河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

効果的なプロモーションサイトの作り方

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑲

《質問》

弊社では昨年からインターネット広告に注力しています。現在は広告をクリックすると弊社WEBサイトの所定のページにジャンプする仕組みで対応していますが、その効果が具体的に把握できません。確かにインターネット広告を行う以前よりも少しだけアクセス数が増えたようですが、それが弊社の受注にどれほど寄与しているのかまったく不明です。インターネット広告を行う場合、現状のようなやり方でよいのか、それとも特設ページを作る必要があるのか(予算の関係上難しい面もありますが)ご教授いただければ幸いです。またインターネット広告での効果測定はどのようにすればいいのか併せて教えていただきたく、よろしくお願いします。(機械加工メーカー)

 《回答》

まずインターネット広告の効果については本誌の201411月号をご覧いただければと思います。一言で言えば私の個人的な見解では少なくともBtoB業界においてはインターネット広告の効果は期待できないと理解しています。

さてご質問の内容を少し整理してみたいと思います。インターネット広告は一般の新聞広告や雑誌広告などと同様にいわゆる「広告」です。しかし新聞広告などと異なってそのコンテンツは極めて希薄であり、説得力もありません。その意味ではたとえば新聞広告で言えば「突き出し広告」と同様の機能しか持っていないと考えられます。

そこで重要なのがインターネット広告からどのようなページにジャンプさせるかです。御社がなされているような、通常のビジネスサイトの所定のページにリンクするやり方はかなりイージーでありあまり効果は期待できません。つまりこの方式では単に検索エンジンの代わりにインターネット広告を用いているに過ぎないのです。

BtoB分野でのクロスメディアの観点から見れば、いわゆる新聞、雑誌、テレビなどのマスメディアでの広告で商品が売れることはまずありません。これらのメディアの活用目的は各社様々ですが、ブランディングや商品の告知、見込み客の獲得などに留まっています。話はそれますが、これらのマスメディアから得られた見込み客を顧客に変換する装置としてじつは「展示会」が存在します。あるいは見込み客に対する営業活動(フェイスツーフェイスでの商談)もその刈り取りに重要な役割を演じます。

この流れから見ると、インターネット広告は内容の希薄な広告でありそれだけでは見込み客は得られません。だから所定のページにジャンプさせてそこで商品や技術の詳細を述べて見込み客を得る仕組みになっています。いわば二段構えの広告戦略とも言えますし、穿った見方をすれば無駄の多い広告活動とも言えます。

ではどのようなページにジャンプさせるのが効果的なのか考えてみたいと思います。前述のように広告から得られた見込み客を顧客に変換するために展示会や営業活動が必要になります。それならば、インターネット広告からジャンプさせるページは十分な営業力を持つページでなければなりません。いわゆるスペシャルサイトとかプロモーションサイトと言われる特設ページがそれにあたるわけです。ここでは当該商品や技術・サービスの内容を分かりやすく理解してもらうために、図表や動画などを充分駆使しなければなりません。何しろ通常営業と異なってフェイスツーフェイスの商談ができないわけですから、それに匹敵するくらいの説得力を持つサイトでなければならないのです。

ここで注意しなければならないのは、商談現場のプロセスを無視してやたら画像を大きく扱ったり動画をふんだんに使ったりすることです。そのようなサイトでは訪問者は視線移動が激しくなり整理された形で情報伝達ができないため、記憶にも残らず当然説得力もなくなります。あくまでも商品やサービスを売ることが目的ですから、実商談のプロセスを尊重し起承転結を明確にして丁寧に述べることが大切です。

しかしコミュニケーション達成率から考えても、営業担当による商談能力以上のサイト構築は事実上非常に困難だと言わざるをえません。たとえば営業担当がフェイスツーフェイスで1時間かけて商談する内容を特設サイトで構築すれば気が遠くなるほどのページ数が必要になり、読み手もすべて網羅して読んでくれるとは限りません。そこで威力を発揮するのが映像なのですが、残念ながら現状ではWEBサイト上での映像表現に優れたスキルを持つ人材が極めて少ない問題があります。

