河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

インターナルマーケティングについてのご相談

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑦
 

《質問》

現在トップダウンでインターナルマーケティングに取り組むよう指示が来ました。どうやら弊社の社長がどこかの講演会で感激したらしく、我が社にもそのまま導入したいことがその理由のようです。プロジェクトには外部のコンサルタントが主導するように聞いていますが、正直なところインターナルマーケティングがどのようなもので、どんな効果があるのかよく分かりません。我が社ではお恥ずかしいですが巷で評判になっている新しい考えや仕組みづくり(特にカタカナ用語が多いです)に即座に反応して社内に大号令が発せられるのですが、未だにそれといった効果があるようには思えません。このインターナルマーケティングがどのようなものかご教示いただくようお願いします。(建材メーカー人事部)

 

《回答》

御社の事情はよく理解できます。最近マーケティングやブランディング分野に於いても新しい仕組みがどんどん提示され、それをいち早く導入しなければ、という焦燥感に惑わされている企業が少なくありません。

まず結論を申し上げますと、インターナルマーケティングはとりわけBtoBビジネスを展開する上で予想以上の効果を生むことが可能です。しかしそれにはプロジェクトの完全性が要求されますし、中途半端な活動ではかえって企業効率の低下をもたらしますので注意が必要です。

インターナルマーケティングに取り組む上での課題や取り組み体制についてお話しする前に、まずインターナルマーケティングそのものについて説明しておきます。

インターナルマーケティングはその言葉通り、社内の各部署を顧客と見なして接するコミュニケーション活動の一環として捉えられます。その結果がマーケティングに寄与すると考えて良いかと思います。

 たとえば貴方は人事部に所属されていますが、その隣にはおそらく総務部や企画室などがあると思います。それらの部署を社内の同僚や一員としてみるのでなく、顧客として接するのです。ここでは社内の仲間同士によるいいかげんなコミュニケーションや仕事は許されず、顧客に対するそれと同様に真剣勝負が要求されます。このように書くとなんだか堅苦しくてむしろ社内の人間関係そのものがぎくしゃくするように思えますが、そんなに難しく考える必要はありません。

拙著「ASICAれ!」に詳しく述べておりますが、顧客に対して最も重要な接し方は「いかに顧客に喜んでいただけるか」というホスピタリティが原点になります。この考えをそのまま社内に持ち込むわけです。貴方の隣の部署がどのようにすれば喜んでもらえるのか、それを考えながら通常業務を行っていくことが前提になります。もっと簡単に言えば、隣の部署が仕事をしやすいように、あるいは成果を上げやすいように関連情報や資料を提供したり、場合によれば作業の手助けをすることになります。

重要なのは単なる活動ではなくあくまでも企業の活性化と業績によい結果をもたらすことですので、「相手部署の成果が上がる」ことを目的にサポートしていくわけです。「自部署ではなく他部署の成果を上げる」ことがキーポイントになります。

このように自分のまわりの部署にいかに喜んでもらえるかを念頭において仕事を進めることで、お互いのコミュニケーション効率は格段に向上しますし、なんと言っても社内に活気が出てきます。そして相手に喜んでもらえるように仕事をすれば、今度は相手がこちらを喜ばせるようにさまざまな協力をしてくれるようになってきます。所謂互恵精神が自然に定着してくるようになり、それが社内風土にまで昇華する可能性もあります。

前段でインターナルマーケティング活動には完全性が要求されると言いましたが、それについてお話しします。これは大変重要なことです。

まず企業には多くの部署がありますが、中心には言うまでもなく社長が存在し、その外側には社長室や財務部があります。企業によってその解釈は違うかも知れませんが、一般的にはその後人事部や総務部が位置し、それに続いて開発部や製造部、そして広報部や宣伝部があり最後にもっとも企業の外側に営業部やサービス部が存在すると思われます。

