河内英司のBtoBコミュニケーション

広告/マーケティングの側面からと、無駄話。

残業規制強化の中、クリエイティブ業務をどのように効率化すればよいか

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉟

《質問》

最近弊社では働き方改革の名の下で残業規制が強化され、とりわけ我々のようなクリエイティブ業務に携わるものにとって非常に仕事がやりづらくなってきています。広告相談室にお問い合わせするのは場違いとは知りつつも、このままではクリエイティブに専念することが大変難しくなってきているのが現状です。そこで少しでもクリエイティブ業務を効率化する方法などがあればご教示いただきたく、あえて問い合わせさせていただきました。(金属製品メーカ・コーポレートコミュニケーション部)

 

《回答》

ご相談の内容から貴方はクリエイティブ業務を担当されていると推察します。それが広告代理店などの外注と共に行うものなのか、自ら内制されるのか不明ですのでそのいずれについても対応方法を述べたいと思います。

まず貴方は「クリエイティブ業務の効率化」をめざしておられますが、その根拠となるのは残業規制、つまり業務時間の削減だと思います。そこでまず効率化しなければならないのは、クリエイティブ以外の業務です。クリエイティブ専任と言っても様々な事務的な業務が発生しますし、それに取り組む時間はけっして少なくありません。その代表例が「会議」です。御社では最近会議が増加していませんか? これは最近多くの企業に共通していることですが、やたら会議やそのための資料作成が増えてクリエイティブに費やす時間が損なわれていると言った声を耳にします。

もとより会議はある案件の検討や決定に際して、表向きは多様な意見をもとに議論を行い最適な結果を求める、ということだと思われていますが実際は単なる責任の分散にしか過ぎません。しかも問題なのは、会議を行うことによって結果は最大公約数的に可もなく不可もなくの状況に落ち着くか、次回に再検討となることが往々にしてあります。実際米国のある大学での実験では、会議を行うことによって参加メンバーのIQは徐々に低下するというデータがあります。この結果が何となく頷けるのは、会議中発言者と参加メンバーとの関係性を見ればよく分かります。参加人数が多ければ多いほど発言の機会、つまり議論の機会は少なくなり、残りの時間は他人の話を聞いているか他のことを考えているか、居眠っているかのいずれかになります。

また参加メンバーの一人当たりの人件費を算出すると、会議にどれほどのコストが費やされているのかよく理解できますが、ほとんどの場合コストに見合わない結論が出ているはずです。

会議の最小単位は一対一で行う「相談」や「連絡・報告」になりますが、これも無駄な時間と考えられます。会議をやめ、相談や連絡・報告は出来ればやめた方が効率的ですが、報告と連絡がどうしても必要なら1分以内に済ますよう努力すべきだと考えます。

会議に限らず様々な書類づくりや事務作業も同様で、これらの業務も本当に必要なものだけに限定して作業するようにした方がいいと思います。意外に「やらなくても問題なかった」という作業が多く存在しているのは事実です。

さてクリエイティブの効率化についてですが、本来クリエイティブ業務と時間との相関関係はありません。たとえばあるコンセプトを決めるのに5分で済む人がいれば1週間かかっても結論が出ないという人もいます。したがってクリエイティブ業務の効率化は不可能と言えます。

内制を行う場合、DTPなどデジタルを駆使して作業することが効率化だと思われるかも知れませんが、それはクリエイティブではなくクリエイティブを定着化させるための作業の効率化なのです。ここでもデジタル化の普及によって意外にも作業効率が低下している様子がうかがえます。パソコンでクリエイティブ作業を行う場合、一昔前と比べて大きく効率が落ちていることにあまり気づかれていません。

昔のアナログ時代はクリエイティブを決定すれば後は手作業に移行しました。この手作業はあらかじめ設計したクリエイティブにしたがって自動的に行ういわば事務的な作業と言えます。私が現役の頃はこの時間をじつは次のクリエイティブの発想に用いていました。つまり同時に二つの業務を行っていたことになります。

