BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉑

《質問》
 

私はある繊維メーカーの広告宣伝業務を10年間にわたって担当しています。部下は5人です。そこそこの広告宣伝費は毎年確保できているのですが、最近めっきり業務の効率が悪くなった気がしています。たとえば商品カタログを制作する期間が、従来は1カ月もかからなかったのが今では2カ月以上かかる場合も少なくありません。何が原因でこのような事態を起こしているのか見当もつきません。もっと効率よく宣伝業務を行うためにはどうすればいいのかご教授いただければ幸いです。(繊維メーカー・広告宣伝部)
 

《回答》
 

御社の状況は最近よく耳にする現象です。おそらく多くの企業が同じような問題に悩んでいると思います(気がついていない場合がほとんどですが)。
 

まず業務の効率化には仕事のスピードが大きく関係してきます。当然スピードはコストにも影響を与えます。御社の場合、カタログ制作の例を示されていますが、今まで1カ月でできていた仕事が2カ月かかっていると言うことは業務効率が1/2に低下しているのは確実で、非常に大きな問題です。その結果が仮に質的に優れたカタログが出来上がったとしてもそれは効率化とは関係のないことです。おそらくこれはあなたの部署だけでなく全社的に抱えている問題でしょう。そうなれば単に宣伝部門だけの問題ではなく企業経営に影響を与える大変厄介な課題とも言えます。
 

その仕事のスピードを阻害している原因はいくつか考えられますが、最も大きい要因はいわゆる「報連相(ほうれんそう)」と言った大時代の考え方にあります。上司はことあるごとに部下に報告を求める。同僚に対しては情報共有の大義名分の下で常に現状連絡を要求される。どんな細かい疑問でもすぐに誰かに相談する。こんな事態が生じていませんか? これらはすべてムダの要因になります。そしてさらに無視できないのは、報告や相談などは相手の時間(コスト)も拘束することになります。これはあまり意識されていません。その結果以前と比べて仕事の質が向上していますか? 
 

基礎技術を元に製品開発を行う場合を除けば、宣伝業務のようなクリエイティブ部門では時間をかければかけるほど実は質は低下していきます。なぜなら時間がかかると言うことはそれだけ多くの人の意見や指示をその作品に包含していると言うことになります。そうするとどうしても最大公約数的な作品になってしまい、可もなく不可もない平凡な質に落ち着いてしまいます。これでは広告にしろカタログにしろオーディエンスに感動を与えメディア特性を最大限発揮することは不可能になります。
 

「報連相」はほとんどの場合社内で行われます。しかし一方で広告やカタログ、展示会などのメディアはマーケットや社会に対してメッセージするものです。したがって極論を言えば社内の意見などどうでもよく、むしろ顧客や社会からの意見の方が重要なのです。これを勘違いして相変わらず社内で侃々諤々の議論が行われているのが各社の現状です。これでは仕事のスピードは落ちる一方で、マーケットや社会を全く無視していると言っても過言ではありません。
 

まずクリエイティブ部門においてはこの「報連相」を排除すべきです。そうすれば業務効率は格段に向上します。しかしいきなり「報連相」はダメ、と言っても今まで人の意見や指示に慣れきった部員には多少酷かも知れませんし、むしろそれによって自分で問題を抱え込んで一向に仕事が進まないという結果も予測できます。この場合はまず上司がきっちりと明言すべきです。「どうしても自分で解決できない問題だけを相談してくれ。細かな報告や連絡は一切不要。すべてはあなたたちを信じているから自由にやりなさい」と。これが言える上司の下では驚くほど業務効率はアップしますし、何よりも個々人のスキルも向上して結果的に何倍もの業務効率化が達成できます。
 

それからもう一つ業務効率に影響を与えている要因として外注との関係があります。御社が内制をされているのか外注を使っているのか文面では把握できませんが、仮に内制されている場合はまずほとんどの仕事を外注に依存することによって効率は上がります。外注や代理店の使い方については本シリーズの⑮で述べていますので参考にしてください。ここで重要なのは外注することで当然コストが発生します。これを嫌がって内制するケースが多いのですが、ここでよく考えてみてください。以前本シリーズ⑮では代理店に外注する場合とプロダクションに外注する場合を述べており、プロダクションへの直取引を推奨しています。まずあなたの部署の平均給与とプロダクションの給与とを比較してみてください。明らかにプロダクションの方が給与は低いはずです。と言うことは単位時間あたりのコストはプロダクションに外注する方が安くなるはずです。しかも相手はプロですので当然質も期待できます。
 

外注する場合にどうしても外注コストにばかり目が行きがちですが、重要なポイントがひとつあります。それは外注を行うことによって内制している時間が他の業務に振り分けることができると言うことです。つまり結果的には2件以上の仕事を同時進行できるということで、これは業務効率に大きな影響を与えます。私ごとで恐縮ですが、現役の頃ほぼすべての広告業務を内制していた時期がありました。ところがあるとき新製品開発のプロダクトマネジャーに任命されたため内制の時間がなくなりやむなく外注を使いだしました。はじめはぎくしゃくしたものですが、2年ほどするとなんと従来の6倍もの仕事をこなせるようになったのです。
 

ただ外注する場合に気をつけなければならないのは、丸投げは絶対に避けた方がいいと言うことです。つまりコンセプトメイキングや大凡の出来具合はあらかじめ自分でイメージしておきます。コピーもそのスケルトン(骨子)くらいはあらかじめ頭に描いておきます。そして外注からプレゼンされた場合、自分のイメージよりも優れておれば問答無用でOKするのです。外注で失敗するのは自分のイメージを持たずに丸投げをして、プレゼンされてはじめてその内容について細かなところをチェックすることです。自分のイメージではなくプレゼンをベースに評価するわけですから、とかくどうでもいいような部分に難癖をつけたがるものです(まあ、クライアントとしてのプライドが邪魔をしているとも言えますが)。こうなるとせっかく効率化をめざした外注も修正に時間がかかり、プロダクションのモチベーションも下がり、結果的に効率化どころか質も落ちてしまいます。多くの企業がこれで失敗しているのが現状です。
 

宣伝業務の効率化についてのご相談ですが、結論はまず仕事のスピードを上げるため無駄な会議や連絡・報告は排除することと、上手く外注(プロダクション)を使いこなして何倍もの仕事を同時進行させること。この二つができれば驚くほど効率は上がります。