 つまり、社会やマーケット、顧客に最も近いところに位置する部門は営業部やサービス部なのです。この流れ、要するに社会やマーケット、顧客に近い部署から中心に位置する社長までの組織フローをまず明確にすることがインターナルマーケティングを行う出発点になります。

そして重要なポイントは、前述した「喜んでもらう」つまりホスピタリティを提供するのは必ず自部署よりも外側(社会やマーケットに近い)の部門に対して行うことです。たとえば仮に前述のような組織フローであれば、人事部や総務部はその外側にある開発部や製造部、広報部、宣伝部、営業部、サービス部に対してホスピタリティを提供することになります。

 簡単に言えば内側の自部署よりも外側の部門がいかに仕事をやりやすくできるかの手助けをすると言うことです。こうして考えてみると組織の中心(もっとも内側)に存在する社長は、言うまでもなくすべての部門にホスピタリティを提供することになりますが、じつはこれが企業運営で最も重要な要素なのですが、意外とこれを重視している企業はそんなに多くはありません。

このように進めていけば最終的には顧客に最も近い場所にいる営業やサービス部門は全社からホスピタリティを受けることになり、そして営業やサービス部はその外側、つまり社会やマーケット、顧客にホスピタリティを提供する理想的な企業体制が完成するわけです。

このホスピタリティフローをよく見れば経営トップから最終ターゲットである社会や顧客にホスピタリティの「風」を送るという意味で「高気圧型ホスピタリティ」と言えます。しかし一方で現在多くの企業は逆の流れになっていないでしょうか? 社長はともかく財務部が最近は大きな力を持ち、各部署は予算獲得などで財務部に頭を下げて回ったり、顧客はそっちのけで社長や役員の意見に右往左往させられる光景はまさにインターナルマーケティングには無縁のフローなのです。私はこれを上層部に向かってホスピタリティの「風」を送る「低気圧型ホスピタリティ」と言っていますが、こうなれば企業は間違いなく凋落の一途を辿ります。

よく「内向きの社風」だとか「外向きの社風」などといった言葉を耳にしますが、それは上述したホスピタリティフローのことを言っているのです。

高気圧型のインターナルマーケティングは企業を発展させますが、低気圧型のそれは企業活動を硬直化することを充分念頭において取り組まれた方が良いと思います。

最後に、一言。外部コンサルを使って活動をはじめると言うことですが、インターナルマーケティングは社内だけで十分対応できる活動です。

広告効果測定についてのご相談

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑥
 

《質問》

我が社では年々広告宣伝費が削減され、満足できる広告活動ができない状況です。その理由は弊社の経理部が「宣伝部はコストセンターだから極力広告コストを削減することが会社の利益に貢献できるため。さらに広告は効果があるのかどうかも曖昧であり、そのような不確実な業務に多大なコストは割けない」ということです。ここで質問なんですが、経理部を説得するために広告効果の測定をきちんと行い、そのデータをもとに予算折衝に臨みたいと考えており、そのための有効な効果測定手法があればご教示いただきたいと思います。(機械メーカー)

 

《回答》

広告宣伝費の削減は所轄部門にとっては悩ましい課題であり、近年ますますその傾向が強くなっていますね。その要因は何もかも「数字」で把握したがる経理部門の特性にあるようです。

まずご質問の広告効果測定についてですが、現在さまざまな効果測定手法が存在・提唱されています。しかし私はそのいずれもが明確な「広告効果」を測定するものではなく、特定の数値やデータを効果と称してカムフラージュしているに過ぎないと考えています。

たとえば広告のリーチやCPMなどの測定などは簡単にできますが、だからといってそれが効果に直結するものではありません。単にどれだけリーチしたか、あるいはどれだけ安価に到達させたかを見る指標としては理解できますが、それがどうした、と言うのが私の考えです。