それが現在ではパソコンに向かってクリエイティブの定着作業を行う場合、どうしても他のことを考える余裕がなくなってきています。脳の働きがどうなのかよく分かりませんが、現実的に私自身も現在は昔に比べて効率が落ちている気がしています。そこで重要なのは定着作業は極力事務的に済ませることであり、そのためにはクリエイティブ段階で充分サムネイルやラフスケッチを手書きで準備しておくことです。

さらにクリエイティブはいわば24時間考える余裕があります。食事をしていても遊んでいても自由に考えを巡らすことが出来るのです。だからクリエイティブの効率化はあり得ないというわけです。

一方代理店などと共に作業をする場合の非効率の最大の要因はじつはコンペ方式による制作業務です。複数の代理店に対して同じようなオリエンを行う無駄。代理店から提示されたプレゼンを、けっしてプロダクションのクリエイターよりも能力が優れているとは思えない人たち(役員など)による審査。そして審査結果に基づいた無意味なやり直しなど、上げればきりがありません。

代理店に外注する場合、まずコンペはやめること。そしてオリエンは必要最小限の内容に絞って行う事。提示されたプレゼンは余程の問題がない限りは受け入れること。ここではけっして個人の好みで作品の善し悪しを決めないこと。これがクリエイティブに付随する作業を最も効率化する要因になります。

クリエイティブを外注する場合、内制では出来ないレベルの質を持つ作品を求める訳ですから、そこで何だかんだとクライアント風を吹かせて難癖をつけることは非常に非効率的と言えますし、道理にも合っていません。

このように代理店(専門家集団)と共に仕事をすれば、クリエイティブの質は上がりクリエイティブ効率も格段に良くなるはずです。さらに重要なのはコンペ方式をやめることによって同じ代理店や同じクリエイターと長く付き合うことになりますが、これがますますクリエイティブの効率化に寄与する点です。同じクリエイターと永年にわたって制作業務を行う事によって、徐々にクリエイター自身もクライアントの事情が理解でき製品や技術に関しての知識も豊富なってきます.その結果、オリエンすら必要なくなることも考えられるのです。

最近はガバナンスなどややこしい制度によってどうしてもコンペが必要となる場面があるかも知れません。しかしガバナンスが必要としている「合意形成」が、じつはクリエイティブを確実に低下させることも忘れてはなりません。

結論として、まずクリエイティブの効率化は不可能であるが、クリエイティブ作業の効率化は大きく改善できる余地があること。そして会議や相談など無駄な時間は極力削減することがひいてはクリエイティブに費やす時間の確保に繋がることをご理解いただければ、と考えます。

マーケティングとセリングの違いをご教授ください

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉞

《質問》

もう数年前から弊社ではマーケティング重視の掛け声の下で、マーケティング部門を新設し営業活動を行っています。しかしその一方で目立った業績の変化は見られません。私自身は三年前まで営業部に所属し、その後現在の広報宣伝部に異動しました。業績への裏付けが明確でないにもかかわらず、未だに弊社ではマーケティングのデジタル化やオートメーション化の議論に躍起になっていますが、個人的にはいささか疑問点があります。そこでお尋ねしたいのですが、マーケティングと営業との違いはどこにあるのでしょうか。私には同じように思えて仕方ありません。(電子機器メーカ・広報宣伝部)


《回答》

マーケティングと営業の違いについてのご質問ですが、いわゆるマーケティングとセリングの違いとしてお答えします。

マーケティングはドラッカーの言葉を借りれば「売れる仕組みを作る」ものであり、セリングは「売る仕組みを作る」ことと理解できます。一方でマーケティング・ミックスと言われている4P(プロダクト---製品、プライス---売価、プレイス---流通、プロモーション---販売促進)の中でプロモーション以外の項目すべてが、じつはセリングに必要な項目なのです。このことがセリングとマーケティングを混乱させている要因だと考えられます。

セリングの「売る仕組み」には製品価格や営業体制、販売チャンネルや流通戦略の昔ながらの販売政策が主となります。一方のマーケティングの「売れる仕組み」は極めて曖昧な概念であり、一昔前は宣伝広告などがマーケティングの主流と言われていました。それがニーズ重視の時代になり、もっと顧客やマーケットのニーズに合致した製品開発や顧客動向を見て販売戦略を立てる様々な仕組みづくりが考案(適切かどうかは別問題)され、これがマーケティングの主要な概念になったのです。

