BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑨
《質問》
電子部品関係の中堅企業で広告を担当しています。先日ある講演会で、「広告にはメッセージ性が必要だ」といわれました。そもそも広告は広告主からオーディエンスに向けたメッセージだと思うのですが、あえてそこにメッセージ性が必要という意味がよく理解できません。通常の広告とメッセージ性を強調した広告の違いはどこにあるのでしょうか。また本当に広告にメッセージ性が必要なら、具体的にどのような視点で広告制作を進めればいいのでしょうか。質問内容が抽象的かも知れませんが、できるだけ分かりやすくご教授いただければ幸いです。(電子部品メーカー広告担当)
《回答》
ご指摘のように広告はすべてメッセージです。しかしメッセージとメッセージ性とは少々異なった意味合いを持ちます。いうまでもなくメッセージとは伝えたい言葉や内容、つまり広告で言えばキャッチコピーやボディコピー、ビジュアルなどすべてがメッセージと言えます。
一方広告でのメッセージ性とは、メッセージの意味をオーディエンスに想起させることを意味します。なんだか禅問答のように聞こえるかも知れませんが、じつは意外に広告主が伝えたい内容(メッセージ)がそのままオーディエンスに理解されるとは限らないケースが少なくありません。それどころか、単刀直入のメッセージは昨今の時代、見向きもされない場合もあります。その要因はインターネットなどに代表される情報の過剰供給にあります。インターネットが普及する以前と比較して我々は現在では膨大な情報に晒されています。その量は数千倍になるでしょう。一方で情報消費量はたかだか数十倍に過ぎません。要するに我々はもはや情報に対する消化不良を起こしているのです。
そんな中でいくら広告でメッセージを発信しても、見てくれるだけで有り難い。とてもメッセージの内容まで理解してもらえない、という現象に陥っています。それが最近「広告が効かない」と言われる所以です。
広告はとかく注目率が注目されますが、いくら注目されても記憶されさらにリコール(思い出し)されなければ意味がありません。インターネット普及以前の情報量が穏やかな時代では、注目されれば無意識に記憶プロセスまで及んでいました。しかし前述のように情報の消化不良の中では、記憶プロセス開始前にまた別の情報に晒され正常な記憶をなされることが少なくなっています。
したがって広告分野でのメッセージのあり方は、インターネット普及以前とその後では大きく変革しているのです。私はその混乱を避ける意味で単刀直入なメッセージは「アピール」と称しています。情報の伝達効率を考えれば単刀直入に言いたいことを述べるアピールが優れているのは言うまでもありません。しかし前述のようにそれが記憶されなければ広告の意味はなくなってしまいます。
少し横道にそれますが、文学の分野では文章の書き方に「異化」と「自動化」と言われる手法があります。通常分かりやすく書く言葉は「自動化された言葉」であり、たとえば「コーヒーカップ」などがそれにあたります。しかしあまりにも自動化された言葉はただ単に言葉を追いかけるだけで印象に残らず、読み手に考える余裕を与えません。それに対して「異化」はコーヒーカップならたとえば「焦げ茶色の液体を満々とたたえた真っ白な存在」などと表現します。読み手の頭の中では一瞬ではありますが、これは何を意味しているのか、と考える余裕ができます。その「考えること」が記憶に繋がってくるのです。文学作品にはよくこのような手法が用いられますが、それは何も文学らしさを表現しているのではなく、作者のメッセージをできるだけ読み手に正確に伝えたい現れでもあるのです。
話しを元に戻しますが、広告は記憶されなければ意味がありません。そして記憶されるためにはオーディエンスに「考える余裕」を与えなければならないのです。簡明直截な広告は一見合理的でコミュニケーション効率がよいように思われがちですが、意外にも記憶に残らないものなのです。
また別の観点からもアピールの強い広告は現在のような時代ではむしろ逆効果となります。たとえばどこの世界に「私は素晴らしい人間です」と大手を振って自慢する人がいるでしょう。広告主は気づいていないでしょうが、アピール広告は自らを恥ずかしげもなく自慢している広告とも言えます。そのような単刀直入な表現をしても現在ではネットで検索すればすぐに本性がばれてしまいます。このようなアピール広告が多いことが広告によって商品が売れない要因ともなっているのです。
ではどのような広告が望ましいのか。「私は素晴らしい人間です」という意味をオーディエンス自らが想起してくれるような表現がこれからの広告には欠かせません。
これが「メッセージ性」のある広告なのです。前述の異化と自動化でお話ししたように、あまりにも分かりやすい言葉は文字だけが素通りしてしまいますが、オーディエンスに僅かでも考える余裕を与える広告は、必ず記憶に残ります。そしてそのインパクトが強ければ強いほどリコール(思い出し)の確率が高くなってきます。広告ではビジュアルがそのインパクトの役割を担っています。
商品広告における最大のメッセージは、自社商品のアピールではなく顧客やマーケットの抱えている課題(アサイメント)の提示とそのソリューションの紹介になります。ここで重要なのはとかく顧客ニーズを叫びがちですが、顧客にとってニーズはすでに把握しているものであり、そのための情報収集はすでに行っているはずです。したがって余程インパクトのある広告でない限り見逃される危険性があります。一方課題はまだ顧客が気づいていないことも多く、それを提示することで顧客に対して「気づき」を与えることになります。これは非常に記憶定着率とリコールが期待できるものなのです。
課題の探索手法などについては、すでに本ブログで「ASICAモデル」の紹介をしていますので、紙幅の関係上ここでは割愛します。
また企業広告やブランド広告の場合は、顧客のみならず社会が抱えている課題に対して自社の技術や商品、あるいは人材でどのように対応できるのかを述べることが重要です。ここでも社会のニーズではなくあくまでも課題探索が肝心です。つまり、企業の存在価値は社会をよりよくすることにあり、そのためには社会や国民が気づいていない課題を明確にし、そのソリューションを提示することなのです。しかし社会を相手にする課題となるとかなり大がかりなソリューションが必要となりますので、そこまで行かなくても課題提示とそれに対応する姿勢を述べるだけでも効果があると考えています。
「アピールからからメッセージへ」の姿勢が、よいメッセージ広告を作り上げる最高のトリガーとなるのです。