広告効果の理解の仕方は比較的簡単です。というより、広告の特性を難しく考えず単純に割り切って役割分担に応じた効果指標を設定すればいいだけのことです。

まずマス媒体。とりわけBtoB企業ではマス広告によって商品が売れることはまずありません。したがってマス広告の効果測定指標は「引き合い件数(カタログ請求/問い合わせ)」と割り切るべきです。これは後に述べる最終の効果指標となる「受注額」の基盤である「見込み客」の獲得数を意味します。

次に広告かどうか微妙なメディアにカタログがありますが、これは広告と言うよりむしろセールスのための補助資材と理解できます。BtoB企業で素晴らしいカタログがあれば受注に結びつく可能性はあります。しかし大部分はカタログを補助資材として使用する営業担当の商談スキルによって受注の可否が問われます。

 したがってカタログの効果指標は「営業担当がどれだけ有効に商談できるか、の全体構成やデザイン/コピー」になってきます。しかしここで問題なのは、各社によって営業スキルも違えば営業スタイルも異なります。それぞれの営業風土に合致したカタログづくりがじつは最も重要なのですが、残念ながらどの企業も同じように製品説明に終始しているのが現状です。

WEBサイトの効果もマス広告と同様に「引き合い件数」が効果指標になります。オンラインショップサイトを持つ企業があるかも知れませんが、オンラインサイトは営業の場そのものであり、広告とは理解できませんので効果指標は単純に営業成績(受注額)となります。

そして展示会はもっとも効果が明確になりやすいメディアと言えます。展示会での効果指標はズバリ「受注額(商談額)」です。とかく展示会では自社ブースや展示会全体の来場者数を効果指標にしがちですが、これは明らかに間違っています。

そして重要なのは展示会での効果を上げるにはどうすればよいか。上述したマス広告やWEBサイトでの引き合い、つまり見込み客をどれだけ展示会に呼び込めるかにかかってきます。

簡単に言えば、マスメディアやWEBで得られた見込み客(潜在顧客)を「顧客」に転換する、言いかえれば見込み客の「刈り取り場」がじつは展示会なのです。したがって、展示会でいくら来場者が溢れかえって一見繁盛しているように見えても、彼らが見込み客でなければ何の意味もありません。

一昔前までは展示会は広報の場としても捉えられていましたので、来場者が多ければ社名や商品の露出機会が増えたことによるPR効果があったとされていましたが、結局刈り取り場の認識がなければ受注には結びつかず、展示会には人は来るが売上げにはあまり寄与しない、といった短絡的な理解に結びついてしまいます。

ところが展示会での効果指標が受注額となればまた厄介な事柄が生じてきます。BtoCならともかくBtoBの場合は、引き合いから受注まで1年以上かかるケースが少なくありません。そのために展示会事業で重要なのは、展示会での商談結果とその後のフォローを追跡できる「引き合いトラッキングシステム」の構築が重要なポイントになります。これを行わないと、結局当該商品の受注の根拠が不明確になり、展示会効果が明確に把握できないことになってしまいます。

こうやって考えてみるとすべての広告効果指標は「受注額」になります。マス広告はその前衛の役割を果たしており、展示会が最終ゴールと言えるでしょう。

ここで広告効果指標を「受注額」とすると、大きな問題が立ちはだかります。

前述のカタログの部分でお話しした営業担当の商談スキルが受注に大きく影響するからです。このスキルは数値として明確にできない「変数」ですから、効果測定の方程式には組み込むことはできません。私は広告効果測定をあまり重視しない理由がここにあります。乱暴な言い方かも知れませんが、商談スキルの低い営業担当を抱えている企業は、どんなに優れた広告を行っても最終目標である受注確保には繋がらず、結局その結果が広告を悪者扱いにしているのが正直なところです。

さてご質問の前段にある宣伝部はコストセンターという考え方は間違っています。経理部門は単純に宣伝費というコストを管理する部門だからそのように理解しているのでしょうが、広告はたとえばブランド広告や展示会での説明員の応対など、ブランドイメージの形成に大きな役割を果たしています。今やブランドはエクイティ(資産)と理解されています。しかしブランド価値やレピュテーションは数字には表れてきませんから、宣伝業務のコストばかりに目が行ってしまいそのように捉えられるのでしょう。

