河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

コスト効率の良い展示会ディスプレイの手法とは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉜

《質問》

弊社では大規模な展示会が9月にあり、120㎡程度の規模で出展しました。しかし展示会終了後、思ったように集客が得られず、引き合い数も計画を下回り、全社的に展示会のコスト効率が悪すぎるのでは? と言った意見が多くなりつつあります。このままでは次回は規模を縮小する方向で考えています。展示会でのディスプレイはコストがかかりもっと効率の良いディスプレイが出来ないものかと検討しているところです。コストをかけずに多くの引き合いが得られるディスプレイについて、ご教授いただければ幸いです。(機械部品メーカー・広報企画部)

 

《回答》

ご依頼の件はじつは展示会そのものが常に持っている大きな課題です。展示会でのコスト効率は、展示会での成約数を投入したコストで割れば得られます。御社では展示会での引き合いを重視されているようですが、正確には展示会で得られた受注額が重要な係数となります。しかしとりわけBtoB業界では引き合いから受注までの期間が長く、余程精緻なトラッキングを行わないと上記の数式を生かすことが出来ません。このトラッキングの重要性や手法については本稿のシリーズ⑯で述べておりますので参考にしてください。

さて、展示会でのコスト効率を上げるために欠かせないのは、最もコストのかかるディスプレイ費用を出来るだけ押さえることです。米国の展示会サーベイ会社のデータでは、記憶に残る展示会の要素として製品やデモ、説明員が上位にランクされ、ディスプレイや説明パネルは悲しいほどランクは低い結果となっています。

言うまでもなく展示会終了後の来場者の記憶残留率は、その後の受注に大きく影響します。しかしディスプレイや説明パネルはほとんど記憶されず、結果的には受注への寄与度はかなり低いと見ざるを得ません。

このデータの信憑性を確認するために、私が個人的に一昨年数件の展示会で調査をしました。その内容は「説明パネルは本当に記憶に残らないのか?」というテーマで調べた結果、平均すると来場者一人当たりが説明パネルを読むのに費やす時間は僅か20秒でした。20秒と言えば字数で換算すると130字前後となります。つまり彼らは説明パネルを読んでいるのではなく、見ているだけなのです。そこには多くの文字が羅列され印象的なビジュアルはほとんどありません。これでは記憶されないのも無理はないでしょう。

それにもかかわらず現在の各社のブースを眺めてみると、相変わらず文字だらけの説明パネルのオンパレードです。これだけでもコスト効率を大きく下げている要因になります。

ではどのように改善すればよいのかお話ししたいと思います。まず説明パネルをブースから排除すること。読まれもしない文字で構成されたパネルなど無用の長物です。しかし読まなくても少なくとも20秒間は見ています。それなら見て分かるようなグラフィック主体のパネルに置き換えることが効果的かも知れません。ただパネル形式だとどうしてもグラフィックの表現面で限界があります(挿絵的にならざるを得ない)。そこでいっそのこと壁面全体をグラフィックで埋め尽くすことにチャレンジしてはどうでしょう。いわゆるインフォグラフィックス(情報デザイン)で壁面を構成するのです。その代わりブース全体の造作は極めてシンプルにすることでコストも抑えられます。

文字を使わずにグラフィックで表現するとなるとかなり熟練したデザイン能力が必要になりますが、展示会のコスト効率を上げるには致し方ないことです。

ブース全体をインフォグラフィックスで構成された企業は今のところ目にしたことがありませんが、おそらく今後この手法が展示会ディスプレイの主流になってくると思っています。

とかく説明パネルでは説明したい事柄を思う存分語りすぎて、その結果文字だらけのパネルになってしまっているのです。しかし一方でインフォグラフィックは情報を抽象化していますから、見ただけでは即座に理解できず、かといって気になる数字や図表が描かれていればどうしても説明員に問いたくなるものです。ここで説明員と来場者とのコンタクトポイントが得られます。結論を言いますと、来場者が説明して欲しくなるような、また説明員が説明したくなるようなブースデザインが最も効果的なディスプレイと言え、コンタクトポイント画像化し結果的に引き合いも増えてくるのです。紙幅の関係からこれ以上詳細は割愛しますが、なぜこの手法が効果的なのか、展示会のコスト効率が上がるのかについては別項「カタリスト・マーケティング」について述べていますので参考にしていただければ、と思います。

