BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑩
 

《質問》

『「会社案内」の制作を検討していますが、企画段階から制作までの、基本的な考え方やポイント等をおさえた適切な書籍や資料等、ご紹介いただけますでしょうか(デザインのノウハウではなく、企画・制作にウエイトをおいた情報があればと考えています)。

制作会社さんがお仕事としている部分でもあるかと思うので、一般の書店では参考になる書物がなかなか見つけられませんでした。是非ご教示お願いします。』(機械メーカー)

 

《回答》

 ご質問の「会社案内カタログ」の企画や考え方に関する書物ですが、たしかに参考になるものは見当たりませんね。したがってここでは私の個人的な見解を述べさせていただきます。

 会社案内には大きく二通りの編集方針が考えられます。それは以下の通りです。

企業の業容と製品を紹介したもの

企業のメッセージを大きく前に出したもの(①の内容も後段に含まれます)

 それぞれの説明

は通常よく目にする会社案内でほとんどの企業はこの手法を用いています。内容的にはまず社長の挨拶から始まって、企業の紹介(開発・生産・技術)、製品群(事業部)の紹介、製品の紹介と続きます。いわばオーソドックスな会社案内と言えます。営業担当が自社を顧客に説明するには使いやすいカタログです。しかし顧客側にすれば意外性がなく淡々と企業や製品の紹介を羅列された内容に面白みは感じられないものです。したがって営業担当のプレゼンスキルなどが十分満足される場合は、この種のカタログでも十分役に立ちます。つまりカタログの一人歩きが期待できず、あくまでも営業担当のツールとしての役割を持つと言うことです。

しかし最近のWEBの普及によって、これらの企業情報は顧客側でも簡単に入手できますので、「あ、それもう知ってる」ということでそんなに媒体価値が高いとはいえません。

はほとんどの企業ではあまり取り組んでいませんが、私が現役だった頃は十数年前からこの編集方針を堅持しています。それには理由があります。

 十数年前に会社案内の企画をしたとき、各社のカタログを集めその内容について研究しました。その結果明確になったのは「会社案内はおもしろくない」と言うことでした。ではなぜおもしろくないのか、を考えてみると、そこには単に自社の紹介や製品の羅列があるだけで、企業としてのメッセージが全く伝わってこなかったからです。たしかに冒頭に社長メッセージは記載されています。でもそのほとんどがありきたりの綺麗事に聞こえてしまいます。言うまでもなく読み手が感動するのは独自のメッセージ、つまり初めて目にする考え方や意外性のある企業方針などです。それが従来の会社案内ではほとんど見られない。なぜ見られないのか考えてみると、要は「会社案内」は企業を代表するもっとも上位に位置するメディアであり、極力保守的に当たり障りなく編集するのが無難だという考え方があることに気づきました。
 

 そこで、ではこれの逆を行けばきっと顧客から注目を集めるだろうと言うことで、まず会社案内の冒頭は「特集」として自社のコンセプト(経営理念)をメッセージすることにしました。お決まりの会社紹介や製品紹介はその後に補足的に述べることにしました。つまり「会社案内」ですから物理体としての企業を紹介するのでなく企業の理念をまず明確に伝えることが重要なのです。製品紹介に至っては最悪製品カタログを添付すればいいだけです。

 そこで企業理念の紹介なんですが、ともすれば大きく掲げている企業理念は、あまりにも抽象的で綺麗事過ぎる。これがほとんどの企業に見られます。いわば企業理念と称されるのは標語的なものであり、伝えたいのはその言葉ではなく理念に潜むメッセージなのです。我が社(前職)の場合は「分析技術」を専業としています。企業理念は「豊かな未来に向かって限りなく成長する」です。でも「豊かな…」の理念をメッセージしようとしてもあまりにも普遍的でどの企業にでも通じるものです。

 一方この理念を導き出した社是に「おもしろおかしく」があります。この「おもしろおかしく」はおもしろく楽しく仕事をしようということなのですが、その根底には分析を生業としている企業であるから、何事も分析する気構えを持つこと。分析とは見えないものを見つけること、未知の物質や現象を発見すること、です。私自身分析計で様々な物質を分析した経験がありますが、そこでは必ず「発見した驚き」が伴います。今まで知らなかったことを知った驚きと感動。実はこれがおもしろおかしくの原点なのです。

 したがって会社案内でもっとも伝えたいのは「驚きと感動」だと確信しました。

こうして現在の会社案内まで十数年コンセプトを変えずに取り組んでいるのですが、決して社長には好印象は与えていません。その理由は小難しい特集が前段にあって肝心の企業紹介が疎かにされていると言うことです。しかし一方で読者の評判はおかげさまで好意的です。特集内容は毎年変えるのですがそれを心待ちにしている読者もいます。私としては社内や社長の評判よりも社外の評判の方を重視したいと思いますので、これからもこの編集方針を変えるつもりはありません。事実最近は営業担当や社長から「顧客から会社案内を褒められたよ」という声を耳にすることが多くなりました。

 では「驚きと感動」の特集をどのように取り組むのか具体的に説明します。たとえば分析は見えないものを見たり感じたりすることであり、その感知機能を人間以上に持っているのは生物です。猫が地震予知したり象が津波を感知して人間を助けた、という話はよく聞きます。あるいは人間も五感以上の能力がありそうなのは、たとえば「勘があたる」とか「人の気配がする」とかで説明つきます。こういったことをアカデミックな観点から捉えるために大学の先生に取材をするなどして原稿化します。

近い将来、動物や植物の関知機能だけでなく「予知能力を持つ人(たとえばマタギなど)も取材したいと思っています。

 

 このように誰もが知らない意外性のある内容で、しかもそれが自社の技術や理念と関係性を持つものであれば、読者は継続的にその内容に興味を示してくれます。つまりここではもうカタログは一人歩きをはじめ、読者の懐に入っているのです。そのことが「ブランド意識の継続性」に繋がってくると思います。

とにかく誰が読んでもおもしろい会社案内、これを作ることをまず念頭に置いて企画しています。

 とはいうものの、あまりにも革新的な企画はなかなか社長や社員の同意が得られないことも事実です。しかし重要なのは社内の意見ではなく社会の意見であることを常に心の隅においておきたいと思っています。