宣伝部はコストセンターではなくプロフィットセンターであることを再認識すべきだと思いますし、予算折衝時にもこのあたりをもっと協力に説得することが不可欠です。

ご質問の回答になっているかどうか心許ないですが、要するに各メディアの特性から効果指標がそれぞれ異なることと、展示会での効果がじつはマスメディアの広告効果に依存していることをきちんと整理してデータ化すべきだと考えます。そしてくどいようですが、広告効果の最終目標は数字では把握できない商談スキルに依存いていることが、広告効果測定をいまいち信用できない要因になっていることをもっと経理部門にアピールすべきだと考えています。

効果のある販促物制作について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑤
 

《質問》

中小規模オフィス向けIP機器の販売、サポートを担当しています。今まで自社で新規顧客開拓用にパンフレット等を製作してきましたが、どうも効果があるように感じません。今個人的にコピーの勉強を始めたばかりで、早速自社製品にもコピー技術を取り入れてパンフレットやウェブサイトリニューアルを考えています。効果的なBtoB広告コピーのポイントについてアドバイス等いただけましたら幸いです。』(IT企業)

 

《回答》

 まず御社自身で広告物のデザインやコピーライティングをされていることに敬服します。やはり自社の製品やサービスをもっとも理解し、なおかつ愛情を持って取り組めるのはメーカーやベンダーでしかありませんから。

さてパンフレットの効果についてですが、おそらくどんなにがんばってパンフレットを制作してもなかなか受注に結びつかない、ということだと思います。その理由はただひとつ、パンフレットが「製品説明書」になっているからです。

 パンフレットやカタログは広告などのマスメディアと異なり、営業活動でのツールとして用いられます。とりわけBtoB分野ではその傾向は強力です。つまり営業担当と顧客との間に入り、フェース・ツー・フェースで行われる商談活動をいかにサポートできるか、がパンフレットの大きな役割になります。

 パンフレットが製品説明書の機能しか持たない場合、商談の質は主に営業担当の商談スキル(プレゼンスキル)に依存します。ここではパンフレットは商談の一助にはなっても積極的に顧客を説得できる機能はほとんどありません。したがって仮に商談が成立しなかった場合、その責任はパンフレットではなく営業担当にあるということです。営業担当の質によって商談が左右されるならパンフレットの存在価値がないのでは、と思われるかも知れませんが、そうではありません。いくら営業教育を熱心に行ってもすべての営業が優秀だとは限りません。中には入社間もない見習いのような担当者が一生懸命に商談することもあるでしょう。

 そこで威力を発揮するのが「優秀な営業担当の代替としてのパンフレット」なのです。パンフレットを単なる製品説明書ではなく、優れた営業スキルで構成されたメディアとして位置づけるのです。極端に言いますと、営業担当が側にいなくても顧客はそのパンフレットを読むだけで、あたかも営業に説得されているような迫力を感じることができる機能を持たせるということです。

 一方商談の場は様々なタイプの顧客を相手に、それに見合った語り口調でプレゼンする能力が求められます。あまり技術に詳しくない担当窓口もいれば、口うるさい決裁者も相手にしなければなりません。本来なら顧客のレベルに応じて数種類のパンフレットを準備しておくのが好ましいのですが、コストの関係上そうもいかないでしょう。仮に一種類のパンフレットで対応するなら、製品やサービスについてのわかりやすい導入から始まって、その機能や仕様などハード面の説明、そしてもっとも重要なのが当該製品の導入によって顧客企業のどんなメリットがあるか、を数字を使って述べることです。

 BtoB分野では最終的に顧客企業にどれだけ(金額)の効果を提供できるか、が勝負の分かれ道になります。したがってパンフレットでここの部分を明確に提示しなければ説得力はほとんどありません。