もう一つ別の観点から展示会のコスト効率を改善するとっておきの手法を紹介します。それは、リユーザブル(使い回しが出来る)のブースシステムです。私が現役の頃に実現させましたが、このシステムはブース全体を壁面や柱、展示台など数種類のモジュールから構成されています。しかも各モジュールにはあらかじめ電気配線が施され、モジュールを組み合わせるだけで電気設備が整ったブースが簡単に構築できます。当時は為替が110円の時代でしたので、ブースシステムは米国で製作しました。米国だと安価な建築部材は選ぶのに苦労するほど多くあります。ここで重要なのは、使い回ししますから汚れや傷が目立たない建築部材を使用することです。当初は5年償却のつもりで総予算5500万円で製作しました。対応ブースの規模は0.8㎡から216㎡と設定しました。モジュールの組みあわせで様々な規模に対応できます。組み立ては六角レンジ一本ですべて対応可能な特殊な連結金具(これも米国製)を使用しました。

結果的には5600万円かかりましたが、従来方式に比べて年間で2000万円のコスト削減を実現しました。ちなみに当時の年間展示会コストは出展料などすべて含めて約9000万円でしたから、20%以上のコストダウンが可能になったのです。現在このようなリユーザブルのブースシステムを利用している企業は皆無ですが、その最大の理由はまずイニシャルコストが大きすぎることと膨大なシステムの保管場所の確保やコストの問題だと思います。しかしそれらのコストを加味しても上記のように年間20%以上のコスト削減が可能になったのは事実で、各社ももっとこの手法を利用すれば効率的な展示会運営が可能になるはずです。

上記のようにコスト削減に大きく寄与するということは、たとえばインフォグラフィックスにもっとコストを投入するとか説明員教育を徹底するなど、米国リサーチ会社のデータにある記憶に残らないブースデザインと説明パネルを改革することと、ブース全体を活性化させるカタリスト・マーケティングにコストを振り分けることが出来るのです。そして何よりも、展示会でのコスト効率を考えれば、たとえ展示会において受注がなくても年間2000万円の利益を展示ブースそのものがたたき出しているという見方をすれば、この手法も一考の余地があると思います。

社会に通用するコンセプトメイキングのしかた

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉛

《質問》

弊社はIT周辺機器を開発販売している中小企業で、競合企業が多い中企業ブランド強化のために組織の再編も含めて検討しているところです。従来は特別な広報宣伝部門はなく、営業部門でカタログ制作や展示会に対応してきました(すべて外注です)。ブランディングにあたって、まずコンセプトを明確にする必要があると代理店から提案があり、現在コンセプトの策定に四苦八苦しているところです。
私自身恥ずかしながらコンセプトをどのように設定すればいいのか、またすべて代理店に任せて済むものなのか良く理解できていません。そこで、企業ブランド再構築のために必要なコンセプト作りの手法などがありましたらご教授いただきたく、よろしくお願いします。(IT機器メーカー・営業部)

  

《回答》

今回のご質問の趣旨は、御社の企業ブランド強化(ブランディング)を目的とするために、コンセプトを策定するということだと理解します。

まず、どんな企業にとっても最も大切なのはコーポレートコンセプトです。コンセプトという文言はよく使われるのですが、その本質を理解されているケースはあまり目にしません。コンセプトが「目的」や「目標」とすり替えて安易に使用されている場合が少なくないのです。

さらにコンセプトは企業哲学のようなもので、当該企業のあらゆるモノや人、組織にも関与します。したがってとりあえずの流れを述べるとすれば、コーポレートコンセプト→プロダクトコンセプト(開発業務を含む)→組織編成コンセプト→人材育成コンセプト、という流れになります。その他、サービスや販社との関係構築にあたってのコンセプトも存在するでしょう。

そこでご質問のあったコンセプトメイキングについて、ですが。正直なところ各社とも非常に軟弱なコンセプトメイキングがなされているのが現状です。それは上述した「目的や目標」さらには「ビジョン」にすり替えられたフレーズをコンセプトと称しているもので、ビジネスオリエンテッドな現状ではある意味で致し方ないかも知れません。

