7.企業購買プロセスのモデル化

 「消費者心理プロセス」としてのAIDMAは、冒頭に記したように主にBtoC分野での広告企画において今まで多くのヒントを与え、広告の質的向上に貢献してきた。それに対してBtoB分野での「企業購買プロセス」は明確にモデル化されておらず、このことがBtoBコミュニケーションやプロモーションを行うにあたって様々な錯誤をもたらしてきたように思える。ここでBtoCとはまったく異なる「企業購買プロセス」を様式化し、BtoB広告の発展に寄与できることを念じて、あらたなモデルを提唱してみたい。 その前に「企業購買プロセス」の各段階について考えてみよう。

①企業購買プロセスにおける課題(assignment)段階

AIDMAでは消費者心理プロセスのトリガーとなるべき段階が「注意(attention)」にあることは前述の通りである。これに対して「企業購買プロセス」では各企業や組織が抱える様々な「課題(assignment)」がそれにあたる。ひと頃、商品開発や広告分野で「ニーズ」という言葉が流行した。市場のニーズとか企業のニーズなどといって、各企業が何を欲しているのかを見極めることが重要だと唱えられた。それ自体は決して間違いではないが、「ニーズ」と「課題」には微妙な開きがある。ニーズはどちらかというと今現在何を必要としているかが重要視されるが、課題とは現在のみならず将来どのような問題が生じるか、を予測することも含まれる。ここで重要なのは、ニーズは各企業とも今の時点でも把握している事柄であるが、課題は場合によれば企業が把握し切れていない将来起こるであろう事柄も含まれているということである。これを精査することがBtoBマーケティングでは非常に重要な要素となる。 個人を対象にした消費喚起は、何よりもまず商品が注目され消費者の注意をひくことが重要であるのに対し、企業購買においては各企業が抱えるであろう課題をあらかじめ熟知(予測)し、それに明確に答えるメッセージが必要となる。単なる「目立つ」「おもしろい」だけでは個人はともかく企業は振り向こうとしない。すべてが経済合理性の元で運営されている企業にとって、抽象的・心情的な仕掛けは通用しないのである。

②企業購買プロセスにおける解決(solution)段階

そしてこの課題に端的に応える、あるいは提案することが次の「解決(solution)」段階となる。「解決」は課題に対して多様な側面からその対応策を提案することであり、おそらくマーケティングにおいて最も重要な段階だといえる。そしてじつはこの解決に説得力を持たせるのが、先の段階である課題をどの程度把握しているか、にかかわってくる。つまり「課題」と「解決」は一体あるいは連携して捉えられると理解できる。この解決のメッセージが広告において明確に伝えることができれば、逆に企業側(顧客)に新たな課題を気づかせ、そこから顧客の信頼を得ることも可能になるかもしれない重要な段階なのである。くどいようであるが良い解決策を提案できるのは緻密な課題把握にあることを忘れてはならない。

③企業購買プロセスにおける検証(inspection)段階
その次の段階は「検証(inspection)」である。課題に対する解決策が提示された後、企業ではその策が本当に有効かどうかあらゆる側面から検証される。いうまでもなくここでは解決策導入に際するコスト効率を中心に多様なデータが求められてくる。この段階は一見顧客企業内部での作業のように思えるが、ここで広告主側は手を抜くわけにはいかない。顧客企業での検証作業に即座に対応できるテータの提供やアプリケーションの提示が必要となる。この段階で特に注意が必要なのは、顧客企業が検証を行う際ネットを利用する場合である。たとえば検証途中でライバル企業のデータがより充実し、なおかつ優位でることが判明すれば、顧客企業はその時点でライバル企業の商品の採用に動くきっかけとなるからである。人的交流中心の閉鎖された過去のBtoBスタイルとは違って、現在はネットによっていつでもライバル企業の情報が入手できる状況であることを念頭に置いておくべきだろう。 具体的にはこの段階になったと思われた時点で、たとえばデータ集やコスト効率計算書などの提示を行うことが考えられるが、ともかく常時WEBサイトで関連情報を公開しておくことが基本であろう。

④企業購買プロセスにおける承認(consent)段階

そして検証が終了した次の段階が、BtoBの特性である「承認(consent)」段階となる。ここでいう承認とは稟議書などによる書類上の承認に限らず、同僚や上司の「同意」も含まれる。読者のみなさんも心当たりがあると思うが、承認を得る際、機械的にハンコを押してもらう前に上司や周囲の人間に同意を得ておくことは欠かせないポイントとなる。この段階はまったく広告主側は関知できないように思えるが、じつはここでもやるべきことは、ある。 往々にして購買商品の申請者と承認者(決裁者)は異なり、決裁者はこの段階で初めて商品情報を目にすることも少なくない。しかも購買担当者とはまた違った視点で商品の優位性やコスト効率を検討することになる。したがって担当者向けの情報ではなく、マネジメント向けのドキュメントや当該商品の導入事例など、決裁者の判断材料となる情報をこれでもか、といわんばかりに提示することを忘れてはならない。さらに、担当者が決裁者に承認を得る際、もしかすると役員会や部会などでプレゼンテーションを行うことも考えられる。それに対応する形でパワーポイントのファイルなどをあらかじめ担当者に提示しておくことは、承認を有利に進めるだけでなく担当者から信頼を得るきっかけにもなると思われる。このように商品購買のほぼ最終段階であっても、決して手をゆるめることなく、最良の結果をめざすために様々なプロモーションを行うことが肝要だろう。