BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊹

《質問》
 

弊社では現在企業ブランド強化のため、新聞、雑誌、インターネットの各媒体でブランディング広告を企画しています。計画では3年間にわたって継続的に露出していくつもりです。そこでどのようなブランディング広告が好ましいのか、また社会に受け入れられやすいブランディング広告のノウハウなど、できれば他社の事例を紹介いただければ幸いです。本計画に当たって私の所属している経営企画室と広報室で特別プロジェクトを編成し、マーケットリサーチから広告企画まで一貫して行っていく予定です。(精密機械メーカー・経営企画室) 

《回答》
 

まずブランディングについては本項の㊱をご覧いただければ大凡のノウハウが得られると思います。ここではブランディングに必要な要因として、「コーポレートブランディング」「プロダクトブランディング」「ヒューマンブランディング」について述べています。

御社がこれから目指されるのはコーポレートブランディングだと理解できます。主にマスメディアを使用してブランディングを行い、企業イメージや認知度の向上を目指されているのでしょう。しかし、ブランディングで最も重要なのはプロダクトブランディングとヒューマンブランディングであることをもう一度㊱をご覧になって理解していただければ、と思います。

さてご依頼のブランディング広告の事例紹介なのですが、初めに結論を申し上げますと、私はクリエイティブ業務に関しては事例紹介を行わないことにしています。

ここ二三年前からセミナーなどで事例紹介を要望される企業が急増しています。このことに私はある種の危惧を感じています。確かに他社の事例は分かりやすく広告手法やノウハウを会得する最短の方法かも知れません。しかしここでもう一度考えていただきたいのは、広告などのクリエイティブは他社とは異なった独自のメッセージやビジュアル展開が重要だと言うことです。

二三年前から事例紹介の要望が急増したのはおそらく広告理論やコミュニケーション理論、さらには造形心理理論など面倒な理論の会得を避けて、手早く結果を求める傾向が強くなっていると推察します。これは現在のように情報が過剰に多い時代にはある程度仕方ないことかも知れませんが、クリエイティブの独自性を置き去りにして他社と似たような広告展開を行ってもけっしてブランディングに好ましい結果は残せないでしょう。

とかく私たちは広告などの見た目を意識して「恰好いい広告」や「インパクトの強い広告」などを目指しがちですが、じつは広告の送り手(企業)と受け手(社会)の感じ方に大きな相違が見られることはあまり意識されていません。その証拠に広告企画を行った場合、最終的な決断は送り手である企業の役員会や部長会など企業内部で喧々囂々と議論され、酷い場合は社長の一声で決まってしまうケースが少なくありません。そこには社会の存在など全く無視されています。

他社の事例紹介が不必要な理由は、いずれの広告もこのように企業の論理によって制作されたものでありブランディング広告として適しているとは言えないからです。また仮に優れたブランディング広告があったとしても、そこには綿密なコンセプト設計が存在しています。広告で最も重要なのはコンセプト設計にありますが残念ながらコンセプト設計の根幹は広告を見ただけでは理解できません。

 もしコンセプトが読み取れたとしても、企業風土や取り扱い製品の異なる企業のコンセプトがそのまま御社に通用するとは限りません。事例紹介の無駄の最大要因がここにあります。したがって事例紹介されても単に広告のビジュアルや切り口などを参考にする程度でしょう。こうして事例を参考にして作られた広告は、どことなく当該企業の広告と似たようなものになってしまい、広告の独自性は完全に失ってしまいます。

企業の経営者は広告などマスメディアで展開される場合、極端な意外性や特異性を嫌う傾向があります。万が一広告の内容やビジュアルで問題を起こした場合、社会から糾弾されるリスクを恐れているのがその大きな要因です。広告におけるリスク回避はたとえば新聞広告倫理規定や雑誌広告倫理規定などに則って制作すれば何の問題もありません。

 しかし経営者はリスクを恐れるあまり、企業の独自性よりも他社との横並びを優先してしまうのです。こうなればブランディング広告としての役割はほとんどありません。単にメディアスペースを埋めているだけの企業PR広告でしかなくなってしまいます。

 この現象は最近の広告を見ればよく分かると思います。どの企業も同じような視点や切り口で広告展開し、「どこかで見たような広告」が氾濫していることに気がつくと思います。くどいようですが広告に最も大切なのは独自性であり、そこには一件奇異に映るビジュアルやメッセージが存在します。だからオーディエンス(社会)にインパクトを与え記憶に残るのです。その残留記憶がブランドイメージの醸成につながってきます。

 話は飛びますが、アップルのスティーブジョブズはマーケティングを嫌うことで有名でした。彼は表層的なマーケティングを行うよりもまず自分が何を欲しているのか、を極限にまで追求しそれをもとにプロダクト計画に落とし込みました。ここで考えられるのは、自分が欲しているものは他の誰もが欲しているものであること。そしてそれは心の潜在領域にあるために表出しないことです。

 だからマーケティングを行ってもデータとしては出てこないと感じていたのだと思います。マッキントッシュのOSは素晴らしいユーザーインターフェイスをもちながらも企業各社から奇異に見られ、長年にわたって企業内で標準デバイスにはなりませんでした。iPhoneiPadが出現したときも私たちは驚きを持ってそれらを迎え「ほんとに欲しかったのはこれだったんだ」とその時初めて知らされたわけです。けっしてオーディエンスに媚びることなく自分の欲しいものを追求した結果が、じつは誰もが欲しかったものだったのです。

 広告でも同じことが言えます。特に社内で賞賛される広告などオーディエンスにとっては何のインパクトもありません。それなら、とオーディエンスにアンケートでもして好ましい広告を行ったとしても、単に広告として気に入られるだけでオーディエンスの潜在領域にある心に響く広告とはならず、結果的に記憶から消し去られてしまいます。

 なぜならその広告はオーディエンスに「今」を受け入れられるからです。オーディエンスが奇異に感じて一歩退きながらも、それでも何となく気がかりでもう一度見てみようとする。場合によればネットで再検索してみようと思えるような広告がブランディング広告には不可欠なのです。それには他社の事例などは全く無視して、御社独自のメッセージと切り口でクリエイティブした方がいいと思います。そのためにはまずあなた自身で徹底的にコンセプトを詰めることなのです。