そしてもっと重要な問題がここに秘められていることに気がつきます。十分に営業活動に匹敵できるサイトがもし構築できるなら、何も特設サイトやスペシャルサイトなど気にせずにすべての商品やサービスをスペシャルにすればいいのです。当然コンテンツ量も数倍に膨れあがりますし、それなりの制作コストも必要になるでしょう。しかしその一方で、貧弱なコンテンツよりも遥かに検索エンジンにヒットされやすいポジティブな側面が生まれてきます。

現在インターネットはほぼ飽和状態にあり、WEBサイトへの訪問数や引き合い(見込み客)数も右肩上がりではなくなっている状態です。いわば企業におけるインターネットビジネスの限界がそろそろやってきたとも言えますし、それを打開するためにも従来のような画一的なCMSを利用したコンテンツ制作から一歩前に出て、すべての商品やサービス、さらには企業そのものをもっとダイナミックにスペシャルサイト化すべき時代になってきていると考えます。

しかしここまでコストをかけてスペシャルサイト化したところで、BtoB業界ではWEBサイトで直接受注に結びつけることは極めて希です。と言うことは、どんなに優れたサイトであっても、購買プロセスから見れば所詮は広告と何ら変わりがないとも言えます。

インターネット広告の効果測定についてですが、ずばり見込み客の獲得数になります。コスト効率を考えるならサイト構築に費やしたコストを獲得見込み客数で割れば算出できますし、その数値の推移を追いかけていくことが効果測定の原点になります。訪問者数が多いとか、特定のページでの滞留時間が長いなどは効果測定には何の影響も与えません。

一方で見込み客を顧客化(受注する)するには展示会か営業活動を待たなければなりません。そこで重要なのは展示会にしろ通常営業にしろいわゆる対面営業のスキルが問題になってくることです。多くの作業がデジタル化された現在、対面営業のスキルの低下が各社とも顕著になっています。その原因はここでは述べませんが、どんな優れた広告であってもWEBサイトであっても、最終的な見込み客の刈り取り能力がなければこれらに投下したコストはすべて無駄になってしまいます。その意味でも、まず営業担当の商談力の強化(セリングの強化)が今重要な時期だと思っています。

 

メディア展開をしていない中小企業が展示会に出展する際に留意すべきこと

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑱

《質問》

私どもは従業員20名程度のごく小規模な中小企業です。樹脂成形やその応用商品を作っています。今般ある中小企業を集めた展示会に参加することになりました。参加の目的は大企業とのマッチングです。しかし懇意にしている大企業もなく、どのようにして集客すればよいのか分かりません。ちなみに予算の関係で今まで広告などのメディア展開は一切行っていません。こんな状況ですが、展示会の集客方法とマッチングが期待できる効果的な展示について、ご教授いただければ幸いです。(樹脂応用メーカー)

《回答》

おそらく出展される展示会は一般の商業展ではなく、大企業や中小企業同士のマッチングを目的とする展示会だと認識します。

本来、展示会はその他のメディアから得られた「見込み客」に対して、最後の刈り取り(商談・受注)の場として機能するものです。マッチングについても日頃から大企業や関連企業とのコンタクトがあれば、それらを見込み客として集客することが可能です。

しかし御社の場合は、マスメディアは一切使っておられないようで、メディアからの見込み客はほとんど期待できません。一方で「だからこそこの機会で展示会を用いてPRする」という考えもありますが、いわゆるPR効果は展示会については極端に非効率的です。つまり一人当たりの認知にかけるコストがあまりにも大きすぎるのです。

展示会はPR効果を期待するのではなくあくまでも受注額や受注に結びつくリード(引き合い)件数が展示会効果の要因となります。当該展示会ではこれらに加えてマッチング先の件数も効果指標として認められるでしょう。