しかしコンセプトは企業哲学であり、まずは当該企業がその哲学に基づいて社会に対して何をメッセージすべきなのかを考えることからコンセプトメイキングは始まります。

そこで大きな問題を抱え込むのがコンセプトメイキングをマーケティングの一環として理解してしまうことです。コンセプトとマーケティングはまったく関係有りません。現在はどの企業もマーケティング重視の傾向が強くなりつつあるのも、前述した軟弱なコンセプトが誕生する要因だと思っています。

つまりどういうことかと言いますと、マーケティングは販売を目的として、マーケットや社会の現状におけるニーズをリサーチすることですが、これでは得られるデータはマーケットや社会の現在の要望や要求になってしまいます。

コーポレートコンセプトは決してマーケットや社会に迎合したモノではなく、その企業独自のメッセージであるべきです。流行も関係有りません。誰が何を考えようがそれも関係有りません。ただひたすら自社にとってマーケットや社会にどんな貢献が出来るのかを自分たちで考えることが重要です。

簡単に言いますと、コンセプトメイキングで重要なのはマーケットや社会の意見を無視するということです。これはよく考えれば当たり前なのですが、たとえば同業社がマーケティングリサーチをしてコーポレートコンセプトを策定すればどのような結果が待っているでしょう。マーケティングリサーチの精度が高ければ高いほど、どのような企業も同じデータを得ることになってしまいます。その結果コーポレートコンセプトも独自性がなく歯の浮いた似たようなコンセプトになるのです。さらに恐ろしいのがそのコンセプトに基づいてプロダクトコンセプトや組織編成コンセプトに至ればまた他社と同じような商品や組織形態が生まれ、もはや企業そのものがコモディティー化する要因を作ってしまいます。

最近、どの企業も同じような商品ばかりで結果的に価格競争に陥ったり、同じような組織形態で似たような人材が多くなっているのはこれが原因です。

いうまでもなく企業が勝ち残っていくためには、マーケットや社会に媚びず、独自の技術と独自の経営手法によって企業運営していくことが大切です。この根幹になるのかコーポレートコンセプトなのです。

したがってまずコーポレートコンセプトを策定するにあたって重視しなければならないのは、「御社のシーズが何か」を明確にすることです。ニーズは無視した方が混乱しません。そしてそのシーズを元にして、現在ではなく未来のマーケットや社会にどのように貢献できるのかを考えることですが、ここで良くやる失敗は外部コンサルタントや代理店に依頼することです。自社のシーズや社員の特性は自社が最も良く理解しています。それを外部のブレインに頼ってしまうと、外部ブレインが理解できないことをマーケットや社会に求めようとして前述したマーケティングリサーチへと進んでしまうのです。これは絶対に避けなければならない大切な部分であり、しかも最も重要なスタートラインです。

ここで得られたメッセージにはいくつかの種類があります。

まずは、単純にメッセージとして社員や取引先に周知すること。この場合基本的にはコーポレートコンセプトはメディアなどでマーケットおよび社会に周知する必要はありません。あくまでも基本的なコンセプトとして社内の誰もが理解することが先決です。

もう一つは積極的にマーケットや社会にメッセージする方法があります。この場合は、単なるメッセージではなく、未来のマーケットや社会に対する課題提供や啓発活動の一環として捉えます。

私は数々のメディアで一貫したコーポレートコンセプトを展開するには後者の方が良いと思っていますし、その方が遥かにマーケットや社会に対するインパクトは強くなります。所謂メッセージ広告というのはこのような課題提供型の広告のことを意味しています。

さて、このようにしてコーポレートコンセプトが明確になれば、前述したプロセスでプロダクトコンセプトや組織編成コンセプト、さらには人材育成コンセプトへと繋がっていくわけですが、いずれもコーポレートコンセプトがその中に活かされていなければなりません。とりわけプロダクトコンセプトを策定する場合、マーケットを意識しすぎて、大きな間違いであるニーズを追いかけたコンセプトを策定してしまいがちです。技術革新が超スピードで進行する現在、ニーズを追いかけていては商品化された時点でそのニーズが陳腐化してしまいます。