 BtoB広告(パンフレット)でのコピーライティングで重要なのは、極力修飾語や曖昧な表現を排し、具体的な数値を基に述べることです。私がカタログセミナーなどでお話しをするときによく使う例なのですが、「極めて高速の電車で遠距離の街に行くと、最短の時間で到着できる」というところを「時速300kmの電車で600km離れた大阪に行くと、2時間で到着できる」と言い替えることです。とりあえずコピーライティングした後、無駄な言葉は削り数字に置き換えられるものはすべて置き換える、というプロセスを踏めば説得力のあるコピーができるはずです。

 冒頭にパンフレットは優秀な営業担当の代替メディアといいました。これをぜひ実践していただきたいと思います。その手法は御社でもっとも優秀な営業担当に2時間程度付き合ってもらいます。

 まず貴方が顧客側になり営業担当に「こんな商品を我が社に導入してどんな効果があるの?」など質問するわけですが、顧客企業の状況がよくわからなければ質問内容にも四苦八苦するかも知れません。また営業担当にしても貴方が同じ社の社員であるという心の緩みも出てくるかも知れません。もしこのような模擬商談が困難であれば、もっとも難解な顧客での商談にアシスタントという名目で同席することです。

 そして営業担当が商談する内容をすべて録音します。このとき重要なのは営業担当の素振りです。話のどの部分で大げさなジェスチャーをしたかとか、真剣な目つきであったかなどをメモしておきます。そして社に返ってから録音した内容をすべて書きおこし、前述のように無駄な言葉を取り除けば立派なコピーが出来上がります。 
 対象は優秀な営業ですので起承転結も明確でしょうし説得力も十分。パンフレットデザインで生きてくるのが席上でメモした営業担当の振る舞いです。大げさなジェスチャーや声が一段と大きくなった場面は重要なところですから、この部分に関連する写真や図表をダイナミックにあしらうのです。こうすれば営業担当の替わりができる説得力のあるパンフレットを作ることができます。

 しかもこのパンフレットは御社で最高の営業スキルが入っているわけですから、未熟な営業担当にとってもそのパンフレットを基に商談することによって、自然に営業スキルを学ぶこともでき、全社的な営業のレベルアップにも寄与できます。

 ここで注意するところがひとつあります。大変失礼ですが、もし御社の営業力が貧弱な場合、つまり優秀な営業担当が見当たらない場合どうすればいいのか、ということです。その場合は開発担当などの技術屋にお願いするのがいいでしょう。開発者は製品への思い入れが強く営業担当とはまた違った内容になるかも知れません。開発担当が顧客企業に直接出向く機会がないのであれば、展示会などに開発者を引っ張り出して来場者にぶつけてみるのもおもしろい手法です。

 いずれにしても単なる製品説明書は現在ではWEBで代替できますし、ドラマチックな商談の場にはやはりドラマチックなパンフレットが欲しいところです。

 なお、WEBサイトでもこの手法でコンテンツを作ることで、滞留時間を稼ぐことが可能になりひいてはパンフレットのPDFよりもはるかに説得力が増してくると考えます。

新聞広告の将来性について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ④
 

《質問》

我が社では昨年来新聞の発行部数が激減している中で、高額な新聞広告をやめてインターネット広告に切り替えるべきだという意見が多くなっています。インターネット広告では動画も利用でき説得力は新聞広告よりもはるかに高い、というのが大きな理由ですが、ほんとうに新聞広告はもうだめなんでしょうか。個人的には新聞広告にもまだまだ価値はあると思うのですが』(食品メーカー)

 