しかしよく考えればこれらの概念もすでに昔からセリングに包含されていたものです。当然のことながらどんな企業であっても売れない製品を作るはずはなく、ましてや売れそうもない販売戦略は立てません。その意味から言えば、私見ですがマーケティングの「売れる仕組み」は「売るためのサポート」と理解した方が分かりやすいと思っています。もとよりドラッカー先生には申し訳ありませんが、とりわけBtoB業界で「売れる仕組み」とその後の「マーケティングはセリングを不要にするものである」という極論は、まさに机上の空論としか考えられないのです。

私は常々「各企業がマーケティングに心酔した結果、セリングの衰退をもたらした」と考えています。事実現在の各企業におけるセリングの劣化ぶりには目を覆うばかりです。その兆候は2000年頃から露わになってきました。

仕事柄メディアや印刷会社、広告代理店などからの売り込みがほとんどでしたが、2000年以前は各社の営業担当それぞれに特徴があり、けっして見栄えがよいとは言えない資料を前にしても、その人柄や絶妙な口調にある種の好感を抱いたものでした。そしてついついその口車に乗せられて仕事を発注する羽目になったことも多々ありました。

それが2000年頃を境に一変したのです。どの企業の営業担当もパワーポイントで作った小綺麗な資料を前に、蕩々と説明し続けます。話の内容はほぼ資料を読んでいるだけ、というものでとりわけ意外性のある殺し文句などは見当たりません。さらに担当者の顔の表情も不思議にどの企業も似たような様相を見るにつけ、気味悪ささえ感じるようになりました。ここでは営業担当にとって最も大切なスキルである商談力や説得力はまったく影を潜め、単に商品やサービスの説明をパワーポイントの資料に沿って粛々と行っている様子です。

言ってみれば昔のネチネチした営業活動からスマートな営業スタイルに変革されたとも言えますが、営業は売ってなんぼの世界です。いくらスマートな商品説明をしたところで売れなければ営業としては失格ですし、その手法は間違いなのでしょう。

おそらくマーケティング部門で作られた難解な理屈をもとに、営業担当が説明しやすいように整理された資料だと思われますが、その資料には説得力はもちろんなく、読むのも面倒になるくらいの綺麗事の羅列なのです。

もとより営業の本質はフェイスツーフェイスで相手の顔色を伺いながら言葉を選んでこちらのペースに巻き込むことなのですが、このフェイスツーフェイスでの対話スキルが極めて劣化しだしたのもこの頃です。これにはメールの普及や画一的な社員教育など様々な要因があるでしょうが、販売の最前線がこのような状況ではいくらマーケティング云々と声を大にしてもまったく意味のないことです。

さらにこの状況が危惧されるのは、ブランディング面において非常に良くない結果を醸し出していることです。ブランディングと言えば高いコストをもとにマスメディアを使った広告活動が重視されていますが、じつは最もブランディングに大きな影響を与えるのは「人」であることを見逃されているケースが少なくありません。どんなに綺麗な広告やインパクトのある広告を継続的に行っていても、その企業に属する「人」の言動が不自然であればブランド価値は地に落ちてしまいます。

その意味から考えると前述したどの企業も特徴のない営業担当による商談の結果、各社のブランドも似たようなものになることに気づかなければなりません。

とりわけ最近ではMA(マーケティングオートメーション)が注目され、それをテーマにしたセミナーは大盛況です。ここでも各企業がいかにマーケティングに心酔し、それがオートメーション化されることでさらなる業績の拡大に寄与できるだろうから、なんとか早く導入しなければ、と言う焦りを感じます。

どんな手法であれマーケティングがオートメーション化されることなどあるはずもなく、たとえAIを駆使したとしても「売れるマーケティング」には至らないでしょう。なぜなら我が国は資本主義社会であり、言いかえれば競争社会です。もし仮に優れたMAの手法があるとすれば、競合企業がこぞって導入するはずです。その結果はどうなるでしょう? 需要が極端に拡大しない限りMA導入企業すべての業績が良くなることはあり得ないのです。その競争に勝つために最も重要な要因は、くどいようですがセリングのスキルだと言うことに気づかなければなりません。

