。現在のように技術革新が急速に進展している時代、ニーズは早晩解決されます。広告の企画や制作には少なくとも半年程度はかかります。「今のニーズ」をもとに広告戦略を立てても出稿段階ではそのニーズは解決されているかも知れないのです。そうなるとその広告は時代遅れの烙印を押されてしまいます。
 

ではニーズではなく何が必要かと言えば「課題」です。それもだれも今気づいていない社会や顧客企業に潜む課題を発掘し、そのソリューションを広告やカタログなどを通じて提示していくことです。だれも認識していない課題を提示し、そのソリューションを提供することで、オーディエンスに感動を巻き起こし、御社の信頼性と独自性はますます強固になり、結果的に強力なリターンが待っているのです。