ところで御社はWEBサイトを開設されていますね。拝見したところ、そこそこの製品紹介や企業紹介はなされていますが、まだまだ情報が不足しています。他メディアからの見込み客が期待できない現状では、唯一WEBサイトからの引き合いが見込み客として見なすことができるのですが、一ヶ月あたりどのくらいの引き合いがありますか? もし仮に一ヶ月に100件程度の引き合いがあるなら、充分見込み客としてここ1年くらいの引き合い社に対して出展の案内をすることがまず重要です。

とかく企業(大企業でも同様)は顧客は大事にしますが、見込み客の管理が非常に疎かになっているのが現状です。見込み客は潜在顧客とも理解でき、顧客なみに重要な位置づけにあることをもっと認識すべきでしょう。

ところで、WEBサイトは現在はトップページからアクセスされるのは極めて希です。ほとんどの場合、検索キーワードによって当該サイト(ページ)にジャンプしてきます。と言うことは、まず検索された場合、できるだけ上位に表示されるような工夫が必要です。SEOなどという難しい手法がありますが、まず重要なのはできるだけ多くの情報をWEBサイトに盛り込むことです。上述したように御社のサイトはあまりにも情報量が少なすぎますし、これでは検索をかけても上位に表示されないでしょう。

そこで有効な手法を紹介したいと思います。たとえば社長や技術者・職人のブログをビジネスサイトに並行して開設することです。ブログと言ってもよく社長ブログなどにあるような当たり障りのない日記的な内容では全く意味がありません。そこでは技術的な内容や御社に直接関係なくても御社の製品や技術の周辺情報などを記述していくのです。その意味から言えば社長よりも技術者のブログの方が効果的かも知れません。社長ブログの場合は業界の情報や将来性などに対するビジョンなどを主体に記述すればいいと思います。

こういった技術者などのブログは我が国では(とりわけ大企業では)ほとんど見られません。その一番の理由は機密が漏れることを警戒するあまり、できるだけカタログ情報以外は公開しないと言う悪弊があるからです。一方米国では技術者がなかば自己PR的にどんどん自己主張しています。まあ、国民性の違いもあり難しい側面があると思いますが、このブログを構築することで一気に御社のサイトへの訪問は増え、結果的に引き合い件数も増加すると考えます。ちなみに私ごとで恐縮ですが、拙ブログは1ヶ月に一回程度の更新しかしていませんが、毎日2040名程度の訪問があり、ページビューは1ヶ月に1000ページに達しています。ただ内容はマーケティングや広告宣伝についてかなり詳細に踏み込んでいますので検索にヒットしやすいのでしょう(キーワードが多く盛り込まれている)。

この技術者や社長ブログの効果は言うまでもなくインバウンドにあります。前述のようにトップページから訪問される機会がほとんど無く、失礼ながら中小企業で知名度も少なければ企業名で検索されることは皆無に等しいと思います。それをブログに記述された様々なキーワードから、本来のビジネスサイトに誘導するわけです。

余談ですが私のブログでログ解析をすると過去に検索ワードが「政治」でヒットしたときがありました。政治の話など書いた覚えが全くないため不思議に思って過去の原稿を見直してみると、マーケティングを論じた際に現在(3年前)の日本の政治家による経済政策を批判している記事があったのです。「政治」はこの一箇所だけです。それでも検索でヒットしたわけですから、いかにWEBサイトに多様なキーワードをちりばめるのが重要なのか理解できます。

とはいうものの展示会まで時間もありませんので、まずは今までのWEBサイトからの引き合い社に案内すること(できれば手書きの挨拶状を添えて)が第一のポイントです。

そして展示手法についてですが、私もたぶん御社が出展される展示会を見学したことがありますが、まず気づいたのは説明パネルがあまりにも疎かにされていることです。あんなものは誰も読みません(実際に私が1時間程度あるブースをテストした結果です)。しかも米国の展示会調査でも来場者の記憶再生率で説明パネルの効果はほとんど無いと報告されています。読まれないから記憶されないし、記憶されないから記憶再生されないのは当たり前ですが。