最後にマーケティングをセリングよりも上位概念と位置づける考え方であり、フィリップ・コトラーの提唱した「STPマーケティング」がありますが、ここで言うS(セグメンテーション)、T(ターゲティング)、P(ポジショニング)それぞれも、じつは古くから営業(セリング)において最も初期的な段階で取り組んでいた営業戦略の手法であったことも再確認する必要があります。

マーケティングに心酔することなく、人の個性を生かした営業担当の再構築(セリングの再構築)がこれからの企業には最も重要な課題だと思っています。

マーケティングとセリングの違いというご質問ですが、結論としてはマーケティングの概念はセリングにすべて含まれていることをご理解いただけると思います。

デザインドリブン・イノベーションは広告でも有効か

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉝

《質問》

昨年春から我が社では製品開発部門が中心となって「デザインドリブン・イノベーション」に取り組んでいます。私はコーポレートコミュニケーション部門の責任者をしており、新製品開発の進捗確認などのために時折その会議に参加することがあります。デザインドリブン・イノベーションに取り組んで以来、まだ目新しい製品の開発には至っていませんが、その理念は非常に興味深く、もしかして製品開発だけでなく広告分野でも応用できるのでは、と考えています。しかしどこを探しても広告におけるデザインドリブン・イノベーションを語った文献や資料を見つけ出すことが出来ません。そこで貴協会で上記の資料などありましたら入手したくお願いする次第です。また貴協会では広告分野でのデザインドリブン・イノベーションの可能性や効果などについてどのように考えておられるのかご教示いただければ幸いです。(匿名希望・コーポレートコミュニケーション部)

 

《回答》

素晴らしい発想です。広告分野において、デザインドリブン・イノベーションに取り組んでいる企業はおそらく皆無であり当協会にもそれに関する論文や資料はありません。しかし私は広告分野でもデザインドリブン・イノベーション(以下DDI)は非常に効果的であり、広告文化を大きく革新させる要素を持っていると考えています。

その理由を述べる前に、本誌の読者にDDIについて少し説明しておく必要があると思いますので簡単に記しておきます。

DDIの概念はそんなに新しいものではなく、すでに2003年頃にミラノ工科大学のVerganti教授によって提唱されました。ではなぜその成果が現在になっても数少ないのか、その要因として考えられるのが未だに各企業はマーケティング志向が強すぎる点です。

DDIはいわゆるマーケットニーズを重視した「マーケット・プル」政策と自社技術を重視した「テクノロジー・プッシュ」政策の二つの側面を包含しています。ところが現在でも多くの企業は「もうテクノロジー・プッシュ」ではモノは売れない。「マーケット・プル」思考でなければだめだと言う考え方に傾倒し、その結果マーケティング重視になっているのです。

さらにDDIではテクノロジーやマーケットニーズではなく、「意味(生活や社会、文化)の急進的な変化」が最も重要だと述べられている点も、取り組み姿勢に混乱を起こしていると考えられます。モノからコトへと、もうかなり古くから提唱されていますが、そのコトがじつは「意味」を意味するのです。その意味の重要性や認識度合いが各社ともまちまちであるためにDDIは本来の成果を上げられずに今に至っているのです。

ここまで述べただけでもさらに難しい話になってきていると思います。DDIを少し乱暴かも知れませんが簡単に説明すれば、ひと言「マーケティングはやめなさい。マーケットニーズよりも自社の技術やシーズをもっと大切にして、それらによって生活や社会に変革をもたらすような製品開発をしましょう」と言うことです。

つまりマーケットの意見などに左右されずに、マーケットや一般生活者ですが気づいていない驚くような製品や技術開発が重要だと言うことです。僭越ながらこの論理は、製品開発や広告分野でのメッセージで最も重要なのはニーズではなく「課題」であると述べているASICAモデルに合致するものでもあります。

