BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑰

《質問》

最近インターナルブランディングが注目され、我が社でも導入の気運が高まっています。そこでお尋ねしたいのですが、インターナルブランディングの効果と導入手法について、具体的な事例などがありましたらご教示いただきたいと思います。現在のところ我が社では、外部のコンサルタント(代理店?)に依頼する方向で進めています。(通信メーカー)

《回答》

確かにここ数年インターナルブランディングが注目されていますね。この考えは1990年代に米国企業でなされた活動が参考になっています。

結論から申し上げますと、私はインターナルブランディングにはまったく効果もなくその必要性もないと思っています。まさにお金の無駄遣いです。

ここで確認しておきたいのですが、まずブランドとはある対象(意識を持つ個人がほとんど)が被対象(個人や企業、団体、商品、サービスなど)に対して抱く心の変容を指します。つまりブランド形成には必ず被対象とそれを評価する対象者が存在することになりますし、ブランディングはそれらの関係性を構築するために行うものと考えられます。

たとえばブランディング広告などは、被対象である企業や商品に対して対象者が信頼性を持つ、好ましい感情を持つ、親しみを持つなどの心理的な変容を意図として行われます。その意味では外部に対する所謂エクスターナルブランディングは企業価値の増大化に欠かせない活動とも言えます。

ではインターナルブランディングの構図を考えてみたいと思います。一般的にはインターナルブランディングは、当該企業の企業理念やブランドを基盤にして、従業員一人一人が適切に行動し業務改革を行うための活動、あるいは従業員に自社ブランドの持つ意味や価値を徹底して理解させ、業務に活かすことを目的とする、とされています。

こうしてみると一見「なるほどインターナルブランディングは社内活性化と企業価値の向上に大きく役立つ」と思いがちですが、大きな落とし穴がここにあることにあまり気づかれていません。

それは前述のように、ブランドの価値は当該企業や従業員が決めることではなく、あくまでも対象者の心に宿るものです。それを「我が社のブランドにはこんな価値があるから、従業員全員がそれを徹底してその価値にふさわしい行動をすべきである」というのは本末転倒以外の何物でもありません。

さらに問題なのは、多くの企業が行っている(あるいは行おうとしている)インターナルブランディングに対する手法にブランドブックの作成や社員研修、グループ活動などが上げられることです。

まずはブランドブック。いわば教典のようなこのツールは、「我が社はこんなブランドや理念を持っている。みなさんの日常業務にここ考えを浸透させ企業発展とさらなるブランド価値向上に役立てましょう」と半ばトップダウンで行われる活動の基盤になるものです。

 ここでは従業員の目は教典やその教義に集中し、本来ブランド形成に大きな力を持つ社会やマーケット、さらには他の組織に属する人々の存在は忘れ去られています。拙著「ASICAれ!」で述べている、企業として最悪の低気圧型ホスピタリティ(常に社会や顧客ではなく上司や社長など企業の上層部にばかり目が行く企業のスタイル)の様式がここに現れています。

 くどいようですが、ブランドを作り上げるのは社会に属する個人であることから考えると、この手法はまったく逆の効果をもたらすとしか考えられません。さらに従業員と言えどもそれぞれに個性を持つ一人の人間です。それをブランドブックという聞こえはいいですが、いわば教典まがいのツールによって個性を埋没させるのはけっして好ましいことではありません。

次に社員研修。最近はどの企業でも頻繁に社員研修が行われていますが、ここでもその弊害にあまり気づかれていないようです。研修そのものを否定はしませんが、問題なのは多くの社員研修が「階層別研修」であることです。つまり、課長や部長などそれぞれの階層ごとに「課長はこうあるべきだ。部下の指導はこうすべきだ」と強引に教え込まれます。
 
ここでも個々人が持つ個性は否定され、当該企業の管理職としてふさわしい組織人に育成されるのです。言うまでもなくどんな管理職であってもそれぞれに個性があってしかるべきで、その個性に憧れて部下は成長していくものです。同じような考えや無個性の管理職だらけでは企業そのものの個性も消滅し、ひいてはブランド形成にはまったく役立たないと考えられます。

ブランド形成の対象が社会における個人や顧客であることを考えれば、まず重要なのは企業運営の根幹となる商品やサービスの高付加価値を目指すことです。さらに、顧客との接点である営業担当の商談能力もブランド形成には重要です。その意味ではもし研修を行うなら、優れた商品開発者や営業担当の育成を目的として、階層別ではなく業務別研修に徹するべきでしょう。しかしここでも個々人の個性は重視されるべきですし、それに則った研修にする必要があります。

インターナルブランディングを目指したグループ活動などまったく無意味です。そんな時間があるなら、もっと商品開発に集中したり顧客訪問によって顧客と会話をすることの方がはるかに意味があります。

ところで、ここでは具体的な企業名はあげませんが、一昔前は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり次々と新商品を発表し、マーケットや個人から支持を得ていた多くの企業が、現在ではみな同じ無個性の企業になってしまっている現状が散見できます。これにはさまざまな理由があるのですが、その大きな要因に社員の無個性化があり、それを誘導するのが上記の階層別研修であったり、インターナルブランディングとは行かないまでも、「みんなで同じ方向を目指して頑張ろう」式のややこしい活動だったりするのです。

ブランド形成が社会に属する個人の心の変容に要因があることから、まず重要なのはその接点である個性的で有益な商品の開発と営業担当の商談能力の向上がブランディングに大きく影響します。つまりエクスターナルブランディングです。それをさしおいてインターナルブランディングに熱を入れるのは、おそらくエクスターナルブランディングがうまく行っていないための対症療法とも考えられます。しかしこの対症療法が、ますます病状を悪化させるのは上述のとおりです。

極論を言えば社内規範を逸脱するくらいの個性ある人材を輩出し、それによってどの企業にもない独自の商品を世に送り出すこと。これによってその企業のブランド価値は大きく飛躍します。

とはいうもののどうしてもインナーの活性化を目指したいのでしたら、まず「インターナルマーケティング」にチャレンジすることです。これが成功すれば、必然的によい意味でのインターナルブランディングが自然に形成できます。