《回答》

 ご質問の内容は「今のようなネット時代に新聞広告の価値があるのかどうか」と言うことだと思います。それ以前の問題として、「ネット時代における新聞メディアの価値」を考えなければなりません。ここ数年の各メディアのシェアに関する調査を見ると、明らかに新聞はウェブサイトやインターネット広告に凌駕され、大変肩身の狭い立ち位置にいると言わざるを得ません。しかしこの結果が本当に信用できるのでしょうか。これらの調査はあくまでも各広告主の媒体別出稿量の結果として表れているだけであって、だからといって各メディアの「価値」を決定しているのもではありません。

 メディアはコミュニケーションにおける媒体であり、その価値はコミュニケーションの達成率によって決定されます。現在はインターネット上には膨大な情報が構築され、それを利用した(その根拠となる)ウェブサイトやインターネット広告は、言ってみれば情報量が大きいがために無意識にコミュニケーション価値があるように錯覚しているのではないか、と考えることもできます。

 ここで筆者の貴重?な体験をお話ししてみたいと思います。

 じつは筆者は2年前から新聞は購読していません。もうインターネット上には各新聞社のサイトが充実し、毎日の情報はここから入手すれば事足りるのではないか、あえて毎月数千円もの費用を払ってまでハードとしての新聞を購読する必要は無いだろう、と思ったからです。まさに、最近の新聞購読量の低下や新聞メディアの価値を縮小させる一般読者と同じようなことを行ってきたわけです。

 それでこの2年間は取りたてて情報収集に関しての問題は感じず、やはり新聞メディアは縮小して行かざるを得ないのかな、という感触を持っていました。それ以上に過去に新聞を購読していた時期に比べても、はるかに膨大な量の情報を頭にたたき込んでいる実感もありました。

 ところが、です。6月中旬、ある新聞がお試し購読と言った名目でポストに投函されていました。2週間ほどでしたがこの無料お試しの新聞を毎日読んでいてある重大なことに気がついたのです。当然この間もいつものようにインターネット上の新聞サイトから情報収集していたのは言うまでもありません。それと同時に「紙」の新聞も併読していたのです。

 2
3日してなんとなく頭の中がきれいに整理されていることに気がついたのです。たとえば昨日の事件や政治情勢などを思い返すとき、まず頭の中には紙の新聞紙面が浮かんできます。そしてその記事がおよそ何ページくらいの左上の方にあったな、という感じでおぼろげながら浮かんできます。そしてもう少し考えを巡らせると、そうそうその記事の中盤にあんなことが書いてあったっけ、などという風に記事の全貌が目に浮かんできます。それ以外にもその記事の右隣には米国によるシェールガスの対日輸出の記事があったな、という風に順々に思いおこされるのです。それからしばらくすると、その日の記事のほぼ半分くらいが明確に頭の中に再定着されることになります。

 ここで重要なことは、○月○日頃の情報という形のワンセットでけじめがついた形で脳に入力されていると言うことです。インターネットサイトの場合にはこのワンセットがなく、ただだらしなくあらゆる情報が脳に蓄積しているだけだ、と。いわば紙の新聞の場合はきちんと一日一日の情報がアーカイブとして整理されているのに対して、インターネットのそれはただ無造作に引き出しに抛り込んであるという状態なのです。そこから特定の情報をリコール(思い出し)するのはできなくもないですが、アーカイブされたデータベースとではリコールの効率が格段に異なります。さらに前述のように、特定の情報をリコールする際、それに関連した情報や全く関係なくてもその隣にあった情報などがあわせて思い起こされます。

 筆者は心理学者でも何でもないですから決定的なことは言えませんが、人間の情報処理にはいわゆる「パターン認識」が重要な役割を演じていると思います。じつは紙の新聞の最大の価値は一日の情報がパターン認識で脳にインプットされると言うことでしょう。情報は多ければ多いほど有利なのは認めますが、リコールされなければ何の価値もありません。そのリコールにパターン認識が有力であり、それを可能にするのが紙の新聞なのです。