そしてブランディング作業は、コーポレートコンセプトさえしっかりと策定できれば、それに沿った形でメディアごとに表現を変えて多様な広告展開が可能になります。

大切なのは、ブランディングを先行させて、コーポレートコンセプトを後付けすることは絶対に避けるべきだということです。

よくブランディング策定の際に議論される「マーケットや社会にどのように思われたいか」などといった主体性の欠如した視点ではなく、堂々と「どのように思われても良い。我が社はこうだ」とメッセージすることが、じつは最もアピール力を生むことを忘れてはなりません。

デジタルマーケティングについてのご相談

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉚

《質問》
 

最近弊社では営業部門を主体として、デジタルマーケティングの導入を検討しています。弊社は金属加工の中堅メーカーで、年間売上高は500億円程度です。顧客は自動車業界をはじめ多岐にわたります。我が社のようなBtoB企業にとって、デジタルマーケティングがどの程度効果が有るのか、またそもそもデジタルマーケティングを導入するとすれば、何から初めて良いのか迷っているところです。BtoB企業におけるデジタルマーケティングの効果や可能性などについてご教授いただけたら幸いです。(金属加工業・企画室) 

《回答》
 

デジタルマーケティングは最近になって急速に注目され、導入を急ぐ企業も増え始めています。一方で、デジタルマーケティングの意味やその効果についてはまだまだ十分に理解されていないところもあります。
 

デジタルマーケティングは当然のことながらインターネットとWEBサイトの普及、さらに最近注目されているビッグデータの取り回しが可能になったことで、一挙に耳目を集めるようになってきました。
 

ビッグデータのマーケティング分野での有効性については、本稿ですでに述べておりますのでご参考いただければ、と思います。
 

さて、ご質問のデジタルマーケティングがどれほどマーケティングやセリングに効果が有るのかと言うことですが、結論を申し上げると、とりわけBtoB企業ではほとんど効果は期待できないと考えます。
 

その理由は、ひと言で言えばすべてデジタルで情報処理を行う事に要因があります。そもそもデジタルマーケティングは、商材の販売や新製品開発に有効なデータをもたらすことを前提に捉えられています。
 

データのすべての要素は、当然のことながら「人」の行動変容や心理変容が係わってきます。しかし人の心理や行動は、すべてデジタルで表現できるものではありません。むしろ、デジタルでは表せないアナログ的な変容の方がマーケティングにとっては重要な要素になります。
 

それがBtoB企業となればなおさら難しい問題を孕んできます。得られたデータが個人の変容なのか企業の変容なのか明確に判断することは困難です。というよりも、企業の変容というのは考えられず、それは企業という組織に属する組織人(市井人とは異なる性格を持つ個人)の変容と考えられるでしょう。
 

これらの不可解なデータを元にしてマーケティングに生かそうというのがデジタルマーケティングなのです。
 

そこで少し寄り道をしてマーケティングについて述べたいと思います。
 

我が国に本格的にマーケティングの概念が導入されたのは、およそ50年前くらいです。それまではマーケティング理論などは眼中になく、ただひたすら各企業は顧客と親密な関係性を構築し、その結果として業績に寄与させてきました。ここではマーケティングではなく、セリングが顧客との接点として最も重要な概念だったのです。
 

そして今から50年前にマーケティング理論が紹介されるやいなや、大手企業を中心にこぞってマーケティングに注目するようになりました。その結果はどうでしょう。為替の問題などグローバルな要因があったにせよ、50年前と比べて各大手企業の業績や活力は大きく変化したでしょうか? 私はほとんど変化なく、むしろマーケティングの導入によってセリング(売る力)が弱くなってきているようにも感じます。
 

つまり、「マーケティングがセリングを弱体化させた」と考えています。
 

それが今度はすべてデジタルでマーケティングを行うという、非常に乱暴な手法に各社とも血眼になっています。その根底にあるのは、間違ったマーケティングの考え方と、企業における経営効率の追究です。そこで経営効率の追究について見てみましょう。御社でも当然インターネットや社内ネットワークは十分に整備されていると思います。その結果経営効率はどの程度向上しているでしょう? 確かに在庫管理や工程管理などは格段にデジタル化の恩恵を受けているでしょう。しかしこの効率化された業務はすべて「状態管理」の部分なのです。

