8.ASICAモデルの提唱
以上のように、「課題(Assignment)」からはじまり、「解決(Solution)」、「検証(Inspection)」、「承認(Consent)」のプロセスを経てめでたく「行動(Action)」となるのである。 この企業購買プロセスモデルをそれぞれの頭文字を取って「ASICAモデル(ASICA理論)」と名付けたい。 「ASICA(アシカ)モデル」はBtoB特有のそして組織人の特殊性を念頭に置いた企業購買プロセスモデルであり、それぞれの段階に即した広告企画やマーケティング戦略の対応が可能となる。 では具体的に各段階でどのような作業が必要なのか、を検討してみたい。
9.ASICAモデルの応用。
①「課題(assignment)」段階での応用
前述のように課題はニーズと異なり将来起こるであろう問題も含めて検討することが重要である。したがって中長期的な課題と短期的な課題とに分けて捉える必要がある。中長期的にはまず顧客企業が属するマーケットの将来予測が中心になる。たとえば現在、新興諸国の発展に伴い鉄鋼の急激な増産が続いているが、これに伴う課題としては単に鉄鉱石のコストの問題や製鋼効率の向上だけでなく、製鋼に用いる石炭やコークスの確保、価格、燃焼効率の問題、さらには燃料や製品の流通コスト、さらに突き進めればコークスに変わる代替燃料の開発導入、製鋼プロセスでの安全確保など様々な課題を抱えることになる。その多様な課題の中で広告主側は自社の技術やリソースで対応できる分野を探し出すことがまず必要な作業だろう。 また短期的な課題を把握するのに最も有効な情報は、顧客からのクレーム情報である。このクレーム情報には単純に当該製品に対する瑕疵の指摘もあるが、他に隠された貴重な情報が眠っている。つまり当該製品では対応し切れていない新たな技術や仕様への要求がクレームという形で提示されるケースも少なくないからである。さらにもっと具体的な情報を得るならば、直接顧客にヒアリングを行うことも重要かもしれない。この機会としては展示会での顧客とのコミュニケーションは貴重な場だといえる。
②「解決(solution)」段階での応用
ソリューションの提示は広告のみならず、マーケティング全般にわたって今最も重要な段階であると言える。広告などのメディアを利用する場合や営業担当者によるいわゆる提案営業と言われる行為もこの段階に相当する。 とはいうものの解決策の提示はそう簡単ではなく、とくにBtoBの場合は何度か顧客企業とのやりとりの中で最終的な解決策が生まれてくることが多い。営業担当や技術担当から顧客企業への解決案の提示から始まって、それに対する顧客企業側の反応を慎重に見極めた上で、さらに高度な解決案の提示と進めていくことになる。ここでは、当該製品の関連データや納入事例の紹介、応用事例の紹介、さらには導入シミュレーションなどが中心となる。
③「検証(inspection)」段階での応用
次の承認段階と同様、顧客側の購買担当者にとって当該製品の優位性検証を行う際詳細なデータがあればあるほどありがたい。その意味では詳細な仕様はもちろん、サービス関連情報や関連データの提示、さらには競合他社と比較した優位性情報なども必要になる。製品によれば試用機会の設定も不可欠かもしれない。いずれにしても購買担当者が効率よく検証できるようなデータや場を提供することである。
④「承認(consent)」段階での応用
検証段階と同様により詳細なデータが重要であるが、前述のように組織人としての特性から購買担当者の同僚や上司が応援部隊になってもらえるような仕掛けが必要な段階である。先に述べたように、あたかも購買担当者が作成したようなプレゼンテーション資料を提示することは、担当者にとって非常に心強いはずだ。またマネジメント向けにコスト効率を詳細に説いたドキュメントも欠かせない。とりわけカタログメディアではあまりマネジメント向けに作成されたものは見かけないが、オンデマンド印刷が可能になった現在、この種のドキュメントの充実が求められる。そのほか納入事例のビジュアル紹介やコスト効率計算書など、購買担当者のみならずその周辺への同意を得るためのプロモーションに手抜きがあってはならない。
⑤「行動(action)」段階での応用
いよいよ購入されるという段階ではもう何もすべきことはないようだが、ここでも顧客企業や担当者との継続的な関係を維持するために必要なドキュメントやコンテンツは考えられる。いわゆるPR誌などがこの部類にはいるだろうが、WEBを利用した顧客担当者との経常的なコミュニケーションメディアの構築も考えられる。My Yahooなどが参考になるが、製品納入後も顧客との課題の共有と解決策に対する協業から、また新たな課題(ビジネス)が生まれてくる。
10.おわりに AIDMAとはまったく異なった視点で企業購買のプロセスモデルの構築を試みてみた。このたび提唱した「ASICAモデル」はBtoBの特殊性を念頭に置いて効率よく広告企画制作ができるよう期待して策定したものであるがまだまだ不備な点があるかもしれない。しかしとりあえずこのプロセスモデルが少しでもBtoB広告企画制作の参考になれば幸いと考えている。 なお、カタログや広告のみならず展示会やWEBサイト構築など、あらゆるプロモーションにもこのモデルは応用できるが、その詳細についてはまた機会があれば述べたいと思う。 さらに特筆すべき点は、本モデルがBtoC広告にも適応できることである。これについても詳細をぜひ別の機会に述べたいと考えている。 (産業広告 2008年6月号)
