9.説明員のスキルアップが展示会のROIを改善する


さて、唐突ですが「あなたがもっとも好きな企業は?」「その企業が好きになった理由やきっかけは?」と問われたらどう答えるだろう。BtoB分野では、おそらくほとんどの人がまず製品(技術)を思い浮かべ、その次にそれを購入したりサービスを受けた際の担当員の対応や、経営者の人柄がポイントになるだろう。広告がきっかけと答える人はごく僅かと思われる。

展示会においてこれを証明するようなデータがある。米国の Exhibit Surveys 社 が2006年まで毎年発表していた「Best-Remembered Exhibits」である。


展示ブースにおける記憶再生率と記憶の理由

これは展示会効果を、記憶される割合のレベルで測定し、展示会を構成する各要素との関係を定量的に把握したデータである。ここでは、展示会を構成する要素として「製品デモンストレーション」「製品そのもの」「文献(説明パネル)」「展示デザイン」「説明員」「ブランド認知度」などとし、一年間に開催された様々な展示会の終了後ある一定期間経ってから、「あなたがもっとも記憶している展示会」「その展示会の中でもっとも記憶している企業ブース」「その企業ブースがもっとも記憶される理由(要素)」についてアンケート調査を行ったものである。


表からわかるように、当然製品そのものに対する興味や製品のデモンストレーションおよびブランド認知度が高いポイントを占めているが、意外なのは、展示会の演出に重要な役割を持つと考えられる「展示デザイン」よりも「説明員の応対」の方が高いポイントを獲得していることである。これは今後展示会を運営していく中で非常に重要な課題になってくる。
従来、展示会には高いコストをかけて装飾を施し、どこよりも目立つように、またどこよりも格好良くデザインするのが広告マンとしてのプライドでもあった。その一方で、営業担当や技術者に対して、多忙な日常業務を割いて展示会の説明員として参加要請する後ろめたさもあった。


このデータを見る限り、展示会でのそれらの取り組みはまったく無意味であったことがわかる。もっともコストの掛かる展示ディスプレイに注力するのではなく、あくまでも製品とデモンストレーションが主役になるようなシンプルな装飾に止め、代わりに固定費として捉えられる説明員の応対の質を改善することが、展示会のROIを向上させる最大の近道なのである。
Face to Faceマーケティングや、人を集める重要性を述べた6項から8項までの内容とこれらを照らし合わせると、これからの展示会でいかに「製品」と「人」がその成否を握っているのか理解できる。


10.展示会のROI向上に寄与する説明員の条件

 

展示会を成功させる要因として、「説明員」の重要性が理解できたが、だからといって大勢の説明員をブース内に立たせるだけではかえって逆効果になる。よく目にするほとんどの説明員が待ちの姿勢で通路側を睨んでいる光景には尻込みしてしまう。そもそも自ら見込み客を招いたなら、待っているのではなく迎えに行かなくてはならない。来場者から話しかけられるのを待つような姿勢では、到底ホスピタリティは提供できないし、来場者の記憶にも残らない。


それではどのようなスキルが説明員に求められるのだろうか。まず来場者からの質問や課題に的確に答えられる技術的な知識を持っていること。話し上手であるが薄っぺらな知識しかない営業担当よりも、少々口べたでも自らの技術に誇りを持つ技術担当の方が説得力はある。
次に来場者の抱えている課題が十分に把握でき、場合によっては気付かれてない課題すら提示できるような当該分野での基本知識を備えていること。そして、課題に対して自信を持って明確なソリューションを提示できること。

ここまで行けばASICAモデルの「A:assignment課題」「S:solution解決策」「I:inspection検証」「C:consent同意/承認」のプロセスが満足できる。

展示会での説明を、単に製品説明という側面ではなく、来場者の持っている課題を引き出し、ともに考え、解決策を提示するという姿勢、つまり提案営業の心構えが展示会のROIを高める最大の要因なのである。そのため説明員には、単に自社の製品や技術だけでなく、顧客企業も含めた業界全体の動向を常に把握する能力が欠かせない。説明員と言うより、顧客企業のコンサルタンシーとして取り組む意気込みが求められる。