 デジタル化によって状態管理は従来の手作業から代替した結果、飛躍的に効率化がなされました。しかしその一方で大変重要な要素を置き去りにしていることも確かです。その最も大きいのが「個人のコミュニケーションスキルの低下」です。とりわけメールコミュニケーションやスマホに慣れた若年層にその傾向が強く見られます。そして皮肉なことに、我が国を世界一の経済国に押し上げた企業のセリング(売る力)は、この顧客とのコミュニケーション力によって大きく左右されます。
 

さらに大きな問題は、最近どの企業からも驚くような新製品が生まれてこないことに代表されるように、商品開発力も落ち込んできているのです。前述のコミュニケーション力と商品開発力は、企業の状態管理による効率化よりも遥かに重要な資産とも言えます。これらが弱体化した要因は、すべてデジタル化された企業経営にあると言っても過言ではないでしょう。
 

先に、我が国にマーケティング理論が導入されてから企業の弱体化が始まったと述べましたが、それはよく考えれば当たり前のことです。つまり有効なマーケティング理論があったとして、各社がそれを導入すればどうなるでしょう。どの企業も同じような商品を開発し同じような売り方をする。それでは売れないどころか価格競争に陥るのは目に見えています。だから最近は驚くような新製品を目にすることが少なくなったのです。企業も社員もコモディティ化された結果であり、それを促したのが経営の側面にまでデジタル化を進めたことなのです。
 

ご質問のデジタルマーケティングはまさにこの悪弊をさらに強化することになります。どんな有能な社員もいずれはコモディティ化され、自らの大切な独自性を発揮できなくなるでしょう。そして企業にしても皆同じような製品を世に出し、同じような売り方をし、最終的には価格競争に巻き込まれるでしょう。
 

もしどうしてもデジタルマーケティングを導入するならば、そこから得られたデータを読み解く能力を合わせて育成しなければなりません。つまり同じデータを元にしても他社とは違った結論を導く能力です。ここでは個人が持つ「勘」がものを言い、データ解析をデジタルで行うなどもってのほかです。
 

デジタルマーケティングを本格的に導入しようとするとシステム構築だけでも膨大なコスト負担が強いられますが、それを回収するためには、データベースに現れないいわゆる行間を読む力や未来を予測する能力(勘)が不可欠となってきます。皮肉なことにこの二つはいずれもデジタルとは相容れないところに存在するものなのです。

デジタルマーケティングの根幹は、様々なデータによる現状解析によって未来(将来売れる製品開発)を探索することだと思われがちですが、上述した「人」の心理変容や行動変容は、決して過去と現在の延長線上に未来があるとは言えないことを充分理解しておく必要があると思います。       

BtoB企業の効果的な製品広告とは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉙

《質問》
 

弊社はグローバルに事業展開している機械メーカーです。おもに工作機械や産業ロボットを開発・販売しています。従来から専門紙や業界紙を中心に広告展開しています。しかし広告効果が本当にあるのかどうか社内でも議論になることがあります。営業部門はBtoB企業では広告効果はあまり期待できない、それよりも展示会やカタログに注力すべきだという意見が強くなりつつあります。私は各メディアを万遍なく利用して広告展開すべきだと思っているのですが、効果が云々と言われるとどうしても営業部門を説得することができません。我が社のようなBtoB企業での製品広告を効果的に展開するにはどのような取り組みが重要なのでしょうか。(機械メーカー・コーポレートコミュニケーション部)
 

《回答》
 

最近はインターネット広告などネットを主体としたプロモーションが注目され、旧来の印刷メディアでの広告展開にネガティブな意見が少なくありません。その要因として、新聞や雑誌メディアの購読部数の減少が上げられますが、もっと重要なのは広告効果測定での引き合い件数の出所が不明確なことが問題視されているのでしょう。
 

