BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊵

《質問》

弊社は資本金4000万円で従業員60名の中小企業です。従来から広告は全く行っておらず(広告専門部署はありません)、わずかに年間数件の展示会に出展するのみです。展示会と言ってもほとんどが一小間のごく小規模です。このたび一般の展示会とは違った異業種交流展に出展する予定ですが、一般展示会と異業種交流展の違いや出展に際しての留意事項がありましたらご教授いただきたく思います。ちなみに一般展示会での出展効果はあまり把握していません。(金型メーカー・製造部)

 

《回答》

一般展示会と異業種交流展とはその性格も来場者の目的も大きく異なっていますが、このことはあまり知られていません。したがって異業種交流展でも、一般展示会と同じような展示手法をとる企業が少なくなく、出展者側も来場者側も結果的に有効な結果が得られていないのが現状です。

ここで一般展示会と異業種交流展の特性上の違いを述べたいと思います。

一般展示会はほとんどの場合出展者は広い意味での同業者です。つまり出展者同士は競合企業になります。ただ業界展と違ってテーマ性のある一般展示会の場合は、必ずしも出展者が同業者であることはなく、異業種が混在することはあります。しかし出展目的はあくまでも商談機会を得ることであり、ひいては受注の確保が出展者側の最大の目的になります。そして来場者は自社の生産性を向上させるためや自社製品の性能向上のための設備導入を目的として来場されます。

それを裏付けるように、一般展示会での来場者の属性は開発設計部門と営業部門がそれぞれ30%前後となっており来場者の大半を占めています。このうち開発設計部門の30%がいわゆる有効来場者と言えるものです。営業部門は30%と比率は高いですが、ほとんどの場合、前述した競合企業の集まった展示会ですから、彼らの役割は競合企業のリサーチが主目的となります。競合企業の技術レベルがどの程度なのか、どんな新製品を開発しているのか、それを探るのが営業部門と一部の開発設計部門なのです。

したがって、有効来場者は極めて少なく以前本欄でも述べているように、出展者自らが見込み客を呼ばなければなかなか商談機会が得られず受注にも結びつきません。このあたりが、「展示会に出展しても効果がよく分からない」と言われる所以です。

一方異業種交流展の場合は大きく異なります。まず出展者は異業種ですから競合企業は非常に少なくなります。場合によると出展者が有効潜在顧客であることも考えられます。ここで問題なのは、出展目的です。一般展示会と同じように受注の確保を期待しても思うような結果は得られません。それは来場者の属性と来場目的が一般展示会と全く異なるからです。

異業種交流展の来場者属性は、最も多いのは営業部門で25%前後となっています。その次に多いのは企画マーケティング部門で20%前後、そしてなんと経営管理部門が17%前後となっています。このことから来場者の最大の目的は自社にはないシーズの探索や新製品の共同開発の相手を探し出すことであることが容易に推測出来ます。ちなみに営業部門が多いですが、これは競合企業のリサーチではなく、大手企業のバイヤーによる一括仕入れを目的としたものと考えられます。ここで注目すべきなのが、企画マーケティングと経営管理部門の来場者が非常に多いことです。一般展示会ではこれらの部門からの来場者はそれぞれ数%程度であり、その23倍以上もある異業種交流展の最大の特徴とも言えます。

これは何を意味しているのでしょう。じつは今、大手企業では自社のシーズだけでは革新的な新製品開発が困難になっている現状があります。その理由で最も大きいのは一時期の不況時に有能な技術者が大量解雇されたり定年退職した結果、技術開発のプロセスに大きなエアーポケットが生じてきている証とも言えます。それを補うためには、どんな状況下にあってもユニークな技術で独自の製品や部品開発を行っている中小企業との協業やM&Aを視野に入れなければならないのです。一般展示会ではほとんど顔を見せない大手企業の経営管理部門が多数来場されていることは、おそらく中小企業との技術提携やM&Aを目的としているのでしょう。

M&Aはともかく、もはや大手企業は中小企業の持つ独自技術無しでは新製品開発が出来なくなっていると極論することも出来ます。その大手企業にとって異業種交流展は絶好の機会でもあるのです。

これに加えて興味深い現象が異業種交流展では起きています。それは出展者同士が協業して革新的な新製品を生み出そうとする傾向が強くなってきていることです。つまり、一般展示会のような競合企業の集まりではなく異業種の集合ですからこういったことも可能になるのです。

展示会効果を最大化するために最も重要なのは「見込み客を集客すること」と本欄でもくどいくらい呼びかけていますが、これは一般展示会に適応できるものです。異業種交流展の場合は、極端に言えば出展者が見込み客を集客する必要はありません。御社のように広告活動を全く行っていない中小企業では、失礼ながらそんなに多くの見込み客を持っておられるとも思えませんから。異業種交流展では大手企業にとって死活問題となる革新的な新製品開発のネタ(シーズ)を求めてわざわざ来場されるわけですから、集客に力を注ぐよりもそれに応じられるような技術や製品の見せ方やアピールの仕方を工夫しなければなりません。

来場者である大手企業は血眼になって協業先を探索しているわけですから、限られた時間内に出来るだけ多くのブースを回り、自社に有効な技術を見つけ出そうとしています。したがって、自らの優位性を説明パネルなどでこと細かく述べても誰も読んでくれません。まず「御社のコア技術を端的に述べること」が重要です。できればインフォグラフィックスなどで視覚に訴える方が効果的ですが、もし文字に頼らなければならない場合は、極力120文字以内でしっかりと端的に記述することが肝要です。そして御社の技術や製品の優位性を担保するためには、出来るだけ数字で表現した方が説得力はあると考えます。

さらに展示会の鉄則である「必ず稼働させること」も忘れてはなりません。部品などの場合は稼働は難しいと思われますが、その場合は使用状況の映像や予想できる応用分野などを簡潔に表示することで対応できます。

社会を驚かすような革新的な新製品や新技術は、とかく異業種の融合によってもたらされることは過去を遡ってみればよく理解できると思います。その貴重な場が異業種交流展とも言えるのです。

ご質問の「中小企業が異業種交流展へ出展する際、留意するポイント」は、御社の技術を端的に出来れば数字を使ってアピールすることにつきると思います。

なお、上述した来場者属性の数字は一般展示会については10数件の展示会の平均値を、そして異業種交流展の数字は中小企業基盤整備機構が主催している新価値創造展の数字を参考にしています。