3.「ホスピタリティ」がBtoBマーケティングのキーワード。
上述のように、BtoB社会を進化させたエンジンは「ホスピタリティ」にある。これは現在のBtoBマーケティングを考える上で非常に重要なポイントとなる。最近当たり前のように言われている顧客第一主義とか市場志向主義が、真のホスピタリティに根ざしたものだろうか?。単に「市場に向かって」もっともらしく叫んでいるだけではないのか。顧客企業に何を提供すれば喜ばれるのか、顧客企業の発展のためにどんな貢献ができるのかを、損得抜きでまず考えることからBtoBマーケティングはスタートすると言っても過言ではない。
単に叫んでいるだけなら、八百屋の店先で「今日は大根安いよ−!」と大声で言っているにすぎない。八百屋の御用聞きのように、顧客企業の風土や技術レベル、将来に対する課題などを充分把握したうえで、その時々に応じて最適なソリューションを提供することが、本来のBtoBマーケティングなのである。そしてその原点には必ず、コミュニティ(顧客企業も含めた大組織)の維持を前提とした「ホスピタリティ」の概念がなければならない。
最近あちこちでWIN-WINの関係と言って、いかにもホスピタリティをかざしたかのような掛け声を耳にするが、所詮ビジネスは、詐欺でない限り価値交換と言うWIN-WINの関係が当たり前である。したがってWIN-WINやGive and Takeは、ホスピタリティとは本質的に異なる関係性である。真のホスピタリティとは相手の懐に奥深く入り込んで、その実情を踏まえた上でいかにすれば喜んでもらえるか、貢献できるかに取り組むことであり、いわば顧客企業のコンサルタンシーとしての位置づけにあると考えられる。これがBtoBマーケティングの基本となる。
4.「インターナルマーケティング」でBtoBマーケティングを学ぶ。
BtoBマーケティングを学ぶ絶好の手法がある。「インターナルマーケティング」と呼ばれる企業内マーケティング活動がそれである。これは企業を構成する各部署をそれぞれ顧客とみなして、どうすれば相手部署に喜んでもらえるか、あるいはどのようにサポートすれば相手部署が動きやすくなって成果を出せるかを、各部署間で取り組むものである。
我々広告宣伝部門は、常々経理部門や営業部門との関わりが多いが、たとえば経理部門は宣伝部門に対し、今、多くの企業が行っているような一律に予算を削減する方向ではなく、むしろ可能な限り予算をつけて宣伝活動をサポートする。宣伝部門は、営業部門ができるだけ顧客と接しやすいプロモーションツールを開発し、営業とシンクロして受注に貢献する、と言う具合に各部門でサポート合戦を行うことになる。
実はこのサポートが、「ホスピタリティ」そのものなのだ。単にある部署を外から眺めて適当にお付き合いするのでなく、その部署が今何にチャレンジしようとしているのか、どんな課題を持っているのかを充分把握した上で、動きやすくなるようにサポートすることが、インターナルマーケティングである。
このインターナルマーケティングを行うに当たって、忘れてはならない重要なポイントがある。それは、必ず企業の内側から外側に向かってホスピタリティを提供することである。企業それぞれに組織形態は異なるが、大まかには、まず企業の最も内側には人事部門や財務部門がある。その外側に、総務部門が、またその外側に製造部門や開発部門があり、顧客と最も近いところには営業部門がある。だから、インターナルマーケティングでは、たとえば人事部門や財務部門であれば、ほぼすべての部署にホスピタリティを提供しなければならないし、営業部門は他にその内側の開発部門からもホスピタリティを得ることになる。
では最も内側にある人事部門や財務部門は、どの部署からもホスピタリティは得られないのかと言うと、そうではない。企業の中心部には「経営」があり、人事や財務部門は経営トップからホスピタリティを受けることになる。
ちなみに宣伝部門は二つの顔をもつ。販売促進(プロモーション)のポジションでは、営業よりも内側に属する。したがってこの場合は営業活動にホスピタリティを提供しなければならない。一方広報的な側面では企業の最も外側に位置し、より外側の社会に対してホリピタリティ提供することになる。このことから企業広告では単に企業をアピールするのではなく、社会に貢献できる情報提供を行うことが重要だと理解できるだろう。
こうして見てみると、多くの企業が外に向かってではなく、むしろ内側に向かって動いていることに気付く。社内営業に時間が掛かるとか、無条件に行われる人員削減や予算削減要求は、まさしく内向きの代表的な形であり、これではホスピタリティを学ぶことなど到底不可能で、ひいてはBtoBマーケティングとは無縁の世界にいることになる。
インターナルマーケティングで、社内ホスピタリティの風土が醸成できれば、顧客に対するホスピタリティ意識も自然に芽生えて来るものである。インターナルマーケティングは、BtoBマーケティングそのものなのである。(続)