それよりも大事なのは、説明パネルは一切やめて壁面全体をインフォグラフィックスで構成することです。何もかも述べるのではなく、製品や技術が持っている特性をピンポイントでグラフやデータ、図などで表現するのです。欧米ではかなり普及していますが、我が国ではまだ展示会でインフォグラフィックスを有効に利用している企業はあまり見かけません。それだけでも稀少価値がありインパクトは期待できます。インフォグラフィックスについては分かりにくいようでしたらそれこそGoogleなどで検索をかけてみて下さい。

最後に一言、大企業であれ中小企業であれ「広報」をもっと重視すべきです。それも単にリリースを記者クラブに投げ込むのではなく、日頃から特定の新聞記者と懇意にしておくことです。そうすれば「今度○○展で面白い製品出すから、ちょっと書いてよ」とお願いできますし、広報の威力は広告以上ですからかなり効果が期待できるものです。     

インターナルブランディングの必要性と効果について

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑰

《質問》

最近インターナルブランディングが注目され、我が社でも導入の気運が高まっています。そこでお尋ねしたいのですが、インターナルブランディングの効果と導入手法について、具体的な事例などがありましたらご教示いただきたいと思います。現在のところ我が社では、外部のコンサルタント(代理店?)に依頼する方向で進めています。(通信メーカー)

《回答》

確かにここ数年インターナルブランディングが注目されていますね。この考えは1990年代に米国企業でなされた活動が参考になっています。

結論から申し上げますと、私はインターナルブランディングにはまったく効果もなくその必要性もないと思っています。まさにお金の無駄遣いです。

ここで確認しておきたいのですが、まずブランドとはある対象(意識を持つ個人がほとんど)が被対象(個人や企業、団体、商品、サービスなど)に対して抱く心の変容を指します。つまりブランド形成には必ず被対象とそれを評価する対象者が存在することになりますし、ブランディングはそれらの関係性を構築するために行うものと考えられます。

たとえばブランディング広告などは、被対象である企業や商品に対して対象者が信頼性を持つ、好ましい感情を持つ、親しみを持つなどの心理的な変容を意図として行われます。その意味では外部に対する所謂エクスターナルブランディングは企業価値の増大化に欠かせない活動とも言えます。

ではインターナルブランディングの構図を考えてみたいと思います。一般的にはインターナルブランディングは、当該企業の企業理念やブランドを基盤にして、従業員一人一人が適切に行動し業務改革を行うための活動、あるいは従業員に自社ブランドの持つ意味や価値を徹底して理解させ、業務に活かすことを目的とする、とされています。

こうしてみると一見「なるほどインターナルブランディングは社内活性化と企業価値の向上に大きく役立つ」と思いがちですが、大きな落とし穴がここにあることにあまり気づかれていません。

それは前述のように、ブランドの価値は当該企業や従業員が決めることではなく、あくまでも対象者の心に宿るものです。それを「我が社のブランドにはこんな価値があるから、従業員全員がそれを徹底してその価値にふさわしい行動をすべきである」というのは本末転倒以外の何物でもありません。

さらに問題なのは、多くの企業が行っている(あるいは行おうとしている)インターナルブランディングに対する手法にブランドブックの作成や社員研修、グループ活動などが上げられることです。

まずはブランドブック。いわば教典のようなこのツールは、「我が社はこんなブランドや理念を持っている。みなさんの日常業務にここ考えを浸透させ企業発展とさらなるブランド価値向上に役立てましょう」と半ばトップダウンで行われる活動の基盤になるものです。

 ここでは従業員の目は教典やその教義に集中し、本来ブランド形成に大きな力を持つ社会やマーケット、さらには他の組織に属する人々の存在は忘れ去られています。拙著「ASICAれ!」で述べている、企業として最悪の低気圧型ホスピタリティ(常に社会や顧客ではなく上司や社長など企業の上層部にばかり目が行く企業のスタイル)の様式がここに現れています。

 くどいようですが、ブランドを作り上げるのは社会に属する個人であることから考えると、この手法はまったく逆の効果をもたらすとしか考えられません。さらに従業員と言えどもそれぞれに個性を持つ一人の人間です。それをブランドブックという聞こえはいいですが、いわば教典まがいのツールによって個性を埋没させるのはけっして好ましいことではありません。