DDIが成功した事例はまだ少なく、わずかにiPhoneやロボット掃除機などに代表されるに留まっています。ビジネスマンのワークスタイルや生活者のコミュニケーションに大きな変革をもたらしたiPhone。そしてだれもが考えなかった掃除機。このロボット型掃除機を開発したのは家電会社ではなく地雷探査用のロボットを開発していた企業なのです。もし地雷探知を行っているロボット企業がマーケティングを行っても、けっして掃除機の開発テーマはもたらされなかったでしょう。部屋の空間認識をしてあらゆる場所を走り回って掃除するこの商品が生まれてから、私達の生活は大きく変化しました。仕事や買い物に出かけている間に部屋を綺麗に掃除してくれるため、日常生活で掃除の必要がなくなったのです。

このように生活や社会のあり方などに大きな変化や革新をもたらすのがDDIの最大の目的であり、そこにはマーケットニーズは逆に邪魔になります。それよりも自社の技術を多方面に生かして、それぞれの分野で変革をもたらすことを念頭に置いて製品開発に取り組むことが大切なのです。

さて本題の広告分野でのDDIについて述べたいと思います。広告も製品同様に現在はマーケティング志向が極めて強いか自社技術のアピールに没頭しているかのどちらかです。その結果マーケットに媚びた歯の浮いたような広告になったり、自社技術をアピールしすぎて独りよがりの広告が目につきます。

広告にDDIの理念を導入すればどうなるでしょう。まず自社のシーズや技術をアピールすることになりますが、その裏側には生活者や社会の抱えている、しかもまだだれも気づいていない課題に対するソリューション(課題解決策)が埋め込まれていなければなりません。このような広告はマーケットリサーチをしても的確な指針は得られません。何しろマーケットですら自覚していない課題をリサーチするわけですから、データとして把握できるはずがないのです。また単なる技術広告や製品広告ではあまりにも課題に対するメッセージがなく、広告と言うよりも告知に近い様相を呈してきます。

製品におけるDDIと同様に、広告分野でも「あっ、そういう考え方があったのか。今まで気づかなかったがいいことを教えてくれた」という反応があってこそ企業や社会、マーケットの変革に繋がってきます。つまり新しい「意味」を広告を利用してメッセージするのです。これからの広告にはこのように非常に大きな役割が求められると思っています。

またDDIを行うに当たって不可欠なのは「意味の解釈者」の存在だと言われています。様々な価値観を持つこの解釈者は、自社に限らず多様な分野(たとえば芸術、デザイン、建築、医学など)から選抜し、ネットワークを組むことで意味の集約を図ろうとするものです。ここでも重要なのは現状の意味を前提にするのではなく、将来を見据えた新たな社会や生活に言及した意味を探索することです。

こうなるとたいそう大がかりな取り組みになり腰が引けてしまいそうですが、まずは身近で一風変わった考えや価値観を持っている人材を23人集め、議論することから初めてもいいでしょう。広告に限定すれば、デザイナーやコピーライター、そしてできれば顧客も含めて侃々諤々議論すれば、きっと社会を驚かせるような広告が生まれると思います。

マーケットを変革し新たな意味を持つマーケットを形成する。社会を変革し、私達の生活を含めて新たな意味を持つ社会を創り出す。これがこれからの広告に求められる課題であり、そのために広告においてもDDIは重要な役割を演じると考えます。

コスト効率の良い展示会ディスプレイの手法とは

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉜

《質問》

弊社では大規模な展示会が9月にあり、120㎡程度の規模で出展しました。しかし展示会終了後、思ったように集客が得られず、引き合い数も計画を下回り、全社的に展示会のコスト効率が悪すぎるのでは? と言った意見が多くなりつつあります。このままでは次回は規模を縮小する方向で考えています。展示会でのディスプレイはコストがかかりもっと効率の良いディスプレイが出来ないものかと検討しているところです。コストをかけずに多くの引き合いが得られるディスプレイについて、ご教授いただければ幸いです。(機械部品メーカー・広報企画部)

 

《回答》

ご依頼の件はじつは展示会そのものが常に持っている大きな課題です。展示会でのコスト効率は、展示会での成約数を投入したコストで割れば得られます。御社では展示会での引き合いを重視されているようですが、正確には展示会で得られた受注額が重要な係数となります。しかしとりわけBtoB業界では引き合いから受注までの期間が長く、余程精緻なトラッキングを行わないと上記の数式を生かすことが出来ません。このトラッキングの重要性や手法については本稿のシリーズ⑯で述べておりますので参考にしてください。