 話は横道にそれますが、たとえば旅行の思い出を考えてみましょう。旅サイトなどで旅行先の情報はいくらでも入手できます。しかし現実に旅をした場合に比べて、リコールされる情報の量と濃密さは比較になりません。これはたとえば一泊二日というワンセットの出来事の中にそこで見聞きしたことや体験したことがビジュアルと共にアーカイブされているからだと思われます。

 新聞の価値はじつはここにあるのです。パターン認識が可能であると言うことと、日刊や週刊という発行形式が自然に情報のアーカイブ化を果たしていると言うことです。

 紙面のパターン認識を有効に作用させるために重要なのが「編集」です。どんな見出しをつけるのか、記事構成をどのようにするのかなど編集者の力量が試されます。ネット上のPDF形式の新聞でもこれは可能でしょうが、タブレットなどでいちいち拡大したり画面をずらしたりする行為がそもそもパターン認識を阻害する要因になります。

 したがって紙の新聞のメディアとしての価値は依然として強力であり、むしろネット時代であるからこそパターン認識とアーカイブ化の機能はいずれ再認識されてくるでしょう。

 広告担当の立場として、現在は何でもかんでもインターネットだという声に右往左往されがちだと思いますが、将来を見据えて新聞広告の有効性はむしろ高くなってくることを念頭において広告計画すべきだと考えます。なぜなら、新聞の最大の価値であるパターン認識の中には当然広告も一要素として機能しているからです。

紙の新聞も新聞広告もネット時代が成熟すればするほどその価値見直されてくるはずですし、その前提として各新聞社の編集能力や広告主側の広告コンセプト力を強化すべきでしょうね。

 ちなみに筆者はそれ以来新聞を再購読しています。

広告制作におけるコンペの是非について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ③
 

《質問》

広告制作において個別発注がよいかコンペ形式がよいかの意見を聞かせて下さい。最近はどの企業でもコンペが多いと聞きますが、コンペの利点はどこにあるのでしょう。』(電機メーカー)

 

《回答》

 広告制作においてコンペ形式を採用することへの是非の問題だと思いますが、これは非常に難しいところがあります。最近では多くの企業がコンペ形式を採用しています。その根拠は大きく分けて二つあります。

 一番大きな問題は、コンプライアンスでしょう。広告制作に先立ってのオリエンテーションは、コンペ形式ではほとんどの場合コンペ参加企業を一堂に集めて一括開催されます。このことによって広告主から提供される情報の公平性が保たれます。広告主にとって見れば、コンペ参加企業に対して偏りのない公平な情報を提示しているからコンプライアンス上全く問題ない、という安心感があります。さらに一社指名の場合、とかく問題視されるのが広告主側の担当者と広告制作会社との癒着です。何も恥じることがなくても永年にわたって同じ企業と取引を続けていることへのこうした見立ては、ある意味では仕方のないものですし、広告分野に限らず営業や資材分野でも最近各企業とも人材のローテーションが多くなってきている根拠がここにあります。したがって昨今企業のコンプライアンスが声高に叫ばれている現状ではコンペ形式は妥当な手法と言えます。

 もう一つの問題は、じつはこれは広告文化において看過できない重要なものなのですが、広告主側の広告制作スキルの低下、があります。もとより広告制作に当たっての最も重要なプロセスは、はじめの段階のコンセプトメイキングです。このプロセスは広告対象物やサービスについて熟知しており、なおかつ市場やマーケットに新鮮なメッセージで訴求できる能力が要求されます。その能力には文学的、科学的、情緒的、心理学的、経済学的などあらゆる分野の知見が必要となります。その能力を持った広告担当者が、残念ながら広告主側に少なくなってきた、という事情が安易にコンペに走る結果をもたらしています。

 広告制作の最高の醍醐味は、コンセプトメイキングを自ら行い、それをコピーライティングやビジュアルの専門家と一緒になって四苦八苦しながら創り上げる。それが社会やマーケットから好感を持たれたとき、その醍醐味は最高潮に達します。