次に社員研修。最近はどの企業でも頻繁に社員研修が行われていますが、ここでもその弊害にあまり気づかれていないようです。研修そのものを否定はしませんが、問題なのは多くの社員研修が「階層別研修」であることです。つまり、課長や部長などそれぞれの階層ごとに「課長はこうあるべきだ。部下の指導はこうすべきだ」と強引に教え込まれます。
 
ここでも個々人が持つ個性は否定され、当該企業の管理職としてふさわしい組織人に育成されるのです。言うまでもなくどんな管理職であってもそれぞれに個性があってしかるべきで、その個性に憧れて部下は成長していくものです。同じような考えや無個性の管理職だらけでは企業そのものの個性も消滅し、ひいてはブランド形成にはまったく役立たないと考えられます。

ブランド形成の対象が社会における個人や顧客であることを考えれば、まず重要なのは企業運営の根幹となる商品やサービスの高付加価値を目指すことです。さらに、顧客との接点である営業担当の商談能力もブランド形成には重要です。その意味ではもし研修を行うなら、優れた商品開発者や営業担当の育成を目的として、階層別ではなく業務別研修に徹するべきでしょう。しかしここでも個々人の個性は重視されるべきですし、それに則った研修にする必要があります。

インターナルブランディングを目指したグループ活動などまったく無意味です。そんな時間があるなら、もっと商品開発に集中したり顧客訪問によって顧客と会話をすることの方がはるかに意味があります。

ところで、ここでは具体的な企業名はあげませんが、一昔前は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり次々と新商品を発表し、マーケットや個人から支持を得ていた多くの企業が、現在ではみな同じ無個性の企業になってしまっている現状が散見できます。これにはさまざまな理由があるのですが、その大きな要因に社員の無個性化があり、それを誘導するのが上記の階層別研修であったり、インターナルブランディングとは行かないまでも、「みんなで同じ方向を目指して頑張ろう」式のややこしい活動だったりするのです。

ブランド形成が社会に属する個人の心の変容に要因があることから、まず重要なのはその接点である個性的で有益な商品の開発と営業担当の商談能力の向上がブランディングに大きく影響します。つまりエクスターナルブランディングです。それをさしおいてインターナルブランディングに熱を入れるのは、おそらくエクスターナルブランディングがうまく行っていないための対症療法とも考えられます。しかしこの対症療法が、ますます病状を悪化させるのは上述のとおりです。

極論を言えば社内規範を逸脱するくらいの個性ある人材を輩出し、それによってどの企業にもない独自の商品を世に送り出すこと。これによってその企業のブランド価値は大きく飛躍します。

とはいうもののどうしてもインナーの活性化を目指したいのでしたら、まず「インターナルマーケティング」にチャレンジすることです。これが成功すれば、必然的によい意味でのインターナルブランディングが自然に形成できます。

 

展示会におけるトラッキングシステムとは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑯

《質問》

以前貴協会とは別の講演で、河内氏の展示会に関するセミナーを拝聴しました。その中で、展示会で最も重要なのは見込み客の集客と展示会終了後のトラッキングシステムだと述べておられました。その内容を社内で紹介したところ、トラッキングシステムについて非常に興味を持たれたのですが、私自身まだ十分理解していないところも多く、納得のいく説明をすることができません。そこで恐縮ですがもう一度このトラッキングシステムについて詳しくご教授頂けないでしょうか。営業部門が言うには、展示会のトラッキングはすでにネットを利用して請け負っているところもあり、そのような業者に依頼するのが手っ取り早いのでは、と言う考えが多いのですが、私は少し違った印象を持っています。(機械メーカー)

《回答》

私のどの講演をお聞きになったのか分かりませんが、大変有り難いお言葉を頂戴し恐縮です。

まず結論を申し上げますと、御社の営業部門が言われているネットを利用したトラッキングはあまり効果がありません。その理由は後ほど述べさせていただきます。

展示会は、企業におけるさまざまなメディア展開で得られた「見込み客」を「顧客」に変換する唯一の装置であると考えています。その理由はとりわけBtoB業界では広告やWEBを見て衝動的に購買に結びつくことは皆無で、言いかえれば広告やWEB (インターネット広告含む)ではけっして受注に結びつかないと言うことです。それらから得た見込み客を最終のクロージング段階である展示会に呼び込み、ここで商談し受注する役目が展示会の大きな責務でもあります。