ここではインターネット広告は除外して、新聞広告や雑誌広告などの旧来のメディアでの広告展開について述べていきたいと思います。
 

まず広告効果測定の重要な係数になる引き合い件数のカウントの仕方ですが、最近はメディアからの引き合いはほとんどないと考えられます。1990年頃から普及しだしたインターネットによって印刷メディアでの引き合いはWEBサイトを通じて得られることがその要因です。したがって新聞や雑誌メディアからの引き合いがないからといって、広告効果が少ないとは言い切れないことを充分認識しておく必要があります。つまり、現在は印刷メディアに限らずほとんどのメディアからの引き合いは、一旦WEBサイトを通じて得られると考えなければなりません。
 

WEBサイトから得られた引き合いがどのような経路を辿って来たのかはログを解析すればある程度分かります。おそらく何らかのメディアでの情報が起点となって検索されWEBサイトに到達していることが理解できると思いますが、どのようなキーワードでどのページにアクセスされたかによってそれが広告によるものなのか他のメディアによるものなのかはかなりSEO対策を綿密に施しておかなければ判別できません。
 

御社の営業部門が「BtoB企業では製品広告の効果はあまり期待できない」と思われるのは以上のような現象が元になっていると考えられますが、決して製品広告の効果がないのではなく、効果測定の係数が変化していることを充分理解すべきです。
 

ところで、ではどのような製品広告が効果的なのか、についてお話ししたいと思います。

 すでに御社では専門紙や業界紙を利用されていますので、メディアの選択に関しては大きな問題はないと思います。問題はどのような広告クリエイティブなのかですが、とかくBtoB企業が行う製品広告はいわゆる「カタログ広告」になる場合が多く見受けられます。これは充分気をつけた方がいいでしょう。

 とりわけ営業部門が主体になって広告展開する場合、幾つものセールスポイントを列挙したり、細かなスペックを記載してまるでカタログのようになってしまっている広告を見かけることが少なくありません。要するに新聞や雑誌メディアに「チラシ」を掲載しているのとほぼ同じ考え方です。広告をこのように煩雑な特徴やスペック、写真で盛りだくさんにしたくなる気持ちは、少なくとも営業サイドに立てばよく理解できますが、最早このような広告は広告とは呼べない代物になってしまっています。
 

広告の重要な役割は「引き合いを得ること」です。一方でカタログの役割は「製品を販売すること」です。ただカタログの場合はそこに営業担当が介在しますから、あくまでもセールスツールとしての役割になります。

このように役割が明確に違うにもかかわらず、広告にカタログ機能を持たせることは非常に効率が悪くなります。まずポイントが明確でなく多くの特徴が列挙されたり細かなスペックが記載されてしまうと、営業サイドとしては「ん、これで十分だ」と思いがちですが、広告で製品が売れることは期待できないことは以前本欄でも述べています。
 

BtoBにおける購買プロセスから考えると。まず重要なのは広告で購買を期待するのではなく見込み客を得ることなのです。それが広告でほとんどカタログの焼き直しのようなクリエイティブであれば、そこで良くも悪くもある程度製品が理解されWEBサイトに誘導することができません。一方で、WEBのプロモーションサイトに比べるとあまりにも広告の内容では貧弱になってしまいます。したがって、中途半端に理解されてWEBサイトにも誘導できない、つまり見込み客が得られないという最悪のケースが待ち受けているのです。
 

つぎに製品広告の効果的な取り組み方、についてお話ししたいと思います。
 

まず重要なポイントは「語りすぎないこと」です。広告でカタログのようにすべてを語るのではなく、一つか二つのセールスポイントに絞ってそれを印象的なビジュアルや場合によればインフォグラフィックなどを駆使し、さらにオーディエンスの心に訴えるヘッドラインで構成することです。たとえば新聞で全15段という大きなスペースであったとしても決して語りすぎてはなりません。言い方を変えれば「?」や「なぜなの?」「なるほど」といったオーディエンスの心理変容を起こさせ間髪を入れずにその「?」を理解させるためにWEBサイトに誘導できる広告が現在では優れた製品広告だと言えるでしょう。
 