さて、展示会でのコスト効率を上げるために欠かせないのは、最もコストのかかるディスプレイ費用を出来るだけ押さえることです。米国の展示会サーベイ会社のデータでは、記憶に残る展示会の要素として製品やデモ、説明員が上位にランクされ、ディスプレイや説明パネルは悲しいほどランクは低い結果となっています。

言うまでもなく展示会終了後の来場者の記憶残留率は、その後の受注に大きく影響します。しかしディスプレイや説明パネルはほとんど記憶されず、結果的には受注への寄与度はかなり低いと見ざるを得ません。

このデータの信憑性を確認するために、私が個人的に一昨年数件の展示会で調査をしました。その内容は「説明パネルは本当に記憶に残らないのか?」というテーマで調べた結果、平均すると来場者一人当たりが説明パネルを読むのに費やす時間は僅か20秒でした。20秒と言えば字数で換算すると130字前後となります。つまり彼らは説明パネルを読んでいるのではなく、見ているだけなのです。そこには多くの文字が羅列され印象的なビジュアルはほとんどありません。これでは記憶されないのも無理はないでしょう。

それにもかかわらず現在の各社のブースを眺めてみると、相変わらず文字だらけの説明パネルのオンパレードです。これだけでもコスト効率を大きく下げている要因になります。

ではどのように改善すればよいのかお話ししたいと思います。まず説明パネルをブースから排除すること。読まれもしない文字で構成されたパネルなど無用の長物です。しかし読まなくても少なくとも20秒間は見ています。それなら見て分かるようなグラフィック主体のパネルに置き換えることが効果的かも知れません。ただパネル形式だとどうしてもグラフィックの表現面で限界があります(挿絵的にならざるを得ない)。そこでいっそのこと壁面全体をグラフィックで埋め尽くすことにチャレンジしてはどうでしょう。いわゆるインフォグラフィックス(情報デザイン)で壁面を構成するのです。その代わりブース全体の造作は極めてシンプルにすることでコストも抑えられます。

文字を使わずにグラフィックで表現するとなるとかなり熟練したデザイン能力が必要になりますが、展示会のコスト効率を上げるには致し方ないことです。

ブース全体をインフォグラフィックスで構成された企業は今のところ目にしたことがありませんが、おそらく今後この手法が展示会ディスプレイの主流になってくると思っています。

とかく説明パネルでは説明したい事柄を思う存分語りすぎて、その結果文字だらけのパネルになってしまっているのです。しかし一方でインフォグラフィックは情報を抽象化していますから、見ただけでは即座に理解できず、かといって気になる数字や図表が描かれていればどうしても説明員に問いたくなるものです。ここで説明員と来場者とのコンタクトポイントが得られます。結論を言いますと、来場者が説明して欲しくなるような、また説明員が説明したくなるようなブースデザインが最も効果的なディスプレイと言え、コンタクトポイント画像化し結果的に引き合いも増えてくるのです。紙幅の関係からこれ以上詳細は割愛しますが、なぜこの手法が効果的なのか、展示会のコスト効率が上がるのかについては別項「カタリスト・マーケティング」について述べていますので参考にしていただければ、と思います。

もう一つ別の観点から展示会のコスト効率を改善するとっておきの手法を紹介します。それは、リユーザブル(使い回しが出来る)のブースシステムです。私が現役の頃に実現させましたが、このシステムはブース全体を壁面や柱、展示台など数種類のモジュールから構成されています。しかも各モジュールにはあらかじめ電気配線が施され、モジュールを組み合わせるだけで電気設備が整ったブースが簡単に構築できます。当時は為替が110円の時代でしたので、ブースシステムは米国で製作しました。米国だと安価な建築部材は選ぶのに苦労するほど多くあります。ここで重要なのは、使い回ししますから汚れや傷が目立たない建築部材を使用することです。当初は5年償却のつもりで総予算5500万円で製作しました。対応ブースの規模は0.8㎡から216㎡と設定しました。モジュールの組みあわせで様々な規模に対応できます。組み立ては六角レンジ一本ですべて対応可能な特殊な連結金具(これも米国製)を使用しました。

