いつのまにか寒さも和らぎ、気の早い桜の花がちらほらする季節となってきた。人も虫も動物も、何となく、さあてそろそろ動き始めるか、と言ったところ。で、今回は虫の声のおはなしです。

まだまだこの季節は虫らしい虫は出てないんだが、これから夏にかけて蝶々をはじめいろんな虫が登場します。虫の声という観点から見れば、夏の蝉が一応ピークと思えるんですが、実は秋虫の音がもっとすごいらしい。

おきまりの猫ちゃんお食事デリバリーをしている近所のお寺でも、秋口になるとコオロギやらクビキリギスで大にぎわいの、一年で一番心地よい時期となります。でもこの秋虫の音をよく聞いてみると、意外にうるさいことに気がつく。うるさいけどさわやかなその中で、クビキリギスと鬼ごっこしている猫たちを眺めているのも、また心地よい時間なのであります。

秋虫の鳴き声の周波数は、ほとんどが4キロヘルツ以上といわれていますが、私たち人間が聞こえる周波数の範囲は、だいたい20ヘルツから20キロヘルツの間ですが、年をとるとだんだん高音が聞き取れにくくなって、それこそ10キロヘルツくらいしか聞こえなくなるから、ま、ちょうど真ん中より少し低めの一番心地よく聞こえるゾーンなんでしょう。

しかし、ですね、実は超高音の声を出すソプラノ虫がいるんです。というか、ほとんどの秋虫は基本周波数という領域以外に、かなり高音の音を出しているらしい。一番多いのは倍音という基本周波数の倍の波長なんですが、これはもう人間の可聴領域の限界に近い。クサキリなんていう虫は、基本周波数が16キロヘルツですから、その倍音は32キロヘルツの超音波で、いくらがんばっても私たちには聞き取れない未知の世界に突入です。 もし人間の可聴領域がもっと高ければ、お寺の境内なんか、もううるさくてお互いの話し声も聞こえないくらいなんでしょうね。

これと同じように、熱帯雨林の音が、じつは都会の交差点と同じくらいにうるさいのだそうです。ま、うるさいというより、いわゆる音圧と言われる音の強さを見てみると、熱帯雨林の夜では70デシベルを超えることもあるという。70デシベルといえば、電話のベルが鳴り続けたり騒々しい街角、という表現がなされているくらいにうるさいのだけれど、そんな音が年中熱帯雨林には鳴り響いているのだ。

でもそれがお寺の境内と同じようにうるさく感じないのは、熱帯雨林の音の大部分に、人間の耳では聞き取れない高周波の音が含まれているからなんです。なんと100キロヘルツを超える超高周波をはじめ、色んな波形の音が万華鏡のように入り乱れて熱帯雨林を覆っているのだそうです。これがほんとうの自然なのです。

そこで、では実際に熱帯雨林の音がどんなものか試してみようと思ってCDを買ってみたけれど、よく考えてみると、スピーカーは再生周波数が20キロヘルツまで。そんなことより、CDそのものが20キロヘルツまでしか録音できないんだから、残念ながら熱帯雨林の万華鏡を耳にすることはできなかったのであります。

では都会の音はというと、これはもう単純な音ばかりで、だいたいが20キロヘルツ以内におさまっている。だから人間の耳は20キロヘルツまでしか聞こえないのかどうか分からないけれど、ま、とにかく都会は単純で退屈で、ただうるさいだけの世界らしいのです。

20キロヘルツ以内であっても、音楽のようにメロディーがあれば綺麗に聞こえてしまう。でも、実際に聞こえるのと、その音が人間の身体に与える影響はまた違うのです。CDとレコードを聞き比べてみると、はるかにレコードの方が、なんというか厚みのある暖かな音として聞こえてくる。これがライブだったら同じ曲でも、もう別の世界になってしまう。レコードの方は高音域が再生されているからという人もいるけれど、少なくともCDのように強制的に20キロヘルツ以上はダメ、ということではないし、ライブの場合は、楽器の醸し出す音に加えて、たとえば弦のはじかれる瞬間などに微かな高音域が含まれている可能性は、ある。

そして見逃せないのは、この高音域の音がどうも人間の脳の活性化に大きな役割を果たしているらしいのだ。豊かな音域の中にいると、脳も生き生きとしてくるという。

古代から最も永く生命をはぐくんでいる熱帯雨林と同じように、日本の山や森の中でも20キロヘルツ以上の音がたくさん含まれている。一時マイナスイオンなんかが流行った時期があったけれど、山歩きをしたり田舎に行くと気持ちがいいのは、もしかしてこの20キロヘルツ以上の音のせいかもしれない。確かに高周波は私たちの耳には聞こえないが、直接脳かどこかに作用して、生命力を高めてくれているのかも知れない。言ってみれば、感知できないセンサーがまだ私たちの身体には存在しているのだろう。
とかく人間は目に見えない物、聞こえない物を信じようとはしないけれど、自然の中には人間には感知できない大切な栄養分が溢れているのだと思うのです。

最近、地下鉄の中でも歩きながらでもヘッドホンをつけた人たちをたくさん見受けますが、CDにしても音楽プレーヤーにしても20キロヘルツまでしか再生できない。退屈な都会の中で、しかも一日中こんな単純な音の世界に引きこもっていると、知らず知らずのうちに私たちの脳もおかしくなってしまうのでは、とちょっと心配でもあります。
たまには近場の自然に出かけて、高周波サプリメントでもいただきましょうか。