BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉓

《質問》
 

弊社は創業40年で年商300億円の中堅企業です。このたび創業以来初めて本格的な広告宣伝部ができ、私もその部署に配属されました。それまでは企業広告は総務部が、製品広告やカタログ及び展示会は各事業部が行っていました。企業ブランドの観点から広告宣伝業務を一箇所に集中させることがその目的だそうです。そこで質問ですが、私を含めて部員は5名ですが皆広告宣伝に関しては素人同然です。もちろん部長も以前は生産本部におりましたので広告に関しての知見はまったくありません。このような組織をできるだけ早く軌道に乗せるための社員教育をどのようにすればよいのかご教授いただきたく、恥ずかしながら質問させていただきます。(電子部品メーカー・広告宣伝部)
 

《回答》
 

広告宣伝部門における社員教育の手法がご質問の内容だと思いますが、じつは現在多くの企業で間違った社員教育による弊害が起きています。とりあえず広告宣伝部門から外れて一般的な社員教育の実態を述べたいと思います。
 

現在多くの企業が行っている社員教育は外部のコンサルタントなどによる階層別研修がほとんどです。階層別研修というのは、たとえば部長研修や係長研修など昇進に伴う階層ごとに研修を行う手法です。この研修方法が好ましくない理由として、まずそれぞれの階層に応じて同じプログラムで行い、その多くはたとえば「部長はこうあるべきだ」という内容です。それをもっともらしくゲーム理論などを応用して行うのですが、要するに均質化された社員を育成するプログラムと言えるでしょう。
 

本来、社員は様々な個性を持っており、その個性そのものが企業の財産でもあるわけです。しかしこの研修では極論を言えば各人の個性をなくし、同じような社員に仕立て上げることが目的となっています。そこが最も大きな問題点なのです。
 

企業の個性や独自性は言うまでもなく社員の個性や独自性によって決定されます。カリスマ的な社長を持つ企業の場合は、社長の個性が企業の個性に置き換わる場合がありますが、その結果社員の個性は著しく毀損される傾向が強いです。階層別研修はいわばカリスマ社長に代わって外部コンサルタントが社員の個性を埋没させる作業を行っているとも言えます。
 

私は40数年間ある企業で広告宣伝部門の責任者としてその任を背負ってきました。振り返ってみるとここ20年くらい前から不思議な現象に気づいていました。広告宣伝部門ですから取引先はプロダクションやメディア、代理店、印刷会社が多いのですが、20年ほど前からどの企業の営業担当も同じようなプレゼンの仕方を行うようになってきたのです。そこには昔見られた各社の独自の営業手法が跡形もなく消えていました。20年前と言えば各社が階層別研修に注力し始めた時期と一致します。つまり、この研修手法によって各企業の社員は個性を奪われ、マニュアルに従った営業手法が身についてしまったのでしょう。いわゆる社員のコモディティー化です。
 

こんな営業手法では顧客(つまり私自身)を説得することは不可能です。ビジネスと言えども、人と人との付き合いはそれぞれの個性がぶつかり合って面白みが生じ、上手く行けば受注につながるものです。
 

このように階層別研修には多くの問題点があるにもかかわらず、それに気づいていない企業は少なくありません。
 

基本的には社員教育で重要なのは専門教育であり、それを具現化したOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)です。たとえば営業部門なら階層別ではなく外部の優れた営業担当者(たとえば商事会社など)から教育を受けるなどですが、最も効果的でコストがかからないのはOJTなのです。しかしじつはそのOJTが今不可能になりつつあるのも現実です。それはリーマンショックやそれ以前の不況時に多くの優秀な社員が早期退職などで解雇されたことが原因です。したがって今OJTをしようにも、プロはどこにも居ずまわりは素人ばかりというのが現状でしょう。
 

そこで本題に入りますが、御社の場合はまさにOJTが不可能な状況だと思います。その中でどのようにして社員教育をすればよいかですが、まずくどいようですが階層別研修には極力参加させない方がよいでしょう。御社の事情でどうしても参加しなければならないのなら、参加したフリをするだけであまり真剣に取り組まない方が望ましいと思います。なぜなら広告宣伝部門が最も気をつけなければならないのは、この部員のコモディティー化だからです。
 

本来は広告宣伝部門に特化した専門教育が必要なのですが、それを総合的に行う外部コンサルタントはおそらく見つからないでしょう。その場合、BtoB広告協会で行っている「BtoBコミュニケーション大学」に参加されるのが最も効率のよい学び方だと思います。なんだか宣伝ぽくなって恐縮ですが、広告宣伝業務に必要な基礎的な理論や事例を手っ取り早く短時間(3カ月程度)で習得できますので。
 

しかしこのコミュニケーション大学の講義も基本的には基礎理論が主となっており、それを応用して御社独自の広告宣伝メディアの展開をされるには、また御社独自のポリシーが必要となってきます。
 

他にいわゆる広告宣伝の有効な手法などと言ったビジネス本に頼ることも考えられますが、それはできるだけ避けた方が無難です。先日ビジネス本を多く出版しているある有力出版社の役員と話したのですが、その時彼が言っていたのは「優秀なビジネスマンはビジネス本は読まない。無能な人ほどこれらの本に頼りたがる。そんな人間を相手に本作りするのもなかなか辛いものです」と。
 

要するにビジネス本などでノウハウを会得しても結局前述の階層別研修と同じ結果が待ち受けているのです。つまりその本を読んだ人は皆同じ手法をとり結局コモディティー化から抜け出せないというわけです。
 

最近の広告(カタログや展示会も含めて)は単なる「通知」になっており、広告で最も重要な「感動」「共鳴」「共感」をめざしたクリエイティブがほとんど見られなくなりました。本来広告はマーケットや社会、顧客に対して意外性や驚きを与え、それに感動させて共鳴してもらうことが重要な役割であるはずです。その意味では他社の右へならえ的な広告は何の意味もなく、御社独自の切り口やコンセプトが何よりも不可欠な要素となってきます。
 

   OJTも不可能で広告宣伝の専門教育もできない実情ではどうしても他社の優れた広告作品をお手本にしがちでしょう。それもひとつの有力な学び方と言えますが、ここで重要なのは、勇気を持って他社とはまったく正反対のコンセプトやクリエイティブに挑戦することです。広告にはセオリーは存在しません。もっと自由にもっと気ままに広告作りを続けていくことが最善の教育となるでしょう。そしてその積み重ねでやがてOJTが可能になる時期が来ます。しかし、とは言ってもコミュニケーションの基礎理論は熟知しておく必要はありますので、その場合はBtoBコミュニケーション大学で得た知識がものを言うと考えています。