結果的には5600万円かかりましたが、従来方式に比べて年間で2000万円のコスト削減を実現しました。ちなみに当時の年間展示会コストは出展料などすべて含めて約9000万円でしたから、20%以上のコストダウンが可能になったのです。現在このようなリユーザブルのブースシステムを利用している企業は皆無ですが、その最大の理由はまずイニシャルコストが大きすぎることと膨大なシステムの保管場所の確保やコストの問題だと思います。しかしそれらのコストを加味しても上記のように年間20%以上のコスト削減が可能になったのは事実で、各社ももっとこの手法を利用すれば効率的な展示会運営が可能になるはずです。

上記のようにコスト削減に大きく寄与するということは、たとえばインフォグラフィックスにもっとコストを投入するとか説明員教育を徹底するなど、米国リサーチ会社のデータにある記憶に残らないブースデザインと説明パネルを改革することと、ブース全体を活性化させるカタリスト・マーケティングにコストを振り分けることが出来るのです。そして何よりも、展示会でのコスト効率を考えれば、たとえ展示会において受注がなくても年間2000万円の利益を展示ブースそのものがたたき出しているという見方をすれば、この手法も一考の余地があると思います。

社会に通用するコンセプトメイキングのしかた

BtoBコミュニケーション Q&Aシリーズ㉛

《質問》

弊社はIT周辺機器を開発販売している中小企業で、競合企業が多い中企業ブランド強化のために組織の再編も含めて検討しているところです。従来は特別な広報宣伝部門はなく、営業部門でカタログ制作や展示会に対応してきました(すべて外注です)。ブランディングにあたって、まずコンセプトを明確にする必要があると代理店から提案があり、現在コンセプトの策定に四苦八苦しているところです。
私自身恥ずかしながらコンセプトをどのように設定すればいいのか、またすべて代理店に任せて済むものなのか良く理解できていません。そこで、企業ブランド再構築のために必要なコンセプト作りの手法などがありましたらご教授いただきたく、よろしくお願いします。(IT機器メーカー・営業部)

  

《回答》

今回のご質問の趣旨は、御社の企業ブランド強化(ブランディング)を目的とするために、コンセプトを策定するということだと理解します。

まず、どんな企業にとっても最も大切なのはコーポレートコンセプトです。コンセプトという文言はよく使われるのですが、その本質を理解されているケースはあまり目にしません。コンセプトが「目的」や「目標」とすり替えて安易に使用されている場合が少なくないのです。

さらにコンセプトは企業哲学のようなもので、当該企業のあらゆるモノや人、組織にも関与します。したがってとりあえずの流れを述べるとすれば、コーポレートコンセプト→プロダクトコンセプト(開発業務を含む)→組織編成コンセプト→人材育成コンセプト、という流れになります。その他、サービスや販社との関係構築にあたってのコンセプトも存在するでしょう。

そこでご質問のあったコンセプトメイキングについて、ですが。正直なところ各社とも非常に軟弱なコンセプトメイキングがなされているのが現状です。それは上述した「目的や目標」さらには「ビジョン」にすり替えられたフレーズをコンセプトと称しているもので、ビジネスオリエンテッドな現状ではある意味で致し方ないかも知れません。

しかしコンセプトは企業哲学であり、まずは当該企業がその哲学に基づいて社会に対して何をメッセージすべきなのかを考えることからコンセプトメイキングは始まります。

そこで大きな問題を抱え込むのがコンセプトメイキングをマーケティングの一環として理解してしまうことです。コンセプトとマーケティングはまったく関係有りません。現在はどの企業もマーケティング重視の傾向が強くなりつつあるのも、前述した軟弱なコンセプトが誕生する要因だと思っています。

つまりどういうことかと言いますと、マーケティングは販売を目的として、マーケットや社会の現状におけるニーズをリサーチすることですが、これでは得られるデータはマーケットや社会の現在の要望や要求になってしまいます。

コーポレートコンセプトは決してマーケットや社会に迎合したモノではなく、その企業独自のメッセージであるべきです。流行も関係有りません。誰が何を考えようがそれも関係有りません。ただひたすら自社にとってマーケットや社会にどんな貢献が出来るのかを自分たちで考えることが重要です。