 この素晴らしい体感をコンペでは広告主ではなく制作会社に委ねてしまうことになります。広告主側の担当者にとっては制作効率の向上という名目が立ちますが、時間や数字では換算できない楽しみを放棄してしまうことへのマイナスの要因についてはあまり議論されません。

 今回いただいたご質問は、回答に非常に苦労するもので建前論に終始すべきか本音で語るべきか迷うところですが、この際私の個人的な本音でお話ししたいと思います。

  私はコンペ形式には反対の立場をとっています。その理由はいくつかありますが、もっとも大きな理由は前述の広告制作の醍醐味が失われることです。これは何も広告主側の担当者に限ったことではなく、制作会社にも言えることです。

 ここでコンペ形式で広告制作を行った際の決定プロセスを見てみましょう。

 まず基本的なオリエンテーションを経てプレゼンが行われます。で、このプレゼンされたいくつかの作品を審査するのは当然広告主側の担当者でありその上司となります。ここで問題なのが、前述のように広告制作の知見を持たない人たちによって審査されることです。その結果制作会社からプレゼンされた作品はどうしてもインサイド・アウトの視点で評価されてしまいます。仮に制作側がアウトサイド・インの視点で創作した奇抜な作品があり、それを採用されたとしてもたまたま目新しい作法だったと言うだけで真のアウトサイド・インの立場に立った結果とは言えないケースが多いと思われます。

 したがってその後の広告展開では全く文脈を無視したバラバラの作品が出てくる危険性があります。さらに大きな問題はコンペ作品の最終決定を役員会に持ち込んだ場合です。広告主側にしてみれば社長をはじめとした役員はそれなりの地位や知見もあり、だからこそ最高の意思決定機関と言われているのですが、これはあくまでもインサイド・アウトに関する事案についてです。こと広告についてはあくまでもアウトサイト・インのスタンスが重要なのですが、それを役員会で最終決定する妥当性があるとは思えません。

 いくら社長であっても役員であっても広告に関しては全くの素人です。だから広告部などの専門部署が存在するわけですが、その素人さんに制作会社が精根尽くした作品を評価してもらう違和感がどうしても私には拭いきれません。

 つまり、広告を見て社長や役員、もっと言えば社員が感動したところで何の意味もないのです。マーケットや社会に感動してもらう広告こそが文化的要素を持つ広告だと言えますし、その意味では役員会ではなく社外の評価を重視すべきだと思っています。

 ではどのような広告が社会やマーケットを感動させるのでしょうか。

 まずは主側の広告担当者と制作スタッフ(会社ではなくあくまで個人として)が自ら感動する広告といえます。極論を言えば広告に合議制は不要。制作担当者が感動すればそれでいいのです。思い起こせばほとんどのヒット商品といわれるものは「個人」の発想が原点になっています。そのために欠かせないのは主側の広告担当者はつねに片足はマーケットや社会に置いておくことです。もっと言えば、半分は社員であり残りの半分は一般の社会人であること。このように自制できなければ、なかなかアウトサイド・インの視点を持つことはできません。

 そして何より大切なのは、コンセプトメイキング以前の問題として広告に限らず夢や将来のビジョンを制作側の担当者と共有できていることです。ここでは広告以外の社会情勢や様々な現象について意見交換する場です。これには最低でも一年、制作側と主側の担当者が自由に語り合う時間が必要になってきます。不思議なものでこの期間を経ると制作側も主側の担当者も社会の一員として同化し、夢を共有することができるものです。主側と制作側が「個」になる瞬間です。まあ、言ってみればいい意味での完全な「癒着」です。この夢を語る時間を経て社会に感動される広告が生まれたとき、広告をやっていてよかった、と実感できるのです。

 こうして言うのは簡単ですが、実際は多くの困難が立ちはだかります。一年間も無駄話をする非効率性を会社がどのように判断するか、など。それを突破できる限られた広告人だけが、広告の醍醐味を味わうことができるのです。

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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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