そこでトラッキングについてですが、BtoB業界ではいくら展示会でクロージングしようとしてもそう簡単にその場で受注することはなかなか難しいものです。一個1000円くらいの製品ならともかく一台数百万円から数千万円もする商品では必ず社内稟議が必要になります。その期間が場合によると半年から二年近くかかることも珍しくありません。その見込み客企業での社内稟議や導入効果の検証プロセスを長期間にわたって追いかけていくのがトラッキングなのです。

通常、展示会で商談した場合、二三回の顧客訪問をこなした後は、相手からの返事待ちと言うことが少なくありません。しかしその間でも相手企業内では導入効果についての議論やコスト効率などさまざまな検証が加えられているはずです。そのプロセスには展示会に集客した別の組織人(社員)がかかわっていることがほとんどです(購買部門や経理部門など)。その人たちにこれでもか、と言わんばかりに熱心にプロモーションしていくことが受注に結びつける重要なポイントになります。

こうしてみれば、展示会終了後のトラッキングはまさに営業活動そのものであると言えます。ただ通常営業と異なるのは、その窓口が多岐にわたることです。これは少々面倒なことですが、担当窓口の方に社内でのキーマンや決裁者を紹介して頂くことで可能になります。

ここまで述べればほぼご理解頂けると思うのですが、トラッキングシステムは通常営業の高度な部類と言え、その商談内容や相手企業の実情などの情報はいわゆる営業日報として機能させることができます。

具体的にではどのようにすればいいのか、を説明します。

まず展示会で商談した企業ごとに「トラッキングカタログ」を作ります。これを印刷物ではなく社内のネット上に立ち上げるのです。ここでは当該企業の概要や導入予測時期、概算予算などに加えて決裁者の所属や実名、企業風土などあらゆる要件を記述しておきます。言わばこれから受注する企業の事細かな状況が一覧できる情報シートです。そしてこのトラッキングカタログは社内の営業担当誰もが閲覧できるような仕組みになっています。

トラッキングカタログを社内ネットワークに立ち上げた瞬間、誰がトラッキング営業を担当するのかが問題になりますが、これは企業それぞれに自薦、他薦。あるいは上長の指名など適宜決めればいいと思います。そしてこのトラッキングカタログの次のページにはトラッキング営業用のシートがあります。ここではASICAモデルのすべての段階に沿って、たとえばアサインメント段階では、顧客要求事項や、現在のニーズと将来の課題、課題が当該企業に与える影響あるいは自社製品や自社技術で対応可能かどうかなどについて日報代わりに記述していくことになります。ここで重要なのはトラッキング営業担当が決まっていても、その日報は社内の営業部門で情報共有していますから、「この顧客なら私がよく知っている。うるさい○○さんという人が購買部門にいるからまずそこを攻めた方がいい」などといった貴重な意見が期待できます。

このようにしてトラッキング営業の日報は従来の営業日報に取って代わるのです。

そこで問題になるのが、展示会での引き合いだけを追いかけていたのでは期首予算が達成できないのでは、と言う課題が出てきます。何しろ大きな展示会はおそらく一年に数回程度でしょうから。それならば、毎月個展を行えばいいのです。つまりくどいようですが、他のメディアでせっかく得られた見込み客をクロージングするのが展示会の役割ですから、展示会は多ければ多いほど受注は拡大します。このようにトラッキングカタログを軸にしてにトラッキング営業を行うことはほとんど毎日見込み客とコンタクトし現状を把握する必要があり、一見大変な手間がかかるように思えます。

