BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㊲

《質問》

先日あるセミナーで「ディレクターシステム」について知りました。短時間の講義内容でしたので詳細がよく理解できずにおります。しかし広告宣伝部門の効率的な運営の仕方として大変興味があります。弊社は部員が5人の小規模な広告宣伝部門ですのでぜひ参考にしたいと思っています。できましたら実際に運営されている企業様の事例なども紹介いただければありがたいと思っています。(食品製造機械メーカー・広告宣伝部)

 

《回答》

「ディレクターシステム」はひとことで言えば、広告宣伝部門のすべての担当者(広告経理などを除く)がディレクターとして業務を行うと言うことです。

では現状の企業はどうなのかを考えてみましょう。現在では多くの企業は外注指向で、この場合の外注先は広告代理店がほとんどだと考えられます。そして外注先に対する発注形態は、まずオリエンテーションを行い、その内容にしたがって制作されたプレゼンテーションを評価することが主なプロセスになっています。この場合は、外注でほとんどの広告宣伝メディアやツールの制作を行いますから、作業効率は非常に高いと言えます。しかしコスト効率は後述するように適切とは言えませんし、それ以上に問題なのは、自社に広告に対するノウハウなどの蓄積ができないことです。

一方で現在ではほとんど少なくなりましたが、広告企画から制作まですべてを自社で行う場合です。これには当然広告宣伝業務の専門教育を受けた人材が存在していることが絶対条件になりますが、じつは外注費用が発生しない分コスト効率が良いように思われますが、決してそうではないことは後述します。

ここで広告(展示会やカタログを含めた広義の広告)の制作プロセスを考えてみたいと思います。

まず一番大切なのは、広告を行う目的とターゲットの選定です。その次にメディアの選定になりますが、これはマスメディアに限らずカタログなどのプロモーションメディアや展示会などのフェイス・ツー・フェイスメディアも含まれます。

ここで欠かせないのがマーケティングリサーチのデータですが、じつはマーケティングリサーチそのものが極めて不確実性を持っていることに気づかれていない場合が散見できます。したがって大げさなマーケティングリサーチを行うよりも、営業担当者からの顧客へのヒアリングや意見などを参考にした方が効率的な面があります。

念のため申し上げておきますが、有効なマーケティングリサーチはアンケートなどではなく、サンプル一人一人に対して2時間程度の時間をかけて対面でヒアリングすることです。そしてデータとして有効性が認められるには最低500サンプルが必要になります。したがってリサーチには合計で500万〜1000万円のリサーチコストがかかることになります。これが高額すぎるからと言って最近ではネットを利用したアンケートが流行っていますが、価格は安い分データの信頼性は極端に落ちることは念頭に置くべきだと考えています。

次に重要なのは、広告コンセプトの策定です。コンセプトとセールスポイントを混同されがちですが、コンセプトとは広告を通じてオーディエンスにどのようなメッセージを伝えるのかと言うことです。したがってセールスポイントはコンセプトに包含されていますし、有効なコンセプトとはコンセプトからセールスポイントがメッセージとしてオーディエンスに伝わらなければなりません。

ここで重要な点は、自社の企業理念や製品・技術・マーケットは自社の社員が一番よく知っているということです。先に挙げたすべて外注する場合、酷いケースではこのコンセプト策定まで外注するケースが少なくありませんが、自社についての詳細があまり理解されていない広告代理店に適切なコンセプトが策定できるはずもありません。

コンセプトが策定されればそれに則ったクリエイティブ作業に入ります。ここでは広告やデザインの知見を持つ専門家が広告宣伝部に存在しているかどうかで大きく変わってきます。専門家がいなければ当然外部プロダクションに外注せざるを得ませんし、専門家がいれば内制は十分可能でしょう。しかし内制の場合気をつけたいのはコストの問題です。社内で制作するから外注費用がかからずコストダウンに寄与できると考えがちですが、じつは単位時間あたりの人件費は多くの場合プロダクションよりもメーカーの方が高く、内制によって結果的に余計なコスト負担をもたらしていることを忘れてはなりません。

そしてこの一連の作業を行う場合、広告宣伝部門にデザインや広告に関する知見を持つ専門家がいるいないに関わらず有効な制作手法が「ディレクターシステム」なのです。

ここで言うディレクターとはもちろん自社の広告宣伝部員を指します。そこでディレクターの役割を少し述べますと、まず広告目的やターゲティングから始めてメディアの選択を行い、コンセプトを策定し、それに適切なクリエイティブを導き出す役割と言えます。そしてディレクターシステムでは、自社の内情や製品・技術・マーケットの状況についてもっともよく知っている人材がディレクターとして機能するわけですから、最高の仕組みだと考えています。

ちなみに広告代理店に丸投げした場合、ディレクターのコストは全体の510%必要になってきます。しかも企業内容を熟知していないディレクターにこれだけのコストを費やすことになります。

多くの企業の場合はデザインや広告に対する知見を持つ人材は少ないと思われますが、メディア選定とコンセプト設計の段階まではこれらの知見はあまり必要ではありません。むしろマーケットに対する知見の方が優先されますので、このことからも自社の人材がディレクターとして機能する方が効率的でよい広告が期待できるのです。

クリエイティブに関しては自社に専門家がいなければ当然制作プロダクションに外注することになりますが、ここで重要な点を述べておきます。それは安易に広告代理店に外注するのではなく直接制作プロダクションとともに、自社のディレクターがクリエイターと議論し、クリエイティブを完成させることが成功への近道です。

自社にクリエイティブの専門家がいる場合でも、彼らがディレクターとして外部プロダクションの外注する方が遙かにコスト効率は良くなります。

そしてプロダクションから提示されたプレゼンテーションの評価に移るわけですが、重要なのは決して会議など社内の多数意見を頼らないことです。あくまでもオーディエンス向けの広告ですので、社内の意見や論理は関係ありませんし、会議コストも無視できません。したがってディレクターの責任によって自らが自信を持って評価すればいいのです。

ディレクターシステムはこのようにクリエイティブコストの削減と質の向上のための秘策だとも言えます。単純に広告代理店に丸投げするのではなくて、広告やプロモーションの要所は自社で押さえ、クリエイティブのみを外注することがディレクターシステムの根幹になります。

他社の事例を希望されていますが、当該企業の内部情報に関するものであり具体的な企業紹介はこの場では差し控えたいと思います。