以上のように、「課題(Assignment)」からはじまり、「解決(Solution)」、「検証(Inspection)」、「承認(Consent)」のプロセスを経てめでたく「行動(Action)」となるのである。 この企業購買プロセスモデルをそれぞれの頭文字を取って「ASICAモデル(ASICA理論)」と名付けたい。 「ASICA(アシカ)モデル」はBtoB特有のそして組織人の特殊性を念頭に置いた企業購買プロセスモデルであり、それぞれの段階に即した広告企画やマーケティング戦略の対応が可能となる。 では具体的に各段階でどのような作業が必要なのか、を検討してみたい。
9.ASICAモデルの応用。
①「課題(assignment)」段階での応用
前述のように課題はニーズと異なり将来起こるであろう問題も含めて検討することが重要である。したがって中長期的な課題と短期的な課題とに分けて捉える必要がある。中長期的にはまず顧客企業が属するマーケットの将来予測が中心になる。たとえば現在、新興諸国の発展に伴い鉄鋼の急激な増産が続いているが、これに伴う課題としては単に鉄鉱石のコストの問題や製鋼効率の向上だけでなく、製鋼に用いる石炭やコークスの確保、価格、燃焼効率の問題、さらには燃料や製品の流通コスト、さらに突き進めればコークスに変わる代替燃料の開発導入、製鋼プロセスでの安全確保など様々な課題を抱えることになる。その多様な課題の中で広告主側は自社の技術やリソースで対応できる分野を探し出すことがまず必要な作業だろう。 また短期的な課題を把握するのに最も有効な情報は、顧客からのクレーム情報である。このクレーム情報には単純に当該製品に対する瑕疵の指摘もあるが、他に隠された貴重な情報が眠っている。つまり当該製品では対応し切れていない新たな技術や仕様への要求がクレームという形で提示されるケースも少なくないからである。さらにもっと具体的な情報を得るならば、直接顧客にヒアリングを行うことも重要かもしれない。この機会としては展示会での顧客とのコミュニケーションは貴重な場だといえる。
②「解決(solution)」段階での応用
ソリューションの提示は広告のみならず、マーケティング全般にわたって今最も重要な段階であると言える。広告などのメディアを利用する場合や営業担当者によるいわゆる提案営業と言われる行為もこの段階に相当する。 とはいうものの解決策の提示はそう簡単ではなく、とくにBtoBの場合は何度か顧客企業とのやりとりの中で最終的な解決策が生まれてくることが多い。営業担当や技術担当から顧客企業への解決案の提示から始まって、それに対する顧客企業側の反応を慎重に見極めた上で、さらに高度な解決案の提示と進めていくことになる。ここでは、当該製品の関連データや納入事例の紹介、応用事例の紹介、さらには導入シミュレーションなどが中心となる。
③「検証(inspection)」段階での応用
次の承認段階と同様、顧客側の購買担当者にとって当該製品の優位性検証を行う際詳細なデータがあればあるほどありがたい。その意味では詳細な仕様はもちろん、サービス関連情報や関連データの提示、さらには競合他社と比較した優位性情報なども必要になる。製品によれば試用機会の設定も不可欠かもしれない。いずれにしても購買担当者が効率よく検証できるようなデータや場を提供することである。
④「承認(consent)」段階での応用
検証段階と同様により詳細なデータが重要であるが、前述のように組織人としての特性から購買担当者の同僚や上司が応援部隊になってもらえるような仕掛けが必要な段階である。先に述べたように、あたかも購買担当者が作成したようなプレゼンテーション資料を提示することは、担当者にとって非常に心強いはずだ。またマネジメント向けにコスト効率を詳細に説いたドキュメントも欠かせない。とりわけカタログメディアではあまりマネジメント向けに作成されたものは見かけないが、オンデマンド印刷が可能になった現在、この種のドキュメントの充実が求められる。そのほか納入事例のビジュアル紹介やコスト効率計算書など、購買担当者のみならずその周辺への同意を得るためのプロモーションに手抜きがあってはならない。
⑤「行動(action)」段階での応用
いよいよ購入されるという段階ではもう何もすべきことはないようだが、ここでも顧客企業や担当者との継続的な関係を維持するために必要なドキュメントやコンテンツは考えられる。いわゆるPR誌などがこの部類にはいるだろうが、WEBを利用した顧客担当者との経常的なコミュニケーションメディアの構築も考えられる。My Yahooなどが参考になるが、製品納入後も顧客との課題の共有と解決策に対する協業から、また新たな課題(ビジネス)が生まれてくる。
10.おわりに AIDMAとはまったく異なった視点で企業購買のプロセスモデルの構築を試みてみた。このたび提唱した「ASICAモデル」はBtoBの特殊性を念頭に置いて効率よく広告企画制作ができるよう期待して策定したものであるがまだまだ不備な点があるかもしれない。しかしとりあえずこのプロセスモデルが少しでもBtoB広告企画制作の参考になれば幸いと考えている。 なお、カタログや広告のみならず展示会やWEBサイト構築など、あらゆるプロモーションにもこのモデルは応用できるが、その詳細についてはまた機会があれば述べたいと思う。 さらに特筆すべき点は、本モデルがBtoC広告にも適応できることである。これについても詳細をぜひ別の機会に述べたいと考えている。 (産業広告 2008年6月号)