簡単に言いますと、コンセプトメイキングで重要なのはマーケットや社会の意見を無視するということです。これはよく考えれば当たり前なのですが、たとえば同業社がマーケティングリサーチをしてコーポレートコンセプトを策定すればどのような結果が待っているでしょう。マーケティングリサーチの精度が高ければ高いほど、どのような企業も同じデータを得ることになってしまいます。その結果コーポレートコンセプトも独自性がなく歯の浮いた似たようなコンセプトになるのです。さらに恐ろしいのがそのコンセプトに基づいてプロダクトコンセプトや組織編成コンセプトに至ればまた他社と同じような商品や組織形態が生まれ、もはや企業そのものがコモディティー化する要因を作ってしまいます。

最近、どの企業も同じような商品ばかりで結果的に価格競争に陥ったり、同じような組織形態で似たような人材が多くなっているのはこれが原因です。

いうまでもなく企業が勝ち残っていくためには、マーケットや社会に媚びず、独自の技術と独自の経営手法によって企業運営していくことが大切です。この根幹になるのかコーポレートコンセプトなのです。

したがってまずコーポレートコンセプトを策定するにあたって重視しなければならないのは、「御社のシーズが何か」を明確にすることです。ニーズは無視した方が混乱しません。そしてそのシーズを元にして、現在ではなく未来のマーケットや社会にどのように貢献できるのかを考えることですが、ここで良くやる失敗は外部コンサルタントや代理店に依頼することです。自社のシーズや社員の特性は自社が最も良く理解しています。それを外部のブレインに頼ってしまうと、外部ブレインが理解できないことをマーケットや社会に求めようとして前述したマーケティングリサーチへと進んでしまうのです。これは絶対に避けなければならない大切な部分であり、しかも最も重要なスタートラインです。

ここで得られたメッセージにはいくつかの種類があります。

まずは、単純にメッセージとして社員や取引先に周知すること。この場合基本的にはコーポレートコンセプトはメディアなどでマーケットおよび社会に周知する必要はありません。あくまでも基本的なコンセプトとして社内の誰もが理解することが先決です。

もう一つは積極的にマーケットや社会にメッセージする方法があります。この場合は、単なるメッセージではなく、未来のマーケットや社会に対する課題提供や啓発活動の一環として捉えます。

私は数々のメディアで一貫したコーポレートコンセプトを展開するには後者の方が良いと思っていますし、その方が遥かにマーケットや社会に対するインパクトは強くなります。所謂メッセージ広告というのはこのような課題提供型の広告のことを意味しています。

さて、このようにしてコーポレートコンセプトが明確になれば、前述したプロセスでプロダクトコンセプトや組織編成コンセプト、さらには人材育成コンセプトへと繋がっていくわけですが、いずれもコーポレートコンセプトがその中に活かされていなければなりません。とりわけプロダクトコンセプトを策定する場合、マーケットを意識しすぎて、大きな間違いであるニーズを追いかけたコンセプトを策定してしまいがちです。技術革新が超スピードで進行する現在、ニーズを追いかけていては商品化された時点でそのニーズが陳腐化してしまいます。

そしてブランディング作業は、コーポレートコンセプトさえしっかりと策定できれば、それに沿った形でメディアごとに表現を変えて多様な広告展開が可能になります。

大切なのは、ブランディングを先行させて、コーポレートコンセプトを後付けすることは絶対に避けるべきだということです。

よくブランディング策定の際に議論される「マーケットや社会にどのように思われたいか」などといった主体性の欠如した視点ではなく、堂々と「どのように思われても良い。我が社はこうだ」とメッセージすることが、じつは最もアピール力を生むことを忘れてはなりません。

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河内英司(かわちえいじ)
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京都教育大学教育学部特修美術科卒業。電気機器メーカーにおいて一貫して広報宣伝業務に従事。広報室長・コーポレートコミュニケーション室長を経て、2014年3月退職。  現在、カットス・クリエイティブラボ代表。(一社)日本BtoB広告協会アドバイザー。BtoBコミュニケーション大学校副学長。(独)中小企業基盤整備機構 販路開拓支援チーフアドバイザー
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