すべてを語らずなかば中途半端な広告にはおそらく営業部門から猛烈な拒否反応が出てくると予測されますが、何度も述べるようにどんなに頑張っても広告ですべてを理解させるには限界があり、しかもBtoB分野ではいわゆる衝動買いが期待できないため、広告で製品が売れることは皆無と言えます。製品広告の役割はWEBサイトへの引き合いを得ることを営業共々充分認識しておかなければなりません。
 

ではどのようなコンテンツが製品広告に有効なのか、ですがこれはターゲットによって異なってきます。ターゲットが顧客企業の現場サイドであれば、顧客企業が抱えているであろう課題に対するソリューションを前面に出すべきでしょう。課題とソリューションを上手く一体化して広告展開できれば最高です。ここでは当該製品の特徴やスペックなど必要なく、その製品を導入することでどんな課題が解決できるのかを端的に示唆すべきです。ターゲットが顧客企業の決裁者の場合は上記の他に、導入効果を具体的に理解されるヘッドラインが生きてくるでしょう。ここでも細かな製品特徴やスペックは必要ありません。詳細はWEBサイトで説明できますから。
 

 紙幅の関係上あまり多くは述べられませんが、BtoB企業における製品広告の最も重要なポイントは、「語りすぎないこと」なのです。その一方でWEBサイトのランディングページやプロモーションサイトを充実させておくことが重要なのは言うまでもありません。つまり印刷メディアの広告とWEBサイトが一体化されたプロモーションが最も効果的な広告だと言えるのです。     

宣伝部長の役割

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉘

《質問》
 

私は現在金属加工会社の宣伝部をとりまとめています。といっても、この4月に宣伝部長を仰せつかったばかりで、それ以前は人事部に所属していました。人事異動に際して、会社の上層部からは、「とにかく前任者の流れで上手くやってくれればよいから」と言われ引き受けざるを得ませんでしたが、正直なところ宣伝や広告に関する知見はまったくなく、会社の期待にどれほど応えられるのか心配です。部員は5名おりますが皆ベテランです。その中の一人から貴協会はBtoB広告の専門機関だと知り(申し訳ありませんが会員ではないです)、まず宣伝部長として今後どのように業務を遂行していけばよいのかご教授をいただければ、と思いご相談申し上げる次第です。大変お恥ずかしいことですが、どうかよろしくお願いします。(金属加工業・宣伝部長) 

《回答》
 

最近はどの企業も人事ローテーションが激しくなり昔のように広告や宣伝の専門家が宣伝部長になることは珍しくなりました。したがって何も心配されることはありません。
 

宣伝部の業務は大きく分けて広告宣伝予算の獲得、広告宣伝媒体の選別、クリエイティブ業務、媒体への発注作業、広告効果測定などがあります。この中で宣伝部長として最も重要な仕事は、ズバリ「広告宣伝予算の獲得」です。最近はほとんどの企業が利益至上主義に陥り、そのしわ寄せで極力経費を削減する傾向が顕著になってきました。そんな中で予算の獲得は非常に困難な業務でもあります。

 じつは企業が経費削減の一環として広告宣伝費をターゲットにする理由のひとつとして、未だに広告宣伝部門を「コストセンター」と間違って認識していることが上げられます。広告宣伝はひいてはブランド形成や販売促進(プロモーション)に欠かせない業務であり、いわば「プロフィットセンター(利益を生む部門)」なのです。

 これが理解されていないと予算獲得に非常な無駄骨を余儀なくされてしまいます。まず経理部門にこのことを充分説得されることが重要かと思いますし、そのためにはある程度の理論武装が必要です。広告宣伝部門がプロフィットセンターであることは、販売促進面から見れば受注獲得のため、そしてブランド形成の側面から見れば企業価値の向上のために行う「投資」業務であることからも明白です。決して経費ではないのです。
 

販売促進面では短期的には半年程度でリターンが得られますし、ブランド形成面では5年程度は必要になりますが、強力なリターンをもたらします。たとえばある一定のブランド形成が行われれば、極端な場合営業活動が多少貧弱でも不思議なことに製品は売れてしまいます。その閾値がどのあたりにあるのかは明言できませんが、いずれにしてもこれらが「投資」である証拠として認識できます。
 

