河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

2011年11月

宣伝力変革の時代 (4/5)

④ホスピタリティ・マーケティング。
喜ぶ広告、喜ばれる広告。
 

B2Bは企業や組織同士の係わりを示すが、この関係を良好に保つキーワードがある。「ホスピタリティ」だ。ここでのそれはサービス業で言われている「もてなし」とは異なり、単純に「相手に喜んでもらう」と理解したい。ASICAモデルでの課題探索もソリューションの提案も、最後の段階である購買後のフォローも、難しい理屈は抜きにして顧客に喜んでもらうことを念頭におくとわかりやすい。

ASICAモデルでホスピタリティが最大に生かされるプロセスは「解決の提示」だが、そのメディアとして展示会が有効であることはすでに述べた。しかし、最近の展示会では決してホスピタリティを要に取り組んでいるとは思えない光景に出くわす。似たようなタイプの営業担当による画一的で形式的なプレゼンテーションは、展示会に限らず通常の営業でも辟易とすることがある。相手の特性や隠れた課題を真剣に見極めて、最適なソリューションを顧客ごとに提示する気配りが不可欠なはずだ。

今、各企業とも社員研修には熱心だが、それによって画一的な人材を大量生産し、結果として顧客の心に響かない形式化されたメッセージを乱発するのでは本末転倒だろう。昔の様な「泣き落とし戦術」「ダボハゼ戦術」「スッポン戦術」など多様な営業スタイルとまでいかなくても、スマートさより個性を重視するプレゼンテーションスキルが求められる。
これは広告でも同じことで、他社に横並びのメッセージではなく、顧客に喜んでもらえる独自のソリューションを提示するために、前稿で述べたプッシュ型とプル型の特性を生かしたクロスメディア戦略が重要になってくる。

ホスピタリティは通常営業はもちろんだが、広告分野では展示会やカタログメディアで際立った効果を見せる。例えば、ASICAの検証・同意段階で顧客ごとに異なったカタログや、最高決裁者であるマネジャー・経営者向けのカタログなども、今ではオンデマンド印刷によって低コストで作れる時代になった。

もともと家庭を最小単位としてコミュニティを形成し、それに深く浸透した商店を軸に、御用聞きなど独自のビジネスモデルでB2B社会として進化した我が国は、ユニークなホスピタリティ概念を持っている強みがある。マーケティングでも広告の分野でも、もっとホスピタリティを注入できれば、感動的で説得力のある広告に生まれ変わるだろう。自分や社内が喜ぶのではなく、顧客や社会が喜ぶ広告創りを目指したいものだ。

ホスピタリティ
 

宣伝力変革の時代 (3/5)

ASICAモデルの提唱。購買プロセスと広告。

広告人の間でAIDMAは消費者の購買心理モデルとしてよく知られている。しかしアテンション(注目)を第一段階とするこのモデルは、過度に情報が錯綜した時代にはそぐわない。いかに目立とう興味を引こうとしても、溢れる情報の中でオーディエンスはアテンションする暇もない。むしろ多様な課題を抱えた今の時代では、素直に課題に気付かせるメッセージが広告に要求される。ノイズとしての情報には無関心だが、潜在的な課題に対するソリューションには敏感だ。これはB2BB2Cも変わらない。

このような課題優先の時代を迎えて、広告戦略の手だてとなる新たなモデル「ASICA」を提唱したい。AIDMAのアテンションに代えてアサインメント(課題)をトリガーとするこのモデルは、次の段階がソリューション(解決)となる。広告において課題提示とその解決策の提案が重要なことはすでに述べた。三つ目の段階はインスペクション(検証)だ。商品の購買においてこの検証段階は無視出来ない。

とりわけB2Bでは購買候補商品が自社にとって有効かどうかの判定に複数の部門や人が関わっており、それぞれの立場を持った人に商品の課題解決能力をアピールしなければならない。ちなみにB2Cでこの段階をスキップするのがいわゆる衝動買いである。今、検証段階でもっとも有効なメディアはWEBサイトだ。他社製品との機能や性能比較などの情報を能動的に取得してもらうには、いわゆるプル型のメディアが不可欠となる。検証段階をより優位に保つためには、当該商品のアプリケーションも含めてできる限り詳細な情報を自社サイトにアップしておくことが肝要だ。

次の段階は最もB2Bらしいプロセスであるコンセント(同意)だ。企業内での商品やサービスの購買に当たって、多数の同意を得ることは稟議を通す儀式でもある。同僚はもちろん上席者や購買部門、経理部門、場合によれば社長の同意も必要になる。同意段階で有効なメディアは新聞広告などのプッシュ型メディアである。多様な階層をターゲットに当該商品より企業ブランドを浸透させ、同意形成を有利するためのブランド広告は有効だ。

そして同意を得て最終的にアクション(購買)に結びつくことになる。このようにB2Bの現場ではASICAの各段階で多様な人や組織との関わりがありターゲットは異なる。 ネット広告信奉も良いが、プル型とプッシュ型を組み合わせ、ASICAモデルに対応したメディア戦略が、本来のクロスメディアだろう。

ASICA





宣伝力変革の時代 (2/5)

②課題社会の広告。「売る」から「売れる」へ。


前稿で展示会の機能が顧客の課題解決の場にあるとした。
ここでいう課題とは従来広告分野などでよく唱えられてきたニーズやウォンツとは異なった概念である。ニーズやウォンツはいわば欲望がもたらした「今、そこにある必要性」とでも理解できるが、課題(アサインメント)は「これから直面するであろう問題」といえる。場合によれば顧客ですら気付いていない将来の問題である。

ここ十数年で飛躍的に進歩したIT技術やそれに伴う情報量の急激な増加によって、もはやニーズやウォンツは十分に満たされ、替わって今までは表に出なかった潜在的な課題が問われるようになった。食欲などの原始的な欲が飽食の時代を経て満たされてくると、今度はダイエットやメタボ防止、健康食が注目されるように、文明社会では欲やニーズの充足が新たな課題を生むことになる。

最近広告が効かなくなったといわれるが、広告そのものに問題があるのではなく「今そこにあるニーズ」をキャッチコピーにしたところで、広告が陽の目を見る頃にはオーディエンスの意識の中ではすでにそのニーズは陳腐化し、新たな課題を抱えているから届かないのだろう。それほど時代は速いテンポで移り変わっている。顧客企業が抱える課題発掘と解決策の提案は、BtoB分野ではごく当たり前のビジネススタイルであった。

しかし急速な技術革新の最中にあって徐々にその手法も崩れかけ、BtoC分野では心変わりの激しい一般消費者の目先のニーズを追いかけるあまり、個人や社会の奥深くにある課題を見つけるノウハウが育っていないのかも知れない。課題の探求には多くの周辺知識が要求される。顧客企業との綿密なコミュニケーションはもちろんだが、むしろ顧客のコンサルタンシーとしてのナレッジマネジメントが不可欠になってくる。

ドラッカーは究極のマーケティングは「売れる仕組みを作ることである」といった。「売れる広告」と「売る広告」とは異なる。広告の分野で周知のAIDMAモデルにおけるアテンションやインタレストを重視して、ひたすら自己PRする広告は「売る広告」である。「売れる広告」とはBtoBBtoCに限らず顧客が将来遭遇すると予測される課題を提示し、その解決策(ソリューション)を提案する広告といえる。
高度経済成長期に端を発した欲望社会が終焉し、技術革新と情報過多による様々な問題に取り囲まれた課題社会を迎えて、広告もそろそろイノベーションが必要なのだろう。

ニーズとウオンツ




★プロフィール
河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。
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