BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊳

《質問》

昨今デジタルの分野では、VR等を筆頭に凄まじい進化を遂げています。これにあわせて我が社では展示会をバーチャル化しVR等を駆使した新しいネット展示会を企画しているところです。しかし会社では、ほんとにネット上の展示会に効果があるのかどうか、またコストがかかりすぎるのでは、と言った意見が多く思うように企画が進んでいません。ネット上のバーチャル展示会が有効であることを、社内に説得できるような論拠をご教授いただければ幸いです(工作機械メーカー・営業企画部)

 


《回答》

まずお話では、ネット上でバーチャルに展示会を行い、そこでVRなど仮想空間を駆使してバーチャル展示の価値を上げたいと考えておられると言うことだと認識します。

前向きにバーチャル展示やデジタル技術を導入して販売促進に役立てたいという貴方の考え方は今後のネット社会の発展のためにも貴重なものだと考えます。

しかし、大変心苦しいですが結論を先にお話ししますと、現状のインターネット状況(ハード面およびソフト面)や各企業のネットへの対応を考慮しますと、まず貴方が考えておられるバーチャル展示会が成功するのは非常に困難だと思います。

その根拠をお話ししたいと思います。

貴方が考えておられる「ネット上のバーチャル展示会」。よく考えれば少し違和感がありませんか? 我々が日常何気なく使っているインターネットで閲覧できるすべてのコンテンツは、じつはすべてバーチャルであることに気づくはずです。

たとえば企業のWEBサイトにしても、ネット上に企業が存在するわけではなく、サーバーの中にコンピュータ言語で記載されたコンテンツをブラウザを通じてあたかもそこに企業があるかのように理解しているのです。これがインターネットの特性でもありますが、まずインターネット上のコンテンツがバーチャルであることを認識すべきだと思います。

するとバーチャル展示会というのはどのように捉えればいいのでしょうか? 「バーチャル上に展開するバーチャル展示会」という不思議で非論理的な展示会になってしまいます。

さらに申し上げれば、じつはネット上のすべてのコンテンツがバーチャルであるなら、もうすでにバーチャル展示会は実現されているとも言えます。つまり我々がキーワードなどで検索しヒットした企業のWEBサイト。これがリアルの展示会におけるブースと同じ機能を持っていると理解できます。

しかもこのバーチャル展示会は365日世界中で開催されている展示会だとも言えます。ここでは誰でもが自由にさまざまな企業(WEBサイト=ブース)を訪問し、情報収集したり問い合わせを行うことが可能なのです。

したがって、論理的に考えると「バーチャル展示会」というのはあり得ないことであり、あえてWEBサイトとは別にバーチャル展示会を行うのはコストの無駄遣いにつながってしまいます。

そしてもう一つの重要なポイントである「VR」ですが、これは特殊な機材(VRゴーグルなど)が準備されていて始めて効果が得られるものです。ネット上でたとえVRを駆使したコンテンツを公開しても、本格的な3次元仮想空間は体験できません。なぜならまだ現状ではパソコンに接続したVRゴーグルを利用して3次元仮想空間を実現できるまでには至っていないからです。したがってWEBサイト上で3次元的に見せるとしてもそれはあくまでも3次元っぽく見せた2次元の世界でしかありません。

話は横道にそれますが、2003年にSecond Lifeというネット上で仮想空間を作り出し、企業が参加してまさしく展示会やセミナーなどを行うという画期的な仕組みが注目を集めたことはご存じだと思います。しかしそれもわずか数年もたたずに頓挫してしまいました。頓挫した最大の理由はトラフィックの問題だと言われています。つまり、ネット上で3次元仮想空間を作り出し、そこにアバターと称される人たちが参加する仕組みが膨大なデータ容量を必要とし、ネットワークの容量を超えてしまったためにアバター(参加する我々)の動きが鈍くなりとても実用には耐えられなくなってしまったのです。この仮想世界には多くの企業が参加していましたが、企業内でSecond Lifeにアクセスすると企業のネットワーク環境にも悪い影響を与え、まして業務中にこのような動きの遅いサイトにアクセスすることは時間の無駄遣いにもなり許されるものではありません。このような現象が多発したために、素晴らしいビジョンを持っていたにもかかわらずSecond Lifeは頓挫してしまったのです。

企業のWEBサイトで3次元仮想空間を作り出すとなると、おそらくSecond Lifeと同じような結果が待ち受けていると考えられます。貴方が企画しておられるバーチャル展示会がどのようなものかは分かりませんが、VRを駆使してバーチャル空間を構築すると言うことから、間違いなくデータ容量の問題が出てきて結果的にはアクセス数は漸減していくと考えています。

このようにインターネット上でバーチャル展示会を行うのは、いわば「バーチャル・バーチャル展示会」となりイベントとしては興味を持たれて当初はそれなりの訪問数を確保できるかも知れませんが、やがて訪問者も少なくなり維持コストなどのコスト負担が問題視されてくると思われます。

さらにもっとも大きな問題は、展示会はあくまでもリアルに行うから展示会であると言うことです。別稿でも述べておりますが、展示会はフェイス・ツー・フェイスマーケティングの最高の場であり、リアルに製品や説明員と接触することによって受注に寄与できる使命を持っています。

バーチャル展示会はこの展示会の最も重要なポイントをすべて投げ捨てるものであり、とても展示会としての機能は期待できません。

ただVRに関しては、御社が工作機械メーカーであることを考えると、リアルな展示会では巨大な装置の持ち込みに支障を来すことも考えられます。おそらくこのことがバーチャル展示会の発想につながったのだと推測しますが、それならばリアルな展示会でVRコーナーを設置して、製品の稼働状態を仮想現実としてみせるには非常に効果があると思います。ここではVRに必要なゴーグルなどの設備を準備しておけば十分対応できますし、スタンドアローンですのでトラフィックの問題も回避できます。

このようにお話しするとおそらく、お客様にわざわざ展示会場に来ていただく手間を煩わせることになる、と言った否定的な意見が出て来ると思われます。しかしお客様にとって動きが遅くVRといえども十分な情報が得られず、さらに説明員に直接問い合わせることも出来ないバーチャル展示会を社内から閲覧するよりもリアルな展示会に出向く方が遙かに業務効率が上がると考えられるでしょう。

貴方のせっかくの企画に水を差すようで申し訳ありませんが、現実的な営業活動やコスト効率を考えると、企画の見直しをされた方が良いと思っています。