そこで各社が利用するのがインターネットを利用したトラッキングシステムなのです。しかしこのシステムの大きな問題は、あくまでもネット上で見込み客の動向を主に自社のWEBサイトの閲覧状況やメールでのやりとりに終始することです。営業の基本は「フェイス・ツー・フェイス」です。相手の顔が見えない営業活動は基本的にはBtoB分野ではあり得ません。したがってメール営業は対面営業とくらべて格段にその成功率は低下します。さらに大きな問題は、見込み客の動向を自社のWEBサイト閲覧に依存していることです。たとえばログ解析によってあるページに長時間滞留していたとなれば、その見込み客は滞留していたページの製品に興味があるのだ、と短絡的に捉えてしまう危険性があります。たまたまあるページを閲覧しているところで会議に参加したために30分間も閲覧していたなどと誤解してしまうこともあります。

このようにしてネットを利用したトラッキングシステムは主にログ解析による自社サイトでの滞留時間などをもとに見込み客のランク付けを行いますが、おそらくそれを繰り返すこと(つまりランキング精度を上げる)によって、最終的にはほとんどの見込み客のランクは最低ランクに収斂し、結果的に思うような成果は得られないと考えています。

くどいようですが、営業活動の基本は顧客と顔を合わせて行わなければなりません。それによって他決しそうな状況であっても、営業担当の人柄や提示資料などによって覆すことが可能になるのです。

文面では少々理解しにくいかも知れませんが、一言で言えば、展示会終了後にトラッキングカタログを作り、それを営業部門全員で共有しトラッキング営業の推移は日報として構築していくと言うことになります。     

代理店の使い方/専門家がいない宣伝部(中小企業)

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ⑮

《質問》

弊社は年間売上高100億円に満たない中小企業ですが、宣伝部員は私を含めて2名です。主な業務は製品カタログ制作ですが、現在は印刷会社にお願いしています。マスメディアの広告は業界紙における製品広告が主体ですが、広告原稿はカタログ同様印刷会社にお願いしています。展示会は通常2小間程度で、営業部隊が取り仕切っており、宣伝部員は装飾の手配が主たる業務となっています。今後業容の拡大に伴ってマス広告や展示会の拡張などが予測され、それに伴って広告代理店の使用を考えているのですが、広告代理店とお付き合いするにあたって必要な事柄や対処の仕方などについてご教示いただければ、と思います。(樹脂部品メーカー・宣伝担当)

《回答》

代理店を使うにあたってまず基本的なスタンスを明確にしなければなりません。それには2つあります。

まず、宣伝業務を通常の仕事と考えてとりあえずうまくこなしていくやり方です。要は、宣伝業務をつつがなく行える体制を作ると言うことですが、他の業務とほとんど変わりがない日常業務となります。

もう一つは、宣伝業務を企業と社会や顧客とのコミュニケーションの重要な役割と認識し、さらにとくにクリエイティブに達成感や喜びをもたらす体制づくりです。

本来宣伝広告業務の醍醐味は後者にあるのですが、現在ほとんどの企業が理屈はともかく前者の体制を組んでいます。その要因として人事ローテーションがあります。宣伝部門に配属されて23年すると他部署に異動ともなれば、クリエイティブのおもしろさや達成感を味わっている暇もありません。したがってとりあえず指示された仕事をそつなくこなすという意味で社外の広告代理店などに丸投げしているケースが多いと思われます。

御社若しくはあなたがどの方向を取るかによって、代理店との接し方も変わってきます。前者の場合ですととくに難しくはありません。適当にオリエンテーションを行えばそこそこの品質のものは出来上がってきます。ただ、代理店はあくまでも代理ですのでクリエイティブに関する仕事は外注されますし、当然営業経費もかかってきます。したがってコストはかなり高めになることは覚悟が必要です。ただ、大手の広告代理店の場合は社内でマーケットリサーチの研究部隊を持っていますので、それらの資料やデータを入手することが可能です。これは社内稟議の際に大いに役立つものです。もちろんそのデータ入手に於いてもそれなりのコストは必要となります。さらに最も問題なのはこのケースは仕事は簡単ですが、社内にノウハウの蓄積が期待できないことです。

