BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑯

《質問》

以前貴協会とは別の講演で、河内氏の展示会に関するセミナーを拝聴しました。その中で、展示会で最も重要なのは見込み客の集客と展示会終了後のトラッキングシステムだと述べておられました。その内容を社内で紹介したところ、トラッキングシステムについて非常に興味を持たれたのですが、私自身まだ十分理解していないところも多く、納得のいく説明をすることができません。そこで恐縮ですがもう一度このトラッキングシステムについて詳しくご教授頂けないでしょうか。営業部門が言うには、展示会のトラッキングはすでにネットを利用して請け負っているところもあり、そのような業者に依頼するのが手っ取り早いのでは、と言う考えが多いのですが、私は少し違った印象を持っています。(機械メーカー)

《回答》

私のどの講演をお聞きになったのか分かりませんが、大変有り難いお言葉を頂戴し恐縮です。

まず結論を申し上げますと、御社の営業部門が言われているネットを利用したトラッキングはあまり効果がありません。その理由は後ほど述べさせていただきます。

展示会は、企業におけるさまざまなメディア展開で得られた「見込み客」を「顧客」に変換する唯一の装置であると考えています。その理由はとりわけBtoB業界では広告やWEBを見て衝動的に購買に結びつくことは皆無で、言いかえれば広告やWEB (インターネット広告含む)ではけっして受注に結びつかないと言うことです。それらから得た見込み客を最終のクロージング段階である展示会に呼び込み、ここで商談し受注する役目が展示会の大きな責務でもあります。

そこでトラッキングについてですが、BtoB業界ではいくら展示会でクロージングしようとしてもそう簡単にその場で受注することはなかなか難しいものです。一個1000円くらいの製品ならともかく一台数百万円から数千万円もする商品では必ず社内稟議が必要になります。その期間が場合によると半年から二年近くかかることも珍しくありません。その見込み客企業での社内稟議や導入効果の検証プロセスを長期間にわたって追いかけていくのがトラッキングなのです。

通常、展示会で商談した場合、二三回の顧客訪問をこなした後は、相手からの返事待ちと言うことが少なくありません。しかしその間でも相手企業内では導入効果についての議論やコスト効率などさまざまな検証が加えられているはずです。そのプロセスには展示会に集客した別の組織人(社員)がかかわっていることがほとんどです(購買部門や経理部門など)。その人たちにこれでもか、と言わんばかりに熱心にプロモーションしていくことが受注に結びつける重要なポイントになります。

こうしてみれば、展示会終了後のトラッキングはまさに営業活動そのものであると言えます。ただ通常営業と異なるのは、その窓口が多岐にわたることです。これは少々面倒なことですが、担当窓口の方に社内でのキーマンや決裁者を紹介して頂くことで可能になります。

ここまで述べればほぼご理解頂けると思うのですが、トラッキングシステムは通常営業の高度な部類と言え、その商談内容や相手企業の実情などの情報はいわゆる営業日報として機能させることができます。

具体的にではどのようにすればいいのか、を説明します。

まず展示会で商談した企業ごとに「トラッキングカタログ」を作ります。これを印刷物ではなく社内のネット上に立ち上げるのです。ここでは当該企業の概要や導入予測時期、概算予算などに加えて決裁者の所属や実名、企業風土などあらゆる要件を記述しておきます。言わばこれから受注する企業の事細かな状況が一覧できる情報シートです。そしてこのトラッキングカタログは社内の営業担当誰もが閲覧できるような仕組みになっています。

トラッキングカタログを社内ネットワークに立ち上げた瞬間、誰がトラッキング営業を担当するのかが問題になりますが、これは企業それぞれに自薦、他薦。あるいは上長の指名など適宜決めればいいと思います。そしてこのトラッキングカタログの次のページにはトラッキング営業用のシートがあります。ここではASICAモデルのすべての段階に沿って、たとえばアサインメント段階では、顧客要求事項や、現在のニーズと将来の課題、課題が当該企業に与える影響あるいは自社製品や自社技術で対応可能かどうかなどについて日報代わりに記述していくことになります。ここで重要なのはトラッキング営業担当が決まっていても、その日報は社内の営業部門で情報共有していますから、「この顧客なら私がよく知っている。うるさい○○さんという人が購買部門にいるからまずそこを攻めた方がいい」などといった貴重な意見が期待できます。

このようにしてトラッキング営業の日報は従来の営業日報に取って代わるのです。

そこで問題になるのが、展示会での引き合いだけを追いかけていたのでは期首予算が達成できないのでは、と言う課題が出てきます。何しろ大きな展示会はおそらく一年に数回程度でしょうから。それならば、毎月個展を行えばいいのです。つまりくどいようですが、他のメディアでせっかく得られた見込み客をクロージングするのが展示会の役割ですから、展示会は多ければ多いほど受注は拡大します。このようにトラッキングカタログを軸にしてにトラッキング営業を行うことはほとんど毎日見込み客とコンタクトし現状を把握する必要があり、一見大変な手間がかかるように思えます。

そこで各社が利用するのがインターネットを利用したトラッキングシステムなのです。しかしこのシステムの大きな問題は、あくまでもネット上で見込み客の動向を主に自社のWEBサイトの閲覧状況やメールでのやりとりに終始することです。営業の基本は「フェイス・ツー・フェイス」です。相手の顔が見えない営業活動は基本的にはBtoB分野ではあり得ません。したがってメール営業は対面営業とくらべて格段にその成功率は低下します。さらに大きな問題は、見込み客の動向を自社のWEBサイト閲覧に依存していることです。たとえばログ解析によってあるページに長時間滞留していたとなれば、その見込み客は滞留していたページの製品に興味があるのだ、と短絡的に捉えてしまう危険性があります。たまたまあるページを閲覧しているところで会議に参加したために30分間も閲覧していたなどと誤解してしまうこともあります。

このようにしてネットを利用したトラッキングシステムは主にログ解析による自社サイトでの滞留時間などをもとに見込み客のランク付けを行いますが、おそらくそれを繰り返すこと(つまりランキング精度を上げる)によって、最終的にはほとんどの見込み客のランクは最低ランクに収斂し、結果的に思うような成果は得られないと考えています。

くどいようですが、営業活動の基本は顧客と顔を合わせて行わなければなりません。それによって他決しそうな状況であっても、営業担当の人柄や提示資料などによって覆すことが可能になるのです。

文面では少々理解しにくいかも知れませんが、一言で言えば、展示会終了後にトラッキングカタログを作り、それを営業部門全員で共有しトラッキング営業の推移は日報として構築していくと言うことになります。