それではいったいどのくらいの広告宣伝費が妥当なのか、ですが一般的にはBtoB企業の場合ルーチン作業では売上高の0.65%程度が標準額だと言えます。これにブランド強化や何かのプロジェクトが加われば、売上高の0.81%程度は要求しても差し支えありません。とりわけリブランドなど重要プロジェクトのケースでは1.2%程度は必要になってくるでしょうが、それも前述したように初期のブランディング目標が達成できれば5年程度経てば間違いなくリターンが増加し、広告宣伝費のもとは充分取り返せます。この5年を待てず、すぐにリターンを求めることが経理部門ではある種の責務になっており、そのために広告宣伝費を経費として削減対象にしてしまっているのです。
 

まずは広告宣伝費を投資の観点から捉え、十分納得のいく予算を獲得されることが宣伝部長の一番の役割でもあります。
 

ここで私独自の考え方ですが、「部員一人当たり広告宣伝費」について見てみたいと思います。広告宣伝費は宣伝業務を行う部員にとってお小遣いではなく「飯」なのです。飯がなくては戦はできないと言われますが、まさに広告宣伝業務は同業他社との戦の場なのです。部員一人当たり広告宣伝費が少なければ戦ができないどころか、モチベーションは下がり基礎体力(クリエイティブやコンセプトメイキング力)が低下してきます。これは企業にとって死活問題でもあります。まず部員一人一人に十分な飯を与え競合企業との戦に備えることが肝心ですが、企業にとって見れば経費が少なければ少ないほど喜ぶ不可解な状況が散見できます。これが将来の負け戦にボディブローのように効いてくるのがおそらく理解できないのでしょう。
 

次に重要なのが宣伝部長は「二股稼業」であることです。つまり片足は社会や顧客企業の側に立ちながら、もう一つの足は社内に置く、と言うことです。現在ほとんどの企業がそうであるように、広告宣伝のメッセージやアピールはインサイドアウトの傾向が非常に強くなっています。本来広告はオーディエンス(社会や顧客企業)に感動を与え、その対価としてレピュテーション(評判)や受注が得られるのですが、どうしても企業システムの中ではオーディエンスを無視したインサイドアウトの業務プロセスが一般的になっています。

 その卑近な例は至るところにありますが、たとえばどの企業でも行っているクリエイティブの上司承認や役員承認です。広告にとってクリエイティブはオーディエンスの心を打つ最も重要な要素ですが、それを社内の上層部にお伺いを立てることが当たり前のようにまかり通っています。いくら社長と言えども役員と言えども、クリエイティブにとっては全くの素人です。なぜそんな素人の意見を重要視し、オーディエンスの意見を聞かないのか不思議でなりません。インサイドアウトの典型的な例です。

 この場合、いちいちオーディエンスの意見を聞くのは確かに面倒ですし、オーディエンスですらクリエイティブに関しては素人です。それならば、幸いにも御社の部員の方はベテランが5名もおられるようですので、そのベテランにすべて任せてしまえばいいと思います。企業におけるすべての業務のコスト要因は時間によって決定されますが、このようにして5名のベテランを信じて好きなようにクリエイティブに精を出してもらうことでかなりのコストセーブが可能になり、その分をまた投資に回せます。
 

最後に重要なポイントを申し上げます。オーディエンスに感動されるようなアウトサイドインに基づいた広告宣伝活動やブランディングを行う際、決して「ニーズ」に振り回されないことです。現在のように技術革新が急速に進展している時代、ニーズは早晩解決されます。広告の企画や制作には少なくとも半年程度はかかります。「今のニーズ」をもとに広告戦略を立てても出稿段階ではそのニーズは解決されているかも知れないのです。そうなるとその広告は時代遅れの烙印を押されてしまいます。
 

ではニーズではなく何が必要かと言えば「課題」です。それもだれも今気づいていない社会や顧客企業に潜む課題を発掘し、そのソリューションを広告やカタログなどを通じて提示していくことです。だれも認識していない課題を提示し、そのソリューションを提供することで、オーディエンスに感動を巻き起こし、御社の信頼性と独自性はますます強固になり、結果的に強力なリターンが待っているのです。

   
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★プロフィール
河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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