御社の現状を考えると、私はむしろ後者を選んだ方がいいと思います。

あなたが広告宣伝業務にどれほど魅力を感じておられるのか不明ですが、社会や顧客に対して企業の最前線でメッセージしていくこの業務は非常に魅力的です。中でもクリエイティブはいわば競合企業やその他大勢の企業との戦争とも言えますし、それに打ち勝ちクリエイティブひとつでオーディエンスの心を動かせるのは広告宣伝業務の最大の魅力であり、使命でもあるのです。

そこでこの場合、時として代理店の存在が邪魔になることがあります。仮に代理店に発注する場合、必ず営業担当と打ち合わせすることになります。もちろんオリエンテーションなどではデザイナーやコピーライターなどのクリエイターが参加する場合もありますが、酷い場合はオリエンテーションですら営業担当しか参加しないケースも見受けられます。オリエンテーションにクリエイターが参加した場合でも、その後のプレゼンでは営業担当との交渉となります。そうすると、代理店内部でどういうことが起こるかといいますと、いわゆる伝言ゲームに似た様相を呈してきます。

とりわけプレゼンの場合、当方の要求を一応営業担当に伝えても、その営業担当がどれほど明確に当方の要求や改善点をクリエイターに伝えているのか非常に疑問に感じる場合が少なくありません。

その繰り返しで何度もプレゼンのやり直しという最悪のケースも生まれてきます。コストは時間に比例しますから、そうなれば当然トータルコストは大きくならざるを得ません。もし広告代理店を使う場合でも、営業担当は抜きにして直接クリエイターと協働したほうがコストも時間も少なくて済みます。

そこで最もコストを安価に、しかも優れた作品を作り上げる方法を提示します。

それは代理店を使わずに直接クリエイター(デザイナーやコピーライターまたはデザイン会社)と取引することです。少々面倒な部分はありますが、このスタイルで行けば自ずと広告や宣伝業務のおもしろさや使命感が身についてきます。

その理由として重要なのは「自社の製品やサービス、ブランドについては当該企業の従業員が最も良く認識している」ということです。本来なら製品や企業理念を熟知した従業員(つまりあなた方)が自ら広告作りを行えば最高なのですが、クリエイティブに関する専門知識がなければそう簡単に進めることもできません。つまり、代理店にしろ外部クリエイターにしろいわゆる外注する意味は、「表現面での専門技術」を頼りにすると言うことになります。そこでは前述した専門技術を持たない代理店営業担当はむしろ余計な存在になってしまうのです。

私は現役時代からクリエイティブに関しては直接デザイナーやコピーライターとともに仕事を行い、充実した結果を残せました。その最大の要因は、自社を最も熟知している私のビジョンや夢、社会に対する提言などをクリエイターが共有してくれて、作品として定着してくれた結果だと考えています。

この場合、けっして一流のクリエイターとチームを組む必要はありません。むしろ若手のこれから伸びようとするクリエイターの方が、ともに成長していこうとする姿勢も見られ、試行錯誤しながらも作品を作る喜びを共有できるものです。

一方製品カタログに関してはもう一つ興味深い手法があります。前述のように製品に関しては誰よりも自社の開発担当や営業担当が熟知しているはずです。それならば彼らをカタログづくりに参加させればいいのです。何も代理店を使う必要もありません。製品カタログは営業担当のツールであり、できるだけ営業担当が使いやすい編集が望まれます。その意味では、たとえば御社の最高の営業担当に模擬商談を行ってもらいます。客先の代理は宣伝担当でいいでしょう。時間は2時間程度徹底的に製品の売り込みを行ってもらい、その内容を録音します。その後、商談内容をカタログに再編集すれば最高に役立つ製品カタログが簡単に出来上がります。編集作業に専門的な知識がなければ、外部のデザイナーに直接依頼してもいいと思います。こうすることによっておそらく製品カタログの製作コストは3050%押さえられるはずです。

いずれにしても冒頭に記した様に、御社が宣伝業務をどのように捉えているかによって代理店の使い方は変わってきます。

 
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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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